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EF-1~ポストマネーが生み出す空飛ぶ黄金~

 さて、1976年9月6日に発生したベレンコ中尉亡命事件であるが、この事件において日本郵便防衛庁の郵便インフラ防空体制がまったく役目を果たせなかったのは明らかであった。

 空爆よりも敵前着陸の方が至難の業なのをやられたのであるから当然の道理、この為にマスコミからは、「郵防庁は戦闘機の一機からすら郵便インフラを守れない役立ず」だとか、「時代遅れのFD-25で遊ぶ郵防庁」だと書き立てられる始末である。


 この為、日本郵便防衛庁は防空体制の刷新を執り行う事となった。


 その第一矢となったのがF-104S戦闘機の更新である。

 いやそもそも、この更新自体は以前より検討されていたのだ。


 というのも、航空郵便防衛部そのものが“アメリカから見捨てられない為の上っ面だけの防空部隊”として設立された為に、アメリカ製の低価格な全天候戦闘機として採用されたF-104Sが性能面に限界を抱えているのは明らかであったのだ。

 であるからして、亡命事件以前までにF-104Sの更新候補として纏められていたのが以下のリストである。


・F-14A(アメリカ:グラマン社)

・F-15C/D(アメリカ:マクダネル・ダグラス社)

・YF-17(アメリカ:ノースロップ社)

・IDS/ADV(英独伊共同開発)


 またこの中でも、マクダネル・ダグラス社のF-15C/Dが、比較的軽量な機体と強力なエンジンに裏打ちされた高速性能と上昇率が注目されて最有力候補。次点で長距離作戦戦闘能力に優れるF-14Aが付いていた。


 そして亡命事件を受けて新たに、早急に航空郵便防衛部へ配備が可能か、上昇率や上昇限度など高空性能はソ連爆撃機に対抗可能か、搭載する兵装システムがソ連爆撃機に対抗可能か、等の新たな観点が加えられて再検討が行なわれた結果が以下の通りである。


・F-14A(アメリカ:グラマン社)

 搭載レーダーであるAN/AWG-9の超長距離探知、及び長距離多目標同時攻撃能力は他に比類無き圧倒的優位性がある。

 現時点ではAN/AWG-9を搭載するF-14Aのみが搭載可能なAIM-54長距離空対空ミサイルが持つ長射程や、巡航ミサイルへの対処能力は他に比類無き圧倒的優位性がある。

 可変翼が齎す幅広い速度域での良好な操縦特性は、いかなる速度域でも機敏な機動を可能とする。

 搭載エンジンの信頼性に難有り。


・F-15C/D(アメリカ:マクダネル・ダグラス社)

 搭載する先進的兵装システムによる迅速な兵装投射能力で優位。

 他の候補機より安価。


・EF-1(日本:三菱重工業)

 大出力エンジンによる速度性能、及び上昇率は他に比類無き圧倒的優位性がある。

 真空管を用いた大出力レーダーにより対ジャミング性能に優れ、さらに国産真空管と集積回路を用いて改良する事で更なる性能向上が見込める。

 国産機であるためライセンス等の問題も無く即座に国内での量産ラインの立ち上げが可能。

 機体全体に希金属を多用した耐熱合金を用いている為、候補機の中で最も高価。


 ……“EF-1”とは何か?

 一部の察しの良い一部の面々にはお分かりかもしれないが、“MiG-25P”を三菱重工業によってコピーしたものである。もちろんMiG-25Pの出所はベレンコ中尉亡命事件の後に爆破されたことになったあの機体である。


 しかし、ただのコピーでは無い。


 というのも、MiG-25Pや搭載エンジンであるツマンスキーR-15BD-300には、ソ連の冶金技術の低さや財政難の為に耐熱合金に必須のニッケルやコバルトといった希金属を極力使わないようかなり気を使って設計されていたのだが、これが逆に、これまで希金属をふんだんに使ってきた石川島播磨重工業や三菱重工業ではそのままコピーするのが難しかったのだ。

 何しろそんな鋼鉄だけでジェットエンジンやジェット機を作るなんて貧乏臭い事、太平洋戦争以来やった事が無いものだからノウハウが無い。今からノウハウを積み上げていくにも金と時間が掛かりすぎる。


 それなら耐熱合金を取り入れた設計に改めてしまった方が手っ取り早いし安上がりではないか。


 ……もちろんこれは決して鋼鉄まみれで本来の性能を十分に発揮出来ていないMiG-25Pを魔改造したくてこじつけた訳では無く、亡命事件の後に航空郵便防衛部の所属機となったMiG-25Pを運用するに当たって、保守整備用の予備部品を調達する必要が生じ、上記の問題により機体丸ごと設計変更しつつコピーする事となったのが発端である。


 そして設計変更はMiG-25Pの機体やエンジン各所に用いられていた非耐熱材料を片っ端からチタンや耐熱合金に置き換える事から始まり、これによって重心位置が後退した為に主翼の後退角を大きくされた。

 また航空郵便防衛部のパイロットより、MiG-25PはF-104Sよりコックピットからの視界が悪いという意見があった為に、アメリカ機を参考に機首を少しばかり下にオフセットさせ、さらにキャノピーも僅かに大型化させた。


 こうして三菱重工業の魔改造によって誕生したのがEF-1、“速達(Express)戦闘機(Figther)1”である。

 その性能は以下の通り、MiG-25Pでは材料による制約を掛けられていた速度関連で大きな改善を見せている。


・全長:19.8 m

・全高:6.1 m

・翼幅:14.0 m

・主翼面積:59.7 m2

・翼面荷重:352 kg/m2

・空虚重量:13,880 kg

・通常重量:21,000 kg

・最大離陸重量:41,000 kg


・発動機:石川島播磨重工業FR-15BD-300(双発)

 推力

  ドライ出力: 9,320 kg×2

  アフターバーナ出力: 12,470 kg×2

・推力重量比:0.89


・最大速力:マッハ 3.4(3,710 km/h)

・航続距離

 完全武装:2,030 km

 非武装時:3,410 km


・上昇率:278 m/s

・実用上昇限度:22,100 m

・燃料搭載量:4,700 L


 さらに特筆すべきは重量関連であろう。

 MiG-25Pでは鋼鉄などを多用していたために重量が嵩んでいたが、耐熱性能を向上させるべく希金属をふんだんに多用した耐熱合金を多用した結果、鋼鉄より軽量なこれら材料によって副次的に大幅な軽量化も達成。

 この他、1割ほど上昇したエンジン出力と相まって推力重量比は倍増、翼面加重も4割減となって旋回性能が大きく向上した。

 また、機体そのものの重量が軽量化された為に最大離陸重量との差、つまり最大積載量となる数値に至っては4倍という有様である。


 しかし当然ながら希金属を使った分だけコストは莫大なものとなり、ユニットコストは推定で120億円にもなって付いた渾名が“空飛ぶ黄金”。

 これが為に、何か余程の事があって予算が下りない限りは不採用、もしくは少数生産がオチというのが関係者の予測だ。

 何せお上は値段だけ見てF-104Sを買った郵便防衛庁である。


 だが、それを裏切ったのが世論と郵政省であった。


 世論曰く、

「何の為に郵便料金払ってると思ってるんだ!ケチケチせずに俺らのハガキをちゃんと守りやがれ!」


 郵政省曰く、

「世論がああ言ってるから一番いい奴を沢山買って!俺らが首切られる前に早く!予算が足りなかったら郵便貯金の預金高でも突っ込むから!」


 少しばかり、この国はおかしいのかもしれない。

 だがしかし、郵便防衛庁は年々膨れ上がる莫大な予算に世論からの批判が浴びせられるのを防ぐ為、常日頃から郵便の敵である郵便強盗や猛獣、天変地異やソ連中共の脅威を喧伝して来ていた。

 しかもそういって喧伝してきた脅威が今の今まで実際に何度か起きてしまっていた為に、つまりは国民が“郵便の敵”というかつてGHQが掲げた欺瞞を信じきってしまっていたのだ。


 そして郵政省が運営していた郵便貯金事業、これがなんと何時の間にか預金高30兆円を超えていて、しかもそれが年当たり約7兆円のペースで増え続けているのである。それはもう、もし民営化でもして銀行となったら世界有数のメガバンクの仲間入りというレベルであるのだ。

 こうもなれれば120億円のチタンの塊(EF-1)も端金である。


 その結果として、EF-1の最大の障壁となっていた予算の壁は消し飛んだ。消し飛んでしまったのだ。


 そしてEF-1の予算の壁と共に吹き飛んでしまったのが、F-15C/Dの高速性能と上昇率の優位である。

 この為にF-15C/Dは選定候補から脱落。残るは長距離作戦戦闘能力に優れるF-14Aか、速度性能と上昇率に優れるEF-1かの一騎打ちである。


 ……であったのだが、ここで時間切れ。年が明けて1978年1月、内閣が来年度予算を国会に提出する期限である。

 今月中に採用機を決定しなければ来年度に新型機を購入出来ず、批判の的となる内閣と郵政省以下の関係者は首切り待つのみ。




 そして下ったのは、EF-1とF-14Aの二機種を両方採用という決定だった。

 その決め手は一つ、値段が高くても国産機という事で大蔵省が良い顔をしてくれるという事からEF-1に決まりかけた所、グラマン社とアメリカ政府の担当者が、


「F-14Aを買ってくれたらAN/AWG-9レーダーとAIM-54空対空ミサイルをEF-1に適応させるパッケージも付けるから!」


 と最後の手札を切った事だった。


 グラマン社にしてみれば、5000万ドルものチタンの塊すら買おうとする上客を逃がさんと必死であったし、アメリカとしても機数を揃えて買ってくれる日本郵便防衛庁が採用してくれればF-14Aの単価が下がり、自軍での調達費用も下げられるから必死であったのだ。

 つまりはアメリカもポストマネー目当てだったのである。

 

 こうしてEF-1とF-14Aの採用は決定したのであった。




 そして1978年9月6日。

 奇しくもベレンコ中尉亡命事件から2年後の今日、東京都調布市にある調布郵便局調布空港分室に8機の戦闘機が降り立った。


 今日から調布郵便局調布空港分室に配備される三菱重工業製のEF-1Aが4機とグラマンのF-14Aが4機である。


 この内、EF-1Aの1番機のパイロットはベレンコ総務次長。


 そして彼ら新型機を迎える整備課の課長は、2年前にFD-25(オンボロ)が8機を格納庫ごと吹っ飛ばした張本人であった。

実は郵便貯金(現:ゆうちょ銀行)って凄いんですよ。

「2016年版世界のベストバンク50」という銀行総資産ランキングで10位(1兆7349億ドル)、さらに少し遡って2000年の頃だと2兆4000億ドルとかで世界2位だった事もあったのです。


参考として2015年のアメリカの軍事予算が5960億ドル、日本が593億ドル。

2000年でアメリカが2943億ドル、日本が461億ドルです。


系列にメガバンク(並の資金力がある金融機関)を持つ軍事組織って怖くないですか?


……日本郵便防衛庁の事ですけど。

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