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遣ソマリア独立統合郵便防衛部~内戦真っ只中のソマリアで郵便インフラを再建せよ~

 1992年4月24日。

 国際連合は安全保障理事会決議751の採択によって内戦中のソマリアへ停戦監視団と治安維持部隊の派遣を決定。


 これに際して日本政府にも、国際協調への一環として日本郵便防衛庁からの人員拠出が求められた。

 世界第三位の軍事力を誇る日本郵便防衛庁の実態が明らかになった今、それを国際問題の解決の為に行使する事が国際社会から求められてきたのである。


 だが、これで問題となったのが日本国憲法第九条だった。

 その条文は以下の通りである。


 1. 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 2. 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


 ここで何が問題になったのかといえば、“国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、~中略~永久にこれを放棄する。”の箇所だ。

 要は、日本政府からの要請では日本郵便防衛庁の部員が銃を持つことすら出来ない。というのがこれまでの憲法解釈であったのである。


 これまで日本郵便防衛庁はあくまで郵政省の直接の下部組織として、郵政省の要請の元で郵便インフラの防衛を担って来たのであり、そこに日本政府の意向が入り込む事は殆ど許されていなかったのである。


 つまりは、国際連合や各国が日本政府へ「日本郵便防衛庁からも国際連合ソマリア活動(UNOSOM)へ人員を拠出しろ」と要請しても、国家の軍隊でもなく憲法九条の壁が立ち塞がっている現状では、日本政府の意思で日本郵便防衛庁を動かせないのである。


 これに世界は驚愕した。

 まさか世界第三位の軍事力を持つ国が、その軍事力を制御下に置けていないと宣言したのだ。普通であればクーデターが起こってもおかしくない状況である。

 それと同時に一つ納得された。「年々膨れ上がる日本郵便防衛庁の予算に国会からケチが付かないのは、クーデターを恐れているからなのだろう」―――とんでもない誤解である。


 結局、日本と郵便防衛庁が抱えていたこの問題の為に、UNOSOMに日本郵便防衛庁は不参加となったのだ。


 しかし、このソマリアでの活動は現地氏族の非協力や武装勢力の跋扈により中々成果を得られなかった。

 このため国際連合はさらに治安維持部隊としてアメリカ軍を主力とする多国籍軍3500名の増派を決定。これによってようやく、ようやくUNOSOMは軌道に乗り始めたのだ。


 また国際連合は、ソマリアの和平と復興には強制力の行使による平和創出活動が必要だとして、1993年3月26日に国際連合安全保障理事会決議814を採択。

 この決議では第二次国際連合ソマリア(UNOSOM II)活動によって、ソマリアでの停戦監視や人道支援活動の他、各種政府機構の再建支援の実施を求められていた。


 そして、その政府機構の中にはソマリアの郵便制度も含まれていた。


 国際連合は再び、日本郵便防衛庁のUNOSOM IIへの参加を求めたのである。

 それも前回の反省から綿密かつ普通では考えられない遠回りな根回しがなされていた。


 それはまず最初に、内戦によって崩壊したソマリア郵政の残滓を探し出す事から始まった。

 内戦前には100の郵便局と2000人を超える職員によって運営されていたソマリアの郵便網は内戦で悉く破壊され、一部の地域で有志スタッフによる局所限定的な郵便サービスが残っているのみ。

 この有志スタッフらを探し出した国際連合は、彼らに日本郵政省へ郵便インフラ再建の支援を要請するよう指導。

 ソマリアの有志郵便スタッフは、TOYOTAでしか知らない日本という国の郵便機構へ再建支援を要請する事になったのだ。


 そして国際連合は日本郵政省へ、ソマリアでの郵便インフラ再建と共に、UNOSOM IIで派遣される多国籍軍に日本郵便防衛庁を参加させて兵站を担うよう要請。

 内戦によって風前の灯であるソマリアの郵便網を再興させるという一大事業に日本郵政省は意欲を見せ、傘下の日本郵便防衛庁も彼の地の郵便インフラが戦火に曝されているならばと乗り気であった。


 こうして、日本郵便防衛庁のUNOSOM IIへの参加は決定。

 これまでに行なったイランでの邦人緊急輸送や、スエズ運河とペルシャ湾でのパトロール事業などを超える大規模な海外郵便防衛事業の受注である。


 1993年5月。

 UNOSOM IIに従事する多国籍軍の兵員約31,000名がソマリア現地に入りした。

 この兵員の内の5,600名が郵政省と日本郵便防衛庁から派遣された郵便復興支援及び兵站を任務とする部員であった。

 彼らは郵政省と陸海空の各郵便防衛部から派遣されるにあたって、各郵便防衛部から独立して統合運用される郵便防衛部としての大規模な再編成が行なわれ、“遣ソマリア独立統合郵便防衛部”と呼称された。


 さらにUNOSOM IIとは別に日本郵便防衛庁独自で、ジブチ共和国のジブチ港フランス海軍基地に置いていた第四郵便護衛艦隊をモガディシュ港へ派遣して、遣ソマリア独立統合郵便防衛部への支援や、モガディシュ港に入港する郵便を積載した船舶の護衛も実施される事となった。


 以下がソマリアに派遣された日本郵便防衛庁の勢力一覧である。


■遣ソマリア独立統合郵便防衛部


●総兵力

 ・防衛部員―5,200人

 ・郵政省職員―400人


●装甲車両(UNOSOM II参加国へのリース車両含む)

 ・六二式郵便戦車―800両

 ・六四式工作車―200両

 ・七一式通信指揮車―12両

 ・七四式移動郵便局―24両


●輸送車両(UNOSOM II参加国へのリース車両含む)

 ・2トン郵便トラック―100両

 ・4トン郵便トラック―80両

 ・10トン郵便トラック―40両

 ・20トン郵便トラック―20両


●航空機

 ・RF-14B―4機

 ・UH-1―20機

 ・C-130―8機

 ・YS-11―16機


■海上郵便防衛部第四郵便護衛艦隊


●総兵力

 ・防衛部員―4922人


●艦艇

 ・寺泊型郵便護衛重巡洋艦(基準排水量14800t)―1隻(仲泊)

 ・柏崎型郵便護衛軽巡洋艦(同9600t)―1隻(鞍崎)

 ・佐渡島型海上郵便局艦(同34000t)―1隻(種子島)

 ・雪椿型郵便護衛駆逐艦(同3200t)―5隻(桜桃、赤松、貴、マキ、琉球松)

 ・カーフェリー(チャーター船)―3隻


●航空機

 ・RF-14B―8機(種子島)

 ・E-2―2機(種子島)

 ・C-2―8機(種子島)

 ・CH-53E―4機(種子島)

 ・SH-60―25機(種子島20機、仲泊4機、鞍崎1機)


 なんともはや、遣ソマリア独立統合郵便防衛部だけでインドとパキスタンに次ぐUNOSOM II参加国で第三位の人員数、第四郵便護衛艦隊を含めれば堂々の第一位である。

 それだけ兵站や郵便という物流事業には人手を要し、国際連合が日本郵便防衛庁の参加を熱望していたという事の証左であった。


 車両についても、普通であればソマリアまで自国の車両を輸送するのに膨大な手間が掛かるのを見越して、それを負担できない国へのリース車両(型落ち車両処分)として約300両が計上されていた。


 さらに、遣ソマリア独立統合郵便防衛部がソマリア入りしてすぐさま取った行動もまたUNOSOM II参加国の度肝を抜いた。

 なんとモガディシュ市街の中心部、ホールワディック・ロードとナショナル・ストリートが交差する交差点の南東側の一角をドル札の分厚い束で住民から買い上げ、その土地に“モガディシュ中央郵便局”なる4階建ての建造物をブチ建てたのだ。


 他国がモガディシュ市街から外れたモガディシュ国際空港やさらにその郊外に寄り添うようにして、安全第一で拠点を造成していたのに、なにがどうして統一ソマリ会議(USC)ソマリア国民同盟(SNA)が争う火中の真っ只中、そんな危険地帯に拠点を立ち上げるバカがいるなんて普通では考えられない話である。

 それでも、遣ソマリア独立統合郵便防衛部の航空輸送課だけはモガディシュ国際空港を拠点にしていたから、彼らは日本人にも常識人はちゃんといるんだなと一つ安心していた。―――話をしてみるまでは。


「おたくン所の陸軍はバカだねぇ。戦場のド真ん中に拠点を作るなんて」

「はあ?中央郵便局なんてのは都市(戦場)のド真ん中に作ってなんぼでしょうよ」

「……え?」

ちなみに“ホールワディック・ロードとナショナル・ストリートが交差する交差点の南東側の一角”は、モガディシュの戦闘で2機目に撃墜されたMH-60ブラックホークの墜落地点です。

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