12、human experimentation
通路に佇む異形化したゾンビ、おそらく実験体だと思われる敵を撃破し通路を進む。
ヤツらは通常のゾンビよりも耐久値が高いが遠距離武器の敵ではない。
ショットガンやスナイパーライフルだともっとさくさく進めそうだけど、あいにく私の武器は連射系。
地道にダメージを稼いで撃破するのみ。
「順調ね」
「ああ。だがボスはそう簡単にはいかん。油断するなよ」
いかにソロ志向が強い近未来編とはいえ、ボスを単騎撃破するのは厳しい。
私も何回かボスモンスターを撃破したけど、それはアイちゃんがペアとして存在していたからだ。
彼も私と同様、群れを作りたくない性格なのだろうか。
……いや、あのとき私に声をかけてきたのだから、私に比べたらマシなのかもしれない。
集中力を切らさない程度にそんなことを考えていると、彼の足がある一室の前で止まった。
「ここだ。出現ポイントが変化しないのであればターゲットはここにいる」
「……そう。いよいよね」
「念のために確認しておくぞ。ボスはゾンビ化した研究員一体だ。ただし周囲に通路で遭遇したような個体が何匹が取り巻きとして出てくる。攻撃音を聞きつけて敵が増えることもある」
「敵の増援、近未来ならではよね。分かってるわ、私がザコを担当してあなたがボスと戦いやすい環境をつくればいいんでしょ」
これでもリアリティレベルが上昇するまではレベルがカンストしてたのだ。
油断するわけじゃないがこういった敵との戦い方は心得ているつもりだ。
互いに目で合図をし、扉を開けて中に侵入する。
幸い入ったところを迎撃されることはなかった。
入ってまずは地形や遮蔽物を確認する。
意外と広いこの部屋、遮蔽物が少なく敵と銃撃戦をやるには厳しい。
だが相手が通路で遭遇した敵ならば、こちらが一方的に射撃し続けることができる。
部屋の左右両隅には人間大の金属シリンダーが立ち並んでいるが、やつらにこれを使って射線を防ぐ知恵はない。
「いたぞ。先制攻撃を仕掛ける。ザコは任せた」
「了解。引き付けておくわ」
部屋の奥でもぞもぞと波打つ生物。
ところどころに破れた箇所がある白衣、その隙間からは触手が何本もうねって存在を主張している。
気持ち悪い造詣だ、近未来編にプレイヤーが少ないのも今更ながら納得できる。
白衣を着ているということはあれが研究者だ。
マルタがスキルを発動させて突っ込んでいる。
じゃあ、私のターゲットはどこ?
彼がボスと戦闘を始めたそのとき、金属シリンダーが音を立てながら開き始める。
なるほど、そういうことか。
ゾンビがわざわざシリンダーに入ってくれるはずがないのだ。
となればこの金属の入れ物からでてくるこいつらは、実験体と呼ばれる者達に違いない。
複数のシリンダーが開き、八体もの実験体がのそりと姿を現す。
ゾンビと違い目は濁ってはいないが、その瞳には光が無く、体の局部が肥大化、あるいは触手が生え出ている。
動きが速くないといえ、タフな肉壁が迫ってくるのだからなかなかハードだ。
「まずは様子見、狙いをこちらに向ける。【貫通弾】」
銃をUniに持ち替え、弾を貫通弾に変える。
一撃の威力が最も低下する組み合わせだが、とりあえずダメージを与えてマルタが狙われないようにするのが私の仕事。
さっそく銃を乱射し命中させるが、案の定大きなダメージを与えている様子はない。
でも作戦は成功している。敵が全てこちらに向かってきているのだから。
敵の塊に対して常に円周状に動き、敵の群れを崩さないように心がける。
ダメージは低くても敵を分散させなければ【貫通弾】が良い仕事をしてくれる。
振り下ろされる腕や伸びる触手の攻撃を回避し、銃弾を浴びせ続ける。
こうやって敵の移動をコントロールできるのが、サブマシンガンの利点だと私は考えている。
連射力が低い武器では攻撃が当たらない敵がどうしてもでてきてしまう。
その敵が散らばり始めると、プレイヤーは正面はもちろん左右、下手したら背後まで気を使いながら戦闘するハメになる。
ロケットランチャーならば問答無用でザコを吹き飛ばすことはできるだろう。
ただあれはあれで爆音と広すぎる爆発範囲、長いリロード時間で扱いが難しそうだ。
戦闘を開始して5分ほどたっただろうか?
それなりに敵の耐久値を削ったはず。
銃をスタンmk2に持ち替え、弾を【ソフトポイント弾】に変更する。
威力重視の銃に近距離でダメージが上がる銃弾、そして近距離攻撃ボーナスがつく私の称号。
救われない実験体をこの世に留めている肉体から、魂を開放するときがきたのだ。
「リアルじゃなくてクエストなのが救いね。……今、終わらせてあげる」
敵の群れに突っ込んで頭部を撃ち抜いていく。
攻撃に割って入ってくる実験体には蹴りをおみまいして間合いを強制的に離す。
中世編の魔法攻撃のような範囲攻撃でもこない限りは、私に負ける要素はない。
最後の一体を倒しマルタのほうをみる。
右手にボウガン、左手に短剣を構えつつボス相手にヒット&アウェイを繰り返す。
ボウガンの矢で牽制し短剣で強襲する戦闘スタイル。
確か短剣にはリーチが短い代わりにスキルの発生が速く、そして相手の防御力を低下させるという特徴がある。
両手に短剣を持って二刀スタイルにすれば連続攻撃も多彩になる、とリサは言っていた。
あえて二刀にし近接特化にしないのは、取れる選択肢を多く持っておきたいというマルタの方針なのかもしれない。
モンスターはともかく人間はスキルを一方的にくらいつづけてくれることなんてないのだ。
戦況は確認できた、加勢しなくてもボスはそのうち倒れるだろう。
やがてボスが前のめりに倒れるのが確認できると、ボスとの戦闘を終えた彼の元へ歩み寄る。
「終わったみたいね。楽勝じゃない」
正直なところ拍子抜けだ。
確かに取り巻きの実験体と同時に闘うのであればそれなりにやっかいだ。
だがこのボスも結局は多少素早く肉弾攻撃ができるといだけの話、逃げ回りながら炸裂弾を撃てば時間はかかっても倒せない相手ではないはず。
ボスの単騎撃破は難しいがボスが弱い部類だったり、武器の相性が噛み合えばそれ自体は可能ではあるのだから。
「……周りを警戒しろ。次が来るぞ」
「え?」
彼の言葉、そして前のめりに倒れたはずのボスがむくっと立ち上がるその様子を見て再び意識を戦闘モードに切り替える。
私と同様、マルタもまたボウガンの狙いをヤツに合わせる。
――……ヤメル。……ヲ。ヤメル。
「待って、マルタ! こいつ何かしゃべってる!!」
「うめき声だろう。今のうちに少しでもダメージを稼ぐんだ」
ヒュン、とボウガンの矢が放たれる。
肥大化した肩口に命中したそれは体に穴を開け血液を噴出させる。
確かにまだ戦闘の意思が敵にあるならば、やってしまったほうが良いかもしれない。
まだ熱が入っているサブマシンガンを構える。
――モハヤ、ジガヲタモテナイレベル、トウタツ。デライフ、ケンキュウ。ワタシノテキ、ケス。……スベテヲ、ステル。
白衣のポケットから注射器を取り出し、肥大化した腕に浮かび上がる血管に何かを注入する。
「見とれるな! 攻撃を継続するんだ!!」
ハッと我に返り、銃のトリガーを引く。
今、やつはしゃべっていた。
まだ自我が残っていたのだ。
ゲームシステム上、不可能なのかもしれないが殺さずに情報を引き出すことはできないのだろうか?
だがその考えはあまりにも愚かだったと、室内の様子を見て思い知らされる。
「く、なんなの? この暑さ……!」
急激に室内の温度が上昇している。
変化は室温だけではない。ヤツの負傷した傷口から流れ出る血液、それらが沸騰し蒸気を飛ばしている。
――グオオオオオオオォォォォォ
ゾンビが叫ばないような雄たけびを響かせながら、血液を撒き散らしつつ元研究員だったそれが突進してくる!
「!?【バックステップ】」
「【クリエイト・デコイ】」
身体能力だけで回避するのは無理だと判断、私はスキルによる跳躍で、マルタは囮の作成で攻撃をやりすごす。
ただの速い突進ならばスキルでなくても回避できる。
だけどああも高温の液体を撒き散らしながら近づかれると、多少大げさでも大きく回避動作をしなければならない。
「言ったはずだ。油断するな、と」
「ボス討伐はあなたの仕事でしょ。それに聞いてないわよ、二回戦があるかなんて」
「前回は弾丸や体力の関係で一回目のダウンのときに撤収したのだ。もしやと思ったがやはりまだ終わりではなかったようだな」
彼の情報の小出しっぷりは腹立たしいが責めている場合ではない。
冷静にヤツを捉えなければダメだ。
彼は未だに実験体をゾンビと混同しているだろうけど、やはりゾンビとは別物。
植物園で闘ったプランターもそうだが、実験体は特殊能力を備えている。
通路で倒した奴らも、地味ながら耐久力増加という能力を得ているのだ。
……特殊能力?
いや、今はよそう。
「動きを止めるな。来るぞ!」
「近接戦闘は危険ね。私が前衛をやるわ」
肥大化した筋肉をたぎらせている、そんな姿だが見た目から想像できる速度を越えて動きが速い。
加えて体温操作なのだろうか、高温の血液を振りまいてくるのだから蹴りや短剣で闘うのは自殺行為。
ボウガンは連射が効かず無駄撃ちができないのだから必然的にある程度距離が取れる私が前に出る。
「はあっ!!」
【ステップ】とジャンプを組み合わせて前方へ跳び、突進をかわす。
すれ違いざまに空中から銃弾の雨を浴びせる。
「捉えた。【スパイラルショット】」
私を追うのに夢中で背後ががら空きの敵に、狙い済ました弓スキルが命中する。
スナイパーライフルほどではないが、スキル補正の乗った射撃が無防備な場所に命中すれば無事にすむはずがない。
実際、私と彼のコンビネーション攻撃を何重にも受け続けて、ヤツの速度も低下している。
だがやつの存在が完全に消え去るまでは手をゆるめない。
研究内容を問えないのであれば、私にできる事はこのマッドを確実に地獄へ送り届けることだけなのだ。
分かっているだけで何十人もの人間が研究の犠牲になっている。
もちろんそれは設定上の話であってあくまでもゲームの内容にすぎない。
でも私は忘れない。
少なくともコイツは、ジェニーの母親の命を弄んだという消せない過去がある。
「【パワーゲイン】。一気に終わらせる」
マルタには悪いけどとどめはもらっていくわ。
人間としての自我を捨てて一人楽になろうとする行為を、ただ耐久値を0にするというだけでは納得できない。
何人もの人間が懇願したであろう命の存続を、こいつは踏みにじったのだ。
その事を知っている私に巡り巡って仕事がやってきた、因果応報な結末。
攻撃力を上昇させた銃弾が容赦なくヤツの耐久値を削る。
研究のことは分からないが仕方が無い。だけど確実に終わらせる。
「待て、様子がおかしいぞ」
マルタが異変を指摘する。
一旦攻撃の手を緩めてみると、確かにヤツの体表面にさきほどまでなかった赤みがみられるようなった。
全身血液が蠢いている!?
「まずいっ!!」
とっさに片手剣を取り出すと同時、やつの体が破裂し血液が周囲に飛散する。
魔法ではないが高温の飛び道具をばらまく立派な範囲攻撃だ。
防壁魔法なんざ取得していない私ではかわすことができない。
「く、【パワーストライク】!」
悪あがきかもしれないが衝撃波を迫りくる液体へ放つ。
液体を切ることはできないが、その力で軌道を逸らし体に降りかかる量を軽減できるはず。
熱い。
体に高熱の熱湯が降りかかるような感覚。
それは確実に私のLPを奪っていく。
――ワタシノイカリ、ニクシミ。ゾウオノホノオハ、キエナイ
うるさい。
全ては自業自得だ。
命をいじくりまわしたその罪、必ずその報いがやってくる。
死者の声なんて私には聞こえない。
声なき声なぞ妄想にすぎない。
だけど何十もの死者の魂が望んでいるであろうことを、私はこの手で実行するんだ。
LP回復を待たずして、剣を手にしたまま動きを止めた奴にかけよる。
自爆攻撃に近い行為を行った奴の体はぼろぼろ、すでに白衣を着ていたかなんて分からない。
だが関係あるものか。
存在のひとかけらも残らないように、確実に終わらせる。
ヤツの頭頂部に剣を突き立てる。
何度も、何度も。
耐久値を0にし、ピクリとも動かなくなるそのときがくるまで……。




