48、new death
聞きたいことがある、その声に応える者はなかった。
だけど、血に汚れた肌色の肉塊が微かに震えたのは見逃さなかった。
「そのまま、誰に見送られることもなく死後の世界に旅立ちたいならそれでもいいわ。もっとも、そんな死後の世界なんてあるか知らないけど」
サブマシンガンの銃口をモリスティーニという名前の塊に向けた。
そうさせたのは微かな、本当に微かな精神の波を感じ取っていたから。
攻撃性はないけど、振動がこちらまで伝わってきそうな、小刻みに振るえる波動。
モリスティーニはまだ死んでいない。
「……恐ろしい。恐ろしいことだ。ドームの兵隊は、どうしてお前のような能力者まで、備えることができたの……だ?」
死肉の塊に見えるその物体に人間の顔が、いやモリスティーニの顔がまるで死肉に寄生したキノコのように生えて姿を現す。
既に人の姿を失っていてどれほどのダメージを被っているのかは分からないけど、表情は苦しさの真っ只中にあることを物語っている。
「そんなの知らないわよ。ドームなんてどうだっていいの。それよりこちらの質問に答えてもらう」
「……恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。おそろしい。おそろしい。おそろ……」
精神の波がある特定の揺れに固定し、何回も何回も繰り返される。
正気を失い、狂ってしまう直前にあるのかもしれない。
「ぎゃああああああ!!!」
「イカれる前に聞いておきたいことがあるの。いいわね?」
銃弾が片耳を貫通する。
無意識に、口角が微かにあがるような感覚を感じた。
リアルで平和な国に生まれ、生活をしている自分でありながらここまでできることが少しおかしかった。
ゲームだからできる、と考えた自分が少しおかしかった。
「な、何を知りたいというのだ……? まだるっこしいことをせずに、私の精神を直接覗けばよかろう! さっきのようにな!」
さすがは司祭クラスの能力者だ。
私が精神に入り込んだのを感知していた。
「残念だけど、私には記憶や考えを読み取る力はない。ただそこにある声を聞いたり、見たりするだけよ」
「ぐ……、何だ、何を聞きたい……?」
「そうね。まずはディライフについて聞かせてもらうわ」
ディライフ……。
人間の意思力を原料にして作成される薬品。
投与するとある種の麻薬のような、高揚感や開放感、快感に満たされる。
それだけならドラッグ問題としてドームや教会のような自治組織が取り締まればいいだけの話。
だけど、実際はそれだけじゃない。
この薬品は人間を、言葉通り"化け物"に変えてしまう。
そして教会はその化け物達を兵力として利用している。
そればかりか、肉体の変異化を防ぎつつ能力を強化する段階にまで研究が進んでいるのだ。
「何のために、あんなものを作ったの?」
「か、簡単なことだ。東側の、ドームの勢力に対抗するためだ。企業は大きくなりすぎたのだよ。政治や軍をも飲み込んで強大な権力を手中に収めている。それに対抗するには生半可な戦力では太刀打ちできないのだ!」
「人体実験で体を強化し、戦力を増強する」
「そうだ。我らが神から授かったサイキック能力は確かに素晴らしい力だ。だがそれは無限ではない。能力を使えば精神が磨耗し、疲労がやってくる。精神力はドーム側が扱う重火器のように、弾を補充するというわけにはいかん」
戦力の増強。
そのために人体実験を行い、ディライフを生産する。
分からない話ではない。
「それだけじゃないでしょう? あの時クラブで見た助司祭さんはずいぶん羽振りがよかったけれど」
「何をするにしても金は必要だ。スラムを中心に"ヴィジョン"で流通させて、金と使用データを集積させた。ついでに教義が浸透しない地区の殲滅も兼ねていた」
「ついでに、か。ついでで一つの地区をダメにしちゃうほど、あなたの言う神とやらはとても冷酷なのね」
「……。」
教会の権力維持、そのための戦力増強。
取った手段は許せないものだけど話の筋は通っている、と思う。
結局、この世界がシナリオをあらかじめ用意されている舞台なのであればそれでいい。
プレイヤーは与えられた筋書きに沿って、裏シナリオとでもいうべき教会勢力の打倒を目指す。
でも……、でもそのために人の姿を捨て、自身の体を異形化させることができるというの?
「そんなぶよぶよした塊になってまで、力が欲しかったというの? 権力が欲しかったの?」
「……まい。お前には、ドームの人間であるお前には分かるまい。圧倒的な力を目の前にした、恐怖を」
確かにドームのソルジャーとなったプレイヤーは、彼らから見れば脅威だろう。
常人離れした身体能力、強力なスキル攻撃。
そして何より、"死なない"。
厳密に言えばLPがゼロになれば気絶はするのだが、多少のデスペナルティと引き換えに復活ができる。
世界観の設定的には、気絶した者をドーム側の超科学技術で復活地点に強制ワープさせる、ということになっている。
「ドームが正義じゃないってことは私でも分かってる。でも、目先の戦力のために一般人をあんなに巻き込んで。人体実験を行っていいという理由にはならないわ!」
企業といった東側勢力がどれほどの搾取を西側に対して行ってきたのか。
この世界の人間ではない私には分からない。
でも、いくら自由や公平を謳うにしても越えてはいけない一線があるはずだ。
脳裏に二つの少女の姿が浮かんだ。
ジェニーとソロ、直接的な人体実験の被害者達。
私のこだわりのせいで、生き残ってくれた二人。
運命に介入して生かした以上は、この世界に対して私なりの責任を果たしたい。
そんな覚悟をどうでもいいことだと言わんばかりの笑い声が響いた。
「ふははは、はあははははははは!」
「何がおかしいの!?」
「はははははははははは!!」
「その癇に障る笑いを止めろ!!!」
銃声が響く。
サブマシンガンの弾はヤツの肉を抉ったが、それでも笑いは止まらなかった。
無駄弾を喰らわせても仕方がないのでしばらく放置すると、笑い疲れたのか耳障りな音が止んだ。
と、思えば声こそ聞こえなくなったが、モリスティーニの体は小刻みに震えていた。
「お前は知らんのだ。いや、お前ほどの者でも知らんのだ。それが私には恐ろしい」
「何の、話よ」
力を失い、精神が壊れかけているのだろうか。
情緒が不安定だ。
しかし受け答えはしっかりしている。
怪訝な表情をしているであろう私に目を合わせると、彼の震えは一層激しさを増した。
「もしかして、死ぬのが怖いの?」
「ああ、怖い。死は怖い。生きた時間が、証が、全て消え去ってしまう。それが怖い」
「こいつ……!」
キレそうになるのを押えて、冷静にモリスティーニの観察を続ける。
何が死の恐怖だ。お前達はその恐怖を何十倍にも高めた行為をやっていたじゃないか。
怒りが、赤色のイメージが精神を覆い尽くそうとしていたがなんとかこらえる。
彼が昔の威厳をとうに失い、震え続けている姿もまた怒りを削いだ。
ほんの少し時間を置いて冷静さを取り戻したとき、何か違和感があるように思った。
彼は強力な能力の持ち主、司祭であり、これまでもエッダー達と死線をかいくぐってきた。
敵を殺したり、仲間が殺されたりと、死は身近にあったはずだ。
もし本当に命が惜しいのならば、先ほどの笑いは不自然に思えてきた。
彼からは確かにエッダーやノディアンのような"戦士"のイメージは湧いてこない。
しかし、目の前の死の恐怖に囚われてしまうような小物でもなかった。
彼を、彼の心の奥底で渦巻く感情の源泉は何だろうか?
私の悪いクセが始まった。
何も考えずに、ただ敵を消せばいい。悩みも謎も増えない。
……しかし私の探究心は既に歩き始め、下り坂を転がるようにスピードを上げていた。
「こっちを見るのよ、モリスティーニ」
「恐ろしい。恐ろしい。おそろ……」
「最早聞ける状態にない、か。なら勝手にお邪魔させてもらうわ」
視点が定まらないモリスティーニの顎を掴み、無理やり視線を重ねた。
瞬時、彼の精神の波を再度掴み潜っていく。
前回のようなエッダーの手助けはなかったが、既に身体に大きなダメージを負い精神には覇気がない相手への侵入は容易い。
奥の奥、以前踏み入ることができなかった部屋へ進む。
一日二回、同じ精神世界に入り込むのは初めてね。
職員室に似た雰囲気の部屋は顕在。
本人の力が削がれた状態だからだろうか、以前みかけた黒いシミはなりをひそめている。
周囲を見渡すと一番奥の机と椅子。
そこに黒い人影がうっすらと姿を現した。
――ドームの魔女、か。
影が言葉を放つと同時、そのシルエットが人間だった頃のモリスティーニへと形を変えた。
――私は死に向かう身。もう放っておいてもよかろうに……。何しにきたのだ?
あなたが抱えている"恐怖"の正体を探りに来たわ。外のあなたは既に壊れてしまっているもの。
――そうやって司祭である私の魂を喰らいに来たか。まあ、いいだろう。理解できるとは思えんが話してやる。
外とは違い威厳を保っているモリスティーニの精神体。
少々癇に障るが、情報が引き出せればそれでいい。
なぜ私がここまで彼の"恐怖"にこだわるのか。
その理由に説明はない。
いくら探究心旺盛でも、不確実な精神世界に何度も潜りたいとは思わない。
だけど彼が持つ恐怖が何かに繋がっていくという可能性を直感的に感じていた。
――お前には"記憶"はあるか?
分からないことを言うわね。生きているんだもの、あるに決まってるじゃない。
――1年前のこと、5年前のこと、10年前のこと。お前は覚えているのか?
1年前のちょうど今の時間に何をしてるかなんて覚えてはいない。
そんなことをずっとしてたら、たぶん脳は悲鳴を上げてパンクする。
だけど、嬉しいこと、悲しいこと。
時間こそ曖昧だけど、そういった大きな出来事は覚えている。
小さいできごとと混ざりながら、だけど確かに。
――そうか。しかしその出来事の数々を、お前は本当に覚えているのか?
? 意味が分からないわ。
悪いけど哲学とか思想とか教義とか、そういう類のものは聞くつもりはない。
洗脳なんて止めて、命が消え去る前にもっと実のある話を聞かせてちょうだい。
――この段階におよんで、お前を洗脳するなんてできやせんよ。大事なことなのだ。……答えよ。
……1年とちょっと前、私に珍しく親友と呼べる友達ができたわ。
比較的最近の、嬉しかった思い出ね。
5年前は、そう。母が少しおかしくなり始めた時期ね。
顕著になったのは私が成人してからだけど。
あの日の夕焼けは、まだ私の胸に焼き付いてるわ。
10年前は…、父が死んだ年。
事故で死んだって言われて。
遺体も損壊が激しくて見せてもらえなくて。
私の中で、いや。私の家族が変わってしまった年。
――お前のその思い出とやらを語る表情。どうやら本当に体験してきたようだな。
体験していないことは想像でしか話せない。
この精神世界で妄想を押し通すのは無理ね。
――激しい思い込み、あるいは巧妙な刷り込みとは考えんのか?
そうだったら楽よね。
可愛そうで、あまりにも哀れな自分とお別れできるかもしれないのだから。
けどね、たとえ気に入らない過去の集まりでもそれが自分なの。
それが今の私を成している欠片。
否定されたくない。
――とても強い、波のようなものを感じる。お前と私、一体何が違うというのか。
いい加減、私にも分かるように話をしてちょうだい。
そうする気がないなら、あなたにはもう死という闇の中に帰ってもらう。
――死に闇なんて大層なものはありはせんよ。そこにあるのは死という現象、命が終わるという事実があるだけだ。
どういうことなのかお前に語るには、時間が足りないだろう。
だから……。
モリスティーニのシルエット、その両目が怪しく光る。
まさか、この場所で能力が使えるというの!?
――さあ! 直接、私の世界を受け取るのだ!!
っ……!!
強い精神の波の塊が私にぶつかってくる。
意識が、引き寄せ、られ、る。
意識は失っていない。
手足の感覚はないが、両目両耳の感覚はある。
視覚と聴覚ははっきりしてはいるが、体はやけにふわついている。
これは、一言でいえば漫画やアニメで表現されるところの幽体離脱というものだろう。
第三者視点で目の前の部屋――例の職員室のような場所を眺めている。
そこには中年をとうに過ぎた男性が一人、雰囲気がやや対照的な少年二人、そして若く可愛らしい少女が一人いた。
様子を見ていると、利発そうな少年が口を開く。
「園長先生、俺達三人にお話があると聞きました」
「ああ、そうでしたね。これから話すことはとても大事なことですから。心して聞いてくださいね」
この園長先生と呼ばれた男の顔。
温和そうな表情で最初は分からなかったが、段々と見知った顔に見えてきた。
そう、先ほどまで対峙してたモリスティーニの顔。
きっとこの男性は若い頃のモリスティーニで、私は彼の記憶を強制的に視聴させられている。
「はい、モリスティーニ先生。僕、しっかり聞きます」
「わ、わたしもです」
声では流石に判別できないが、おそらくこの子供達が後に教会の司祭となる存在。
最初に発言した男の子がノディアン、次の大人しそうな子がエッダー。
そして、最後の少女がクランヌ?
エッダーの教会で戦ったときの容姿とまるで違う。
これは彼女の精神世界で会った……。
「喜びなさい、お前達。お前達には神の奇跡が、サイキック能力があることが確認された」
「本当ですか!?」
「ぼ、僕に力が?」
「力、能力……」
少年少女に驚きと喜びと、少々の不安が混じりこんだ声があがった。
「あのネーキル様がそうおっしゃられたのです。間違いないでしょう」
「これで俺も戦える。この場所を守る力があるんだ!」
「神様の、祝福が僕にも……」
彼らの歴史を私は知らない。
けど、力があることを知ったその言葉の力強さからは、彼らの人生ががこれまで常に困難と供にあったことを予測させる。
「戦う、の?」
「ああ、そうだよクランヌ。俺とエッダーが教会を馬鹿にする奴らやここを壊そうとする人間をやっつけるんだ」
「大丈夫、大丈夫だよクランヌ。僕が、僕達がクランヌを守るから」
無謀かもしれない。
けれども純粋な意思の現れがそこにあった。
「待ちなさい三人共。まずは訓練です。自身の力を知ったうえで、その使い方を学ばなければなりませんよ。もちろんあなた達だけに辛い目には合わせない。私も一緒ですよ」
「先生? 先生も一緒って?」
「私も能力者だったことが分かりました。今まで以上にみなさんと苦楽を供に、しかし輝きの道を歩んでいきましょう」
そこには今では考えられないような、信頼の絆があった。
時間や富、権力といったものがこうも四人の関係性を、モリスティーニの人間性を変えたとでもいうのだろうか?
四人が体を寄せ合うところで、ストンと目の前の風景が割れて暗闇になった。
ほんの数秒すると、また別のシーンが始まった。
相変わらず私は幽体離脱のようにふわふわしたまま、ただそれを眺めるだけだ。
時間は飛んで少年少女が戦士として成長し、教会の敵を殲滅していくシーンが細切れになって再生されていく。
その次には教会が拡大し、司祭の座につき権力を手にしたモリスティーニの自信に溢れた姿。
モリスティーニという男の人生のハイライトを見せ付けられている。
――上手くまとまっているとは思わんかね?
モリスティーニのほうから私に語りかけてきた。
てっきりこの精神世界で"教会の杖"を発動させたのかと思ったが違うのだろうか?
死を直前にした走馬灯ってやつかしら?
悪いけどあなたの人生に興味はない。
――私には、この記憶しかないのだよ。この綺麗にまとめられた、場面のな。
比喩表現などではないぞ。本当にこのシーンの記憶しかないのだ。
……。
――確かに、取るに足らない記憶は抜けて落ちていくもの。しかしその中のいくつかは記憶を保存している容器の片隅にへばりついているものだ。
……。
――それに何よりも不可解でたまらないのは、私がそうしたシーンを経験してきたという時間がないということなのだ!!
穏やかな波の形が、別の何かになって私に流れてくる。
そうか、これが彼が抱え込んでいるもの。
単純な"死"への恐怖ではない。
もっと根源的なところの……。つまりはそれが有るのか無いのか……。
怒りや悲しみでも、絶望でもない。
感情を持たない波が私を包んでいた。
・
・
・
「有子って名前、嫌い。ダサくてかっこ悪い。それに私、何ももってないし。何も無いのに」
私の言葉。私の思い。私の、記憶。
「友達なんていらない。嫌なの。比べられるのが。ランク付けされるのが。意味のない、心に触れない言葉が嫌い」
止めて。私の記憶を見ないで。
「一人が楽よ。彼氏だっていらない。そんなの、何の役にも立たない。他人なんて受け入れられるわけがない」
止めろ、止めろ!!
一人堤防を歩く私。無表情で人ごみを掻き分ける私。声をかけてくるクラスメートを冷たくあしらう私。
客観的に見れば見るほど、私という人間が情けなく見えてくる。
見せ掛けのポジティブさの中身は、大して意味のないドロドロのネガティブさが詰まっている。
それをだれも分かってはくれない。
いや分かってくれるはずがない。
そこに意味がないのに、どうしてそれを他人が分かってくれるとでも思えるというの?
――辛いのならば消してしまえばいい。何もかも全て消し去ってしまえ。それは終わりではない。
またあたらしく、お前という容器に記憶が注ぎ込まれていくだけのことだ。
お前は生まれ変わるのだ。
私の記憶にヒビが入り崩れ始めていく。
本能的に感じてしまった。
"怖い"と。
どんなに今の私を苦しめる昔の記憶でも、それを無くしてしまうこと、無かったことにするのは耐えられない。
しかしその反面、全てを無に委ねるような、高いところから飛び降りるような解放感への誘惑をも感じ取っていた。
確かに記憶が無くなっていくのは怖いことだ。
だけど、ほんの数秒の恐怖に堕ちていけば、私はきっと私を縛る鎖から解放される。
苛立たせる感情の波に囚われることもなくなる。
そう、私の母のように。
……母さん?
ふと思考がよぎった。
ひび割れた視界の四方から、白い色が伸びてくる。
黒のキャンパスを再び白で覆いつくさんとでもばかりに。
いや、白ばかりではなかった。
赤と灰色、そうした色までもがキャンパスに滲んでいく。
それらが全て交じり合い、もはや色を断定することはできない。
だけど、確かにそこに色はある。
大丈夫、私はまだ、死なない。この世界で意味と答えをまだ見つけていないから。
交じり合った色を意識したとき、精神は再び引き戻される。
・
・
・
――ぐぐ……、流石は魔女よ。この場所ですらも喰らうというのか。
意識が戻り声の方を見ると、モリスティーニのシルエットがあった。
しかしその姿は半分に割れていた。
――やはり、お前を、取り込むのは、かなわぬ。
取り込む……。成る程、油断ならないわね。
あなたの恐怖、理解したわ。
だけどそれに埋もれてあげるわけにはいかない。
私には背負ったものがあるから。
――はは、は。私の負けだ。だが、心地のいいものだ。こうしてお前に取り込まれて、お前が生き続けている限り私は生きる。
意味を創る。さあ、魔女よ! 私を喰らい尽くすがいい!!
モリスティーニのシルエットが私に飛び込んでくると同時、意識は完全に肉体の世界へ戻った。
今度の視界には完全に死肉となった肉塊が飛び込んできた。
「終わった、のよね?」
応える声はない。
だけど終わった実感があった。
私はスキル画面を表示させた。
その末尾には、こう表示されている。
【ソウルブラスト:死】new!
やはり、私の能力は……。
自身の能力への考察を始める間もなく、呼び出しコールの電子音が聞こえてきた。
「遅くなってごめん。すぐ戻るよ。……どうしたの、アイちゃん?」
「有子、ごめん。ごめんね! ジェニーちゃんが」
走り出した。
親友の必死の言葉を聞き届けるまでもなく走り出していた。
私が持つ唯一の意味が、失われようとしている。
ジェニーが、さらわれた。
その短い状況説明が死刑宣告のように私に突き刺さる。




