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「あなた達の援護はいらないわ。そこで見てなさい」

「ハッ!」



 クランヌは彼女を取り巻く8名程の護衛に待機命令を出した。

 その自信のありようはこれまで戦ってきた司祭と同じ、揺ぎ無く威厳に満ちている。

 蠱惑的な肉体とそれを申し訳程度に隠す衣装、手にした黒の鞭。

 平時に見ればなんらかのコスプレ衣装に思えない冗談なビジュアルだが、この世界とこの場にあってそれはこれまでに経験のない緊張感を生じさせた。



「来る! マルタ、時間稼ぎを!!」

「……引き受けた」



 手下に手出しをさせない。よほどの自信家なのか、こちらを舐めているのか。

 しかしその好機を逃すわけにはいかない。

 あの女司祭にとってこの戦闘はゲームなのかもしれないが、私達には今後の指針に関わる重要な戦いだ。



「スパイラルショット! ……土に仮初めの命を、クリエイト・デコイ」



 マルタがボウガンによる牽制射撃、そしてその結果を確認しないまま魔法を詠唱する。

 それは囮となる自身の分身を作り出す【クリエイト・デコイ】。

 攻撃対象が二つに増えれば敵に少なからず迷いが生まれる。

 そしてその魔法の使い手が俊敏性に優れていれば優れているほど脅威度が増す。

 囮に対して大技を放てばスキが生じ、エネルギーを損耗する。

 本物を見極めようと攻撃を見送れば偽者と本物の挟み撃ちを許す。

 戦闘の熟練者であれば数秒、もしくはそれ以下で真偽を判断し行動を決断する。

 だがその束の間の時間が対人戦では勝敗を左右するのだ。

 ダガーを構えた二つの影が女司祭に迫る。

 短剣と鞭、中世編でも見られない武器種の対決が始まった。



「癒しの波動。母が子に与える、無償の愛の温もりをここに」



 温もりの象徴である"母"のイメージを膨らませ【ソウルブラスト:慈愛】を発動。周囲に照射する。

 ソロの時みたいに肉体や精神が限界ギリギリまで損傷しているのでなければ、照射対象の精神に呼びかけなくても回復はできる。

 白の光はエッダーの傷、そしてマルタのLPを回復させる。



「この波動の光。ここまで自由に扱えるようになったのですか」

「おかげさまで。エッダー、何があったのか、何を知ったのかは後で話してもらう。だから必ず生きてここから出るのよ」

「……そうですね。私としたことが、少々弱気になっていたようです」



 傷が回復したエッダーは立ち上がり、マルタと交戦中のクランヌの方へ向き直った。

 ゆっくりと一つ瞬きをすると、何かを決めたような険しい表情に変わる。

 彼の過去、そしてあのクランヌとの関係は分からない。

 だけど、かつて仲間であった者へ力を向けるということにためらいが生じてもそれは仕方がないこと。



「あなた、ただの教会の兵にしてはやるようね」

「……そうか」



 女司祭の鞭、そしてマルタの短剣とボウガンがせめぎ合う。

 スキル構成と使用している武器種の関係、そしてこれまでの経験から対人戦に長けている彼だが相手が相手だけに攻め切れていない。

 もちろん目的は時間稼ぎなのでクランヌを倒す必要はないだろう。

 しかし攻撃の主導権を譲ってしまえば司祭が持つであろう強力な力にそのまま飲まれてしまう。

 エッダー、モリスティーニ、ノディアン。

 司祭の肩書きを持つ彼らはみなゲームのような、そしてプレイヤーが行使できるスキルの範疇を超えた能力を有していた。

 それはこの女司祭も同様であると推測できる。



「鞭、か。戦闘スタイルが読めんな」



 牽制で放つ矢は叩き落とされ、しかし短剣の間合いまで近づこうとすればヒュン、と風切り音と共にそれが襲い掛かる。

 司祭達が強力な力を持つことは共通であるがこのクランヌには例外があった。

 それは彼女が手にしている黒の、いわくのありそうな鞭。

 他の司祭は銃器や刀剣類を持っていないが彼女だけはそうじゃない。

 

 鞭を一つの武器アイテムとして考えたとき、武器種類が豊富な中世編でさえ見かけたことが無かった。

 もしかしたらレアアイテムとして存在していたり、特殊な武器作成で生み出すことはできたのかもしれない。

 しかしたとえ入手できたとしても、素人考えだが扱いが難しそうなそれを好き好んで使うプレイヤーはまずいないはずだ。


 武器の性質を考慮した場合、鞭それ自体は対人戦では有用ではないと考えられる。

 それは第一に殺傷能力、つまり攻撃力がさほど高くないという点。

 刃物でも鈍器でもないそれでは一撃で相手に致命傷を与えることができない。

 ではダガーの二刀持ちのように連撃ができるかといえばそれも難しい。

 刃物のように振り下ろす、振り払う、突き刺す、といった多彩な行動が取れず、鞭には振り回すという選択肢しかないからだ。 

 それに第二の理由として鞭には防御能力がない。

 剣の類は相手の武器を受け止めたりすることが可能。

 好ましくは無いが、銃器でも硬い金属の部分で咄嗟とのときには防御行動を取れる。

 しかし鞭ではせいぜい振り回して相手を近寄れなくすることしかできない。

 攻撃力が高くないのだから多少のダメージで突っ込んでしまえばいいということになる。

 接近されてしまえば振り回すためのタメ動作も封じられる。



 そう、武器の性質を考えたときにマルタが押される要素は少ない。

 接近戦では短剣、そして鞭の届かない距離ではボウガンという局面に合った選択肢が用意できる。

 それに加え、彼が魔法によって生み出した分身の存在もある。



「……仕掛ける」



 一人のマルタが矢を発射し、別のもう一人のマルタが急接近し短剣を抜く。

 どちらかは分身体による攻撃でダメージは期待できないが、二種類の同時攻撃を完全に対処するのは難しい。

 よしんば両方を対処できたとしても何らかの隙は生じてしまう。

 その隙を狙って追撃をかけるのがマルタのやり方。



「炸裂弾、セット。グレネードシェル!」



 攻撃の行く末を待たず、続けざまにボウガンのスキルを発動させる。

 流石に分身体までスキルを使うことはできないから、本体は距離を取ってボウガンを放っている方ということになる。

 矢と短剣の対処で時間をとらせて炸裂弾から逃れられないようにし、分身ごと爆破させるつもりか。

 隙を作る、というよりも行動を制限させる攻め方だ。

 この攻め方ならば彼に一度勝った私でも簡単には対処できない。



 そんな状況にありながら、女司祭はただ口元に笑みを浮かべていた。



「馬鹿な!」


 

 マルタが声を上げた。

 初弾として放たれた矢は鞭で叩き落とされる。

 それはいい。これまでもそうだったし、そういうつもりで放った矢のはずだから。

 しかし想像を超えた事態がここから引き起こされる。

 矢を叩き落として生じた無防備な角度をマルタの分身体は攻めた。

 だがその分身体を矢の対処に追われて対応できないはずの鞭が絡め取った。

 それを可能としたその鞭には、何か触手のようなものが生えていた。


 驚きはここから始まった。

 黒の鞭から生えた触手状のそれは、それが意思を持っているかのように分身体に纏わり付いた。

 鞭が絡まる程度ならば問題なくそのまま分身体は攻撃を継続しただろう。

 しかしそれに捕らわれた次の瞬間、分身体はぼろぼろと崩れ元の土の塊に戻ってしまう。

 そして追撃で放たれた炸裂弾も瞬時に形を変えるそれに阻まれ、女司祭にはダメージが通っていない。


 牽制射撃、分身体の強襲、そして最後の範囲攻撃である炸裂弾。

 最終的にはどのような形であっても炸裂弾が命中すれば攻撃は成功だった。

 だが分身体を消滅させた鞭が超高速で分裂、延長し蜘蛛の巣状になってクランヌを取り囲む。

 黒糸の防壁と形容できるそれにあたった炸裂弾は爆発するもその中の人物にダメージを与えることはできなかった。

 


「これであなたのターンは終わりかしら? じゃあ次はコチラね」



 攻撃の失敗を引きずるマルタではなかった。

 冷静さを維持し、何かを仕掛けようとするクランヌから目を離さない。

 その攻撃への準備が、彼女の初撃をかわすことを成功させた。



「くっ!」



 クランヌが鞭を突き出すような不自然な動作をした。

 普通は紐状の武器である鞭でそんな行動をしても攻撃にはなりえない。

 だが黒の鞭は硬い針のように硬化し、マルタ目掛けて一直線に伸び進んでいく。

 だけど流石はマルタだ。

 元々鞭が届かない距離で対峙していたのだから、何か遠距離攻撃が来るとふんでいたのだろう。

 身をかがめて横方向へローリングすることでそれを回避した。


 しかしそれにしても恐ろしい武器だ。

 あれは鞭と呼べる代物ではなく、自由自在に伸縮と分裂する生きた触手。

 マルタが回避したことで後ろの壁には小さな、しかし綺麗な穴が穿たれている。

 人の腕力で得られようもない攻撃力の証、くらえば致命傷だろう。



「なんなの、あれ……」

「私にも分かりません。あの禍々しい道具は何であるのか、何のためのものであるのか、一切。クランヌ、あなたは一体どうしてしまったというのか」



 鞭そのものが生物のようにぐにゃぐにゃと蠢き伸縮する。

 人の手によって繰り出される攻撃ならば、腕の振りやタメ動作で軌道や攻撃のタイミングを推測することができる。

 だがあのように自由自在に暴れまわる触手の暴走はそういった読み合いを無意味化させる。

 いかに回避に長けているマルタといえども、全ての攻撃を捌くことは無理だ。



「捕まえたわ。ふふふ」

「くっ! こんなもの!!」



 伸びたそれがマルタの足首に絡まる。

 片足の自由を奪われ尻餅をつく。彼の回避力は封じられた。

 それ自身から別の触手が生え始め、マルタを突き殺そうと狙いを定めている。

 それが分かっているから、マルタは手にしている短剣で鞭を切り離さそうと必死だ。

 しかし硬化することもできるそれは一向に切れる様子がなかった。



「少しだけ楽しめたわ。一人だけならもっと時間をかけてあげられるんだけど、あと二人残っているから。これでさよならね」

「マルタ!!」


 

 伸びた黒の線がいよいよマルタ目掛けて伸び進む。

 効果は薄いと分かっていながら、彼にできるのは腕を交差させて防御体制をとることだけだった。

 ダメージを受けても即座に回復できるように【ソウルブラスト】の照射体制は整っている。

 だけど壁に綺麗な穴をたやすく開けることができるあの一撃を、耐久力をあまり伸ばしていない彼が耐え切れるだろうか?

 即死してしまえばもはや回復どころじゃ済まなくなってしまう。

 実際は死にはしないが、残された私だけでは彼女は倒せない。

 順に私もやられ、そしてエッダーは死ぬ。



「強大な力が"今の"私の仲間に向けられている。私は教会の盾、この力は守るべき者達の防壁となるためにあるのだ」



 エッダーが小さく呟き、手を動かす。

 この動作を私は知っている。



 マルタ目掛けて加速した一撃は、魔法をかけられたように空中に静止した。

 いや違う。静止しているように見えるが伸びたそれは小さく振動している。

 そう、止まったのではなく止められているのだ。

 力によって抑えられている、そしてそれに抗おうと今もなお伸びようとしている。



「……エッダー。力を使えないレベルにまで痛めつけたはずなのに」



 目には見えないが、エッダーの力によってマルタを守るべく周囲に何らかの力が生じている。

 終始、余裕だった女司祭の表情が険しく変化する。

 鞭を操ろうとするも一向に動かないそれに焦りを感じ始めたのだろうか。

 



「退きなさい、クランヌ。かつての仲間である君に不意打ちを許してしまいましたが二度目はありません」

「そうはいかないわ。裏切り者を処分せよとの命を受けているのだから」

「そうですか。ならば仕方ありませんね」

「あなたに私を殺れるのかしら? あの優しいエッダーが私を?」 



 少しの間、静寂が当たりを包んだ。

 クランヌとエッダー、かつて仲間同士だった存在。

 私が知らないエッダーを彼女は知り、そして私が知らない彼女をエッダーは知っている。

 ただのゲームのNPCに入れ込み過ぎだと言われるかもしれない。

 けれど彼らには彼らなりの生きてきた軌跡があるのだ。



「私の知っているクランヌは死んだ。どんなに強く願ってもあの頃、あの時間、あの繋がりは戻らないのです。今は正しいと思うこと、自分の進むべき道を進むために"教会の盾"はあなたに力を向けましょう」

「裏切り者が何を言う。教会はお前じゃない。教会は我々だ!」

「ならば教会は捨てましょう。私は信仰の基本に立ち返る。苦しむ人々を救済するのに、組織という立派な入れ物はいらないのだから」



 エッダーは手をかざし、クランヌは鞭を突き出す。

 はたからみれば互いに静止しているように見えるが、実際はそれぞれの能力のせめぎ合いが起きている。

 空間が微かに震えている。おそらく力が拮抗しているのだ。

 今なら私とエッダーが加勢すれば優位に立てる。



「お前達、そこの二人を始末しろ。エッダーが動いたのだから様子見は終わりだ」

「ハッ!」



 私達の戦いを傍観していたクランヌの部下達が立ちはだかる。

 人数にして8、ローブのカラーから助司祭クラスの者達だ。

 必ずしも戦闘に優れた者に地位が与えられるわけではないだろうが、この場に引き連れてきているということはそっち向きの人間ということなのだろう。

 エッダーはクランヌとの対峙に全能力を注いでいるはず。

 だからこの8人を私とマルタで凌がなければならない。



「どうして、一人で来たのだ」

「今更なによ。あの家にジェニーとソロだけ残すわけにはいかないでしょ?」

「理解はする。だが、現実問題として戦力は必要だろう。アルアにとってクエストは重要ではないのか?」

「もっと大事なものを優先した、ただそれだけよ」

「……大事なものか。まあ、いい。ここで死んでスタート地点に戻されるわけにはいかん。敵の頭数を減らすぞ」

「分かってるわ。行くわよ!」



 敵は教会側の人間、どういった武器や能力で攻めてくるのか分からない。

 距離が開いているうちに仕掛けるべきだと判断した。

 サブマシンガンを乱射し、銃弾の雨を集団に浴びせる。

 ひとつのまとまりが弾けるように分裂し分かれていく。

 こちらへそのまま向かってくる、その先頭の人間は素手だった。



「教会の兵とドームの犬が一緒にいる。やはりエッダー様は我々を裏切ったのだ!」



 スピードを維持したまま拳を振り回す。

 ローブから覗いた腕は筋骨隆々、この男はファイターとしての能力を持っているのだろう。

 加速なのか身体強化なのかは分からないが、倒してしまえばどれも同じこと。



「素手だと思って甘くみるなよ。神の祝福を受けた我ら、ソルジャーには遅れはとらん!」

「その言葉、そのまま返すわ!」



 男が繰り出す体術は速かった。

 しかし速いといってもそれはリアルの格闘基準での話に過ぎない。

 ここはゲームの中であって私達プレイヤーの肉体は強化されている。



「はあっ!!」

「ぐっ……!?」



 肉体派の助司祭が繰り出すストレートに合わせてハイキックでカウンター。

 絶妙なタイミングで入った一撃は男の膝を折らせ地面を這わせる。

 きっとこいつは銃器を扱う近未来編プレイヤー、つまり対ソルジャーを意識するあまりまさか自身が得意とする体術で向かい撃たれるとは思っていなかったのだろう。



「"マイト(増力)"がやられたか。いいか、単体で動くな。敵は個体の能力は高いが数で我らが勝っているのだ。包囲するぞ」



 集団の中にまとめ役がいるのだろう。

 その声を聞くと助司祭達はこちらへの前進を止め、取り囲むようにじりじりと横方向へ広がっていく。

 私達の戦力を理解した上で無謀な突撃を諌め、数による優位性を維持しようとしている。

 数が多くても密集してくれるのならばやりやすい。

 しかし散開されてはこちらは狙いが絞れないが相手は人数の分だけ様々な角度で攻撃してくることになる。

 私が魔法使い型のスキル構築をしていればそうなる前に範囲魔法で殲滅できたかもしれないが、残念ながら私の対集団能力は高くない。



「”ウォール”(障壁)、防壁を展開せよ。"フレア(火炎)"と"アイス()"は攻撃開始」



 散開する敵にサブマシンガンとボウガンを放つ。

 だが助司祭それぞれの前方には司令塔の指示によって石壁が突如生み出される。

 防壁の形成によって回避行動を取る必要性がなくなれば、いよいよ攻撃がこちらへ降りかかる。

 炎の渦が火の粉を撒き散らしながら直進、そして別方向からは鋭い氷柱の雨が襲い掛かってくる。

 恐らくサイキック能力なのだろうが、実際のそれは中世編の魔法に限りなく近い。

 魔法とはいえ直線的な攻撃ならば避けられる。

 私もマルタも敵の初撃をなんなくかわす。

 だけど、このままだといけない。



「ちっ……。魔法は回避し続けられん! アルア、これで敵の視界を遮るから端の敵から片付けるぞ」

「分かったわ」



 マルタがいつぞや使用した煙幕弾を起爆させる。

 瞬時に辺りが煙に包まれ私達の姿は隠される。

 いくら直線的な攻撃は回避しやすいとは言っても、多方向から繰り出されればいつかは食らってしまう。

 それに魔法が弾丸や矢と違って怖いのは多彩な攻撃範囲。

 魔法の種類によっては攻撃の軌道が変化したり、雷のように視認しにくい上方からの攻撃もありうる。

 方向性だけの問題だけではなく、火の玉のような攻撃以外にも指定した空間に爆発を起す座標攻撃、広域に影響を及ぼす範囲攻撃だってある。

 煙で一時的に狙いを外させるのは悪い手ではない。

 だがいずれは範囲攻撃で無理やり当てられてしまうだろう。



「そうなる前に」

「は、速い!」



 煙が分散してしまう前に速攻で端の人間に詰め寄る。

 私が狙ったのは炎の攻撃をしたヤツだ。

 弾丸避けに発生させた石壁から回り込み、その姿を確認する。

 ローブを纏っているだけで手には武器が見当たらない。

 ならば遠慮することはない、近接格闘のエサになってもらう。


 膝蹴りを腹部にお見舞いすると敵はダメージに耐え切れずうずくまる。

 これで魔法を仕掛けるのに必要な集中力は削いだ。

 氷の一撃が飛んでこないことから、反対側はマルタが上手くやってくれたのだろう。

 最初に肉弾戦を仕掛けてきたヤツに加え魔法攻撃の二人を仕留めた。

 残るはあと5人だ。この調子で数を減らしていく。

 最大の敵の一人である司祭をエッダーが留めているのだ。

 脇役に時間を取られている場合じゃない。



「銃の女に短剣の男。共に速く、そして強い。能力が予測を越えている。」

「フレアとアイスは動けぬがまだ意識はあるようだな」

「ならば役に立ってもらおう」



 次の相手に向かおうとしたが敵も反応が早かった。

 仲間の戦線離脱を意に介さないのは慣れなのか分からないが、残りのうちの一人が強風を発生させ煙を吹き飛ばす。

 攻撃を回避し、二名を戦闘不能に追い込んだのだから煙幕は充分に役割を果たしてくれたがこちらの姿を遮るものはなくなってしまった。



「ウォールよ、最大出力で力を放出しろ」



 私の行く手を遮るようにすさまじい勢いで石壁が地面からそそり立つ。

 防御ではなく妨害の一手、そう思っていたがどうやらこの行動はその一歩先をいっていたらしい。

 発生した石壁の側面からさらに石壁が次々と登場し、私の前方を遮るように伸びていく。

 接近戦を完全に封じ込めるのが狙いか!?



「こんな壁ごときで!」



 威力重視型のスタンmk2に持ち替えて壁の一箇所を集中射撃する。

 様々な能力補正がかかったこの攻撃ならば石の壁程度なら穴を開けられる。

 射撃するのに充分な穴さえ開ければあとは残りの部分を防御壁に利用すればいい。

 同様のことを考えたのだろう、別の方向から聞きなれた爆発音が聞こえてくる。

 ボウガンの炸裂弾の音だ。


 短い時間だが同じ箇所に射撃し続けることで壁にヒビが生じ、そして向こう側を見渡せる程度の穴が開く。

 穴からは残りの5人の助司祭の姿が確認できた。

 この中の一人が壁の生成能力を持っている。

 それを倒せばこれ以上に邪魔な壁を作り出すことは防げるだろう。

 魔法の行使によって意識を集中させているであろう人間を探す。

 


「あいつか!? でも、何を……」



 狙うべき壁の操り手はすぐに見つかった。

 いや、見つけてしまったという方が私の気持ちをより正確に表現していると思う。

 その者は魔力を込めた手を宙にかざすという分かりやすいポーズを取っている。

 だけど同じローブを身に着けているヤツらの中で、それが特に目を引いてしまった理由は他にある。

 顔が、顔が真っ赤に染まっている。

 血の赤、赤の滴が顔から流れ落ちているのだ。

 まだ攻撃なんて仕掛けていないのに。


 額が割れて鮮血を流しているのに、苦悶の表情も浮かべずに術を行使し続ける。

 ホラーゲームをやり慣れている私だが、それに気をとられてしまった。

 我に返り壁に開けた穴から射撃を行おうと狙いをつけるも、再び壁が壁を覆うように発生していく。

 先ほどと同様に壁に弾丸を撃ち込んでいくが、壁の生成速度が壁の破壊速度を上回っている。



「ヤツら、俺達を閉じ込めるつもりだぞ!!」



 マルタの声ではっと周囲を見渡す。

 前方だけはなく、後方からも壁が生まれ出て増殖、弧を描きながら伸びていき前方の壁と連結する。

 360度、視界が石壁に埋まる。



「く、どうしろって言うのよ!!」



 射撃を試みるがやはり石壁の生成速度の方が速い。

 完全に壁によって閉じ込められた状態になってしまった。

 だが、石壁があることで敵もこちらへ攻撃を通すことができないはず。

 とすれば目的は時間稼ぎで、その間にクランヌの援護へ回りエッダーを処分するということなのだろうか?

 だがヤツらは私達を始末しろと彼女に命じられていたはず。

 とすれば壁を無視した座標攻撃か大気を操る術、たとえば冷気や空中への毒の散布で壁の中にだけ損害を与える手段がある可能が高い。


 気持ちが焦る。

 壁を抜け出すことも、無視して攻撃する術も私にはない。

 周囲は壁、上は天井、下はうずくまった助司祭が一人。

 相手が真っ当な集団ならこいつを人質に状況を打開できるかもしれないが、あの血塗れの顔をした者のことを考えるとそういう手段が通じる相手じゃないだろう。

 こいつをおかまいなしに攻撃を仕掛けてきてもおかしくない。


 打つ手が浮かばない。が、諦めるわけにはいかない。

 理由もトリガーも不明だが、NPCはある程度能動的に行動を起こしているように思われる。

 つまりシステム上は戦闘できないはずのエリアでも、彼らの意思と行動次第でそこが戦場にもなりうる。

 エッダーが死に教会という組織をどうにかできる存在を失えば、この世界に安全な場所なんて存在しえなくなる。

 だめだ。それだけは絶対にだめだ!


 スタンmk2だけでなくuniも取り出しての二挺射撃。

 連続射撃による熱によってuniのフレームが赤熱化し、周囲を赤くする。

 しかしそれほどまでに銃を酷使しても、壁は壊れることなく存在を保っている。

 だけど私には撃ち続けることしかできないのだ。

 撃つことを止めてしまえば守るべきものが全て壊れてしまう気がして。



「っ!?」



 なのに私は止めてしまった。

 ないはずの感触が私にやってきたから。

 それは私の足首を人の手が掴む感触。

 そう、うずくまっていた助司祭が、顔を赤に染めて足に手を食い込ませる。

 まるで地獄へ引きずろうとしているかのように。



「教会の奇跡、祝福が共にあらんことを」



 人間らしさを感じられない無表情な赤い顔。

 覚悟を決めて銃口をそれの頭に突きつける。

 だけど、引き金を引く音よりも速く、魔力のような力がそれから膨れあがるのを感じた。

 そしてそれ自身が強烈な光に包まれ始める。


 閃光を放つそれのせいで、視界は遮られ、私は引き金を引くことができなかったのだ。

 




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