第三十五話『仮想世界の日常』
――チーム名 『ギャザリング・アケイシャ』
アケイシャの集い。略してGA
うーん、語呂とか響きが良く無い気がするけど意味を考えればこれでいいか。
アカシアの花言葉を絡めて『友情の集い』。
他にプラトニックラブだとか愛だとか恥ずかしい意味のワードもあるが、そっち方面はカイに任せればいい。
あの遺跡での一件以来、RC3は俺とカイ、アミによる三人の冒険では無くなった。
チームメンバーリストに記されるアイカ、リザラーザ、ピノン、ミルの名前。
あまり好きな言葉ではないが、ハーレム状態に見えるのは気のせいだ。
女性メンバー全員がカイの美人度でいうところの6以上だというのは偶然だ。
ここに本来ならばアルアさんやイェリコを加えたかったのだが、ログインしていないのか、はたまた別世界にいるのか連絡が取れない。
必要性が無かったので知らなかったが、どうやら別世界にいるプレイヤーには連絡がとれないらしい。
発足して以降はチームの方針やルールをみんなで考えて、設定した。
といってもあまりこれまでの関係と違いは無い。
狩りに行きたいメンバーは狩りに行けばいいし、生産活動したい人は生産に励めばいい。
ただしチームを作ることで連携した活動や連絡が取りやすくなるし、素材を採るための人員募集を外部でする必要もない。
問題点は、やはり"ブラック・ナイツ"との関わりだった。
あのあとのダノンは相変わらずの執着ぶりで、情報掲示板にMPKプレイヤーとして俺の名前を挙げることをやってきた。
このゲームではスクリーンショット(写真みたいなものだ)を取れないから状況説明を文章ですることしかできない。
普通だったらそんな行動に信憑性は無いのだから、「なんか言ってるよこいつ」で済む。
しかしながら、ダノンはあれでも有力ギルドのリーダーであって、やつのことを詳しく知らない者にとっては名前を覚えて警戒するには充分な情報だ。
詳しく知っている者にとっては、わざわざ厄介ごとに関わりたくないという思考が働く。
別に俺だけ叩かれる分にはいいんだが、メンバーへの謂れの無い誹謗中傷だけは容認できない。
反論はやるだけやっておいたし、あとはその情報を見た本人達が判断してくれればそれでいい。
カランカラン、と玄関のドアに取り付けた木製のインテリアが音を建てる。
またろくでもない来客者だろう。
拠点が欲しいということでチーム用のハウス、『チームハウス』を購入したのだが今のところまともな来客は無い。
「ダイキ、チームへ加入希望だって……」
「はあ、わかった。通してくれ」
アミに連れられて、一人の若い男が通される。
20台前後だろう、俺より少し年上な感じがする。
「リザラーザさんがここに所属してるって聞いたんだ。掲示板でも名前でてたし、間違いないよね?」
……やはりこのパターンか。
「そうだったとして、それが加入の理由ってことですか?」
一応年上だし初対面だからな、俺もチームリーダーだから丁寧に対応はする。
「ははは、いや、もちろんそうじゃないよ。ボス狩りとかも興味あるし、ここなら楽しめそうだなってね」
そういいながら奥で生産に勤しんでいるピノンさんやミルをじろじろと眺めている。
ちなみに目当てであろうリザラーザはチームハウス用の生活雑貨の購入に出かけ、カイとアイカさんは二人で外出中だ。
「申し訳ないんですけど、今はチームメンバーの募集は特にしてないんですよ。お引取りください」
「そ、そんな、待ってよ。俺一応レベル50越えてるし、スキルも剣に加えて4属性の攻撃魔法、それに治癒や探索系スキルもあるんだ。絶対役に立つって」
お決まりのスキル構成だなあ。
ある程度どこでも行ける能力、そんなの大半のプレイヤーがそういう路線で進んでいるんだから特に魅力はない。
スキル自体は本人のやりよう次第でいくらでも活用できるから、別に汎用が悪いってわけじゃないんだがこの人をいれても問題しかでてこない気がする。
「本当に悪いんですが、規模を大きくするつもりはないんですよ」
二度の断りを入れたとき、加入希望者の態度が一変する。
「そうかい。やっぱりボスを独占して美味しい思いをしてるんだな。分け前減っちゃそりゃ嫌だろうね。メンバーも甘い蜜に群がる女達ってわけか。稼げる男は違うねえ」
「煽ってもダメなものはダメです。お引取りを」
「くそ、情報どおり最低なチームだな!」
うるさい来客が帰ってほっとする。
やっぱり美人の女性プレイヤーは目立つんだろうな。
恋人探しは一向に進んでいないし当分は進める気もないが、確かにうちのチームは他所より少しばかり異質かもしれない。
「リーダー、うるさいのやっと帰ったね」
「ミル、別にリーダーって呼ばなくていいぞ。それよりどうだ? 生産のほうは順調か?」
「ポーションの作成自体は順調、でも相場より安く置くとあいつらが買い占めたりしてくる」
「売買は自由とはいえ、あまり気持ちのいいものじゃないな。もうお得意さんだけに販売するってことでここでアイテム販売やるか」
別に転売しようが自由だけどさ、ポーションの値段が上がると生産スキルとってないプレイヤーが困るんだよな。
俺としては使ってくれるプレイヤーに買っていって欲しい。
だから信頼できる人やお得意様限定で、チームハウスを販売所にするのも悪くない気がしてきた。
ボスドロップやレアモンスタードロップもあるから、露店通りから離れていても店としてのカラーは出せるはずだし。
「ラージウッドさん。それはそれでいいのですが、先ほどみたいなプレイヤーが増えるかもしれませんよ?」
「そうだよなあ。もう少し考えるか」
ダノン勢力とのやりとり以外にこうした厄介ごとがでるとは思っていなかった。
以前にチーム作ったときはガチでムキムキなファイターの集まりだったからな。
ほんとどうしてこうなった? って感じだが、まあでもやっぱり女の子がいると華があっていい。
男ばっかりだとゲームの話や下ネタばっかりでむさ苦しい。
アロマの話なんてしようものなら、その瞬間から『アロマちゃん』ってあだ名付けられていじられるのが想像できるぜ。
まあもっとも、それは昔の話で、もう戻ってはこない過去の話だ。
「ただいま! 色々買ってきたから勝手に設置するね」
「おかえり。そっちは任せるから好きにやってくれ」
帰った途端、リサは購入したインテリアや生活雑貨を配置していく。
やっぱり女の子はこういうときのセンスが違う。
何も言わなくても掃除をしてくれるしってこれはアミが真面目で綺麗好きなだけかもしれんが。
「先輩、何かいい香りがするやつちょうだい!」
「じゃあこのインセンスを使ってくれ。【メンサ草】をベースに合成したやつで、いわゆるミントの香りがする。頭がスっとするし夏向けのアイテムだ」
「じゃあさっそく。……ほんと、いい香りだね」
「ガムの香り」
「ああ、それに近いな」
香りを堪能しつつ、リサはマットに寝そべり、ピノンさんは薬品生産、ミルはピノンさんに纏わり付きながらお手伝い、アミはスキル構築を考えている、ようにみえてうとうとしている。
……みんなくつろいでんな。
ちょっと前までファイアドレイクの討伐にいったり、遺跡にいって緊迫した戦闘をしたりしていたはずが今ではずいぶんのんびりしている。
まあでもいいか。こういう楽しみ方だってゲームだからこそだ。
アミを除いてリアルで会ったことがない人間同士が、こうして普段通りの姿で生活を共有している。
話し相手がいて、遊び相手がいて、戦闘仲間がいて。
お金もアイテムもそれなりにあって。
これがリアルなら最高だろう。
そんなことを考えていると、この世界に似つかわしくないピピピっという電子音が響く。
「時計なんて買ってきたのか」
「そうそう。多分近未来編のアイテムなんだろうけど便利かなって。お昼、食べに行きましょうよ」
「そうするか。他に行く人~って全員か。よし、いこう」
確認するまでもない、みんな立ち上がっているのだ。
俺一人に女子四人、華やかな集団がいきつけのお店に向かうのであった。
ーーー
おいしいランチを堪能し、追加のデザートや冷たい飲み物を注文する。
特になにもすることなく、まったりと他愛もない雑談に花を咲かせる。
このお店、女子向けのイタリアンな雰囲気の店で、もしリアルに有れば俺は絶対に入らない、そんな場所だ。
最初は気恥ずかしいものだったが回数を重ねることで慣れる。
男プレイヤーの羨望の視線を回避できる点でもここは便利だと今なら思える。
「カイ先輩とアイカ先輩、絶対付き合ってますよね」
恋愛話に入ったか。年頃?の女の子に相応しい話題だ。
他のメンバーの食いつきもいい。
「どうなんだろうな、カイはいつも女子を誘ってるから。アイカさんはそういうの興味無さそうに思えるんだけど」
「先輩は鈍すぎですよ。確かにカイ先輩は女好きっぽいところがありますけど、嫌らしさがないですからね。そんでもってイケメンですから、落ちない女の子なんてほとんどいないんじゃないんですか?」
「あいつ、リアルで彼女いないぞ。付き合ったとかそういう話も聞かないし、そうであるならば多分俺にしなくてもいい報告してくるはずだからな。アイツも俺と同様、お食事会以外は大抵男とつるんでるよ」
「リーダー、……ホモ?」
「ちがうわ! いや、俺はマジでそういうのじゃないからな。って笑うなよ、ピノンさん……」
ちょっと男同士で仲が良いとこういう方向でいじってくるんだよな、女子って。
本気でそういう風にとってるわけじゃないからいいけどよ。……いや、本気じゃないよな?
「まあ、ホモはおいといて。アミ先輩からみてカイ先輩はどうなんですか?」
「わ、私!? うーん、友達、かな。一緒にゲームやるまでは、その、なんていうか苦手だったかな」
「分かる気もします。それにしても先輩達が同じ教室で、同じ時間を共にしてるってうらやましいなあ。楽しそう」
「あら、三人はクラスメートでしたの?」
「あ、ああ。一応な。ところでリサは学校どうなんだ?」
あんまりリアルのことを他人に聞いてこなかったが、話の流れだしここは構わないだろう。
「私、ですか? 普通ですよ、普通。なーんにも面白いことは無いです! それより先輩達の方が面白そうですよ。だってクラスメートの男女で同じVRMMOやるってあんまりないですよ。女子ってあんまりゲームやんないし。あ、もしかして」
「もしかして?」
「アミ先輩と先輩、もしかして付き合ってるんですか? 恋人同士だからいつも一緒、みたいな!」
「ブホッ!! そっちに方向性が変わるのか!」
飲み物を噴出すところだった。
なんだろうな、こう、予測してないとかわしにくい攻撃ってやつだ。
「ち、ちが……」「違うよ。一緒にいることは多くなったけどな。RC3やるまで話をすることすら無かったくらいだ」
「ええ!?それじゃどうして今一緒にやってるんですか?」
「それ、気になる」
「俺も厳密には分からんが、カイのヤツがな……」
これまでのいきさつを話す。
まあ振り返ってみればけっこう不自然っていうか、カイに振り回されてるな。
結果で言えば俺はアミと友達になれたことを嬉しく思ってるし、それで良かったんだけど。
カイがアミにこだわってるような感じがして、実は最初のほうはカイがアミに気があるんじゃないかなって思ってたんだ。
でも一緒に行動してるとそういう感じじゃないし、今でも良くわからねえ。
「美人度とかお食事会とか、カイ先輩、リアルでもあんな感じなんですね」
「そういえば、リサも誘われたのか?」
「ええ。ナンパか何かでウザいなーって最初は思ってたんですけど、途中で何かレアモンスター狩りとかを熱く語りはじめちゃって。意外に思えてつい協力体制を取ることを了承しちゃったんです」
軽薄さの中にみえる真面目さ、か。
ヤツとの付き合いも長いけど、まだ良く分かってない部分は確かにある。
「まあそういうことだ。アイツ馬鹿だから『このゲームで恋人作る』って目標を俺達に押し付けてるからな。そういう意味じゃアイカさんとのそういう関係を狙っていてもおかしくはないか」
「狙うっていうか、そういう関係だと思う。付き合うところまでいってるかは分からないけど、アイカさん、カイのことをいつの間にか名前で呼んでたから」
「そうだっけか。アミもよく気が付くなあ」
「……先輩が気が付かなさ過ぎるだけだと思いますよ」
だいぶ話が盛り上がったな。
このままじゃ夕方までまったりと話が続いてしまいそうだ。
ミルなんかは二皿目のアイスを平らげてしまっている。
「そろそろ行くか。ちょっとした贅沢をするためにはお金を稼がねえと」
「あ、ちょっと待ってください! これ、お返しします!」
リサから差し出されたアイテム。
それは罠関連のスキルレベルを上げるレアアイテム、【手練の指輪】。
忘れてたわけじゃないが、チームメンバーになって行動を共にするにつれて所有権があいまいになってしまってた感がある。
「こういうところはチームとはいえしっかりしないとダメですよ! ちっぽけなことでも関係にヒビが入ることってあるんですから」
「ああ、それなんだがな」
俺は一旦、その指輪を受け取る。
そしてすぐさま、短剣の扱いに長けてるようには見えない細くて綺麗なリサの手を取り、その指にはめ返す。
「せせせ、先輩!?」
「だれも罠関係のスキルを特化させてないしさ。出したメンバーで話合ったんだけど使える人が使えばいいんじゃないかなってことになった。だったらリサにあげようって俺が言ったんだ。リサに似合うと思うし気にしないでもらってくれ」
正確にはアルアさんの了承はとっていない。だけど連絡が付かないのだ。
まあレアアイテムに執着なさそうだし、もし不満がでても人数分で割った代金を渡せばいいだろうってことも決まってある。
「あ、ありがとうございます! 大事にしますから! 嬉しいなあ……」
「大袈裟だ。まあ装飾の雰囲気とかリサに合ってるし、適材適所? いや言葉が違うか。まあ、なんでもいいさ。活用してくれれば」
リサが薬指にはめた指輪を見つめて、赤子に触れるが如く優しく触れている。
アミのときもそうだが、女子はこういうアクセが本当に好きなんだな。
「ラージウッドさん、後でどうなってもしりませんよ?」
「ん? 分配の話は大丈夫だよ。さて、腹ごなしに狩りに行こうぜ。五人のフルパーティーだし、あわよくばボスかレアモンスターを狩って帰ろう!」
仲間とだらだら過ごして、会話して、戦って。
部活をしていない俺にとって最高に楽しい時間だ。
カイが決めた半分の目標、『恋人を作る』なんて目指さなくても、俺は充分に幸せを感じているのであった。




