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「誕生日?」

「そ、俺の十六歳の」


 私がこの世界に来てちょうど二か月がたった日の朝。

 ディライドがテーブルに頬杖をつきながら言った。


「え、今日なの? やだ、もっと早く言ってよ、私、何も用意してない」

「今日じゃないよ、明後日。それに誕生日祝いなんていらないよ、俺にはお前さえいれば」

「言葉だけ聞くとすんごく感動的なんだけど、そのわざとらしい手の動き、やめてよね」


 ディライドがにぎにぎしながら近づけた手に、蹴りを入れる。おっさんか、こいつは。


「てことで、これから爺さんとこに顔出ししたり、しばらくばたばたするから、今の間にお前の顔を鑑賞させてくれよ、アオイ。あー、マイナスイオン、癒される」

「私は観葉植物ではありません」


 それにしても明後日で十六歳になるとは、ディライドってば私より年下だったのか。

年齢だけをとると同じ十六歳だけど、私の誕生日は夏。もう終わってる。

こちらの世界の今は秋も終わりに近づいた頃。暦が微妙に違うみたいだからはっきりしたことはいえないけど、私のほうが2,3か月ばかり年上になるのだと思う。多分。


(なんかやだなあ。彼氏のほうが年上って)


ちょっとオバさん気分になっておちこむ私。

こうしてる今もぜんっぜん甘い雰囲気はないし、デートもしたことなければ、手をつないで、きゃっ、とかいう青春の一コマもない。ただのどつき漫才コンビかと思うような間柄だけど。


それでもいちおうつきあってはいるわけで。そうなるとたとえ数か月でも姉さん女房はむずむずするというか、なんとなくおさまりが悪い。


私、実は年上好きだったんだなあ、と、ちょっと自分の好みについて考えてしまう。


(うーん、ならどうして私、クレイとかイレーユとかを好きにならなかったんだろ。あの二人のほうがどこから見てもきっちり年上だし、どう考えても渋好みっていうか大人っぽいのに)


 クレイは寡黙だけどそこが大人っぽくてかっこいいし、それでいて優しい気配りもしてくれる。手先は器用でセンスもいいし、いうことなしだ。顔だって強面だけど、それこそ渋い。がたいもいいし、服に隠れてるけど、きっと腕とか筋肉がすごいんだろうなあと思う。一緒にデートしてて、悪い奴らに絡まれて……ってなシュチュエーションだと、絶対、びしっと守ってくれそうだ。頼りがいのある男、ナンバーワンだと思う。


 イレーユはちょっと隣に立つのがはずかしいくらいの美人さんだけど、そこはそれ、女友だちじゃないけど、慣れればあんまり気張らずにつきあえそうだし。デートとかしてもさりげない段取りとかうまそうだ。全部おまかせできる安心感がある。


 なのに。


 私は眼の前でにこにこしている王子様を見る。


 爽やかだ。なんとなく悔しいが顔がいいことは認める。それに頭も実は馬鹿ではない。

 最近心を入れ替えて真面目に学業に取り組むようになったとかで、この前、廊下の前まで教師の一団がわざわざやってきて、「君はやればできると思っていたんだよ」と男泣きに泣いていた。いったい何ごととこっそりイレーユに聞いたら、最近あったテストで、今まで枠外のベベだったのが、いきなり学年十以内に入ったらしい。


 それだけの頭があるならもっと早くに成績あげてろというか、今までどれだけサボってたんだよというか、あんまし先生たちに迷惑かけるなと説教したくなるというか。

 すごいねーという感想よりもつっこみがわくところが、ディライドなのだけど。


(そうなのよね、年上好きなはずなのに、好きになっちゃったのって、年下要素ばっかのこの王子様なんだよなあ。どうしてだろ……)


 あの夜の雰囲気に流されただけじゃない。

 あれから日数がたっても、廊下側の扉が開いて、誰かが授業から帰ってきた気配がすると、「ディライド?」と、ついつい彼の姿があることを期待してしまう。我ながらすごく恋する乙女だ。


 またディライドのほうも憎らしいくらいにそういうツボを押さえているのだ。

 

 いつも息を荒げながらも真っ先に走って帰ってきて、乱れた髪と制服のまま、「ただいま、寂しくて泣いたりしてなかったか、アオイ」とかなんとか、にやっと笑いながら悪戯っぽく言ったりなんかして。

 で、まっすぐに鳥籠のところまで来て、つん、っとこっちをつっつく彼の細められた眼が強烈に甘くて。もう一目見ただけでくらっとくる。侮れない王子様力だ。


 そんなだから、見慣れた顔のはずがついどきどきしてしまって。

 私が赤くなって怒ったら、ディライドが、わかってるよってな余裕な感じでからかってきて。こっちもアッパーカットとかお見舞いして、ディライドが、うおっ、やられたっとか大げさにのけぞりながらも逆襲してきたりして。

 狭いテーブルの上で追いかけっことかして、つかまったらくすぐり合いっこをしたりじゃれあったりなんかして……。


 ま、そういうことなのだ。

 しっかり二人、同じレベルで遊びまくっている。飽きもせず、毎日。

 他のメンバーが帰ってくるまで、きゃっきゃ、うふふ、と。他に見てる人がいたら恥ずかしくて爆発しそうなぐあいで。


 馬鹿なことばかりするけど、こちらとのサイズの違いをちゃんと気づかってくれる。ついうっかり力を入れすぎて、なんてことはない。

 やんちゃな悪戯はよくしかけてくるけど、下品と引いてしまうレベルではなく、ちゃんと「相手は女の子なんだから」って一線はひいてくれている。そこらはやっぱり育ちがいいんだなと思わせてくれて、一緒にいると楽しいのだ。


 しかも日に日に互いのボケ突っ込みが馴染んできているというか、いいコンビになってきたなあ、とか思えたりなんかして。なのにたまに、「お姫様、鳥籠までエスコートいたしましょう」とかなんとかかっこいい騎士な顔も見せられたりして。


 最近、理性ではあーだこーだ言っていても、ちょっとめろめろになりかけているかもしれない。


 あらためて私がによによと思い出し笑いをしていると、ディライドがなごりおしそうに私の頭を指先でなでた。


「今日もこれから爺さんのとこへ行かなきゃならないんだ。せっかくの休みなのに一緒にいれなくてごめんな、アオイ」

「今日もって、誕生日の日以外にも出かけるってこと?」


 聞いてみると、ディライドは誕生日当日は一日いないという。<彼氏>の初めての誕生日なのだ。何か盛大に祝いたいのに。


「俺さ、親父の加減が悪いから、爺さんの養子って形になってるんだ。で、そうなると皇子扱いだろ? で、いろいろめんどうな儀式があるんだ。学院も特別休暇とらせてもらう」


 孫なのに息子扱い? 想像していたより複雑な家庭の事情におどろく。

 確かにそれは皇帝のえこひいきとか考える人が出そうだ。前に聞かされたディライドの立場とかを思いだして、私はつい眉間にしわをよせてしまう。


「ややこしくてごめんな、アオイ。こっちにはそういうの、絶対持ち帰らないようにするから」

「そんな、いいよ、私、どうせこの部屋から出ないし、クレイたちとしか会わないんだし。そんな気をつかわなくていいから。それより……大丈夫?」


 私はそっと聞いてみた。

 ディライドがおどろいたように眼をまたたかせる。


「大丈夫、って?」

「だってディライド、しんどいでしょ。せっかくの誕生日なのに、なんだかゆっくりお祝いできなさそうだし」


 かわいそう、という言葉は飲み込む。そんな同情めいた言葉、眼の前の王子様はほしがっていない気がしたから。


 ディライドが眼を丸くしてこちらを見ている。私の頭をなでていた指も止まっている。


 な、なにをそんなに見ているの。

 私が気まずくなってきたころ、ようやく彼が動いた。


 ふわっと微笑んで、それから両手でつつみこむようにして、私をひきよせる。


「デ、ディライド?!」

「やっぱいいな、アオイは。あー、どうしてアオイってこんなにちっちゃいんだろう。せめてもうちょっと大きかったら、思いっきり頬ずりとかできるのに」


 熱くため息をつかれて、私はどきっとした。


 今までのケンカ友だちだった幼馴染が、急に男の子になってることを意識した感じというか。


 彼はつぶしたりしないように、注意して手を曲げて、私をそっと囲んでいる。でもふれる彼の手はとても力強くて、当たり前だけどすごく大きくて。女の人より骨ばってる長い指に、私は顔が赤くなるのを止められなかった。


 ディライドが顔を近づけてくる。


 すっととおった高い鼻や形の良い唇がぐんぐん眼の前に迫る。真っ青な綺麗な瞳をふちどる長い睫毛が私にふれそうで、彼の熱い吐息だけでなく、なめらかな肌から立ち昇る温もりが伝わってきそうで……。


 あ、駄目。どんどん彼が近づいて、止めなかったら飲み込まれそうだ。


 いや、マジで。

 比喩ではなく。ぱくっと一口にいかれそうな。


「ス、ストップ、ストップ、近すぎっ。顔のアップはもうじゅうぶんだからっ」


 あわてて両手で彼の顔を押しとどめる。

 うう、私たちが甘い雰囲気になれないのは、この体のサイズの違いのせいかもしれない。どうしても恐竜に喰われる子ウサギというか、捕食者と食べ物の関係を連想してしまうのだ。悪い、ディライド。


「……あーあ、少しくらい、さわらせてくれたっていいのに」


 ディライドがしぶしぶながらも顔を離してくれる。


 いや、でも、君だって悪いよ? さわらせてって、何を期待していたんだ。

 だってまだ朝で、しかもここはいつ誰が入ってくるかもわからない共用スペースの談話室で。


 と、思っていたら、やっぱり扉が開いて、イレーユが顔を出した。私たちを見て事情をさとったのだろう、いつもどおり、場を仕切るみたいに、ぱんぱんと手をたたく。


「はいはい、二人とも、まだ朝ですよ。お遊びはそれくらいで。というよりディライド、まだ正装に着替えてなかったんですか? そろそろ時間ですよ、早く着替えて着てください」

「てことで、ちょっと俺、出かけてくるから、また後でな」


 ディライドが名残惜しそうにテーブルから離れると、自分の部屋へと消えていった。イレーユに聞くと、皇宮は同じ都の中にあるけど、ちょっと離れているから、彼が戻るのは夜になるだろうとのことだった。


 今日はもう一緒に遊べないのか。


 私はちょっと一緒に行けない自分の小さな体が寂しくなった。

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