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3、carrion gardens

「避難する場所まで行けそうになかったから、植物園に行ったの」

「植物園に?」

「うん。お花や木がたくさんあって、隠れるのにちょうどよかったし建物の中にはまだ化け物がいなかったから」

「そっか。そしてそこでお母さんがいなくなっちゃったのね」


 ジェニーのこれまでの行程を聞いているうちに、だんだんと時系列で事の起こりが把握できてきた。

 もともとストーリーやクエストが実装されていなかったこのゲームで、私達に与えられた情報は少なかった。


 とある経済発展に成功した小さな島国、その東部で突如バイオハザード、つまりゾンビの襲撃が発生。

 いくつかの都市が無人化したものの、軍と警察の出動によって爆発的なゾンビの増殖は食い止められる。

 部分的に頻発する襲撃やドームの人間に対する反感で起こるデモなどから治安を維持するために、民間警備会社シティーガーディアンに権力が与えられ彼らが都市の防衛に就く。

 そして彼らに協力すべく最新かつ超技術装備を装備させたソルジャー=プレイヤーを援軍としてドームは送り出す。


 たったこれだけの情報ですらも私達には与えられていなかったのだから、その放りっぱなし具合は凄かった。

 与えられない情報と存在しないクエスト。

 グロ要素以外でもプレイヤーが別の世界へ移る理由としては充分。

 だって延々とゾンビを倒すだけなら、次第に飽きがくるってだれでもわかるもの。


 この『ジェニーの母捜し』のクエストを受けることで少し状況の整理ができた。

 今、この状況はシティーガーディアンが防衛についたことで一応の平静がサンシティに確保された状態。

 とはいえゾンビの襲撃は数こそへったもののたびたび繰り返され、もしヤツらがこれまで以上に群れて襲撃してくればどうなるかわからない、そんな緊張感の高い地域になっている。

 各所にはり巡らされたバリケードのこちら側は一応安全だが、一歩それを越えれば貪欲な死者達が闊歩する地獄へ足を踏み入れることになるだろう。

 そして植物園に行くためには、バリケードを越えなければならない。


「あそこね。わたし、すごく好きな場所なの。お花はきれいだし、おいしいお菓子もあるし。それに、お母さんが良く連れていってくれたんだ」


「……何でお母さん、いなくなったのかな?」


「わかんない。走り回って疲れて、眠くなっちゃったからベンチで寝てたの。お母さんと一緒に。でも起きたらお母さん、いなくなってて。大声で呼んでも、返事が、なくて……」


「……とりあえず私が見てくるわ。ジェニーは危ないから絶対にここから出ないこと。いいわね?」


「う、うん。そうだ、植物園で撮ってもらった写真があるの。これ、持っていって」


 渡された写真。

 楽しそうに母の腕に抱きついている少女と、それを優しく微笑み返してる母親。

 後ろには背丈の高い樹木、そしてベンチが並んでいる。

 束の間の睡眠をとったのもここなのだろう。

 それにしても撮影者は父親だろうか?


「優しそうなお母さんね」

「うん。わたし、お母さん大好き」

「……それじゃ、行ってくるわ」



 会話が成り立つのならば、人はその対象を命を持った何かだと認識する。

 そしてそれがこうも弱い存在であれば、助けたくもなるし愛着も湧く。

 私には『力』がある。プレイヤーとしての、ソルジャーとしての、ね。

 静かに、この世界がゲームであることを証明するステータス画面を展開する。


 アルア

 レベル60

 適用スキル――【サブマシンガン技能Lv50】

        【命中力強化Lv40】【連射力強化Lv40】【集弾性能向上Lv40】

        【二挺装備技能Lv35】【スイッチLv20】【弾丸知識Lv20】

        【対空射撃Lv20】【リロード強化Lv20】

                

        【キックアビリティLv45】

        【敏捷性上昇Lv40】【カウンター技能Lv40】


        【ステップLv50】【バックステップLv40】

        

        【片手剣技能Lv5】【パワーストライクLv5】【魔法技能Lv5】        

        【火炎属性マスタリーLv15】【パワーゲインLv30】


 待機スキル――

 スキル取得枠 560/1000

 称号     【バレットダンサー】



 武器はサブマシンガンだけ、それにキック系のアクティブスキルはあえて習得しなかった。

 だから枠が大分余ってる。

 中世編みたいに技名叫ぶの、あんまり好きじゃない。でも選り好みし過ぎたかもしれない。

 まあいいわ。現状であまり問題を感じていないし、どうやら新しいスキルも実装されたようだからね。


 

 さて、植物園か。

 確かサンシティ北部にあって工業地区と高級住宅地区が隣接してある場所。

 敵のレベルが30~40くらいだったかしら。

 もはや私の敵ではないけれど、ゾンビ離れが長かったから調子を取り戻すには調度いい。


 ジェニー……。

 いや、よそう。今以上に思いいれが強くなってしまえば、ゲームとはいえダメージが大きくなる。

 所詮、これはクエストだ。そう思いながらシティーガーディアンの建物を抜け、北へ向かう。



ーーー


 道中のゾンビ達をスルーしながら、植物園に侵入する。

 ジェニーが母と別れたときから時間が経過し、今ではこの施設にも動く死体が徘徊している。

 このレベルの敵となると、内臓を投げ飛ばしてきたりと飛び道具を使ってくるから少し厄介だ。


 愛銃、【Uni】を二挺取り出し警戒する。

 これらは一撃の威力はサブマシンガンの中でも低いほうだが、驚異的な連射速度とクリティカル発生率を誇る。

 "柔らかい敵"ならば高いダメージ効率を叩き出す。

 私のお気に入りの武器の一つだ。


 薄暗い施設の中に蠢く影が複数見える。

 動き方からして、間違いなくヤツらだろう。

 先手必勝、片っ端から倒してやる。



 先に仕掛けると決めたその瞬間、銃口から無数の弾丸が影目掛けて直進する。

 何発かは外れるがサブマシンガンはそういう武器なのだから問題ない。

 外れなかった大半の弾丸は動く死体の体に容赦なく穴を開ける。


――グオオオォォォォ


 体に穴を開けようが、手足をもがれようが、耐久値がゼロになるまで彼らは接近を止めない。

 

「いいわ。向かってくるのを止めるまで弾丸を撃ち続けてあげる」


 二重の連続音が響く。

 弾幕を張る、その点ではサブウェポンじゃないマシンガンには劣る。

 私が使うのはあくまでも”サブ”マシンガン。

 だけどこちらはリロード時間が短いという長所があるから隙が生まれにくい。

 ゾンビ退治だけでいうならベストな選択肢だと私は思ってる。


 銃声を聞きつけたのだろう、追加して大量のゾンビがやってくる。

 ただ銃を乱射するには少々厳しい数だ。

 だけど私も、手数にまかせて撃ってるだけでここまできたんじゃない。


 発砲を止めて、持ち前の移動力と回避力でゾンビの間をかいくぐる。

 内臓を投げつけてくる個体もいるが、かわしてしまえば問題ない。

 ゾンビを見つけては引き返し、ゾンビを見つけては引き返し。

 その繰り返しをへて、ヤツらを一塊の集団にすることを成功させる。

 全方位に対応し、射撃をするのは体力と弾丸の浪費だ。


「弾丸チェンジ。【貫通弾】」


 通常の弾丸に比べ少々威力は落ちるが、貫通し直線上の複数の敵にダメージを与えられる弾に交換する。

 ある方向からまとまった敵が進行してくる場合、この弾丸のダメージ効率は跳ね上がる。


「……いくわよ」


 一方的な殺戮が始まる。

 客観的にみれば多勢に無勢、本来殺戮されるべきは私だ。

 だけど単純な動作しかできず大したスキルも持ってない敵なんて数のうちにはいらない。

 銃のトリガーを引き続け、遠距離攻撃を側転で回避。

 集団に対して円を描きながら誘導し、発砲し続ける。


 鉄の塊とたんぱく質の塊が乱れ飛ぶ戦場。

 この世界でしか味わえない、神の存在を否定するかのような残虐な光景。

 とはいえ鎧なんて装備していないただのプレイヤーである私だ、たとえザコでも攻撃を受ければLPをごっそりもっていかれるだろう。

 だから敵に捕まるわけにはいかない。

 一方的に見えるその戦いの中には、常に死がちらついている。

 ……いや、死なないけどね。



 何匹倒したのか。最初から数えることを放棄してはいたが、それにしても久々にずいぶんな量を狩った。

 いつになっても気は進まないが、死体の山からドロップアイテムを回収する。

 お金、研究用のゾンビの皮膚。

 レベル差があるからレアが出てもあまり嬉しくはないが、そういったドロップは確認できなかった。


「まあいいわ。アイテムハントしてるわけじゃないしね。……さて、写真の場所はあそこかしら?」


 前方にジェニーから借りた写真の風景と似た場所を発見する。

 植物の位置、明かりの形、数。

 うん、ここで撮ったのは間違いなさそうだ。


 本来ならこれだけの情報で人を捜すのは無理だ。

 下手したら倒したゾンビの中に彼女の母がまざっている可能性だってあったのだから。

 でもそんなことを考慮する必要は無い。

 やるべきことは分かっているのだ。


「あそこに見えるのが、監視カメラね。ばっちりこの場所の状況が記録されていたはず。よし、警備室に行こう」


 警備室に保管されているであろう監視映像を確認すれば、ジェニーが眠っていた間に何が起こっていたのか分かる。

 写真の場所を離れ、警備室へ向かう。

 途中、カフェやランチを楽しむ場所、休憩所、お土産販売コーナーなどを見かけた。

 以前ここに来たときは、戦闘フィールドにしては無駄に作り込んであるな、と思っていた。

 でも今は少し違って見える。

 仮想であるとはいえ、NPCにとっての現実であるこの世界、それらの無駄が無ければ逆に不自然なのだ。

 部屋があるのに入れない宿屋、本があるのにだれも読む人がいない図書館。

 そう、今だからこそあれは無駄じゃないということがわかる。

 何かしらの生活の臭いを感じさせ、もしかしたらクエストが絡んでいる設備でもあるかもしれない。


 実際、情報共有ページを見ればこれまで意味を持たなかった場所や設備に、クエストが絡んでいるという報告が多数あった。

 植物園もその中の一つだ。

 ジェニー以外にも関連するクエストがあるようだが、どれもストーリーには直接絡まない、いわゆるサブクエスト。

 だけどサブクエストとはいえ、この場所に意味が与えられたのは事実。


 ……よそう。今は戦闘のことだけを考えよう。

 目の前には『警備室』という文字の記されたプレートがかけられているドア。

 ここだ。そっとドアごしに耳を近づけ、様子をうかがってみる。


「いる……わね。しかもちょっと特別なヤツが」


 うめき声がドアから洩れ出る。

 こんな場所で長時間、生存できるはずがない。とすれば中にいるのは察しがつく。

 知能がない相手に待ち伏せをしても仕方が無い。

 意を決してドアノブを回し、突入する。


「!? 危ない!!」


 部屋に入った瞬間、何かが高速で迫ってきた。

 とっさに回転し回避する。

 自分が元いた場所まで伸びているそれは緑色のツタ。

 ツタを触手代わりに攻撃をしかけてきたってわけね。


 その元へ視線をたどると、何とも形容しがたいクリーチャーがそこにいる。

 人型をしている新種の怪物。いやあの目に光のない生き物はゾンビに違いない。

 ただ胸部に裂け目があり、そこにまるで寄生しているかのように植物を宿している。

 そこから茂るツタで攻撃を仕掛けてきている。


 なるほど、クエスト情報共有ページにあったとおりだ。

 名称『プランター』、植物とゾンビが合わさった怪物。

 植物が寄生したのか、ゾンビが植物を取り込んだのかは分からない。

 だけど、敵として立ちはだかる者は倒すのみ。


 弾丸を【通常弾】に戻し、サブマシンガンを乱射する。

 迫りくるツタを【ステップ】や回転で回避しながら銃弾を撃ち込み続ける。

 ツタそれ自体の速度はけっこう速いが、本体であるゾンビ自身は鈍足。

 動きが遅い相手ならば銃で一方的に攻撃し続けられる。

 圧倒的に有利なはず、だった。


「くっ、硬すぎる!」


 事前情報で知ってはいたが予想以上にタフだ。

 植物のくせに本体である肉体へツタを何重にも絡ませ、銃弾の侵入を防いでいる。

 だけど絡ませただけでは銃撃を防げるはずがない。おそらく表面を硬化させている。

 柔らかい相手には驚異的なダメージを稼ぐサブマシンガン、だが硬い相手だとそうはいかない。

 岩に豆鉄砲を何発撃っても効果が無いように、手数がいくらあってもどうしようもないのだ。


 そう、これがサブマシンガンの限界であり、それを武器に選択したものがロケットランチャーやスナイパーライフルに浮気する理由でもある。

 そうなればクエスト報告者の使用武器の内訳は、自然と強武器がほとんどの割合を占めることになる。

 私がプランターの防御力を把握しきれなかったのはこのためだろう。

 ゲームデザインとしては、複数の武器を要所要所で使い分けて欲しいという意図が見え隠れしてはいる。

 でも私はそうしなかった。

 中世編で出会った仲間たちを見てれば、私の選択がたとえ最良ではなくても、決して絶望すべきものでもないと分かるから。


「チェンジ、【ソフトポイント弾】。接近戦を仕掛ける!」


 敵がどうしようもなく硬いのならば、とれる方法は二つ。

 妨害系の魔法やなんらかの手段で敵の防御力を下げることが一つ。

 あるいは属性相性、補助魔法、特殊効果など様々な条件を利用し、こちらの火力を上げる。

 魔法どころかアクティブスキルがほとんど存在しないこの世界で、やれることは後者だ。

 つまりこちらの火力があがる環境を作り上げる、そういうこと。


 中世編で冒険したことでゾンビ以外の敵の攻撃パターンを学ぶことができた。

 ツタの攻撃を回避し、超近距離で植物の絡まりが弱いところを射撃していく。

 敵は声を上げない。だけど攻撃が効いているのは分かる。

 絡まっている植物と肉体との結合が弱くなっている。

 近距離で威力が上がるソフトポイント弾、弱い箇所を射貫く技術、そして称号【バレットダンサー】の効果。

 全てが合わさり、敵の防御力を抜いているのだ。

 目に見えてプランターが弱っている。

 


 最後の抵抗だろうか?

 プランターが絡まっていた全てのツタを肉体から外し、私目掛けて何十も飛ばしてくる。

 いくら回避力が高くても、複数攻撃による広範囲攻撃は捌けない。

 こうなればアレをやるしかない、か。



 私はインベントリからこの世界に似合わない前時代的な剣を取り出す。

 二度と使うことがないと思っていた、少年との訓練で使用した武器。

 ためらいはあった。でもそんな無意味なこだわりを今は捨てよう。

 刃を天に掲げ、短くこう呟く。


「【パワーストライク】」


 言葉と共に剣を振り下ろし、衝撃波を発生させる。

 銃器では実行できない、点ではなく”線”の一撃。

 点の攻撃で迫るツタを撃ち落すのは神がかり的な能力がなければ不可能。

 でも線だったら、いくぶんか難易度は下がる。


 たて続けに剣を振り、そのたびに衝撃波を発生させ、対象を切り裂いていく。

 本来、アクティブスキルは連射できるものなんかじゃない。

 威力が通常攻撃よりも高いために、連射可能とすればゲームバランスが崩れてしまう。

 だけど私はサブマシンガン使い。パッシブスキルによって”連射力”と”リロード”を強化してあるんだ。

 つまり、それらの恩恵は剣技である【パワーストライク】にも適用され、本来実行不可能な連射力を可能とする。


 襲いくる全てのツタを撃ち落としたのを確認、【ステップ】の行使で今一度プランターへ接近する。


「ハァッ!!」


 加速された前進の勢いで前転、高さの頂点からカカトの一撃を胸の裂け目にお見舞いする。

 ぐしゃりとした感触、与えられた攻撃エネルギーを処理できずに、植物から血のような赤い液体が吹き上がる。

 いや、血そのものなのかもしれない。でも化け物の生態なんて私にはどうでもいい。


 赤い水の噴水が止まると、化け物はピクリともしなくなった。

 ザコではなかったがある程度戦術を考えなければ勝てない相手でもあったことを思うと、この先も大変なのだろう。

 クエストが実装された影響で、敵もまた新規に実装されている。


「……銃だけでやる。ちっぽけなこだわりを破っちゃったけど、優先順位の問題よね」


 ラージウッドとの訓練のために覚えた剣技。

 訓練以外では使うことのなかったアクティブスキル。

 使いたくはなかった。だがそのこだわりのために目的が果たせないのならば、あまりにも思考がゲームでありすぎる。

 ここは仮想の世界、だけど私にとってはそうだとは言い切れない。

 剣をしまい、再び銃を装備する。


「柔軟な思考で、ね」


 私の中の無意味な硬さが、ほんの少しだけ崩されたような気がした。




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