第四十話『出発』
いよいよクエスト最後の討伐が始まる。
目標、成果、想い、執着、関わり。
色々なことを考え、行動し、その結果として今に至るわけだ。
クリアしても、逆にクリアできなくても、俺達の生活はそう変わらないだろう。
たかがゲーム、強敵を倒したからといってだれも褒めてくれることもが無い、自己満足の世界。
ゲームでの成績や成長、物体をリアルにもたらすことはできない。
そんなことは分かってる。
でもそんな場所だからこそ、こうして集まった人達を俺は大事だと思う。
ここでの経験が思い出として共有されるのだから、それはきっと現実へ繋がっていく。
「みんな、いよいよだ」
チームハウスのロビーにはメンバーが集まっていて俺を囲んでいる。
みんな黙って同じ方向を向いている。
それぞれに今回の討伐に感じるところがあるんだろう。
「最初に言っておきたい。本来、メンバー全員で挑むべきであるのに、例のことで別働隊を用意することになったわけだ」
言葉を一旦切る。
どういう言い方をするか、俺は少し迷った。
だがやっぱり俺が原因なのだから、ここは謝るべきだな。
「ごめんな。仲間ハズレというか、人を選ぶみたいな真似しちゃって」
俺が心配性じゃなければ、クエストにそこまで執着していなければ、失敗覚悟でPKを気にせず全員で戦う選択も取れる。
情報が少ないモンスターと戦って勝てる確率がいかほどになるのかは分からない。
だけど"ブラック・ナイツ"が妨害してきた場合、強化された"デスタウロス"には絶対に勝てないということは確実に分かる。
遺跡での一件以来、弓と短剣の使い手だったマルタは見かけないが、ヤツらの他のメンバーも流石に今はレベルが高くなっているはず。
純粋な対人戦でも簡単には倒せないのに、こちらはPK認定を避けるためにトドメを刺すことができないのだ。
そんな状況で討伐が上手くいくはずがない。
「気にすんなよ、リーダー! 今回は一緒にいけないけど、みんなから色々教えてもらったし、ボスとかレアモンスターもこれまでにいっぱい倒したよ。俺、このチームに入ってほんと良かったよ」
「ケイタと同じです。みんな優しいし、女性の人が多いから会話するだけでも楽しませてもらってます」
活発でムードメイカーの姉弟。
チームのイメージアップ戦略の一環だったとはいえ、偶然という形で出会い、俺達と一緒にやっていくことになった。
ありがとな、俺も楽しかったよ。そしてこれからもよろしくな。
「……集団の行動を決めるのがリーダーだ。そして決めたことに従うのがメンバー。気に入らなければとっくにここを抜けている。堂々とやってくれ」
日ごろ寡黙なミドリさん。
顔もいかついし近寄りがたい雰囲気があるんだけど、治癒魔法覚えてるだけあって面倒見が良いんだよな。
ケイタもよく懐いている。
こういう大人の人の存在はありがたいと思うと同時に、俺の方向性がどうであるのか冷静に考える機会をもたらしてくれる。
「私も感謝している。仕事もあって団体行動ができない時もあったが、できるだけメンバーと関われるようにラージウッドが調整してくれていたのは分かっている。ここはメンバーの質が高くてやりがいがあるよ」
リアルではどんな振る舞いをしているのか一番謎なジェシー。
社会人プレイヤーが当時いなかったし、なんとなくチーム加入を断られるかと思ってたんだけどうちに来てくれた。
銃器はアクティブスキルがないが、その分武器種自体の知識を彼女は豊富に抱えている。
まだまだミステリアスなところが多いが、これからの活動でそれも段々分かってくるだろう。
「みんな、ありがとう。襲撃の可能性はゼロじゃない。むしろいつもより念入りに工作をしたから来る確率が高いかもしれない。危なくなったら遠慮なく【ワープストーン】を使ってくれよな」
「大丈夫だって! 戦利品、期待しててくれよなー!」
別働隊のみんなが頷き、そしてチームハウスを後にする。
彼らが向かったのは俺達が向かう沼地とは正反対の狩場。
この誘導に引っかかれば、"ブラック・ナイツ"も俺達本隊の邪魔はできなくなるはずだ。
「さて。次は私達の番、ですね」
「初めての、赤い魔物との戦闘。少し、不安」
ピノンさんとミルに取っては、クエストに関わるモンスターと戦うのは初めてだ。
可能な限り彼女達のレベルは引き上げたが、いくらレベルがあっても経験という財産は実体験しなければ築けない。
「俺もそうさ。赤い魔物と戦うのは三回目だけど、客観的に考えて勝てるかなんて分からない」
討伐対象はレアモンスター"デスタウロス"の強化個体。属性は火。
外見は成人男性を二周り大きくした体に、牛の頭部が乗っかっている。
言ってしまえばゲームとかにでてくるミノタウロスってヤツだ。
実は強化されてない個体ならばみんなで倒したことがある。
【ミノタウロス変身マスク】はそのときの戦利品なのだ。
ヤツの武器は見る者を戦慄させる大きな鎌、そして各種炎の魔法と影のような気を操って襲い掛かってくる。
影の攻撃以外は特に変わった攻撃をしてこないヤツだったが、やっかいなのはその戦場だ。
障害物が少なく見通しが良い分、アンデッドモンスターが俺達のほうに寄って来るのは辛い。
とはいえ適正レベルを越えたフルメンバーで挑めば撃破に関しては難しくなかった。
前衛がきっちりとヤツを押さえ、後方から遠距離攻撃をしてもらえれば倒せる。
だがそれが強化されればどうなるか?
俺の盾で耐え切ってみせる、と言いたいがおそらく難しいだろう。
それでも前にでなければならないのは自分なのだ。
熱意と不安がごちゃまぜになる。
大した肩書きではないとはいえ、今はチームリーダーでもある。
小さくても一つの集団におけるトップなのだ、不安を顔色に出すわけにはいかない。
統率するという責任、だけどチームがあるからこそ得られるものもあるのだ。
気持ちが負けそうになるときは、メンバーの顔を見つめる。
一緒に戦ってきた仲間の存在は、俺を大きくしてくれる。
単純なレベリング目的で集まった集団じゃない。
それぞれに事情があって、気持ちがあって、ここにきてくれた。
そうだ、失敗するとか役目を果たすとかそういうことじゃないんだ。
俺は、俺達は楽しむためにここにいるんだ。
大好きな中間達と目標へ突き進んでいくのに、暗いことを考えてどうする?
「よし、作戦のおさらいだ! って変わったことはしないけどな。 前衛は俺とカイでやる。カイ、デスタウロスを押さえるぞ」
これまでの歩みを振り返ると、俺の一番の親友はやはりカイだ。
未だに考えていることが分からないときも多いが、その存在は刺激となっている。
「いよいよ、ですね。高レベルの、しかも強化されたレアモンスター。今までの成果を出し切りましょう!」
「なんだかんだで、お前との連携が一番しっくりくるからな。最前線で戦ってきたんだ、やってやろうぜ」
自信に満ちた笑みを浮かべ、彼は拳を目の前に掲げる。
俺はそれに応え拳と拳を合わせる。
前のゲームからやってきた、大事な戦闘の前のちょっとした儀式。
「アルアさんは射撃でダメージを累積させつつ、周辺に出てくるアンデッドの処理をお願いするよ」
「まかせといて。スケルトンは近未来編にはいなかったけど、ゾンビと似たようなもんよね。片っ端から砕いてあげるわよ」
卓越した戦闘のセンスと、定石に囚われない戦闘スタイル、そして精神。
事情は分からないが気持ちに不安定さが残っているのは事実だ。
だけど彼女が戦場に存在すること、それはパーティーに数多くの選択肢を与えてくれる。
撃ってよし蹴ってよし、近距離と中距離をスイッチできるスキル構成は突発的事項の解決に貢献する。
「リサもアルアさん同様、周囲を警戒してモンスターの接近を報告。各種スキルで対処してくれ。場合によっては前衛を頼む」
「了解だよ、先輩。みんなと比べて火力は高くないけど、私がやれることをやる。できないことを嘆くんじゃなくてね」
攻撃手段をチームメンバーで一番多く所持しているのがリサだ。
スキル育成を特化方針でやってないだけに瞬間火力は確かに劣る。
しかしその欠点を補ってあまりある回避力、スキルの選択と実行力が彼女にはある。
「そして後衛だ。ミルとアイカさんは可能な限り高威力のスキルを撃ち込み続けてくれ」
「了解です。前衛の方々が命を削って敵を抑えてくださるのですから、唯一ともいえるその仕事、必ず成し遂げましょう」
「任せて。出し切るよ、全力。ピノン姉さんが守ってくれるから、敵が倒れるまでやり続ける」
スナイパーライフルと弓による後方射撃。
このゲームならではの組み合わせだと思う。
そして複数の要素から成るこのゲームだからこそ、彼女たちともこうして出会えたのだろう。
鍛えられた高火力は、戦闘において俺達の希望だ。
偶然の重なりであっても、一緒に行動できる今を喜びたい。
「ピノンさんはメンバーの回復、そして後衛に絡んでくるモンスターの排除を任せる」
「ふふ。中世編でまったりプレイしているはずでしたのに、今はこうして強力なモンスターと戦うためにチームを組んでいる。面白いことです」
彼女の戦闘力は底が深く俺にもまだ把握できていない。
リアルでどんな風なのか、日ごろ何を考えているのか、高校生の俺にとって掴みどころが分からない存在。
だけど『年上のお姉さん』という言葉が良い風に響くピノンさんは、アルアさんとは別の方向性で俺に安心感を与えてくれる。
きっと与えられた仕事をやりきってくれるはずだ。
「そして、アミには敵の火炎魔法を防ぐ防壁を展開してもらう」
「うん、分かった。みんなを守るね」
彼女には申し訳ないことをお願いしていると本当に思う。
クエスト対象のモンスターは赤い魔物、そしておそらく赤は火を意味している。
火属性の魔物に対して火属性の攻撃を仕掛けてもダメージが低下してしまう。
本来、魔法使いタイプのスキル構築をしていれば、パーティーにおいて火力を期待され、敵殲滅のエースとなるべきプレイヤーなのだ。
属性を絞って特化してあるために威力も同じレベルのプレイヤーより高いのだが、属性相性の問題が付きまとう。
そのために、彼女の仕事は防壁の展開という地味な仕事になってしまうのだ。
「そんなに申し訳なさそうな顔、しないで」
「だけどさ……」
「派手に攻撃魔法を撃てないのは仕方がないよ。でもね、属性を絞ったからからこそ、強力な火炎魔法を防ぐことができるんだなって思うの。必要とされてるって実感できるから、ダイキが考えてる以上に、私は楽しいし充実してるんだ」
彼女は俺とカイ同様に最後まで特化にこだわり、他属性に手を出さなかった。
だけどそんな彼女だからこそ、彼女にしかできないことがある。
そもそもアミがいなかったから、これまでの赤い魔物討伐なんて恐らく成功していなかったはず。
防壁を張る、そんな地味な仕事だが取替えが効かない必要不可欠な存在。
いや、モンスター戦だけの話じゃないな。
精神的にも、俺にとっては大事な存在に彼女はなっている。
アロマへの理解から始まったあの関係性は、今は多岐に渡るの支えなのだ。
「……ありがとな」
「ううん、私のほうこそ感謝してるの。この役割、誰にも譲れないから。最後までやり抜きたい」
作戦の確認は終わった。
俺、カイ、アルアさん、リサのパーティーで一つ。
アミ、ミル、ピノンさんでもう一つ別のパーティー。
パーティーメンバーが最大で5人までなので今回は2パーティー構成で敵に挑む。
補助魔法をかける際に若干手間は増えるが、経験値狙いじゃないので問題ない。
「それじゃ出発だ。これまでの経験を結果に変えてここに戻ってこようぜ。俺達は俺達のやりかたで、このゲームを攻略したんだってな」
歩みだすその前に、もう一度みんなの顔を目に焼き付ける。
そうするとなんとなく力が湧き上がってくる気がする。
スキルは街中じゃ行使できないのだから、それはスキルの影響なんかじゃない。
ってそんなこと当たり前のことだよな。
……よし、行こう!
先に出た別働隊から遅れること数分、馴染んだチームハウスのドアを開け、俺達は目的地へ向けて走る。




