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(すみません、間のエピソードが抜けていましたので、11月16日、挿入しました。ご迷惑をおかけします)
お昼になった。
私の前に、綺麗な足つきのカップに入れられた水と、金のクローバーがついた華奢なスプーン、それにナプキンにのせられたクッキーが置かれる。
カップは風呂サイズ、スプーンは同じ背丈、クッキーはお盆サイズだ。これだけあれば何日も暮らせるだろう。
もっともこれで何日も過ごす気はない。毎食クッキーというのは太りそうで嫌だ。
昼休みを利用して帰ってきた四人がそれぞれの席についている。今回はイレーユではなく、ディライドが場を取り仕切っていた。そうしている姿は自然で、さりげなくて、彼が王子様なのだと違和感なく信じられた。
「とりあえず、これが衣食住の食。昼ごはん。夜はもう少しましな物を持ってくるよ。で、衣、なんだけど。クレイ、頼むよ」
ディライドがテーブルの向いに座るクレイに声をかけた。
クレイが無言でハンカチと針と糸のセットをどこからともなく取り出す。
「むんっ」
細い銀のきらめきが宙を舞い、布がびょうっと音をたてて飛び交う。
ゼロコンマ七秒。
そこには小さなかわいい白いドレスが、剣だこのできた指につままれて、宙に浮かんでいた。
「さすがだねえ。クレイの特技、久しぶりに見たよ」
「すげー、すげー」
「剣を扱う者は指の先にまで神経をはりめぐらせているものだ」
「少し型が古くはないですか? 今の流行は袖をもっとシャープにして袖口からレースを出したものでしょう」
それぞれトーンの違う四人分の声が空からふってくる。
私は差し出されたクレイの指から、ドレスを恐る恐る受け取った。どうも彼だけは苦手だ。暗い夜道でなくても二人きりになりたいとは思わない。
怯えている私の様子に気づいたのだろうか。珍しくクレイが話しかけてきた。
「さっきはスカートを割いてしまった。すまなかったな」
低い声がぞくりと私のうなじをふるえさせる。
が、見上げると、鋭い銀の瞳が心なし優しげに細められているような気がする。まだ少し怖いが、私のためにお裁縫までしてくれたのだ。悪い人ではないかもしれない。
私は頑張ってにっこりと笑って見せた。
「ありがとう、クレイ。大事に着るね」
途端にクレイの眼が驚いたように見開かれた。続いて今度は間違えようなく、彼は笑った。まるで厳しい氷の壁が柔らかく溶けたみたいだった。
唇に少しはにかんだような笑みを浮かべて、再びクレイが口を開く。
「着替え用に何着か作っておこう。好きな色はあるか?」
私は元気よくうなずいた。
「うん! どうせならピンクのひらひらがいい」
私はドレスを体の前に当ててみた。足首までふんわりと包み込む、ジュリエットのようなふわふわのドレス。サイズはぴったりだ。小さなボタンが調達できなかったのか、すっぽりかぶって共布のリボンで止める単純なつくりになっている。
私はドレスをはおると、おとぎ話のお姫様のようにくるりとまわってお辞儀してみせた。
「おおっ、似合う、似合う」
「かわいいよ、アオイ」
「男四人で華がなかったですからねえ。なんだか楽しくなってきましたよ。クレイ、ハンカチだけじゃなく、レースやリボンも調達してきますから、お願いしますね」
イレーユの言葉にクレイが深くうなずく。
男四人の絶賛だ。
私は嬉しくなって声をだして笑った。この世界に来て初めてでた笑いだ。
「ありがとう、クレイ。せっかく、こんなセレブちっくな部屋にいるんだもん。思いっきり豪華なのもお願い。もう一生、そんなの着れないかもしれないから、この際、思い残しのないようにしとくんだ」
「前向きなのはいいことですね。では、私は住を」
イレーユがいそいそとテーブルの下から鳥籠を取り出した。
華奢な金色に塗られたかわいい籠だ。まっすぐな柵に唐草模様が刻まれ、台の下には四本の猫足までついている。今の私から見れば小屋に相当するサイズだが、乙女心をくすぐるには十分な品だった。
「きゃー、かわいい。ますますセレブちっくー。イレーユってセンスいい。で? 中の鳥は? からっぽだけど」
私はそこで言葉を切った。
四対の視線が私に集まっている。私は恐る恐る自分を指差した。
「もしかして、入るの、私?」
四人の少年がにっこり笑うと同時にうなずく。
「何考えてるのよーー!」
私は怒鳴った。
「私はペットじゃないわよ、人間よ!」
「でも、私たちがいない間に猫でも入ってきたら危ないでしょう?」
「うん、そうだよ、危ないよ。アオイはちっちゃいんだから。それに力も使えないし、どうやって逃げるの?」
この世界にも猫がいるのか。どんな形なのだろう。やはり美形なのだろうか。私は考えた。それはそれ、おいといて。
「でも、鳥籠って……」
「ぴったりのサイズじゃないか。俺たちも見張りやすいしちょうどいい」
「これは監獄かっ。ディライド、一言多いっ」
「まあまあ、生活に必要な物は入れといてやるよ。それに壁は必要だと思うぞ。夜とか寝ぼけて歩き回ってテーブルから落ちたら危ないだろう? お前のサイズじゃ、この高さは塔の天辺くらいあるんだから。床で放し飼いしとくと踏みつぶしてしまいそうだし」
それはそうなのだが。
納得しかけた私に、またディライドの余計な一言がかけられる。
「お前、寝ぞう悪そうだしな」
「あなたと一緒にするなっ」
「まあまあ、喧嘩はそれくらいで。休憩時間が終わってしまいますよ。ディライド、アオイはあなたのせいで不便な想いをしているのです、もっと気づかってあげてください」
お母さんよろしく、イレーユが私とディライドの間にわってはいる。
「アオイ、あなたも。私たちは意地悪をしているわけではないのです。今のあなたは本当に小さくてか弱いから。これは必要なことなんですよ。お願いですから我慢してください」
イレーユはずるい。そんなふうに言われると、鳥籠行きを納得してしまうではないか。
「さあ、どうぞ」
イレーユが白い指先を優雅に動かして金の細い留め具を外す。
私の目の前で、檻の扉がウエルカムとばかりに開いていた。




