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22、faith



 聞こえてきた男の声、その主を確かめようとする間もなく、いやにカラフルだった世界にヒビが入り割れ始める。

 周囲はクラブのスタッフルーム、私が助祭に詰め寄ったあの場所。

 助祭に代わって対峙するはモリスティーニ司祭、そして……エッダー司祭。



「……エッダー司祭、どういうことですかな?」



 雰囲気としては落ち着いているモリスティーニ、だけど感情の波動に強い怒りが混じっているのが分かる。

 粛清の邪魔をされた、それだけの理由にしては強すぎて抑えきれずに滲み出てきているものを感じとってしまう。



「いえね、そこの二人は私が仕事を依頼した者達なのです。ゾンビの排除、並びに人をダメにする麻薬の出処の捜査をね。はやまってここをそういう拠点だと勘違いしたようです」



 ゾンビの排除というのは、まあ正しいけど麻薬の捜査というのは嘘だ。

 私達は独自にディライフを追ってはいる。でもそれを彼からは依頼されていない。



「私の監督不足です。二人を許していただけませんか?」



 次の瞬間、火球が数発、モリスティーニの掌からエッダーへ放たれていた。

 怒りの炎と呼ぶに相応しい、規模は小さいが力を圧縮された魔法。

 ここでエッダーを失ってはまずいと感じたが、スピードと回避に特化している私にはなす術がない。



「……忌々しきはお前のその能力よ」

「効かないのが分かっていてこういうことをする。私が挑発に乗らないことも分かっているでしょう?」



 エッダーは無事だった。

 よくよく考えれば、エッダーは教会の盾であり空間を硬質化できる"信仰の盾"の使い手。

 モリスティーニは強敵だが、彼もまた強力な力の持ち主なのだ。



「教会の盾、エッダーよ。この者達は教会の者達に刃を向けたのだ。あろうことか司祭である私にもな。処理をするには充分すぎる理由だ」

「モリスティーニ、あなたが教会を愛しそれを守ろうとする気持ちは知っています。ですが少々やり過ぎではないでしょうか?」

「教会とその教義こそがこの世界の絶対なのだ。それは昔も今も、これから先も変わらん!」



 ちょっとした口論が始まる。

 とはいえ熱が入っているのはモリスティーニだけだが。

 発せられる言葉を察するに、教会の杖である彼は教会の教えに妄信的であるようだ。

 そんな彼にとって信者以外にも手を差し伸べているエッダーは目の上のたんこぶ。


 エッダーはエッダーで、司祭という肩書きがありながらも教会勢力の特別扱いを好んでいない。

 信徒に限らず、救える者を全て救っていくのが私達の務めだといわんばかりだ。

 話は平行線、この確執は今生まれたばかりの浅いものというわけではないのだろう。



「もうよい! エッダーよ、その者達を連れてここから立ち去れ。だがこれだけは覚えておけ。これ以上の邪魔をするならば次は容赦しない。それがお前であってもな」

「ええ、分かりました。肝に銘じておきますよ。……それでは失礼します」



 エッダーがモリスティーニに背を向けて退出する。

 追求しようとする私達を手ぶりと目で諌めながら。

 結果的に、怪しすぎるこの場所を私は直接的な収穫を得ることもなく離れることになった。

 今回の捜査で敵も警戒を強めるはずだから、もうここを調べるのは無理だろう。

 教会の人間であるエッダーを問い詰めたい気持ちは強かったが、あの場所から救出してくれたのもまたエッダーだ。

 とりあえず彼が拠点としている場所まで黙ってついていくことにした。


 

 拠点についたエッダーは以前と同じように私たちにコーヒーをいれた。

 だが雰囲気だけは少し異なり、依頼を受けたときのホッとした感じはなくどこか迷いがあるような、そんな表情に思えてしまう。



「聞きたいことがあるのでしょう? そちらからどうぞ」

「ありすぎて迷ってしまうわ」



 人を怪物化させる薬品を追ってクラブハウスへ向かい、その結果モリスティーニ司祭と対決する。

 絶体絶命の場所をエッダーが救ってくれたけど、どうして彼はあの場所に現れたのかしら?

 とはいえモリスティーニとは確執があるみたいだし、彼とグルになっていることはないと思う。



「どうしてあの場所に現れた? おかげで助かったわけではあるが……。今回の騒動に対して何を知っている?」

「……教会の兵であるあなたに伝えるのは躊躇われますが、致し方ありませんね」



 エッダーはコーヒーカップを置くと、目を閉じ静かに語り始めた。



「今このあたりを騒がせているのは、ご存知の通りゾンビではありません。何らかの異物を体内に入れた人間の慣れの果てです」

「ええ、異形化した人間が薬を使用している痕跡を私達も何度か目撃しているわ」



 彼が頷く。最初から分かっていたのだ。

 人間を化け物に変える危険な物が出回っていることを。 

 


「私はこの地区を担当しているのですから、動きがあればわかります。教会の力が及ばない地域で、堕落的な行為が繰り返されるたびにその芽を潰してきました。人身売買、売春、ドラッグ……。最初、この場所に赴任してきたときにはどうして私がこのような場所に遣わされたのか、愚かにも神に問うてしまいましたが、今ではその理由も分かります。これは試練だと。問題を解決していく過程で、未来や希望を見出せず心の腐敗を待つだけの人々に多く接してきたものですから」

「苦労してるのね」

「すみません、話が逸れてしまいましたね。まあ、この地区をより良いものに変えていこう、そう心に決めて活動していました。ある程度住民の信頼を得て落ち着いていたところに、東で例の大災害が起きてしまった。ゾンビという映画だけの存在が現実に発生するというね。不幸中の幸い、こちら側まで被害は出ていなかった。……はずでした」



 ゾンビ発生という想像を超えた事態に続いて起こるクリーチャーの発生、この地区で真面目に活動していた彼には大問題だったはず。



「大災害が起きて以降、住民の情報から何らかの薬品が出回っていることを掴みました。またドラッグか、懲りない人達だと思い調査していましたが今度ばかりは勝手が違い売買の現場が押さえられない。私の行動をすべてかわされるような、そんな感じに私は東側の関与を疑いました。大企業やドームの人間が組織的にこちら側の切り崩しにかかる。ありえないことではなく、むしろ水面下でとうに行われていてもおかしくない」

「でも、それも違ったと考えてるのね?」

「私がこの場所に来たことで教会の信者になった者も多数います。そこからの情報もこれまでの活動に大きく貢献してくれました。ですが今回はその流れが非常に鈍い。言いたいけど言えない、みんなそんな思念を滲ませているのですよ」


 

 整った顔、その眉間に皺がよる。それは分かりやすい苦悩の表れ。

 彼は気付いてしまったのだ。この事件に関わっているのが企業やドームではなく自身の所属する教会だということに。



「信者から連絡がありました。あのクラブハウスで騒ぎが起こっている、とね。驚きましたよ。まさか騒動を起しているのがあなた達と司祭モリスティーニだったのですから」

「ヤツは何なんだ? これまで会ったことがないのだが」

「当然です。彼はここ最近、増援として遣わされた司祭なのですから。ゾンビ騒ぎが起こる少し前に、貧民エリアへ手を入れるための助けとして三人の司祭がここに訪れました。その中の一人が教会の杖である彼なのです」



 このタイミングで三人もの司祭を増援として派遣する。

 司祭というものがただの宗教幹部の肩書きであればそこまで考える必要はない。

 でも、エッダーやモリスティーニと戦って分かることだけど、教会における司祭というものは特別。

 司祭は役職である以上に、高い戦闘能力を有した兵なのだ。

 それがエッダーを含めてこのエリアに四人も滞在していることになる。



「私からもお尋ねします。どうしてあの場所にあなた達がいたのですか? 何故モリスティーニと戦闘を? 正直に言ってあまりにも軽率な行為です。教会の人間、しかも司祭に危害を加えるとなれば西側のエリアでは日の当たる道を歩くことはできなくなってしまいますよ」



 全てを伝える頃合だろう。

 だけど、いくらゲーム的に都合良く物事が進むはずだといっても確かめておくべきことはある。

 それは……気持ちだ。



「全てを話す前に確認させてもらうわ。司祭としてのあなたじゃない、あなた自身の大切なものって何?」

「唐突ですね。しかし私が感じるあなたの波動……。分かりました、言いましょう。私の大切なもの、それは平穏です」

「もしその平穏を乱すものが教会にあるのならば、あなたはどうするの?」

「教会は私の、心の芯をなすもの。しかしそれが以前と変わってしまい救うべき人々を苦しめているのであれば正しましょう」

「信仰に篤いあなたにできるの?」

「信仰はそれぞれのためにあるもの。教会のためにあるものではありません。私はモリスティーニとは違います」



 彼は真面目で、真剣だ。

 これでもし彼も黒であるならば、私は人を信用できなくなってしまう。

 物事に確実なんてないのかもしれないけど、私は彼の信念を正しいものだと感じている。



「全部話すわ。あなたの立場を考えるとちょっと躊躇われるけど」

「司祭職なんて後からついてきてしまったものです。私は私ですから、問題ありませんよ」



 マルタの方を見ると、彼は静かに頷いた。

 相方の賛同を得られたのだ、エッダーに全てを話すことに決めた。

 彼にとっては辛い話になる。

 しかしそれに目を向けないのは、さらに大きな苦痛を引き起こすことになるだろう。

 今ならその苦痛の拡大を防げるかもしれないのだ。

 


―――


「裏切り者の排除のクエスト、人体実験、それにディライフという薬品」

「全て私たちが目にしてきたことよ」

「東側の陰謀、と言ってしまうには苦しい状況のようですね」



 彼の表情がさらに苦悩で歪む。

 所属し、信じていた組織の腐敗。

 これまでの活動と一線を画す事案なだけに、すぐには全てを信じられないだろう。



「私はね、ソルジャーとしてでなく一人の人間として、非道な実験を止めたいと思ってる。クリーチャーだけじゃない、東側のゾンビも人間のなしたことであるなら根絶したいと思ってる」

「……私だけが組織にしがみつくのは良くありませんね。分かりました、協力しますよ」

「ありがとう。助かるわ」



 モリスティーニと対峙することで、全てではないにしても教会の関与がはっきりと分かった。

 だけど物的証拠もないし、何より教会は一大勢力なのだ。

 切り崩し方を考えなければこちらが握り潰されてしまう。

 レベルを上げて敵をつぶす、それだけじゃどうにもならない事態。

 暗い道を照らす光の道筋が、欲しい。



「末端の人間では、組織をどうすることもできん。エッダー司祭、俺達に道を示して欲しい」

「ではとりあえず、モリスティーニを追い込むことを目的に行動を始めましょう。私自ら捜査に加わる、といきたいところですがもしネーキル教主までも関わっているとするならば非常に問題です。ですので私はこの場に残り、あなた達の活動のアシストをします。いまおおやけに私が動いてしまっては目立ってしまいますからね」

「それは、そうだな。じゃあ俺達は具体的にどうすれば良い?」

「モリスティーニ以外の司祭、クランヌとノディアンを探ってください。この件に関与していないのならば協力をとりつけ、そうでないならば……排除しなければならないでしょう」

「仲間を殺すことになるぞ?」

「人体実験が事実であるならば、私たちは生命を弄び過ぎました。その罪はいかなる者であっても許されるものではない。私もいずれ償わなければならないでしょうがね」



 このエリアに派遣された二人の司祭、クランヌにノディアン、か。

 エッダーもまた、モリスティーニとは別の方向で強固な信念を持っている。

 仲間を殺すということ、そう簡単には決断できるはずがない。



「手はずは整えますが、戦闘は控えてください。司祭という肩書きは見栄でないことはご存知だと思います」

「つまり、その二名も相当強いってことね」

「ええ。正々堂々とは言っていられない事態ですから。まずは状況を把握し、結果として処分が決まったのであればこちらが有利の状況をつくっていかなければなりません」



 確かに、今の私達では司祭という肩書きをもつ彼らを正攻法で倒すことは難しい。

 だがいつかは戦わなければならない相手でもある。

 何もかもエッダーまかせというわけにはいかない。



「フフ、アルアさん。焦ってはいけませんよ。……とはいえ万一に備えて能力は鍛えておいたほうがいいのも事実。そうですね、まずはノディアン司祭を探るついでに貧民エリアの南部を調査してください。あそこはこのシェリガン地区以上に教会の力が及んでいない、光のない場所。危険ですがあの場所から得られるものもあるはずです」

「ノディアンがそこにいるのか?」

「ええ。それにあなた達の言うクリーチャーも恐らくこの地区以上に多いはずです。充分に気をつけてください」



 頼もしい協力者と、進むべき道筋を手に入れることが出来た。

 やるべきこと、それは一朝一夕で片付くことではないだろう。

 だけど灯りのない夜道を手探りで歩くよりは状況はずいぶん好転したのだ。

 この世界の闇を暴くための一歩が、またここで踏み出せた。



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