29、breakdown
戦闘音を捉えながら、ノディアン達の拠点ビルを駆け下りる。
二階まで聞こえたきた金属音は変わらずなり続ける。
ノディアンが表情を変えた地下からの音も気になるけど今はそれどころではなかった。
「くっ、化け物のくせにっ!」
片手剣で切りつけるリッカと、それを受け逆に押し返そうとする教会のローブを纏ったクリーチャー。
戦闘は継続中でその激しかったであろうやりとりが、地面や他の建物が穿たれている様子から察せられる。
「こんな相手、このままじゃ無理ね……」
とうとう華奢な体つきのリッカの剣が押し返され、クリーチャーが異形の手で追撃をしかける。
その攻撃の恐ろしさ、周囲の建物や地面を穿つ程だ。
直撃すれば即死であろう腕の一撃を受けることなく華麗なステップで回避する。
体つきや装備、片手剣という武器種、そして身のこなし。
それらから分かることはこの少女はパワーで攻めるタイプじゃないということ。
腕力ではなく器用さを持って敵の急所を攻めるか、あるいは速さで圧倒して手数を稼ぐスタイルなのだ。
それに対して相手は圧倒的なパワー、そしてその脅威度を上昇させる速度を持って少女を追い立てる。
プレイヤーに例えるならば、高い威力を誇る大剣や斧を全力で振るっているという状態。
それも機動性の減少という代償を全く払わずに、だ。
これはめちゃくちゃな状態だ。
力と速度、そして器用さ。
器用さはある意味で技と言い換えても良いかもしれないが、これら三点は基本的にトレードオフの関係にある。
力に特化しすぎれば速度と技は鈍るし、速度に特化しすぎれば力と技は火力としての意味をなさない。
銃器や弓は腕力が不必要なために例外的だが、いずれにしてもプレイヤーはその能力の配分から逃れることはできないのだ。
プレイヤーの規格を越えているクリーチャーと、そして私達とほとんど違いがないように思えるNPCのリッカ。
パワー、いや速度も若干だが負けている状態で器用さのみが多少秀でていても彼女が不利な状況には変わりない。
「アルアさん、助けないの!?」
「どっちを?」
「え、どっちって。そ、それは女の子の方を!」
「……だから、どっちの女の子をって聞いてるのよ」
サブマシンガンを二挺、既に両手持ちでスタンバイしたままそう応えた。
声のトーンが落ちているのが自分でも分かる。
トリガーは、引けない。
リッカを攻め立てるクリーチャーは一瞬こちらを見たが、その殺意の対象を変えることなく攻撃を続ける。
ローブを纏ってはいるものの、攻撃の仕方や異形のあり方でその化け物がだれであるのかは分かっている。
そう、この襲撃者は"第16被験体"と呼ばれる人体実験の生き残り。
異形の体から離れられない、悲痛な少女。
「まずい状況だぞ。……手出しができん」
駆けつけたはいい。だけど状況は厳しい。
プレイヤーとしての立場ならリッカを援護しクリーチャーからの攻撃を止めないといけない。
そうなればいかに異形の少女といえどもこれ以上暴れることができなくなる。
リッカに加え私達三人、それにカーティナとノディアンが加われば彼女の敗北は確定だ。
だけど私達は理解している。
あの異形の少女は理不尽な実験によってまともな体を失った、教会の被害者だということを。
復讐のための殺戮を肯定はしないけど、彼女にも叫ぶべき言い分があるはずだ。
彼女にとっての敗北、それはプレイヤーとは違い死そのものを意味する。
少女の叫びを理解せずに、ただこのまま殺してしまっていいものではないのだと私の心がざわめく。
結局のところリッカにも、ましてや異形の少女にも加勢ができない。
それに異形の少女に手を貸したからといって彼女がこちらを攻撃しない保障もない。
少女の死か、それともノディアンや姉妹との対決か。
それが分かっているから私もマルタも、そして一番駆け出したいはずのタイガも一歩を踏み出すことができずにいる。
「見ているだけ、か。教会の人間でありながら、お前達もドームの連中と変わらないのだな!」
劣勢のリッカが選択を決めかねる私達に言葉を浴びせる。
その言葉を返すことは私にはできない。
「最初からただのお使いには期待していない。出し惜しみしてたけどそれはもうやめる」
繰り出される振り下ろし攻撃を捌き、カウンターもせず逆に大きく距離を取り始めるリッカ。
剣を武器とする戦士が、まるで弓でも撃たんとするような位置まで下がる意味。
片手剣の少女と異形の少女、どちらも接近してからが戦いの始まりなのに、何故?
その不可解な行動を警戒したのか、異形の少女も一旦動きを止めた。
「化け物相手に遅れをとったとなれば、ノディアン司祭に笑われてしまう。だから、……全力で決める!」
リッカが剣を鞘にでも収めるかのように、切先を左腰後方へ誘導する。
相手に対して半身の姿勢をとりながら重心を低くし、静止。
吐いたセリフとは裏腹の、静かな闘気。
「……!」
剣の少女の静けさと対照的な怒涛の勢いで、第16被験体が突撃を始めた。
相手の出方が分からないのに無謀な突撃にも思えるがその力は規格外。
生半可な対応じゃ技ごと捻じ伏せられる、それだけの力を持っているのだ。
突撃の少女に呼応して、いよいよ静止の少女が動きを開始した。
「っ! あれは!!」
思わず声を上げてしまった。
静止状態にも関わらず、凄まじい速さで剣を斜め上方に切り上げる。
だけどただの居合いのようなものならば私もこれほど驚きはしない。
驚きの理由は別にある。
「!?」
異形の少女は纏っていたローブを切り裂かれながら後方へ吹き飛ぶ。
力で劣る剣の少女が、向かってくる相手を一撃で地につけた。
切り裂かれたローブからのぞくもの、やはりそれは人間の裸なんかじゃない。
目に映るのは異常な形状と色をした皮膚の重なり。
硬度を上昇させたのだろうか。
攻撃受けた箇所の皮膚が波うち、一撃を受けて損傷した部分に覆いかぶさろうとしている。
やはて少女は立ち上がり、再びぼろぼろになったローブを放り投げる。
今となっては唯一、人間らしさを残している女の子の顔がさらけ出された。
そこには憎しみに埋め尽くされた攻撃性だけではなく、自身が手品のように吹き飛ばされたことへの警戒色もにじみ出ている。
「お、お前! まだ人の姿を留めているのか! 表情も……あるな。しかし、でも」
静かなにらみ合いが始まった。
少女二人に加えて私。
恐らくそれぞれが別の理由で困惑しているのだろう。
リッカは異形の化け物がまだ人のままの美しい顔をしていることに。
異形の少女は充分に速度を乗せた突撃が、ただの剣一本の一つの動作で跳ね返されてしまったことに。
「おい、アルア! 今のリッカの動きは」
「分かってるわ。あれは片手剣スキルよ。ラージウッドに付き合って訓練してたんだから見間違えるはずがない」
マルタの驚きは私の驚きでもある。そう、これまでに経験のない事態だ。
片手剣を振りぬいて"衝撃波"を発生させる一連の攻撃、それは片手剣スキルの【パワーストライク】に他ならない。
NPCキャラであるはずのリッカが"スキル"を使用したのだ。
単なる切り上げじゃ吹き飛ばせない相手でも、スキルの恩恵によって得られる攻撃力がそれを可能にすることを私達プレイヤーは理解している。
「どうしたあ、リッカ? 必殺技を出すなんざ、ずいぶん手間取ってんな」
「ノディアン……!」
本格的にまずい状況だ。
分かってはいたがノディアン、それに付き従うようにカーティナまでもビルの外で出てきた。
教会の司祭、そして"教会の槍"と自らを呼ぶ彼の力は不明だ。
だが司祭という肩書きを持つ人間、それは底知れぬ戦闘力を持つということだけは分かっている。
「ん、あの化け物は……。自分の意思がまだあるってのか?」
「そのようでございます。どういたしましょうか。いつものようにされますか?それとも処分しますか?」
カーティナが冷酷な言葉を吐き出しながら、ゆったりめな自身のローブの袖をめくる。
白く細い腕には何か金属でできたブレスレットが装着されている。
「姉さん。この場はまかせてくれませんか?」
「リッカ、それを決めるのは私ではないわ」
はっとしたように、剣の少女はノディアンのほうへ向き直った。
どのような関係性がこの姉妹と彼の間にあるのかわからないが、決定権は司祭であるノディアンが握っているのだろう。
「だめだ、リッカ。タイムオーバーだ。時間は充分にあったはずだろ?」
「……はい」
「それに目の前のアレは、いつものようにゃいかねえだろう。俺がやる」
とうとうノディアンが戦闘に加わることになった。
これまでの司祭同様、銃どころか鈍器や刃物さえ身につけていない。
しかし立ち方だけはこれまでと違う。
若干かかとを浮かして上半身でゆらとゆらと、しかし一定の決まったリズムを刻む。
何らかの格闘技をやっているような、そういう構えだ。
「あんたらは何してたんだ?」
「ノディアン司祭、そいつらは私に全く加勢することもなく傍観していました」
「ほう? 戦いに割って入れない程、弱くはねえだろうにな」
注目が私達にも注がれる。
一般人でもただの信徒でもない、見るからに戦闘力のある人間が戦いに加勢していなかった。
その事実は教会側の人間がこちらを怪しむには充分すぎる情報だ。
「まあいい。お客さんがたはそこで見物でもしときな。それじゃあ、いくぜ!」
そう言って彼は土を蹴り、高速で敵との距離を詰める。
とうとうノディアンと第16被験体と呼ばれた少女の戦いが始まってしまった。
少女はこれまでと同様に肥大化、そして硬質化させた腕を恐ろしい速度で振り回す。
対してノディアンはこれまでの司祭とは異質で少女の攻撃に応えるかの如く、肉弾戦を繰り広げている。
少女の攻撃は寸でのところで回避し流される。
一方ノディアンの攻撃、つまり突きや蹴りは硬質化した少女の皮膚には通用していない。
「アルアさん、このままいけばなんとかなるかも!」
タイガが緊張というよりは、活路を何か見出したといわんばかりの瞳で私に訴えかける。
彼の思惑は分かっている。
少女とノディアンがこのまま互いに決定打を与えなければそれぞれが体力を浪費していく。
体力が尽きかけるその隙を狙えば無傷の私達ならこの場所を制することができるかもしれない。
そんな希望を、残酷な運命を背負った少女を生きながらえさせるために彼は抱いている。
だけど私はタイガに答えることなんてできない。
おそらくマルタもそうだろう。
教会の司祭という肩書き、そんなに甘いもんじゃないのは身をもって知っているのだから。
「お前、やるなあ。どうだ、少し落ち着いて話でもしねえか?」
少女の攻撃を体捌きで流し、そのまま腕をとって密着するノディアン。
腕をとられ密着された状態、それでは腕による攻撃は有効打となりえない。
恐らく彼は意図的にこの体勢へ持ち込んだ。
となるとどういう意図があって話をしようと持ちかけているのか。
少女の憎しみは言葉なんかで止まるほどぬるくはないはずだ。
言葉の主が教会の、ましてや司祭であるのならば……。
「……殺す。教会の人間は全て殺す!!」
凶悪な鈍器と化す腕、その純粋な破壊力は驚異的だがそれは異形化という力の一面でしかない。
棍棒状の抑えられた腕の先端がぐねぐねと三又に別れ、触手のようにその先端がノディアンを狙った。
「ノディアン様!」
「ノディアン司祭!」
姉妹が揃って声を上げて彼の名を呼ぶ。
異形化、そして変形した腕の先端がノディアンの肉体を捕らえ、体に突き刺さる。
その場所からは赤黒いモノが流れ、彼のローブにシミと作り染めていく。
「心配すんな、大丈夫だ。傷は後でカーティナに任せるぞ」
体に凶器と化した触手を突っ込まれながらも、彼は平然としている。
プレイヤーではない彼ら。相当の痛みが全身を駆け巡ってるはずなのに。
「それよりも、だ。お嬢ちゃん、あんたはせっかくこちらが対話を持ちかけたのにそれを聞きいれちゃあくれない」
何、これは……。
【気配察知】を習得していないはずの私だが、何か鋭利な刃物を向けられたような、そんなイヤな感触が頭をよぎる。
感触だけじゃない。エッダーにも感じたような力を、あのノディアンの目からも感じられる。
「ちょっとばかしあんたは暴れすぎたんだよ。しばらくじっとしてもらうぜ?」
ノディアンの目が一瞬光ったように感じた。
しかし次の瞬間にはそんな情報は意識の外に流れていく。
もっと鮮やかで残酷な、目を奪う光景がこの場所に起きている。
「あ、ああ……。アアアアアアアア!!」
雄叫びではない、悲鳴に近い叫びを少女があげた。
変形してもはや腕の原型が分かりにくくなった腕。
その肘のような箇所からノディアンと同じ色の液体が噴出する。
想像を絶する痛みなのだろう、これまでに聞いたことがない人の苦痛による叫び。
突き刺していた腕はほどかれ、痛みにのたうち苦しんで地面を這いずっている。
体は化け物と化してもその顔は少女のまま。
目を背けたくなる暴力のワンシーンが、目の前にある。
「貫通能力、か。めちゃくちゃなことをする」
「マルタは見えたの!?」
「ほんの僅かだが……。光線のような力の塊があの子の腕を通り過ぎているようだった」
苦しみもがいている少女の腕から流れる血液。
その出血元には機械でやったかのようなきれいな円の空洞が確かに生まれていた。
「もう片方の腕もやっておくか」
ノディアンがこともなげにそう言い放つ。
今苦しんで地面を這いずっている少女にもう一度あの攻撃をしかけようというの?
私達だって何千、いやそれ以上のモンスターやゾンビを倒してきた。
でもそれはあくまで人外であったという点、なによりここがゲームの世界だとわかっていたからだ。
しかし、NPCでありこっちの住民であるノディアン達はそうじゃない。
彼らにとって命を剥奪することは経験であり日常である。
やらなければやられる。リセットやログアウトができない世界。
ノディアンの目に、再び光と力の波動を感じた。
宣言に従ってもう一撃やるのだろう。
だめだ、これ以上は静観できない。
タイガと同様、あわよくば漁夫の利を狙うことをほんの少し考えていたがあまりにも圧倒的すぎる。
出て行くならいましかない。
「うわあああああ!!」
「タイガ!!」
ノディアンが掌を少女にかざしたとき、とうとう意を決したのか、それとも抑えきれなくなったのか。
刀身を発光させながら大剣の戦士が司祭という強大な敵に切りかかった。
【ステップ】による速度、武器の重量、そしておそらくはスキルを発動させたのだろう凄まじい勢いの一太刀が繰り出される。
とはいえ素早い異形の少女とやりあっていたノディアンだ、剣筋を見切って回避された。
元いた場所にはタイガの一撃で大穴が開いている。
あたりはしなかったが、ノディアンの攻撃を中断させることはできたようだ。
「ガキが、何のつもりだ? 教会の人間に手を出す意味が分かってんだろうなあ?」
「うるさい! 教会だとかドームだとか関係ないんだ。俺はこの子を助ける!」
「そうか……。じゃあまずはてめえからだ!」
ノディアンに対峙する。
とうとう避けるべきことが現実となってしまった。
だけどこうなることはなんとなく予感していた。
あの少女の正体を私達が知っていること、そしてタイガが少女に執着していること。
この結果は必然だったのだろう。
「マルタ、やるわよ!」
「ああ、準備はできている」
タイガ一人で司祭に勝てるはずがない。
三人でも難しいと思える相手だ。
しかし、時間を稼ぐだけならできなくはないはずだ。
エッダーは空間の硬質化、モリスティーニは不死身といった攻撃を無意味にする手段を持っていた。
しかし今までのやりとりを見るに、ノディアンにはそれがない。
驚異的なまでに身体能力は高いものの、そこには限界がある。
銃弾をばらまけば回避するしかないはず。
弾丸はセットしてあるのだ。
今まで引けなかったトリガーを、覚悟を決めて引く。
「させませんわよ」
カーティナの声が後方から聞こえた。
存在を忘れていたわけじゃなかったが、行動が速すぎる。
ノディアンとタイガに気を取られている隙に後ろをとられたか……。
「く、動けない。あなたの力なの?」
「そうですわ。お客様のままでしたらよかったのに。こともあろうにノディアン様に銃口を向けたのですもの。……殺すしかないでしょう?」
なんらかの魔法だろうか。
近未来編では経験するはずのない類の攻撃を受け、私は全身の自由を奪われている。
両手と両足に何10キロもあるような重りをつけられた感触、膝は力なく地につき手は情けなく垂れ下がる。
なんとか首を動かし振り返ればカーティナの腕輪が怪しいオーラを発していた。
状態異常魔法か。
アイテムで回復させるには隙を作らなくてはいけない。
マルタに援護してもらってタイミングを……。
そうだ、マルタはどうしてる?
金属と金属がぶつかる音が響いた。
その音で、彼がどういう状態であるのか把握してしまう。
そうか、彼はリッカと交戦中なのか。
「ノディアン司祭の邪魔はさせない!」
「……一撃は軽い。だが手数が凄まじい。連撃タイプか」
短剣と片手剣の応酬が始まっていた。
怒涛の連続攻撃にボウガンは封じられているが剣の勝負そのものは拮抗している。
この状態ではマルタの援護は期待できないだろう。
「お前達、そいつらを殺すなよ!」
「……ノディアン様がそうおっしゃるのなら」
「ったく。レノールがいればこのガキの相手させるんだがな」
素手と大剣。奇妙な組み合わせ。
だが気迫で押しているのは素手のノディアンだ。
武器の有無より個人レベルの総合力が勝負を決める、ここはそういう世界。
今はまだにらみ合っているが、動き始めればタイガは確実にやられる。
……仕方がない。やるしかないだろう。
どこまで通用するかわからない。加減もできないかもしれない。
だけどこのままじゃ私達三人は負ける。
それだけならいい。プレイヤーは死なずに初期地点に転送されるだけだ。
だけど転送されればあの少女は殺される。
何かを守るなら、その代償を払わないといけないときがある。
その覚悟を、今ここで。
「あらお嬢さん、どうかなさったのかしら? 怖い目をして」
私の力の気配を感じとったか。
「じっとしててくださいましね? でないとその綺麗なお目目を破裂させないといけなくなっちゃいますから」
だがカーティナは私のスキルそのものは把握していない。
「言葉が分からないのかしら? それならばやはりお仕置きしてご理解いただく必要がありますわね」
彼女に恨みはない。素性も知らない。
悪いとは思う。だけど、私は決めたんだ。
「それでは宣言通りまずは右目を……!? な、何なの、この熱気」
心のスクリーンに憎悪という名の炎のイメージを。
そこでできあがった映像を、カーティナの精神に焼き付けるのだ。
「まさか、魔法!? そんなっ!! ああ、熱い!!」
カーティナが炎に身を包まれ身もだえしている。
【ソウルブラスト】を発動させた。
たとえ手足が封じられていても意識が正常なら仕掛けられる。
現状で唯一、私ができる攻撃だ。
実際に着火しているわけじゃないが私の投射するイメージに耐えられなければ精神が焼きつき、やがて肉体もその精神を追いかける。
「カーティナ姉さ……! くっ後ろからとは!」
「姉に気を取られたか。短剣使いに背中を向けるとはあってはならないことだ」
マルタのスキル攻撃がリッカに命中した。
防御力を犠牲に得た攻撃力だ。
短剣はゾンビのような大群を相手にするのは不向きだが、こうした対人戦では有力な武器種類。
対策を考えておかなければ致命的な一撃がとんでくる。
ましてや背中を向けるなどの隙をさらせば、いかに技量が優れていても暗殺者の刃をかわすことなどできない。
背中を斬られ動きが鈍っている。
切っ先だけはこちらに向けて戦意を維持しているが勝負は決している。
「マルタ、魔法か何かで煙幕出せないの!? ここを抜けるのは今しかないわ!」
「ああ。MPを温存したくてずっと持っていたモノがある。こんなところで役に立つとはな!」
そう言いながら手榴弾のようなものをマルタが投擲する。
近未来編だけで手に入るグレネード系の補助武器だ。
投げられたそれは爆発はしないが、周囲に煙が立ちのぼりはじめた。
不思議と咳き込んだり不快感のようなものはないが、とにかく勢いが凄く視界が完全にシャットアウトされている。
「本来はステータス上昇の煙を出すアイテムらしいが、視界を遮ると不評でな。だがこんな使い方もできるということだ」
「説明はいいわよ! タイガ、今のうちよ!そこから離れなさい」
タイガは大剣を構えたまま動こうとはしない。
「でもあの子が!」
「冷静になれ!【気配察知】を働かせるんだ。あの少女は既に逃げている」
「!!」
マルタに言われ意識を働かせて察知したのだろう。
異形の少女はこの煙幕の騒動に乗じて逃亡していた。
それが分かれば私達三人、だれひとりこの場に留まる理由がない。
カーティナとリッカは抑えたがノディアンまでをやれる気がしないのはみんなも同じはず。
やはり司祭と戦うのはまだ早い、ということなのだろう。
すっきりしない戦闘続きだが、なんとか最悪の事態を回避することはできた。
今はただとにかく逃走に徹するのだ。
追ってくる気配はなかったが、それでも私達は全力でこの荒んだフィールドを駆け抜けていた。




