25、feeling of wrongness
「ちっくしょ~! なんで当たらないんだよお!!」
地に突き刺した大剣にのしかかり肩で息をするタイガ。
手にしていた短剣を収めながらその少年の方へ歩み寄るのはマルタだ。
「武器の性質上、仕方がないかもしれんが……。やりたいことが丸分かりだ」
朝から狩りをし、休憩をとることになったものの昼食をとるにはまだ早い時間だった。
微妙な時間だけど狩を続行するかどうか問おうとしたとき、タイガから対人戦練習の申し込みがあったのだ。
それならばこの微妙な時間を潰すには調度いいと、適当な場所で決闘を始める。
内容はタイガが私とマルタを相手に一戦ずつ戦うというもの。
結果は……、タイガの言葉がその内容を一言にまとめてしまっている。
まずは私との対戦。
私は大剣使用者と戦ったことがない。そしてタイガもレアハンティング中心で対人戦の経験はない。
お互いに未知の戦闘スタイルだった。
大剣スキルを詳しくは分からないが、おそらく飛び道具はないだろうと判断。
彼のこだわりから考えても弓や銃などのサブウェポンを使用することも考えられない。
もちろん片手剣スキルの【パワーストライク】のようなスキルが存在する可能性はある。
でもクリーチャー狩りのときにそういった類のスキルは使わなかった。
本当に"大剣を振り回す"のが好きなのだろう。
実際に戦いが始まると、タイガは一切遠距離攻撃を繰り出してこなかった。
やはり"出さない"のではなく、そういった技を"出せない"のだ。
そうであるならば遠距離攻撃ができる私にとってカモでしかない。
一応、【ステップ】や高速移動を伴ったスキルで迫っては来るが私は素早さを伸ばしている。
剣が届かないギリギリの距離を維持しつつ、称号【バレットダンサー】の効果を適用させての射撃。
大きいモーションから放たれる一撃を回避し、そこへ蹴りを何度かお見舞いもする。
勝負は一方的なものだった。
とはいえ、万一タイガの攻撃がクリーンヒットすればLPをごっそり削られ体勢が崩れてしまうだろう。
そういう意味では絶対的な差ではなく、彼も私に勝つ可能性は残されている。
だがその一撃を当てる技術が、タイガにとっての壁になるだろう。
「丸分かりって言われてもさあ。本当に叩きつけるか斬るかしかできないんだよ? 地属性魔法と組み合わせれば地震起こせたりするみたいだけど、俺は大剣一本でやってるし……」
「確かに武器間のバランスと相性は対人戦メインのゲームにくらべたら練られてはいないな」
対人がメインコンテンツであるならば、極端な性能差と相性差は生み出されないようにされていると思う。
遠距離キャラは距離の優位性を得る代わりに攻撃力と体力を失う。
対して近距離キャラは攻撃力と接近するための瞬発力。
しかしここはスキルが無数にあるRC3なのだ。
遠距離キャラがスナイパーライフルやロケットランチャーを装備しつつ【ステップ】を習得すれば距離を保ちつつ威力の高い攻撃をすることができるし、サブウェポンとして近接武器を鍛えることもできる。
逆のことも当然言えるわけで、近接武器を使いながらも魔法系スキルを取得し合成することで遠距離攻撃が可能となる。
「タイガは大剣による近距離戦に特化しすぎなのよ。おかげでモンスター戦じゃ無双状態じゃない」
「おう、モンスターはまかせといてよ! ってこれから先、NPCとの対人戦があるんだろ? モンスターに楽勝でもなあ」
タイガのように一つの方針でプレイすることは何も悪くない。
ただそういうやり方は得手不得手がはっきりと分かれてしまうものなのだ。
彼の鍛えられた近接攻撃はモンスターを数多くなぎ倒す分には、これ以上頼もしいものはない。
だけど対人戦で人を相手にする分にはいささかオーバーキルと言える。
お互いガチガチの近接戦士ならともかく、大抵の相手に対してスキルポイントが死んでいることになるだろう。
対人戦で生産系スキルがその場では役に立たないのと似たような状況だ。
「魔法や他の武器に手を出したくないのであれば、更に工夫をするしかない」
「例えばどうすればいいのかなあ」
「それは君自身で考えるべきことだ。……だがまあ、俺なら【ハイディング】か、あるのならば突進系のスキルを伸ばす」
「それはどうして?」
「攻撃手段が接近しての物理攻撃に限られているだろう? ならばその状態を作らねばなるまい。そうなると考えるのは二つ。相手に近づくか相手を近づかせるか、だ」
それなりに対人戦を経験してるだけあってアドバイスができるマルタ。
確かに大剣を当てるなら【ハイディング】で姿を消すか突進攻撃を磨いて距離を詰めるしかない。
前者は障害物が多いMAPでは有効。それは私自身がマルタと戦って分かっている。
でも相手が【気配察知】を伸ばしていれば効果は薄い。
となれば単純明快に突進攻撃を伸ばす方向がいいと思える。
「そっか。うん、そうだな。参考にするよ!」
レアハンティングを主にやっていたとはいえタイガのレベルは少し前までのキャップだった60を越えて62。
効率があまり良く無いソロプレイでレベルをここまで上げているのならば、大剣の扱い自体は鍛えられている。
彼に足りないのは場数と敵の多様なバリエーション。
モンスターのほとんど、特にゾンビなんかは自分から近づいてくれるがそうじゃないものだっている。
今後それらとぶつ駆りあっていくことで、単純でしかない攻撃にも磨きがかかってくるだろう。
彼が振るう大剣【ライトブリンガー】の名の通り、敵を切り倒す力には光を感じる。
「まあ、長々とダメだしはしたが、君には君しかできないことがある。俺達ではクリ、いやゾンビをあんなにさっくりとは倒せないからな」
「その辺はまかせといてくれよ! ……ソロずっとやってて忘れてたけど、やっぱり仲間で補いあってこそのパーティー、ってことだよね」
……仲間、か。
そうね、一緒に行動しているマルタやタイガ、それに中世編で分かれたみんなも仲間には違いない。
ううん、今はよそう。
「アルア、どうかしたのか?」
「え、ああ、ううん。なんでもないわ。考え事してただけ」
「アルア姉さんは考えるの好きだよね」
確かについぼおっとしちゃうのは私の悪いクセだ。
でもそれは仕方がないこと。そんな私だから、今の私がある。
とても残念だけどね。
「そんなこと、ないわよ。それより午後はどうしよっか?」
「狩場を変えてみる、か? 同じパターンでやっても仕方が無いしな」
経験値を安全に稼ぐだけなら、これまでと同様にタイガを盾にし私とマルタが援護すればいい。
が、実際はタイガ一人で充分やれているというのが実情だ。
被弾している分、回復アイテムなどの消耗はあるものの彼は盾としての役目以上に敵をなぎ倒す剣でもある。
対人戦では勝って偉そうに講釈をたれた私達。
だけど対モンスターにおける彼の殲滅力の前には、私達の行動は剣がより振るわれるためのアシストでしかない。
経験値はほしい。レベルアップは能力の向上と行動範囲を広いものにする。
だけどレベルという数字が上がるだけでは本質的な強さは得られない。
そう、"数字に表れない力"を得るためには戦いが作業になってはいけないのだ。
私があえて"午後はどうしよっか?"と聞いた意図をマルタは理解している。
彼も私もクエストを追わなければならない。そのためには力がいる。
「だったらさ、エリアボスに挑戦してみようよ」
すかさずタイガから提案が出される。
私達の意図を察したのかは分からないけど、ボスと戦うというのは悪くない選択肢だ。
ボスは経験値ならびにドロップアイテムという点で旨みがあるし、それにこちらの戦闘経験を豊かにしてくれる。
「このフィールドにもボスがいるのか?」
「ああ、いるよ。最近見かけたんだよ、そこらのゾンビと違うやつ。ゾンビ狩ってるときに見つけてさ、力試しで挑んだんだけどすごい速さで逃げられちゃって。結局戦えなかったからはっきりとは分からないけど、きっとあれはボスモンスターだよ」
逃げるモンスター?
これまでの経験にない行動パターンね。
NPCがより高度な反応を示すようになった反面、モンスターはこれまでのゲームのそれと変わることはなかった。
見つけ次第プレイヤーを攻撃する、ただそれだけ。
リアリティーレベルが上がってもこれまでに変化がみられなかったわけだから、きっとそういうタイプのモンスターなのだろう。
倒しにくいけど倒すと大量の経験値をくれるアレよね。
「フィールドレベルが50のボスだ、3人でもやれそうだな。よし、狙ってみよう」
「ええ! やるのはいいんだけど結構このフィールド入り組んでて探すの大変だよ?」
「俺は【気配察知】を取得してある。問題ない」
前衛一名に支援攻撃ができる者が二名。
専用の回復職がいないのは痛いけど、頃合を見計らって私が【ソウルブラスト】を発動させればいいか。
仮に理想的なパーティーを募集して攻略しても私達が求めているものは得られない。
回復アイテムと装備、スキルの確認を終え準備を整えると早速出発することにした。
「よーし、今度こそ仕留めるぞ!」
「タイガの一撃には期待してるわよ。そうだ、そのボスはどんな外見だったの?」
「大きさはそこらのヤツらと変わらないんだ。ただぼろっぼろのローブみたいなの着込んでたから外見は良く分からなかった。……ああ、それそれ。アルアさんが着ているヤツと同じやつだよ」
エッダーからもらったローブを着ているということは西側の人間のクリーチャーなのだろう。
私のように東側のソルジャーがあのローブを着ていることは例外だ。
「でも外見よりおかしいことがあってさ」
「おかしいこと?」
「うん。そのボスを発見したとき、まわりにゾンビの死体がたくさんあったんだ。仲間割れするモンスターって聞いたことがないし」
「……それはボスなんかじゃなくてプレイヤーだったんじゃないのか?」
マルタの言うことももっともだ。
モンスターがモンスターを襲うなんて聞いたことないけど、それがプレイヤーなら自然だ。
しかしマルタの言葉をふくれっ面でタイガは否定する。
「確かに最初はそうかなって思ったんだ。でも周りにプレイヤーいなかったから敵に状態異常かけて仲間割れさせてる感じじゃない。それに手を伸ばして攻撃するなんてプレイヤーはできないでしょ」
「なんだ、攻撃を見てたの。確かに腕を伸ばすなんて秘儀、普通のプレイヤーにはできないわね」
「疑って悪かった。敵であるのは確定だな」
プレイヤーを見て逃げたり自分と同じような存在であるクリーチャーを倒すクリーチャー、か。
ずいぶんな変り種みたいね。
中世編に存在したレアモンスターみたいな個体なのかもしれない。
「それになんだったかなあ……。だい、だい……」
振り向くとまだ思い出すことがあったのかタイガが下を見ながらうんうんとうなっている。
そのせいか素早さを伸ばしてある私とマルタとの間に後方数メートルの差をつけてしまっていた。
「おい。前衛をやる君が遅れてどうするんだ。早くこっちにくるんだ」
「今いくよ~!」
タイガが慌てて駆け寄る。
なんとなく頼りにならない前衛だがそれは彼ののんびりとした雰囲気だけの話であって、敵に一撃を振るう様はまるで鬼神だ。
油断はしないが、負けることはないだろう。私はそう考えていた。
探索を始めて30分、敵がでるエリアとでないエリアがごちゃとごちゃと混在しているこのフィールド。
マップを埋めるような感覚で私達は走破している。
敵はスルーし交戦をほとんどしない。
戦うのは行き止まりに入って囲まれたときと、周囲にプレイヤーがいたときだけだ。
追って来るクリーチャーをそのまま他のプレイヤーに丸投げしてしまえばMPKになってしまう。
「8割がた、フィールドを走破したな。そろそろ遭遇してもおかしくない。気を引き締めろよ」
「この先は行き止まりみたいね。一応いってみましょう。タイガ、頼むわね」
「はーい。って前衛が俺だけしかいないとはいえ囮にされてるみたいだ……」
行き止まりはタイガが先行し私達二人が後方の安全を確保する。
三人全員で進んで後方に敵がわいてしまえば逃げられないからだ。
それにタイガを先行させて敵に狙わせることでヘイト管理、つまり私とマルタを攻撃のターゲットから外させることもできる。
最初にボスがタイガを狙ってくれれば、対人戦で負けたとはいえ純粋なダメージはタイガが上回っているのだから敵はタイガを狙い続けてくれるはず。
しかし行き止まりまで行ったタイガはこっちへ振り向いた。
「ハズレだー!」
「分かった、戻って来い!」
大剣を背負いながら戻ってくるタイガ。
これが中世編の草原ならば絵になっているのだろうけど、薄汚れたコンクリートの街にはやはり不恰好に思えた。
「ご苦労。【気配察知】に反応しないからいないとは分かってたんだが。次いくぞ」
「何だよソレ。無駄にスタミナ使ってる俺が馬鹿みたいじゃん!」
「何事にも絶対はないんだ。たとえゲームの中でも、な」
「はいはい、分かったよ。これだからパーティーはめんどくさいんだよ……」
「パーティーは補い合ってこそ。言ってたのはタイガでしょ」
「うん……」
私達銃器使いは戦闘スタイル次第で被弾をゼロにできるけど、前衛はそうはいかないからね。
前衛が倒れればパーティーは決壊する可能性が高くなるし、責任が問われやすい。
攻撃を耐えなければいけない分、装備にもお金がかかる。
やりがいがある反面、ストレスとプレッシャーがかかる役割だ。
ふふ、感謝しないとね。
次の行き止まりまで向かう途中、タイガがふと足を止めた。
それにつられてかマルタが周囲を見渡す。
私も警戒するが特に異常は見当たらない。
「どうした? 【気配察知】にはひっかからないが」
「思い出したぞ! 俺、思い出した!!」
ずっと何か考えながら歩いていたのだろうか。
油断もいいところだと私が注意をしようとするも彼は大声でしゃべり続けた。
「だいじゅうろくひけんたい!!」
「えっ、ちょっと思い出して嬉しいのは分かるけどそんな声ださないでよ」
「ボスの名前、思い出したんだよ! 数字が中々でてこなくて。そう、確かあれは"第16被験体"って名前だった。今までのゾンビと違うからすっごい気になってたんだよね」
第16被験体?
被験体その名称は確か、工業地区で人体実験を受けた人間のものだ。
それに16、何かで見たような……。
そのとき、後方で地面を踏みしめる音が耳に入った。
いや、それだけじゃない。
何か嫌な予感とでもいうべき感覚が私に入り込んでいた。
まさか、という驚きのもと振り向くのが躊躇われた。
次の瞬間、固い金属音が何かを弾く音が聞こえた。
その重くするどい音色が私の意識をはっきりとさせる。
今度こそ、私は振り向いた。
目に飛び込んだ光景に少しだけ、理解が遅れた。
ぼろぼろのローブに身を包んだ人間が、変異した右腕を伸ばしてこちらへ突き出していた。
それをタイガの大剣、【ライトブリンガー】が刀身を発光させながら受け止めていた。
タイガと交戦している存在、その頭上には”第16被験体と表示されている。
「お姉さん、下がって!!」
「何をぼおっとしているのだ! 距離を取るぞ!!」
言葉そのまま、【バックステップ】で襲撃者と距離を取る。
そしてあらためて敵の全身を目に入れた。
ローブに身を包むそれはクリーチャーにしては小柄。顔はフードで分からない。
だけどその辺をうろつく化け物に比べて冷静で、そして綺麗だった。
伸びた右腕こそ変異したクリーチャーのそれだが、ローブから覗く体の一部やすらっと伸びた足は私達プレイヤーのそれと変わらない。
皮膚が裂けていておどろおどろしさが増しているゾンビやクリーチャーとは異質なものだったのだ。
「【気配察知】に反応!? 何故だ、何故いままで捉えられなかった?」
「あんちゃん、今は交戦中だ。しっかり援護たのむぜ!!」
「分かっている!」
タイガが押し込んでいる大剣を一旦跳ね上げ、刀身で叩き打つスキル【アーマーブレイク】を発動させる。
マルタもすでにボウガンを取り出し、敵に狙いをつけている。
通常のクリーチャーならそのまま突っ込んできただろう、しかしヤツはそうしなかった。
驚くべきことに右腕の変異を解いて後方へ飛び退き、二人の攻撃を回避していた。
「素早いな。だがタイガが遭遇していたヤツに間違いないようだ。第16被験体と表示されている」
マルタの言葉にタイガがうなずく。
そして敵もまた、マルタの言葉に反応した。
棒立ちだった姿勢から一転、若干前傾ぎみの、戦意を剥きだしにした構えに変わった。
ゲームプログラムで行動を規定されている存在が、プレイヤーの言葉に反応するのは通常ならばありえないこと。
しかしそのありえないことは連続で起こるものだということを私達は知っている。
知っていて、それでもなお驚いてしまうことが起こってしまう。
「被験体……。その言葉、お前達もあいつらの仲間なのか?」
はっきりと発せられたそれは言葉。
マルタでもタイガでも、もちろん私でもない。
目の前の、クリーチャーの言葉。




