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直江津型郵便護衛イージス重巡洋艦&佐渡島型海上郵便局艦~世界最大のイージス艦と洋上の巨大郵便局~

 寺泊型郵便護衛重巡洋艦。

 それは1985年という今日では世界中の何処を探しても日本にしか存在しない8インチ艦砲を装備し、かつ建艦当初より対艦ミサイルの被弾を前提とした唯一無二の艦型である。


 (―――アイオワ級?) (ありゃ戦艦だ、) (土俵が違う。)

 また、寺泊型を設計し、二番艦までを建造したアメリカによれば沈めるのに対艦ミサイルを20発、もしくは魚雷を10発以上も命中させる必要があり、もしアメリカ海軍最新のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦が寺泊型と交戦した場合、交戦距離やタイコンデロガ級のハープーン巡航ミサイルの搭載数によっては、タイコンデロガ級が寺泊型の8インチ砲で滅多打ちにされて敗北する可能性すらあるという。


 だが、この寺泊型を保有する日本郵便防衛庁海上郵便防衛部からしてみればどうにも不満があるという。その彼ら一派曰く―――


「ねえ、艦上機は?ヘリコプターじゃなくて、固定翼のヒコーキ」


 そう、彼らは10年前に海上郵便防衛部が設立された時の事を覚えていたのだ。

 戦前よりしぶとく生き残っていた大鑑巨砲主義者が声を大にして叫び通した結果、艦隊旗艦としてアメリカからオレゴン・シティ級重巡洋艦の“CA-124 ロチェスター”を購入した事を。


 ならば我々、航空主兵論者だって声を上げたっていいじゃないか。どうせあと数年で私たち従軍経験者の殆どは定年退役、老兵の願いくらい叶えてくれたっていいじゃないかと。


 よって彼らが要求したのが航空母艦である。




 そして近年、大鑑巨砲主義や航空主兵論に代わる、新たな派閥が海上郵便防衛部で誕生していた。

 その名も“ミサイル主兵論”である。


 もちろん彼らは自らが太平洋戦争で経験し、そしてイギリスがフォークランド戦争で再認識した艦砲射撃の有用性は理解していた。だが射程が足りないのである。

 寺泊型に搭載の8インチ砲Mk.15の射程が27kmであるのに対し、アメリカ軍が採用しているハープーン巡航ミサイルであれば140kmもの射程があるのである。

 いくら寺泊型の方がタイコンデロガ級より5ノット速くても、5倍もの射程差を埋めるまでにどれだけ釣瓶打ちにされるか分かったものじゃ無い。

 だから彼らミサイル主兵論者は要求した。対艦ミサイルを搭載した“ミサイル重巡洋艦”を。




 さらにではあるが、海上郵便防衛部の面々が揃って垂涎の的としているとある代物があった。


 その名も“イージスシステム”。

 アメリカ海軍が1960年代より開発に取り組み、1983年に就役したタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦よって結実した最新の艦載武器システムである。

 このシステムは艦隊防空に重点を置いて開発された為に攻撃機や対艦ミサイルへの対処能力が極めて高く、またシステムを構成する各要素やそれらを接続する高度なデータリンクによって、旧来の戦闘システムを遥かに凌駕する戦闘能力を発揮。


「これさえあればハープーンも怖くない。今度こそアメリカ海軍に勝てる」


 ―――と、海上郵便防衛部の面々上から下まで揃って豪語するほど、彼らは欲した。“イージスシステム”を搭載した戦闘艦を。




 所変わって郵政省でも、新たな水上艦艇を欲していた。


 その発端は一昨年、1983年5月26日の日本海中部地震にあった。

 この地震では青森県や秋田県の各地で震度5を観測。また青森県車力村では高さ14.9mにも及ぶ大津波が襲来、ここでは幸いにして郵便防衛庁が建造した高さ4mの防潮堤とその後背に広がる広大な防潮林によって被害は防げたものの、地震によって損壊した防波堤が津波に食い破られた地区も多く各地に甚大な被害を齎したのだ。


 そして郵便インフラもまた大きな被害を被った。なんと、秋田県の郵便インフラの一大集約拠点であった秋田中央郵便局までもがこの地震で半壊してしまったのだ。

 局舎が半壊してしまった原因は後に、1968年に局舎の屋上へ防空レーダーと共に設置されたボフォース社の70口径57mm対空速射砲を、午砲がてら毎週日曜日と祝日の正午、さらに年越しの除夜の鐘に合わせて射撃訓練をしていたために、この発砲時の衝撃と振動が局舎の老朽化を促進してしまっていた事が判明した。


 ともかく地域の郵便インフラの拠点であり、有事の際には対応本部となるはずであった秋田中央郵便局が被災してしまった為に郵便防衛庁は災害対応で遅れを取ってしまったのだ。

 この時は結局、京都府舞鶴市の東舞鶴郵便局舞鶴港分室に所属の第五郵便護衛艦隊を秋田県まで派遣し、艦隊旗艦の郵便護衛重巡洋艦“京泊”を秋田火力発電所の石油荷卸港を間借りして係留させ、京泊の対潜哨戒ヘリが4機収まる後部格納庫を空にするなどして艦そのものを仮設郵便局とし、災害対応本部として機能させてる事によって何とか凌ぎ切ったのだ。


 だが、このように機転を利かせた対応も、今回の被災地が秋田や青森といった地方都市であったから間に合ったのであり、1923年の関東大震災のような大都市直下型の大地震に対しては郵便護衛重巡洋艦を何杯集めた所で、大都市が必要とする膨大な郵便需要を賄うのが不可能な事は明白なのだ。


 だから郵政省は欲した。大都市が要求する膨大な郵便需要すら単艦で賄える“海上郵便局”を。




 “航空母艦”


 “ミサイル重巡洋艦”


 “イージスシステム”


 “海上郵便局”


 これら4つの要求はそれぞれ2つずつを纏めて2種類の艦型として検討される事となった。


 ミサイル重巡洋艦とイージスシステムを統合した“イージス重巡洋艦”。そして、航空母艦と海上郵便局を統合した“海上郵便局艦”の2つである。


 そして“第二次海上郵便護衛艦隊整備計画”と名付けられたこの計画により、以下の2つの艦型が要求される事となった。


●直江津型郵便護衛イージス重巡洋艦


・基準排水量―16500トン以下

・全長―220m以下

・全幅―21m以下


・機関―COGAG方式6基3軸推進

・最大出力―120,000馬力

・最大速力―35ノット

・航続距離―8000海里(巡航速度14ノット)


・兵装―8インチ(203mm)砲Mk.71、連装砲塔、2基4門

   ―5インチ(127mm)砲Mk.45、単装砲塔、6基6門

   ―40mm機関砲、連装砲塔、6基12門

   ―20mm機関砲Mk.15、CIWS、8基8門

   ―艦対空ミサイル発射機、4基

   ―ミサイル垂直(V)発射(L)システム(S)Mk.41、90セル


・装甲―8インチ艦砲、魚雷、そして対艦ミサイルによる攻撃にも耐えうる事。


・その他―対潜哨戒ヘリコプターを4機運用可能な事。


 まあこちらは寺泊型の艦型をほぼそのままに機関を近代化。さらに各種砲填兵器の門数を削減した余剰スペースにミサイル垂直(V)発射(L)システム(S)Mk.41を前後甲板に分ける形で90セル搭載を目標とした、……まあ、日本郵便防衛庁にとっては大人しい要求であった。


 しかしよくよく注目してみれば、

・1基削減とされた8インチ連装砲塔の搭載砲がMk.15から、1979年に試作倒れとなったMk.71へのアップグレードを要求。発射速度の向上により門数減を帳消にしようとした魂胆が見え見えである。

・機関にはタイコンデロガ級巡洋艦でさえ4基搭載であったゼネラル・エレクトリックLM2500(20000馬力)を6基も要求。ここまで来れば原子力推進とした方が安上がりである。

・寺泊型で20mm機関砲24門あったのを、新型のCIWSによって8門に削減。ただし、1983年に改修されたアイオワ級戦艦でだって4門であるのを考えれば、対艦ミサイルを蜂の巣にしてこれ以上さらに何をしたいのかというレベルである。

・装甲は相変わらず被弾前提、被弾上等という時代錯誤な重装甲である。……減らせ!!




●佐渡島型海上郵便局艦


・基準排水量―35,000トン以下

・全長―260m以下

・全幅―水線30m/最大55m以下


・機関―COGAG方式4基2軸推進

・最大出力―80,000馬力

・最大速力―26ノット

・航続距離―10,000海里(巡航速度14ノット)


・兵装―40mm機関砲、連装砲塔、2基4門

   ―20mm機関砲Mk.15、CIWS、2基2門

   ―艦対空ミサイル発射機、3基


・艦載機―艦上戦闘機、8機

    ―艦上哨戒機、2機

    ―艦上輸送機、8機

    ―ヘリコプター、24機


・艦載艇―LCACホバークラフト揚陸艇、2艇


・搭載車両―六二式郵便戦車、60両

     ―2トン郵便トラック、60両

     ―4トン郵便トラック、20両


・その他―艦首にランプウェイ及び、跳ね上げ式バウバイザーを装備。

    ―左舷にランプウェイを2基装備。

    ―艦尾にスリップウェイ方式ウェルドッグを装備。

    ―艦首ランプウェイから艦尾ウェルドッグの間は、全通する一層の車両甲板(第4甲板)とする。

    ―第3甲板に郵便局機能を設置する。

    ―第2甲板を航空機格納庫とする。

    ―第1甲板を飛行甲板とする。また、艦首の跳ね上げ式バウバイザーを稼動時にも航空機の発着艦を可能とするべく、飛行甲板はアングルド・デッキとする。

    ―艦上戦闘機、及び艦上輸送機を運用するためカタパルトとアレスティング・ワイヤーを装備。


 これは、強襲揚陸艦なのか?それともカーフェリーなのか?それとも、正規空母なのか?

 違うのである。これこそ“海上郵便局艦”なのである。


 一応念のために記して置くが、新日本海フェリーの“ニューすずらん/ニューゆうかり”の前半分と、アメリカ海軍の“タラワ級強襲揚陸艦”の後半分の船体同士を繋げ、飛行甲板が跳ね上げ式バウバイザーと干渉するからアングルド・デッキを載せた艦とかいう訳では決して無い。


 この艦の特色は何よりも、艦と艦載機材そのものが一地域の郵便インフラに成り代わって丸ごと代行する事を指向している事にある。

 有事の際には郵便インフラが麻痺した地域の沿岸に急行し、その揚陸設備によって搭載車両と艦載機を展開させて郵便配達に従事させ、収集した郵便物は第3甲板の郵便局機能によって処理。

 当該地域と被害を免れた近隣地域との郵便輸送は、その飛行甲板によって輸送ヘリや艦載輸送機による航空輸送を実施という算段である。


 また、艦載戦闘機は紛争時における艦隊及び地域の制空権確保のほか、災害時には偵察ポッドを搭載しての情報収集を主任務とすべく搭載が要求された。

 ちなみに当時、郵便防衛庁が保有していた艦上戦闘機は、航空郵便防衛部のF-14Aの改良型であるF-14Bしかなく、この要求が認可された際にはこのF-14Bに偵察機化改修を施し“RF-14B”として転用する予定である。




 そしてこれら2つの艦型に関する予算要求は何の干渉もなく1986年度予算案に組み込まれ国会で承認された。

 この年、郵便貯金の預金高は100兆円を突破。ここまで来ると郵政省と郵便防衛庁にとってすれば、数千億の開発建造予算が通ろうとも通らずとも金がどこから出るかの違いしかなくどうでも良いという態度であったという。


 こうして直江津型郵便護衛イージス重巡洋艦と佐渡島型海上郵便局艦は建造され、それぞれの一番艦である佐渡島は1989年に、直江津はアメリカとのイージスシステム供与に関する協議で手間取った為に2年遅れの1991年に完成。

 この2隻に加えて雪椿型郵便護衛駆逐艦(基準排水量2600t)が2隻と柏崎型郵便護衛軽巡洋艦(同9600t)が1隻による第六郵便護衛艦隊が編成され、長崎県佐世保市の佐世保郵便局佐世保湾分室に配備された。




 1995年1月17日5時46分52秒。

 兵庫県淡路島北部沖の明石海峡でマグニチュード7.2の大地震が発生。兵庫県を中心に、大阪府、京都府の広い範囲に渡って甚大な被害を齎した。


 “阪神・淡路大震災”である。


 この震災によって兵庫県や大阪府の郵便インフラは潰滅した。


 多くが鉄筋コンクリートで建てられた郵便局の局舎でさえ一部の局は全壊、地震による損壊を免れた局も周囲の建物で発生した火災の延焼に巻き込まれるなど二次被害も発生していた。


 そして甚大だったのが高速道路網の被害である。

 阪神高速道路神戸線の高架の倒壊を始めとして不通区間が多く発生。これはトラック輸送を主力とする郵便輸送にとってとてつもない痛手だった。


 これを受けて郵政省は佐世保郵便局佐世保湾分室に所属している第六郵便護衛艦隊を神戸港へ派遣し、地震で半壊した神戸中央郵便局の機能を海上郵便局艦“佐渡島”へ移して災害対応本部とする事にした。

 さらに横浜で艤装中であった佐渡島型海上郵便局艦の四番艦も艤装作業を中断して大阪北港へ派遣し、兵庫県尼崎市の尼崎郵便局と大阪府大阪市の新大阪郵便局への支援任務に当たる事となった。




 1月17日11時30分。

 第六郵便護衛艦隊が神戸港に入港。

 神戸港は液状化現象によって港湾機能が損壊していたが、佐渡島の艦載機であるCH-53Eスーパースタリオンによって、六二式郵便戦車の工作車両型を吊り下げ揚陸して岸壁の応急修理を実施、これによって佐渡島の着岸が可能となり艦首、及び左舷のランプウェイ3箇所が開かれた。―――海上郵便局艦の本領発揮の時が来たのである。


 神戸中央郵便局の局員や神戸港の港湾職員にとってみれば、地震発生からたった六時間で被災地のド真ん中である神戸港に巨艦が入港してきたかと思えば、自力で岸壁を修理した挙句に支援物資を満載した百何十両もの車両が一挙に吐き出されてきて、本当に今日が地震発生当日かと疑ったほどであった。

 さらに空を見上げれば内陸の被災地へ郵便輸送に向かうCH-46艦上輸送ヘリコプターや、情報収集任務に当たるRF-14Dが飛び交っている。


 また神戸市より、神戸市長田区で発生している火災の消火活動の支援要請があり、これを“火災地域へのヘリコプターによる海水郵便輸送”として受諾。

 海上での船舶火災対策用に配備されていた吊り下げバケットを艦隊の艦載ヘリに搭載して、この郵便業務(消火活動)に当たるなど、一部では予想以上の働きを見せたのであった。


 こうして佐渡島型海上郵便局艦の佐渡島と四番艦(後に阪神・淡路大震災での活躍に由来して“淡路島”と命名)は想定通りに被災地の郵便インフラに成り代わり、災害対応の一大拠点として見事に機能したのだ。

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一気に阪神淡路大震災まで来ましたが、バブル崩壊とかはあったのでしょうか? 無かった世界線での話になるのでしたら…郵便貯金額が現在でも大変な事になってそうでワクワクします。(笑) あと海上郵便局とか自力…
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