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10、battle

「では、はじめるぞ」

「いつでもどうぞ」



――決闘がマルタから申請されました。受諾しますか?



 久しぶりの対人戦。

 といってもゲームでは対人なんてほとんどやっていない。

 リアルでの武術経験と日ごろの戦闘での経験、それらを組み合わせて戦う。



「受諾します」



 開始直後、演習所にところどころ置かれてあるコンテナに身を隠す。

 お互いに飛び道具を武器としているのだ、正対するのは愚策。



「ウニちゃん、頼むわよ」



 購入したばかりのスタンmk2ではなく、手に馴染んだサブマシンガンを装備する。

 相手は重装甲ではないのだ、威力特化よりも手数を重視したほうが良い。


 コンテナから少しだけ顔を覗かせると、すかさず一本の矢が飛んで来た。

 矢自体を見てかわすのは厳しいが、敵のモーションを見れば攻撃しているかどうかは判別できる。

 頭を引っ込め回避する。


 マルタはボウガンと短剣、そして探索系のスキルを習得してあるはずだ。

 手数と射程距離、純粋なスピードでは私の方が勝っている。

 逆に一撃の威力と近接戦闘でのリーチ、気配を消してからの奇襲はマルタに分がある。

 つまりかくれんぼをしたら不利になる。

 そうさせないように絶えず威嚇しておくべきか。


 威嚇射撃を試みようと足を踏み出そうとするそのとき、その私の一歩を止める音が聞こえた。

 ジリジリジリ。

 視線を下に落とす。



「炸裂弾!? やばいっ!!」


 

 ボウガンで発射された弾には爆薬が仕掛けられていたのだ。

 次の瞬間には小規模の爆発が発生し、周囲に砂埃を発生させる。

 横方向に飛び込んでダメージの軽減を図る。



「流石にやるわね。スカウトされただけはあるわ」



 矢そのものをぎりぎりで回避するだけでは爆発による範囲攻撃は捌けない。

 こうした爆発物は遮蔽物に隠れた敵をあぶりだすには最適の道具、しかも砂煙で姿を隠している。

 

 失敗だ。

 最初に先手をとっておいて、相手を攻勢に回らせるべきではなかった。

 それに思い違いをしていたようだ。

 ボウガンはてっきり中世編の武器種類だと思っていたから、スキルは撃てても弾丸変更はできないと決め付けてしまっていた。

 あの世界には銃弾の販売どころか銃弾が存在すらしていない。

 だがこうして特殊な矢を発射しきたのだ。

 出所は分からないが、ボウガンは中世編と近未来編の要素を組み合わせた武器と見て間違いない。

 スキルならば連射はできない。

 だけどただ矢を変えた通常射撃なら装填でき次第うてる。

 コンパクトなロケットランチャーみたいでやっかいね。



 姿を隠したマルタは挑発をしてこない。

 ただただ、攻撃の機会を待って彼は気配を消す。

 飛び道具を使う敵と戦うときに感じる固有の緊張感がここにある。

 居場所が分かってしまえば、距離関係なしに攻撃が飛んで来るというスリル。

 だめだ、せっかくの連射力が発揮できない状況に追い込まれている。



「見つけたぞ。【ブラッディエッジ】」

「!!」



 姿を消す【ハイディング】からの短剣の一撃。

 とっさに銃のグリップでマルタの腕を弾いて攻撃の軌道を逸らせる。


 危なかった。

 短剣はリーチが短い分、スキルの発生が速い。

 まさかわざわざ近接戦闘を仕掛けてくるとは予測してなかった。



「……かわすとはな」



 マルタも今の攻撃をかわされるのが想定外だったのだろう。

 私はアクティブスキルをほとんど使用できないけど、高く振った素早さにパッシブスキルがある。

 点の攻撃ならばある程度は捌く自信があるのだ。

 今の私と彼との距離はステップ二つ分。



「サブマシンガンにはちょうどいい距離よ!」

「く……」



 ここぞとばかりに銃を乱射する。

 命中率をスキルで上げているとはいえ、動く標的の特定の部位を打ち抜くのは難しい。

 でもそれでいい。

 回避させることでスタミナを消耗させて相手の攻撃手段の選択肢を減らす。

 それにこれだけ弾丸の雨を降らせば全てを回避することはできない。

 地道にLPを削ってあげればいい。


 とはいえ軽装備相手に攻撃力の高い銃器で攻撃しているのだ。

 今の攻撃で3割は相手のLPを削ったはず。

 このまま押し切るんだ。


 マルタは回避で手一杯なのだろう、【ステップ】で遮蔽物を転々としている。

 距離を取って隠れられるとやっかいだ。だけどここにあるコンテナ程度なら飛び越えられる。


 飛び越えたコンテナの先に、人影が見えた。

 この先、前方のコンテナの角にいるわね。

 ここで勝負を決める!


 【ステップ】を駆使し、彼が待機している場所へ飛び込む。

 そしてその飛び込みの勢いに合わせてサブマシンガンを撃ちまくる。

 当たった。

 銃弾が物体を抉っていく、そんな音が響く。

 これだけの数の銃弾を受ければ、よほどの重装甲でなければ耐えることはできない。


 確かにマルタに銃弾は当たった。

 でもそれはマルタであってマルタでなかった。

 ゲーム内ではプレイヤーへのダメージは全て衝撃に変換される。

 そんな仕様なのに、彼にヒビが入り割れるという現象が目の前で起きている。

 ……しまった!



「速いが故に囚われる。【モータルカッター】」

「くう……!!」



 短剣が斜めに上から下へと閃光を走らせ私のLPを削り取る。

 とっさに反応してマルタを蹴り、その反動を利用して飛び退く。

 しかしあの一撃で7割のLPを持っていかれた。

 

 

「あそこで蹴りができるとはな。あのチームにいた者は技の選択が皆優れている、ということか」



 何のスキルか分からないがあの短期間に彼は囮になるものを作成し、そして姿を消していた。

 追撃されると分かっているのに、瞬時にああいう判断ができる。

 ラージウッドとやりあうだけはあるわね。

 とはいっても私は訓練中、ラージウッドに近接戦闘で負けたことはない。

 その私がマルタに負けたとなれば、教え子に申し訳なくて合わせる顔がないってもんよね。


 マルタが再びボウガンを取り出す。

 攻勢に転じて、範囲攻撃で私の残り少ないLPを削りきるつもりだろう。



「そうはさせないわ!」



 手負いの私、でも隠れることはしない。

 距離と時間を与えればマルタのほうが有利だ。

 彼の方が技の絡ませ方に私よりも長けている。

 放たれる矢を速度とターンによる回転でかわし、距離を詰めていく。


 そうだ、これは無謀な突撃なんかじゃない。

 私は一人でも、この近未来の世界のおびただしい死者の群れを渡り歩いていくんだ。

 一発ずつ放たれる矢ごとき、捌けないでどうするというの?

 


「短剣を持つ俺に向かってくるのか。させん!【スパイラルショット】」



 スキルによって威力を増幅させ、螺旋の渦を巻くボウガンの矢。

 これを防御で防ぐにはこちらもスキルがいるだろう。

 でも私には防御スキルなんて持ち合わせていない。

 できるのは回避、ただかわすことだけ。


 螺旋の矢が私のわき腹をかすめた。

 直撃ではないとはいえ、LPの幾分かを削ったはずだ。

 リアリティレベルが上がったことで肉体のダメージの変わりに受ける衝撃もなかなかヘビーになっている。

 でもここが大事なのだ。

 数字に表れない力。

 今、それをここで言い換えるとするならば、痛みに怯まない闘志。

 痛みに飲み込まれれば、やってくるのは敗北と後悔の二単語があるだけ。


 体が熱い。

 くすぶっていた私の心を、戦いは再燃させたのだ。

 ゲームだとか現実じゃないとか、全てはどうでもいい。

 ただここに熱い感覚があるという事実、それだけが今の私に感じとれる真実なのだから。



「【ターニングカッター】」

「遅いわ!!」



 彼は私の速度を侮っている。

 確かに速さは性急さを過剰にし、慎重さを失わせることもある。

 でも人は本当の速度に相対したとき、その強さの本当の意味を理解するもの。

 押し寄せる津波が、燃え滾るマグマが目の前に迫ったとき、その抗いようがない速度を目の前にしたとき、人はただ祈ることか不幸を嘆くことしかできないのだ。


 横なぎの一閃を飛び越えて回避、そのまま蹴りをマルタにお見舞いする。

 これだけじゃ終わらない。

 私は蹴りのアクティブスキルを習得しなかった。

 でも蹴りそのものの力を増幅させるスキルは鍛えてある。

 部活で何回も繰り返された動作が、今ここで活きている。



「距離がとれん……!」

「取らせないわ。そのための速度よ。バレットダンサーの称号、伊達じゃないって分からせてあげる」



 銃弾の踊り手、近接時の攻撃力を高めてくれる称号。

 銃を使うのに距離を詰めるというトンチンカンな私が手に入れた力。

 でもこの予期することができない組み合わせで一旦私のペースに持ち込んでしまえば、不幸な獲物にそこから抜け出す術はない。

 蹴りの連続攻撃、そして挟まれる関節部分への射撃。

 苦し紛れで放たれる短剣のカウンターは全て空を切る。


 とうとう彼が膝をついた。

 目の前の彼は囮なんかじゃない、本物。



「チェックメイト」

「最後まで抵抗したいが……。あんたの銃口からはもう逃げられん。俺の負けだ」




――勝利者、アルア! あなたの勝利です。




 勝った。

 久々の対人戦で勝つということ、そのことは私にとって少なくない意味があった。

 RC3へのログインを躊躇っている間、ラージウッド達はかなり成長していた。

 そんな彼らと対人戦をやる精神的余裕が無かったものだから、私の強さがどれほどの位置にあるのか分からない。

 でもこうしてやり手のプレイヤーから勝利を得ることができたのだから、まだまだ私も錆びついていないのだろう。

 プレイヤーはモンスターとは別の方向で、驚異的な存在だ。

 ただのゾンビを1000匹狩りまくるよりも、一人のプレイヤーと戦ったほうが得るものは大きい。

 そして今ここにいる自分は、再びこのゲームを楽しんでいる。

 強くなること、それはジェニーを守ることにも繋がっていくはずだ。



「マルタ。あなた、スカウトされるだけあってやるじゃない」

「俺に勝ったあんたに言われてもな。読めない戦闘スタイルに加えて称号持ちとは。俺の観察不足ってわけだ」



 今日の勝負には勝つことが出来た。

 この結果には差なんてわずかばかりの距離しかない。

 明日戦って勝つ保証はどこにもないのだ。

 だからこそ楽しくもあるし、その勝敗を決めるわずかな差を得るためにみんな苦心するのだから。



「パートナー合格、ってことよね?」

「選べる立場じゃない。だがあんたには背中を任せられる」

「いやいや、違うでしょ?」



 彼が『よくわからない』とでも言いたげな顔をしている。

 堅物っぽい印象を与える外見だけど、いじりがいがあるのかもしれないわね。



「私があなたの背中を守るんじゃない。あなたが私の背中を守るのよ。前にでるのは私の仕事」

「……そうか、わかった。確かに進路の掃除は俺には向いていない」



 最初にお互い知らない者同士ゆえに『あんた』と呼ばれ、見知ってからは一応のさんづけ。

 そしてふたたび『あんた』に戻る。

 友情でも恋愛でもない関係。いやだからこそだろう。

 それぞれが持つ能力と力の誇りにかけて役割を全うする。


 中世編での最後、闇の深い夢に囚われて最後まで加勢できなかった私。

 でもここでは違う。

 ここはチームを組んでいないのだから、私が自身で進んでいくしかないのだ。

 あのときの失敗は二度と繰り返さない。


 頼れるパートナーと共に、再び戦闘の感覚を研ぎ澄ましていくのだ。

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