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30、spear


「追ってくる気はないようね」



 ノディアンが拠点とするビルから大分離れたように思う。

 なるべく道と建物が入り組んでごちゃごちゃしている方へ私達は走った。

 プレイヤー、そしてNPCの気配が感じられない薄暗い場所。

 ところどころにガレキが寄せ集められた空き地が見受けられる。

 貧民エリアというのは東西問わず都市の発展のしわ寄せを引き受けさせられた場所なのかもしれない。

 どうでもいいことかもしれないけど、こうやって考えるくらいの落ち着きは取り戻した。



「手紙を渡す、それを達成できたはいいが協力は取り付けられなかったな」

「ええ。でも彼が何か知っているのは間違いないわ。積極的に関わってるかどうかは判断できないけれど」



 手紙を渡すことはできた。

 だが協力を取り付けること、並びに戦闘を回避することはできなかった。

 あんな状態ではあったが目的達成のみを考えれば戦わずに済むことは可能だっただろう。

 私達が異形の少女にこだわらずクリーチャーとして相手し、そして倒していればよかったのだから。

 

 彼女を救うことが出来るのか、手段があるのか、それは一切分からない。

 しかしジェニーの件から考えてもなんらかのアクションは取れるはずなのだ。

 あの少女には意思がある。

 たとえ倒すしか道がなかったにしても、その声だけは受け止めておきたい。

 そうでないと私が納得できないから。



「俺、睨み合うだけで何もできなかった」



 逃亡を開始して以降、終始無言だったタイガが口を開いた。

 この世界をゲームとして楽しんでいた彼が、今はうつむいている。

 本来味わう必要がない気持ちを、娯楽のはずだったこの場所で感じ取ってしまう。

 彼が体験した気持ち、それは強敵を倒せるかどうかといった強さの壁だけではない。

 勝負に勝てるかどうかで第三者の生死が変化するという言うなれば命の重み。

 

 まだ会って間もない彼のことを正確に把握しているわけじゃない。

 でもきっと、彼も私同様に"ただのクエストとNPCの死"とは割り切れなかったのだろう。

 だからあの場で、最初にノディアンに向かっていったのだ。



「そんな顔することないわよ。タイガが飛び込んでくれたから時間を稼ぐことができたんじゃない」

「でも……!」

「あのノディアンの動きを止めたのだ。それだけで充分過ぎる働きだったよ」



 正義感でもヒーロー願望でもない。

 ある女の子が残虐な行為の対象にされることをよしとしない、平和すぎるリアルを生きてきたことへの感覚のギャップ。

 理由は高尚なもんじゃない。唯一無二の信念なんかでもない。

 それでも少年の気迫と前進があの少女の命を救ったのだと私は思う。



「それにだ、落ち込む前にもう一仕事あるんだぞ。テンションを下げるのはその後にしてくれ」

「俺は、こんな気持ちじゃ……、クエストなんてやる気が」



 まあ、気持ちは分かる。

 私だってジェニー絡みのことでは心が落ち着かず乱れていたから。

 だけど私は私の欲求に従ってなんとか彼女を救うことができたのだ。

 異形の少女に関してもそれはきっと同じはず。

 結末は分からないにしてもベストを尽くせる状態であるべきだ。

 後悔しないためにね。

 


「タイガ、ちょっとこっち来なさい」

「何だよ? ってアルアさん、近いよ! そんなくっつかないで!」



 接近したタイガの背後を取り、鎧で防がれず肌が露出している首へ両腕を回す。



「落ち着いた?」

「落ち着けるわけねーじゃん!」

「まあいいわ。このまま聞いて」

「……分かった、分かったよ」



 やれやれといった顔をするマルタを気にせず、この体勢のままタイガに言葉を投げかける。



「ジェニーのこと、話したよね」

「うん。クエストを普通にやってると死んでしまう女の子のことだよね」

「そうよ。私が助けた、助けることに決めた女の子」


 

 私は言葉を続けた。

 説得じゃない、理屈でもない、私そのままの言葉を彼に伝える。



「彼女は生き延びることができた。クエストの結末っていうレールから外れてね。そして生き延びてくれたからこそ、ジェニーの温かさを感じることができたの。なんでもない、生きていると熱があって、体温があるってただそれだけのことなんだけどさ。でもその温度がね、私にはとても大事に思えたの」



 母の死と希薄すぎるリアルへの執着心。

 冷めていた私が再び熱を感じたのがあの子の存在。



「どうなるかなんて分からない。けどね、タイガのこだわりや気持ちは必要なものよ」

「アルアさん……」



 うつむきがちで気勢が削がれていたタイガの雰囲気が変わった気がした。

 首に回した手から感じ取る感触に、それを押し返そうとする意思を感じる。



「なんとなくしか分からないけど俺、やるよ。でも手がかりがないしどうすれば……」

「タイガ、お前も気配察知を習得しているだろう?」


 

 彼が一回うんと頷き、そしてはっとした顔でマルタの発言を待つ。



「あの少女、非戦闘時は察知できないが異形化している状態ならば察知できる。逃亡した方向、それに途中途切れたが血液の跡をたどってここまできているのだ」

「ということは……!」

「俺達は闇雲に逃げてたわけじゃないということだ。準備を怠るな」



 そう、私達はノディアン達と戦闘を避けるためだけにここまで逃げてきたわけではない。

 マルタは逃げながら走る方向をしきりに指示していた。

 何のためなのかは問わなくても分かる。

 あの少女を追う為だ。

 教会側との戦闘をなんとか乗り切り、結果として少女は命は落とさずに済んだが手負いの状態になった。

 彼女と接触を図るには弱っている今しかない。

 全快して再び教会の司祭を襲うことになればそれを再び食い止めることは難しい。

 私達はエッダーの使いという立場があったがために、ノディアン達と最初から正面衝突をせずに済んでいた。

 だが、二度目はないだろう。



「途中から異形化を解いたのか、気配が弱く場所が曖昧にしか察知できない」

「このエリアをしらみつぶしにあたるしかないわね」

「そうだな。しかし、アルア。今更なことだがあの少女を発見したとしてどうするのだ? ジェニーの件を考えればお前がどうしたいのかは分かる。だが俺達はディライフのことについてはほとんど分かっていない。……助けられる望みは薄いぞ」

「分かってるわ」



 タイガも理解しているのだろう、難しい顔をしながら【気配察知】で少女の居場所を探している。

 彼女を物理的、そして医学的にどうこうすることは不可能だ、と。

 私達は研究者でもなんでもないのだから。

 それはここがゲームだろうがそうでない何かだろうが変わらない。

 考えても考えても、解決策なんて浮かんでこない。

 緊張感を維持しながら辺り一体を探索する私達、だんだんと口数が減っていく。

 


「それでも」



 沈黙を破って次の言葉を切り出そうとする私に二人が向き直る。



「どんなことになっても私はあの子の言葉を聞かないといけない。そう思うの。たとえ私の手で終わらせないといけなくなったとしても」



 彼女には意思がある。

 最初に遭遇したときにしかけた【ソウルブラスト】をある程度耐えてしまえるほどの精神力がある。

 救えない、報われないかもしれない。

 だけど彼女の憎悪を含めた心の一切を、たとえ断片的であったとしても私は受け止めたい。

 塵のように細微かもしれないが、それが彼女と私自身への救いになる。

 体を治すことも、精神を穏やかにするために諭すこともできない私ができるただ一つのことだから。



「俺もやるよ。俺もあの子の声、聞いてみたいから。でも、それができないときは」



 タイガが背中に収めてある大剣をカチャリと鳴らした。

 彼も、最悪の事態がやってきてもそれを受け入れることに決めたのだろう。



「心が決まったようね。倒してしまうのは最終手段よ。なんとか押さえ込んで対話に持ち込みましょう」



 ふわふわとした不安のようなものが消えた気がした。

 迷いがなくなったことで前進する一歩一歩に力が宿っている。

 もし、最悪の場合になったらタイガはショックを受けると思う。

 それでもだ。それでも決めたことなのであればやっていける。


 しばらく進むと木々が目立つようになってきた。

 遠くには山が、それより手前には途中で作業を中断されたような工事現場とトンネルが見える。

 もともと人気の少ない場所だったが、住居らしい建物が見られなくなったことでさらにその印象は強まる。

 


「流石に山に入って探索するわけにはいかないわ。引き返して別の方向を当たってみましょう」

「クソっ! 俺ももっと早く気配察知を作動させとけば……!」



 逃げたエリアを絞ったとはいえ、フィールドはダンジョンではなく土地だ。

 行き止まりなんてないし明確な区切りがあるわけではない。

 気配を終えなくなった地点を中心に別方角で探す必要がある。

 そう思って立ち止まろうとした時だった。



「マルタさん!!」

「ああ、気配察知にひっかかったぞ。しかし何故急に……」

「考えてる場合じゃない。行きましょう!」

 


 【気配察知】ない私はマルタとタイガの後を追って走る。

 向かう先はこれまでの方向と同じ、遠くに見える工事現場だ。



「反応の大きさからしてボス級だ。……いやまて、もう一つ反応があるな」

「うん。大きい反応と小さい反応、二つある」

「ノディアン達が追って来てたっていうの!?」

「分からん。だが一人だけならば抑えられるはずだ。反応が小さいということはノディアンではなく、あの姉妹のどちらかだろう」



 私達は走った。

 せっかくのチャンスをこんなすぐにダメにするわけにはいかない。

 ノディアンではない、姉妹のどちらかならば止められる。

 

 それにしてもいったいどのルートで追ってきたのだろうか。

 私達よりも早く察知できるほどの探知能力を持っているというの?

 足が早そうなのは剣の少女のリッカだったけれども……。


 工事現場が段々近くなってくる。

 人影はないが、しかし音はしていた。

 ここではなくもう少しだけ向こうのトンネルから、それは響いている。

 武器と武器がぶつかる音、間違いなく戦闘音だ。


 ほったらかしの重機を通り抜けるとトルネルはもう目の前にある。

 もうすぐ、もうすぐだ。

 私達の駆ける足音がトンネルに響きはじめる。

 だが、断続的に響いていた音が止んでいる。


 まだ陽が暮れていない午後の時間、トンネルの入り口から入る光がトンネルの少し先を照らしていた。

 そこに見えるのは血溜まりを作って地にうつぶせになっている少女と、槍を持った見慣れない少女。


 静けさに反比例して私の心臓の鼓動はより大きな振動を刻んでいる。 



「その子から離れなさい!!」



 右腕だけに構えた機関銃の連続音がトンネル内に騒がしく響く。

 サブマシンガンの銃口を槍の少女に向け、反応を待たずにトリガーを引いた。

 動けなくなっていた彼女を今にもその手にした槍で貫こうとしていたからだ。

 弾道が見切られていたのか、槍の少女は斜め後方に飛び退いた。

 

 差し込む光で分かる彼女のシルエット。

 トンネルに入り込む風が槍の少女の衣服をたなびかせた。

 リッカの動きやすさを重視し、カットされたローブよりはそれは長めで。

 カーティナのダボダボとした魔術師のようなゆったりめのローブよりは短めで。

 共通なのは教会に属することを示す刺繍だけだ。

 本来純白であるはずのそれは赤の吹きつけを施してあるように猟奇的な鮮血色。

 

 

「なんだあ。三人も一斉にくるもんだから焦っちゃったけど、ノディアン達じゃないの」



 私の先制攻撃を全く意にしていない、とでも言いたげな言葉の抑揚。

 ふんわりとしたシャギーカットと幼さを感じさせる顔のパーツが可愛らしくマッチしている。

 冷静に観察したいわけじゃないけど、少女らしい雰囲気と残虐性に彩られたローブのギャップが目についてしまう。



「お前はノディアンの従者か?」

「ジューシャ? よくわかんないけどね、レノはノディアンやお姉ちゃん、リッカちゃんと一緒に暮らしてるよ」



 リッカとカーティナの他にもう一人いたのか。

 そういえば、何のことかは分からないが担当をさぼって外に出てしまったとかなんとか言ってた。

 となるとノディアンの指令というよりは偶然鉢合わせてしまったということだろう。 



「レノね。見張り番するの飽きちゃったの。だからお外にでて化け物を退治してたの」

「そんなことは知らないわ。見逃してあげるからここから去りなさい」



 司祭クラスでなければ三人の私達で対応できる。

 ノディアン達と交戦はしたけれど一時的な決裂だと私は考えている。

 だから敵として命を奪う必要はない。

 そうしてしまえば彼らとの関係は明確に敵味方へと線引きされてしまう。


 しかし私の言葉は目の前の槍の少女には届かなかったようだ。

 外見以上に中身が幼いのだろう、眉を吊り上げて怒っているのが分かる。

 リッカやカーティナと違い、状況を読んで行動するタイプじゃないらしい。



「いやよ! このまま帰ったらぜえったいカーティナお姉ちゃんに当番すっぽかしたこと怒られるもん! それにこの化け物はレノがみつけたの。私の獲物なんだから!」


 

 ジェニーより年上のくせに、ずいぶん聞き分けがない子ね。

 レノというこの少女、恐らくノディアンが口にしたレノールのことだ。

 ……わかったわ。こういう子にお灸を据えるのも、ジェニーやあなたよりも年上の私の役目。


 対峙する少女への視線を少しずらして、じっとして動かない異形の少女の方へ目を向ける。

 このレノールという少女に応戦したのだろう、裂傷がところどころに見受けられる。

 実験によってどのくらいの耐久力を得られたのかは分からない。

 でもかすかに呼吸を繰り返すだけのこの少女の生命が消えかかっていることは確かだ。

 なんらかの処置を施さなければ、おそらく死ぬ。


 

「マルタ、その女の子の保護を。タイガはこれを使って治療を」



 中世編でこしらえた回復ポーションを複数、タイガのほうへ放り投げた。

 


「俺もやるって言ったじゃないか! 戦うよ!」

「今重要なのは勝つことじゃない、守ることよ。その子の命が消えかけてるわ。タイガ、分かるでしょ?」

「……分かった。やってみる!」



 三人でやれば勝てる。

 だがレノールを撃退させても少女が死んでしまえば意味がない。

 この少女の命こそ、私達がエッダーの忠告を破りノディアンと交戦してまで守りたかったものなのだ。



「んー、じゃあ先にあなた達をやっちゃおうかな。レノの邪魔をするんだから、きっとノディアンを傷つけようとする敵に決まってるよね!」



 私が彼女へ銃口を向けると同様、レノールは槍の先端を私の顔に掲げた。

 大丈夫だ、一人でもやれる。

 手負いとはいえ異形の少女を追い詰めるのだから力はあるだろう。

 だけど扱う武器が槍だけなのであればやりやすい。

 いかな剣よりリーチが長くとも、銃の優位性は変わらない。

 防御に関しても強固な鎧を着ているわけでもない相手だ。

 武器相性はこちらに分がある。


 仲間より一歩前に出ると同時、レノールが前傾姿勢でゆらっと向かってくるのが分かった。

 銃を前にして臆さないその根拠は分からないが、やはり攻撃手段は近接戦闘なのだろう。

 彼女が地面を強く踏みしめようとする瞬間に合わせ、サブマシンガンの銃弾をばらまいた。



「ちょっと、危ないじゃないの!」



 槍の少女は踏み込みを中断、後方へ宙返りをしながら距離を取った。

 そしてふたたび、ゆらゆらとまるでトンネルの闇に溶け込むように緩慢な動作を再開する。

 ダッシュで接近というよりは緩慢な動きなまま近づき、状況を見てスピードを上げそのまま槍で一突きするという戦術。

 彼女の動きから私はそう判断する。

 ラージウッドの親友、クーラとは違った槍の戦闘スタイルだ。

 クーラが槍の加速スキルを使って速度で圧倒、そのまま連撃を撃ってダメージを稼ぐのに対し、レノールは隙を誘いながらの急所への奇襲。

 彼の戦い方を見ていたから槍の対処法はある程度把握しているつもりだったが、同じ槍でも取れる戦法には差異がある。


 しかし槍は槍だ。

 武器そのもののリーチは増減させることができない。

 銃器持ちがやることはただ一つ、懐に敵を飛び込ませないということのみ。



「もうっ、レノばっかり追いかけるんじゃつまんないじゃん!」

「鬼ごっこをやるつもりはないわよ。飽きたのならお家に帰ってちょうだい」



 彼女がどんな体勢で、どんな構えをとろうがそこに弾をばらまいていく。

 相手の出方を窺って奇襲する戦闘スタイルは私には通用しないわ。

 何かたくらんでいるのなら、それを実行する意図を撃ち抜く。


 トンネルに響くのはサブマシンガンの銃声のみ。

 そのことがこの戦闘を制しているのがどちらであるのかをはっきりと示していた。



「あーもう! あんたなんか嫌いよ! レノがやりたいこと全然させてくれないし」

「遊びの相手なら他を当たってちょうだい。子供とじゃれあってるほどヒマじゃないの」

「その言い方が気に入らないのよ! レノを子供扱いしてっ!!」



 煽っているつもりじゃないけど、少女の機嫌が悪くなっているのが分かる。

 個人ごとの性質にもよるけど、こういったタイプの相手が怒りに囚われれば大体は行動が雑になるものだ。

 言葉で言って聞かないのなら、やはりちょっとケガをしてもらうしかないわね。

 

 レノールは不機嫌ながらも、ゆらゆらとした動きを継続している。

 しかしその動きにも変化が見えていた。

 足で踏みしめる力と姿勢の傾き加減から察するに、抑えきれずに強襲を狙っているのが分かる。

 そしてそのタイミングは……。


 カチッと何かが詰まるような、気の抜ける音が銃弾の連続音を遮った。

 それはサブマシンガンの決して長くはないリロードタイムを知らせる音。

 ゾンビ相手ならばこのくらいの時間は問題ない。

 こちらに噛み付く前にリロードは完了し、次の瞬間には蜂の巣になっているのだから。


 だけど槍の少女は違う。

 ゆらゆらとかわしながら、攻撃のタイミングを潰されながらも数少ない反撃のチャンスを窺っていた。

 これまでの緩慢な動きの逆をいく、直線的かつ弾丸のような速さで間合いを詰めてくる。

 ライフルやショットガンに比べて僅かなリロード時間だが、それでも少女には充分だったのだ。



「アルア!!」



 マルタが危機を察して叫ぶ。

 大丈夫、大丈夫よ。

 ここまで想定していたのだから。

 じゃなければいつも二挺撃ちしている私が右腕だけにサブマシンガンを持っているのは不自然でしょ?



「かかったわね」

「えっ!?」



 急加速する少女に、私は左手へ新たに装備したサブマシンガンを撃ち込む。

 サブマシンガンをわざわざ二挺用意する理由。

 それは単に複数対象を同時攻撃するという意図だけではない。

 わずかだが存在するリロードタイムという隙、その時間を埋めるための私の戦術なのだ。

 わざと片手装備をし、攻撃をしかけることで敵の少女は私の攻撃リズムが頭に刻み込まれた。

 どのくらい射撃ができて、どのくらいリロード時間を必要とするのか。


 彼女は言動は幼いが馬鹿ではない。

 相手の銃の装弾数、リロードタイムを計算して自身が取れる最善の行動をとったのだ。

 だけど戦闘は予想外のことが起こるもの。

 それを私達はゲームの中で体験してきている。



「きゃあ!?」


 

 腹部に弾丸を命中させ、動きが止まっているところに接近し蹴りをお見舞いする。

 スキルで強化された肉体、そこから繰り出される蹴りによってレノールは大きく後方へ吹き飛んだ。

 少女を蹴っていじめる趣味は私にはないけど、今はそういうことに囚われる余裕がない。

 今回は策にハマってくれた。でも、次はない。



「アルアさん、やったのか!?」

「……まだよ。まったくこの世界の線引きが分からなくなってくるわね。ここは銃とゾンビの世界じゃなかったのかしら?」



 吹き飛ばされた少女の付近に本来なければならないものがなかった。

 それは血液。

 鎧を着込んでもいない少女が銃撃をくらえば普通は血液を流すものだ。

 そう、命が尽きようとしている異形の少女のように。

 しかし槍の少女は血を流すことなく起き上がり始めている。

 

 赤黒く染められているはずの腹部には闇色とでもいうべきか、深い黒色の塊がまるで少女を守るように覆っていた。



「司祭もたいがい無茶苦茶だけど、あなた達姉妹も簡単にはいかないわね」



 返る言葉はなくトンネルには私の言葉だけが響いた。

 警戒を解かないまま二挺のサブマシンガンのグリップを力強く握り締める。

 まだ、戦いは終わっていない。



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