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第1話 虹色の蝶 (8)

 エリが席に戻ってすぐに本鈴が鳴った。

 直に担任はやってくる。そうすればすぐにでも編入生のお披露目だ。

 その瞬間が待ち遠しい俺はまだかまだかと教室の扉を凝視していた。

(俺はおやつを前にした幼稚園児か!)

 脳内つっこみをして時間を潰すも、それにも飽きてきた。


 ガラガラーッ


(キタッ!)

 担任の矢代先生が教室に入ってくる。

 編入生は……。

 いない。

 先生一人だけで入ってきた。

「先生っ。編入生はまだですか!」

 逸る気持ちを押さえるけられず、ついそう先生を捲し立ててしまった。

「何だ、凰。そんなに編入生が待ち遠しいか?」

「ハイッ」

 即答してしまった。

 そのあまりの真剣さに、クラス一同爆笑。一瞬で笑いが湧き起こる。

「いや、ちょっ、みんなそんなに笑うってひどくね……」

 うぅーん。はずかしいなぁ。

 先生まで笑ってるし……。

 だって仕方がないだろう? 昨日から待ちに待った編入生なんだ。何度も言うようだが、それも女の子だ! 女の子の編入生を喜ばない男子はいない。いるわけがないんだ!

 ……と心の中で力説しても誰にも伝わらないわけだが。

「ハハハハ……。まぁ、落ち着け。落ち着いて席に付け。凰」

「はい……」

 思わず知らず立ってしまっていた俺は、先生に言われて席に座った。

「編入生の紹介はSHRの最後だ」

「なっ! 何でですか、先生!」

 とんでもない宣告に俺は抗議の声を上げる。

「そうでもしないと、出欠とか諸連絡とか、聞かないだろう? 凰、特にお前がな」

「うぐっ」

 ぐぅの音も出ないとはこのことだ。

 まったくもってその通りだろうと言うことはクラス全体の総意のようで、しきりにうなずいているクラスメイトが何人も見受けられる。

 かく言う俺自身そうだと思っているのだから世話ない。

「というわけで、まずは出欠を取るぞ。凰はもちろんだが、何より編入生を待たせないよう、速やかに済ませたいから、みんな協力してくれよ」

 そういって矢代先生は出欠を取り始めた。

 そうしてクラス七番目の俺の番が来て……。

「おお……」

「ハイッ」

 すぐに呼ばれた名前に、俺はさきほどよろしく即反応した。

 いや、むしろ名前が呼ばれる瞬間には返事をしたね!

 と胸を張っていたのだが……。

「ったく。返事は名前を呼ばれてからにしろよな。落ち着きが足りんぞ」

 注意されてしまった。


 クスクスッ

 クスクスッ


 うわぁ。

 女子たちに笑われてしまった。エリもクスクス笑いしている。

 うぅーむ。

 恥ずかしいな。

 赤面している俺を余所に、出欠は順調に進んでいく。

 そんな中……。

「護国寺」

「はいっ!」

 ん?

 大悟のやつ、少し緊張してるのか?

 声が少し固かった。

 まぁ、いいか。



 しばらくして出欠も取り終えて、連絡事項もつつがなく伝達し終えた。

 とはいえ、俺は編入生が気になって諸連絡なんて右から左なんだがな。

「じゃあ、お待ちかねの編入生を紹介するとしようか」

 矢代先生がそう告げる。

「待ってました!」

 思わず立ち上がり、そう囃し立てる俺は……。

「落ち着け、凰。それから席に付け」

 また叱られてしまった。

 しかし今度はクラスに笑いは起こらない。なぜなら、クラス全員が俺と同じ気持ちだからだ。待ち遠しくてたまらない。そんな顔をしている。

「せんせー、せんせー。もったいぶらずに早く紹介して下さいよー」

 今度はエリの援護射撃もある。

「分かった、分かった。とにかく落ち着け。お前らが興奮してたら編入生は入りづらいだろうが」

 うむっ?

 それは最もだ。

 うん。落ち着こう。

(みんなも落ち着け!)

 なんて心の中でクラスメイトに呼びかけた。みんなも納得したような表情をしている。クラス全体が落ち着きを取り戻し始める。

 それを確認して矢代先生が廊下に向かって声をかける。

「よし、みんな落ち着いたな。入っていいぞ」

 それを合図にみなの視線が教室前方の扉に集中する。


 ガラガラ……


 おっ。

 教室の扉をあける音からして丁寧だ。

 ひょっとしてお嬢様系か?

 編入生が教室に入ってくる。

 真新しい上履きを履いた足が見えてきた。

 さらにその上、踝から膝上までを白いハイニーソがそのほっそりとした脚を包んでいる。白ハイニーソは縁を大きめのフリルで飾られていた。

 その白ニーソのフリルと指定の制服のスカートの間の肌色の空間――絶対領域だ――が眩しく蛍光灯の光を反射している。

 赤を基調とするチェック柄のスカートから上、学校指定のブラウスに包まれた胸は、お世辞にも豊かとは言い難い。しかし、その主張の控えめな胸元が、清楚なお嬢様ではという妄想をいっそう滾らせる。

 ブラウスの袖を通した両の腕は身体の前方で鞄を手にしており、その鞄の持ち方すらもお淑やかなお嬢様のもののように映っていた。

 そうしていよいよ……。

 教卓に控える矢代先生の隣に立ち止まる編入生の御尊顔を拝そうと、目線を上に持っていく。

 そこで俺が目にしたのは……。


「っっ!」


 その少女は目鼻立ちが純和風な目の覚めるような美人だった。いや、顔の幼さからどちらかというと可愛いと称した方がいいかもしれない。しかしながらその精緻なつくりに無感動そうな表情には、可愛いというのは躊躇われ、可憐と言うべきか。とにかく、着物でも着ていれば大和撫子もかくやと言わんばかりに整った顔立ちをしている。

 そう。

 そこに立っていたのは……。



「……死神……!」



 昨夜、非日常で出会った黒装束の少女だった。


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