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閑話休題 (イレーユ&クレイ)

(イレーユとクレイの三人称視点です)

 時計の針は十時を指している。もうすぐ消灯時間だ。


 クレイとイレーユが暮らす部屋にはまだ灯りがついていた。

 声はしない。二人は無言のままだ。が、それは緊張感を伴う物ではなかった。


 いつもの運動も終了し、ガス抜きを完了した二人はそれぞれ気ままに自由時間を楽しんでいた。部屋は気だるい心地よさに包まれている。


 イレーユはベッドに座り無言で酒びんを弄んでいた。


「気にいったのか?」


 部屋の反対側から低い声があがる。ベッドの上に足を伸ばし、上体を枕にもたれさせて本を読んでいたクレイがこちらを見ている。


「ええ、まあ。この瓶はどこから来たのかな、と思って」


 イレーユは答えると視線を瓶に戻した。


 深緑色をした注ぎ口にいくほど細くなっているありふれた酒びんだ。はってあるラベルはそれが九十五年物のラズル産であることを示している。個人のワイナリー産ではなく混合酒、一般に広く飲まれている銘柄だ。


「アルフォンスが調達してきたのだろう? 厨房にいけばいくらでもある」

「ええ、私やあなたなら、ね。すぐに手に入るでしょう」


 イレーユはそこでいったん口を閉じた。


「学生に酒類を渡すのは禁じられています。料理人を脅せば融通をきかせるのは事実ですが、相手はあのアルフォンスですよ?」


 クレイが本を閉じ片足を曲げて身を起こす。


「また新たな眼がこっちを窺っていると言いたいのか」

「摘んでも摘んでもきりがないですね。まあ、大元の根っこは恐れ多くて手が出せないから仕方がありませんが」


 イレーユが大きな息を吐く。


「だから俺たちがいる」

「その私たちの中に腐ったリンゴが混じっていたら?」

「そのために一人ではなく、三人いる」


 イレーユがふっと笑う。


「あなたには疑われたくありませんね。同じ部屋なのにずっと監視されたら息がつまる」

「とりあえず、気を張り巡らせておこう」

「そうですね。ところで何を熱心に読んでいるんです?」


 クレイが本の表を掲げてみせる。


「召喚術の本ですか。アルフォンスが散らかしていたやつですね。あなたがそういうものを読むとは珍しいですね。術士に鞍替えする気ですか」

「今の時代、剣は役に立たない。さっさと銃に鞍替えしたお前は利口だ」

「私はどんなに頑張ってもあなたの域には達せませんからね。術ではアルフォンスにかないませんし。私はなんでも一番が好きなんです」


 イレーユが薄く笑う。


「アオイを元の世界へ還す方法、誰が先に見つけるか競争しますか。……ちょっとさびしくなりますけど」

「勝負にならん。アルフォンスの勝ちだ」

「さて。今回はどうなりますか。あなたの予測が外れるかもしれませんよ」


 イレーユは謎めいた笑みを唇に浮かべると立ち上がった。蜀台に近づき、小さな炎を口をすぼめて吹き消す。


「おい」


 再び本を読み始めていたクレイが抗議の声を出す。


「もう消灯の時間ですよ。ここの窓は寮監の部屋から丸見えですからね」


 イレーユはそう言って笑うと次々と蝋燭を吹き消していった。


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