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ジ・イバラキ  作者: 牟島トム
1/1

ハワイアンガール・ミーツ・イバラキガール

「大丈夫!? しっかりして!?」


 朦朧とした意識の中、女の高い声が脳に響く。

 微かに目を開くと、真っ先に視界に入ったのは、その声の主と思われる女の姿。

 彼女がなんて言っているのか理解するのに、およそ十数秒の時間がかかる。

それは彼女の使っている言語がわたしの国の言語と違っているからで、彼女の使っている言語というのはいわゆる日本語だった。


 幸い、わたしの家には何度か日本人の学生がホームステイをしに来たことがあるため、会話をする分には差し障りのない日本語を話せる自信があった。

 力を振り絞って、私は掠れた声を出す。


「……食べ物が、欲しい……」


「分かった! 任せて!」


 そう言い残すと、彼女は、その場から駆け足で立ち去っていく。


 ……一旦、状況を整理したい。

 一体ここはどこなのか。どうして気を失っていたのか。

 力の入らない腕でなんとか身体を起こして、寝返りを打つ。

視界が日差しに照らされた海景色一色となり、わたしは今海岸にいるのだと気付く。ぼやけてはいたものの、その甚大な光景は海だと識別できた。

 自分の置かれている状況が、だんだんと読めてきた気がする。

 おそらく、わたしはこの海で溺れていて、さっきの日本人観光客と思しき女に救助された。大体そんなところだろうか。

 衰弱しきった身体。腹と背がくっつきそうなくらいの空腹感。身の安否が不安になるような状況であるが、この海を見ることで、その不安を解消する事ができた。

 拉致、誘拐、遭難、これらの可能性は、海で救助された事を考えればないと推測がつく。

 そして、現状で最も有りえるであろう可能性、漂流。

これもまずないだろうという確信があった。

 太平洋において日本人の多くいる島はわたしの故郷、ハワイ以外にそう多くないはずだ。

 あるとすればそれは日本だが。ハワイから日本に漂流するなんて、それこそ、拉致、誘拐、遭難よりも有りえない。

 わたしが最も心配すべきは、そんな見えない脅威ではなくて身体の方かもしれない。


「おーい! 食べ物持ってきたよー!」


 声のする方を振り向くと、さっきの日本の女がこちらへと砂浜を駆けて来るのが見える。


「は……、早く……」

 

 がくがくの手を伸ばし、食べ物を乞う。


「はい!」

 

 彼女はなにやら、黄色いものを手渡してくる。

 それが何なのかは分からないが、わたしはそれをすかさず受け取り、一心不乱に頬張った。


「……う、うまい……」

 

 二つ、三つと、その黄色いものを平らげていく。

空腹は最高のスパイス、とはよく言ったもので、それはこれまで食べてきたものの中で一番旨いと感じられた。


「この食べ物は、何て言うんだ?」


 あまりの旨さ故、わたしは、反射的にその食べものの名前を問う。

 また、味覚は感情に左右され易い物だと知る。

 彼女が次に発した言葉によって、さっきまで旨いと感じていたこの食べ物からは、味が消えた。


「これは茨城の特産品、干し芋だっぺな。干し芋ってのは、名前の通り芋を乾燥させたモンだ。干し芋を主食にしている茨城人もいて、納豆かけて食う人もいるとかいないとか」 


「……」


「おっと、食欲削ぐようなこと言って申し訳ねえ! 干し芋に納豆とか、茨城人の私でもそりゃ食えねーべな」


 納豆が何なのかは知らないが……そうじゃない。

 

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