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9、partner



「なるほど、そういう経緯があったのか」

「ええ。このゲームは与えられた遊びをやってるだけじゃクリアできない。そう思うの。もっともクリアそのものが用意されてない可能性もあるけど」


 

 マルタにRC3でのこれまでのできごとを話した。

 彼は冗談を言うタイプじゃないし、プレイベートに関して突っ込んでこないからやりやすい。

 年上の男性が持つ落ち着き、って言うのかしら?

 とりあえずこちらの考えを聞いてくれる。理解してもらえるとは思っていないけれど。



「それにしても、アルアさんはあの少年のチームに所属していたなんてね」

「アルアでいいわよ。あなたのほうが少なくとも5歳は年上だろうし。……少年ってラージウッドのこと? 彼のことを知ってるのね」

「ああ。戦ったことがあってね。剣は魔法剣が主流なのに、純粋な盾と剣のスキルを駆使していたから印象に残っている」

「そう。まあ、それはいいわ。今度はあなたのことについて聞かせてもらうわよ」

「……ああ。アルアと違って俺には面白い話なんてできないが、それでもいいならな」


 

 マルタが淡々と語りだす。

 彼はもともと中世編でスタートしたプレイヤーで弓と短剣、探索系のスキルを習得している。

 臨時パーティーで組んだメンバーにスカウトされ、"ブラック・ナイツ"に入団するも、そこはノーマナーなチームだった。

 利益の確保よりも戦闘を楽しみたい彼にとっては、探索系スキルの充実や対人慣れから便利屋扱いされていることに嫌気が差していた。

 PKをやらされたことが引き金となり、チームを離脱するも勢力が大きい彼らが幅を利かせている世界では活動しにくい。

 そんなわけでこの近未来の世界にやってきた、ということらしい。



「ラージウッドから聞いてはいたけど、最低な集団ね」

「もっと慎重にチームを選ぶべきだったよ。彼らには迷惑をかけた」

「もう気にしなくていいと思うわ。それより、あなたが受けているクエストについて詳細を教えてちょうだい」

「ああ。事態整理のためにこちらの基本情報から話すぞ。少し長くなる」


 彼がラージウッドと面識があるのはちょっとした偶然なのだろう。

 その偶然が巡り巡って今度は私にやってくる。

 西側の情報と一緒にね。



「西側、つまりサンクタウン周辺はこの国の開発計画が大幅に遅れている地域。ドームや企業の連中による利益の独占に我慢ならなくなった人々が多く住んでいる場所だ。そこで人々をまとめ上げているのが"教会"と呼ばれる宗教組織だ」

「教会、か。どんな教義なの?」

「人間には神から与えられた役割がある。それを全うするべく正しく生きろ、という感じだ。教義を理解し自身に落とし込むことで奇跡が起きると言われている。その奇跡の一つが"サイキック"、つまりは超能力の発現というわけだ」



 なるほど、魔法が使えない近未来編のテコ入れするためだけに"サイキック"というスキルを組み込んだわけじゃないのね。

 一応設定が用意されているわけか。



「そのサイキックってどんな能力なの?」

「そうだな……。最初は中世編でいう魔法のようなものだと思っていたんだが、どうやら違うらしい。超能力というだけあって発火させたり触れていないものを動かしたり、そういうところは魔法に近い。ただ魔法の効力はステータスの知力に依存しているが、サイキックは依存するステータスが決まっていない」

「どういうこと?」

「プレイヤーのステータスに応じて使える能力が変化する、ということだ」



 速さを伸ばしていたら【加速】という能力を、筋力を伸ばしていたら【破砕】という能力を。

 詳細は分からないがこんな感じで習得するらしい。

 MPの使い道がない近未来プレイヤーにとってはありがたいスキルなのかもしれないけど、自由に能力を選べないのはやっかいだ。



「そう。本来、自由度の高さがこのゲームのウリだ。だがサイキックの仕様はそれと逆のことをしている」

「マルタはサイキックを取得しなかったの?」

「俺はもともと中世編のプレイヤーだ。スキルでMPを消費するからこれ以上消耗を加速させることはできない」


 

 中世編はスキルありきの世界だ。

 こちらと違い無数のアクティブスキルを習得できる。

 逆にこちらはアクティブスキルがないのだから、枠自体はあまっている。

 サイキックが知力依存じゃないのであれば、覚えてみるのもありかもしれない。



「話を"教会"に戻すぞ。彼らは東側の銃器や科学技術に対抗して、このサイキック取得者を中心とした武装グループを作り上げた。俺みたいに非取得者もいるが、西側でスタートしたプレイヤーはその武装グループのメンバーという設定になっている」

「そのへんは情報ページで把握してあるわ」

「ではクエストの話に移る。教会といっても権力構造や魔術的な要素のみで組織が成り立っているわけじゃないようで、科学者みたいな集団も組み込まれている。そしてその集団を東側に送り込んだ」

「それが稼動していないはずの工業地区で活動していた、あのいかれた研究者というわけね」



 そう、ゾンビ騒動のどさくさに紛れて生きた人間を捕獲していた集団。

 自身の研究と実験のためには罪のない人々に苦痛を与え続けることも厭わないマッドな集まり。

 そして、ジェニーの母親を殺す理由を作った存在。



「何の研究をしていたか知らないが、実験結果を東側に売ろうとしていたらしい。その処分が武装グループ、つまり西側のプレイヤーにクエストとして課せられたのだ」

「それだけ?」

「ああ。裏切り者を処分し、組織の結束を固める。そして本格的な武力の投入を計画する、というのがこちら側のクエストの本筋だ。富の公平な分配のためのな」



 確かに東側はこの国の資源を管理し、ウェール社のような大企業にその扱いを委託している。

 この世界のアイテムは限られた企業が生産していて、頻繁にその企業のロゴを目にすることができる。

 その独占を開放するために西側が集結する、というのは分かりやすい話ではあるけれども……。



「まあ、プレイヤーはあくまでもゲームとしてのこの世界を楽しむだけだがな。本来ならば東側のアルアと西側の俺が組むなんてことは起こりえないはずだ」

「そのへん、中途半端よね。対人要素いれるとゲームが荒れるから避けてるのかもしれないけど」



 東と西。立場は違うけど東側の陰謀を暴き、支配から解放するという目的は同じようね。

 あちらが抑圧からの開放、こちらはゾンビ発生の解決、そういう切り口から真相に迫っていく。

 


「それで、マルタが私に頼みたいことって何?」

「……実は工業地区のクエスト、クリアしていなくてな」

「……あなた、レベルいくつよ?」

「63だ。そんな顔をするな、言いたいことは分かる」



 レベルキャップが開放され上限が80になったとはいえ、レベルというのは63は開放されて間もないこの時期では高い方だ。

 対人慣れ、つまり戦闘慣れしている彼があの辺りの敵に手こずるものなの?



「アルアにとってはサブクエストでも、俺にとってのあそこはメインクエストの中盤だ。それなりに強い敵がボスとしてでてくる。タイマンなら問題ないが、いかんせん周囲の亡者どもがな。数が多すぎる」



 事態を飲み込めた。

 確かに中世編出身の彼ではこの世界は厳しいかもしれない。

 質よりも量で攻めてくるこの世界、アクティブスキル重視の戦い方をしていればすぐにMPがカラになる。

 その点、通常攻撃でも威力が高い銃器は量を対処するのにうってつけだ。



「ザコの処理をしろ、と?」

「平たく言えばそういうことだ。ボウガンにも範囲攻撃があるにはあるが敵の数に対して殲滅力が追いつかない」

「わかったわ。本来受けることができない西側のクエストを間接的に体験できるし、私もそれに乗っからせてもらう」

「悪いな、助かる」



 あの研究者を"裏切り者である"という情報しか与えない教会。

 あそこで入手した報告レポートを見た感じ、あの実験結果の成果を教会は部分的にでも受け取っている。

 非道な人体実験を許容している集団が、清廉潔白なはずがない。



「それにしても、不思議だな。中世編のクエストにジェニーの生存。ただの遊びならいいが、どちらもゲームにとっては重要な意味がある」

「中世編のクエストをクリアしなかったら、この世界にクエストはでてこなかった。でもジェニーの生存が重要ってどういうこと?」

「クエストは悪く言えば"NPCからのお使い"だ。つまり次の行動や目的が示唆されるからプレイヤーはそれに乗っかればいい。だがアルアのジェニーは生存したものの、次の目的を示さないどころか一緒に行動するという自由な意思そのものが芽生えている」

「……」

「彼女はNPCであってNPCではない存在だ。俺にはまだ人間と遜色ないレベルで反応や行動、応対ができるプログラムを技術者が開発できるとは思えん。仮に開発に成功しているのならば、こんなこそこそと隠すように実装せずにむしろゲームの目玉にするのが普通だ」



 NPCであってNPCでない。

 言いたいことは分かる。だけど納得していいものかどうか、受け入れてしまっていいのかどうか、それが問題だ。



「クエストにはそこまで興味はなかったんだが、RC3自体をクリアするというアルアの考えは面白いな。どこまで協力することになるかは分からないが、情報は提供しよう。必要があればこちらも手を貸す」

「ありがとう。助かるわ。こっちの世界に知り合いはもういないから」



 いくらクエストやサイキックという新スキルが実装されようとも、グロくて救いようがない話が多いこの世界だ。

 街の様子を見るに、わざわざこちらへやってきたプレイヤーは多くない。

 そんなところをわざわざ選択する変わり者の私に、仲間なんてできなかった。



「では具体的にクエストの対策と打ち合わせをしよう。演習広場に行くぞ」

「演習広場? 今更武器の調整でもするの?」



 演習広場、中世編での訓練場みたいな場所。

 私がラージウッドの特訓に付き合った、スキルの試し撃ちや修練するための空間。

 今からスキル育成でもするのかと疑問に思っていた私に、マルタは鈍い光を放つ短剣を抜き出した。



「行動を共にするパートナーの特性と動きを把握しておきたい。それには対人戦が最適だ。嫌なら無理にとは言わないが」



 なるほど、そういうことか。

 たまには何もかも忘れて、無心に暴れてみるのもいいかもしれない。



「いえ。この勝負、受けて立つわ」

「手加減はしないぞ。そちらも全力でこい」


 

 闘争心をむき出しにはしないものの、戦闘に対する意欲は並のプレイヤー以上に持ち合わせている。

 彼が便利屋扱いされていたのも分かる気がする。

 高い戦闘力と、それを支える向上心は周囲の人間を惹き込む。

 でもそれがときとしてトップの人間には邪魔になるときがあるのだ。

 彼には彼なりに、私と違ったストレスが中世編の世界で感じていたのだろう。

 だけどこうして、純粋に戦闘を楽しむことが救いになるときもある。


 やろう、全力で。対人戦なんて滅多に訪れない機会なのだ。



「ふふ、あなたに銃弾の雨を浴びせてあげる。虹なんてかからない、鉛色の雨をね」

「……距離の優位性に足元をすくわれない様にするんだな」



 演習場へ向かうその間、既に私とマルタには熱が入っている。

 私にとって久しぶりの、心地よい感覚だった。




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