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Ruin & City 3 ―それぞれの世界で―  作者: 夕陽倍施工
第1章:ラージウッド編~楽しむということ
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第三十三話『つながり』


「はあっはっはっ! リザラーザが逃げたぞ。これは傑作だ」


 戦闘中にも関わらず大きな笑い声を上げるダノン。

 弱みを見つけそれをいじることで快感を覚えている、そんな不快感のある嫌な笑いだ。


「彼女に対する熱情が冷めましたか?」

「はは、逆だ。損得を計算し、不利な局面を回避するよう振舞うことができる女だ。そういったヤツのほうがやりやすい。俺は何としても彼女を手にいれるぞ」

「嫌われてますのに?」

「言ったはずだ、やりやすいってな。まあ捕まえられない状況になってしまうなら別を探すさ」


 RMTどころかPKすら躊躇わない性格の持ち主。

 どんなに黒い手段を使ってでも彼女の居場所を失くし、自らの意思に従わせようとするだろう。

 リサ自身に関しては、本当に付きまとわれ問題が大きくなればRC3を止めてしまえばいい。

 だがこのままだと他のプレイヤーがリサの代わりになるだけだ。


 いや、よそう。今考えるべきはそこじゃない。

 目の前の戦いをどう切り抜けるか、それだけが重要なのだ。


「リアルならともかく、このゲームの世界で女はそこまで弱くありませんわよ? 少なくとも肉体的には」

「そう言いながらお前達がこれからボロボロにされるのを想像すると、たまらないものがあるな」


 男が女に惹かれる。その存在を所有したくなる、独占したくなる。

 それは表面上だけならば分かる話だ。

 だけど女はモノじゃない。自分のつまらない欲求を満たすためだけの存在なんかじゃない。

 同性の俺ですらこれまでにない嫌悪感を感じるんだ、相対しているピノンさんはそれ以上の負の感情が渦巻いているに違いない。


「もういいでしょう。あなたとの話には他者への敬意が全く感じられません。言葉ではなく痛みで覚えさせるしかありませんね」

「はは、何を教えてくれる?」

「人が人に与える身を焦がすような後悔を、です!」


 バトルスタッフをまるでバトンを扱うように回転させていく。

 何らかの儀式なのか、自身を高めるための舞なのか、それは分からない。

 高速で動く杖がピタリと止まる。その制止時間は短く、次の瞬間には彼女がダノンとの距離を詰めている。


「う、動きが違う!!」

「そうでしょうね。モンスターは杖術なんて使ってきませんもの」


 プレイヤーとモンスターの動きというものは根本的に違う。

 モンスターを相手にレベル差以外で手も足も出ずにやられることは少ないが、対人戦はそれが起こりうる。

 人が作り出した武器、そしてそれを扱う技術というものは研鑽されるべくして研鑽されている。


「いいんですの? こんな距離まで詰められて今頃慌てても。【エラ・スマイト】!」


 聞きなれないスキル名、その声と共にバトルスタッフの打ち下ろしが繰り出される。


「【エラ・スウィング】!! まだまだ、【クワイエト・ヴォーテックス】!!!」


 続けて水平に払い、連続の回転打ちでダノンの防御を削っていく。

 杖術も槍に似て連撃向けの武器種類なのか、スキルの繋がりが極めて速い。

 通常時におけるカイの槍の速度を、あのピノンさんが越えている。

 片手剣のみで多方向からくる攻撃を防ぎきることは無理だろう。


「ならば全方向を防いでしまえばいい! 【ソリッドバリアー】!」

「対物理攻撃の障壁、ですか」


 ダノンの周囲に薄く輝く幕が生まれ、守るように包囲している。

 敵の攻撃を読み、タイミング合わせ、力を使わなければならない盾の防御に対して、障壁魔法とは何とチートじみたスキルであろうか。

 刃が向けられる方向を気にすることも無く、盾によって片手が防がれることもなく。

 迫り来る物理的ダメージが光の膜に触れれば、音も無く力を吸収、無力化される。

 プレイヤーやモンスターの火力が上がってきて障壁が破られることはもちろんある。

 だが例え破られても障壁魔法のレベルに応じて、ダメージが軽減されてしまう。

 普通の対人ゲームならば、この手のスキルは前衛が習得できないようにしてあるものだがRC3にはそんな制約がない。


 それ故に自由があり、銃と剣を共に使おうが、ヒーラーが武器を持って肉弾戦を仕掛けようがおかまいなし。

 スキル構築は悩ましいが、それだけ自由な戦い方ができる。

 だからピノンさんがバトルスタッフに魔力を込め始めるのを見て、頼もしくは感じても驚きはしない。


「破滅的な行為、ですよ?」

「なんだと!?」


 先ほどと変わらず杖を振り回し……いや少し違う。

 一見すると『打つ』という行動は変わらないが、杖が微かに発光し魔力を宿しているのがわかる。

 それに打ったり払ったりする合間に魔力の光弾を飛ばしてもいる。


「がはっ……!」


 速いが軽い、これならば障壁で防げると判断したのだろう、ほぼノーガードの体勢だったヤツにピノンさんの攻撃が無慈悲にも次々とヒットする。


「物理と魔法をカバーできるのはマジックソードだけではないということです」

「く、クソが! やってやるぞ、絶対にお前を殺してやる!!」


 ゲーム内では殺人なんて現象は起き得ない。

 ダノンの野郎、相当頭に血が上っている。

 戦いで冷静さを欠いたら勝てるはずが無いのだ。

 ピノンさんのほうは大丈夫だな。



「少年、仲間に気を取られすぎだぞ」

「悪いな、心配性なもんでね」


 ぶつかり響く片手剣と短剣。

 戦闘マニアという雰囲気は無いが、マルタに取って対人というのはそれなりに大切な儀式みたいなものなのかもしれない。

 俺が何度となくピノンさんの方を気にかけているのが不満なのか。

 それは舐められているから、ということではなさそうだ。

 戦いという行為をやる以上は死力を尽くしてやりあう、そういう感覚を美徳としているような雰囲気がある。


「【フラッシュストライク】!」


 牽制として高速の突きを放つ。

 ヤツには当たらない。

 いや、ぎりぎりの距離でかわされた。


「【ピアスショット】」

「く……!」


 クロスボウから貫通性の高い矢が放たれ、俺の腹部をかすめる。

 不用意な行為をすればマルタはこういう反撃で返してくる。

 ただ俺だって何もラッキーヒットを狙って突きを放ったわけではない。

 相手が攻撃に対してどう反応するのか、それが知りたかったのだ。


 自身の防御力でダメージをくらいながら突っ込む。

 何らかの手段で完全無効化する。

 攻撃の軌道を読んでカウンター。

 完全な回避で距離を取って射撃。


 攻撃に色々な方法があるのに対して、その対処法も多様に存在する。

 先ほどの行動から分かること。

 ヤツは防御という選択肢をあまり取りたがらず、かといってリスクが高いカウンターをしかけるわけでもなく、回避して射撃を行った。

 ケースにもよるだろうが、マルタの戦闘スタイルは奇襲や牽制射撃で隙を作ってからの強襲だと判断。

 つまり待ちの姿勢で臨むと、牽制射撃を全て無効化する自信が無い限りはやがて俺に隙が生まれ、凶悪な短剣の攻撃を食らうハメになるだろう。


 リサへの反撃を見た以上、カウンターが下手だということはありえない。

 だが不必要に近距離を維持しようとはしていなかった。

 あくまでも自身へ刃が届かない位置を保ち、隙を見て攻める。

 短剣に比べて動作が大きい剣で、ヤツのスタイルを崩すことができるか!?


――いや、できる。やれるはずだ!


 待ちが通じないなら攻めるまで、剣は短剣よりもリーチが優れているのだ。

 有利な条件を活かして闘うのが戦闘の基本。


「【ディフェンシブインパクト】! いくぞ、マルタ!!」


 衝撃波を盾に纏わせ、【シールドチャージ】で突進し距離を詰める。

 耐えるスタイルではないマルタが取れる行動は一つしかない。


「無謀な突進と言いたいが、防御も兼ねているな」


 【バックステップ】で大目に距離を取っている。

 そうだろう、ただの突進ならば矢を放つなりカウンターを決めればいい。

 だが盾を突き出し前進する俺の行動は防御そのものでもあるのだ。

 防御力を抜けない程度のカウンターを仕掛けること、それこそが無謀となる。


 マルタがぎりぎりでかわさずに距離を取ったのはカウンターを放棄し、おそらく突進の終了にあわせて攻撃を打ち込むためだ。

 強力な力で前進しているのだから、攻撃を当てる事ができなければその推力を自身で処理しなければなたない。

 つまり隙が生まれる。


「突進後は無防備になる。終わりだな」


 瞬間、弓の狙いをつけているのが分かる。そうだ、それでいい。

 突進の後に隙ができるのを理解している。

 彼の戦闘への知識が深いのは間違いが無かった。


――だが戦闘っていうのは、いつも想定外のことが起きるもの、だろ?


 突進の終了が近づき、俺の姿勢が前方へ倒れ崩れ始める。


「直撃だ。【スパイラルショット】!」

「くる! 【シールドバッシュ】!」


 倒れようとする力に逆らうんじゃない、そのまま遠すぎて当たるはずが無い盾の強打スキルを発動させる。

 新たな推力が生まれ、倒れこむ速度が加速する。

 盾を付けた左手で空を殴り、倒れながら一回転。

 ただの転倒じゃない。その回転力を殺さぬように、右手の剣から縦一直線にスキルを放つ。


「【パワーストライク】!!」

「!? く、スキルを中断できない……!」


 矢を回避しつつ縦の衝撃波、【パワーストライクⅡ】を放つ。

 万一かわされても、ねっころがっている人間に追撃を行うのは意外と難しいものだ。

 弓は連射できないし、短剣も届かない。

 これは捨て身の攻撃ではない。

 失敗した際のことも考えた上で、俺が取れる最善の行動だ。


「かわしきれん! うおおおおおおお!!!」


 衝撃波の直撃を受けたマルタは吹き飛び、後方の壁に激突する。

 【ストライク・ゼロ】ならばLPを全て刈り取っていただろうが、飛び道具の衝撃波ならばまだヤツは終わっていないだろう。


「俺が、隙を作るのではなく、お前が、自身で、隙を作って、誘ったというのか」

「その通りだ。あんたは速いし隙を作ったり攻撃を見切るのは優れている。だがまさか大雑把なスキルが多い剣と盾で、逆に攻撃を誘導されるとは考えないだろうと、俺は予測した」

「……そうだな」

「俺の想像力がこの攻防の明暗を分けたんだ」


 もし純粋な斬撃のやり取りをすれば、リーチが短いとはいえ剣の攻撃を読まれ、防ぐ事のできない短剣の連撃を受けていただろう。

 矢に対抗して、衝撃波で勝負を望めば手数でやられていただろう。

 勝利はほんの少しの考えの差異、そしてたくさんの噛み合わせが生じて決まるのだ。

 これでマルタはしばらく動けないはずだ。

 アミとミルは大丈夫か?




「ただのダンジョン探索が、こんな形で俺の欲求を満たしてくれるとはねえ。リーダーには感謝しきれねえや」

「リアルで暴れりゃ捕まって終わり。ゲームでやるっていってもよそじゃ取り締まりが厳しいからな。ほんとRC3は最高だぜ!」

「そのまま防いでMPが尽きたときどうするか、そんときのことを考えるとたまらねえなあ。【エアブラスト】!」


 アミとミルの二人に対するは恐らく後衛担当のスキル育成をしてある男が三人。

 言動から察するに、ダノンとは目的が合致しているのであろう、分別のある人が語る言葉ではない。

 絶え間なく放たれる魔法攻撃、三人だけあって途切れる事がない。

 なるほど、構成から考えてヤツらは効率狩りをしにやってきたようだ。

 マルタが敵を集め、ダノンが防御、後衛三人が範囲魔法で殲滅する。

 個々人はたいしたことはないだろうが、人数の差というものは大きい。

 だが俺もマルタをノーマークにするわけにはいかない。

 それにどうしても彼女達が彼らに負ける未来が想定できない。

 俺は信じるのだ、二人を。


「【ファイアシールド】!」

「吹きすさぶ風は進入を拒む。【エアシールド】」


 防御魔法を二人揃って展開、しかし人数差もあって押され始める。

 いや、違うか。プレイヤーは二人だが戦力としては三人だ。


「カゼガ、マモル」


 ミルによって召喚された空の精霊と呼ばれる存在が、彼女に倣って風の防御魔法を展開する。

 三重にかけられた障壁は強固となり、迫る攻撃魔法、全ての進入を阻止。


「時間稼ぎ、するだけのつもりだった。でも、痛い目をみてもらう」


 良く見るとミルの構えている弓がいつものものとは違っている。

 形状から弓だとは分かるのだが、豪華な装飾と埋め込まれている宝石がそれを弓を超えた、何か別のものを思わせる。


 ……そうだ、マジックガンだ。あれに似ている。

 あの有用性を全く考慮しない装飾、もしかしたらあの弓は魔力を高める弓なのかもしれない。


「そっちのLPが尽きたら、運が悪かったと思って諦める。もちろんPKになってしまう私のね」


 弓が輝き始める。

 

「属性矢、【トルネードショット】」

「マスターニ、チカラヲ」


 実体の無い、竜巻の矢が三人へ襲い掛かる。

 スキル自体の力と、精霊の補助が重なり合い、ダンジョンで放つのにはふさわしくない規模の突風が生じる。

 これで三人のLPが0になれば戦いには勝利するがミルはPKに認定されてしまう。


「め、めちゃくちゃやりやがる! 連携して防ぐぞ!」

「おう! 【マジックバリアー】!」

「こっちもだ!」


 同じスキルを連呼している。

 障壁を単純に三個出せば対処できるような魔法の威力には思えないのだが、何か意図があるのか?


「連携スキル、魔法障壁、展開!!!」


 ダノンが行使したスキルとは異質な光が三人を包む。

 あれも障壁魔法なのだろうが、連携スキルなんて聞いたことがない。

 いや、このゲームのスキル生成は正直滅茶苦茶だ。俺の知らないことがまだ無数にあるのだろう。


「むむ」


 魔力で発生した風の塊がうねりをあげて三人の方へ進む。

 だが連携して発生させた魔法防御の防壁によってその進行が阻まれる。

 ヤツら三人、スキルの錬度なぞ分からないが流石に三人がかりでやれば強度も上がる、か。


「ミルさん、普通の弓スキルを撃って! 【パワーゲイン】!」

「確かに、魔法が効かないなら物理でいけばいい。そして三人でスキルを行使するなら、一人減らせばいい。【スパイラルショット】」

「チャージ、開始」


 螺旋の渦を纏わせながらの矢、マルタが俺に放ったスキルだ。

 うまくかわせたから良かったが、直撃すれば前衛の俺でもごっそりLPを持っていかれただろう。

 後衛ならば致命傷になりうる。


「うおおお、やべえ、散開だ!!」

「お前、俺達を殺す気か!」


 おかしなことを言う。

 PKを平然と仕掛けてきてるのはお前達のほうだ。

 それだけ言葉を考える余裕も無く焦っているのだろう。

 強力な障壁を三人がかりで展開する、それ自体は良い。

 だがその行動を活かすには魔法を封じている間に攻撃を仕掛ける存在がいてこそなのだ。

 もしあの障壁の中からマルタが射撃、ダノンが衝撃波を撃ってくれば相当やっかいになる。

 

 奴らは連携スキルを行使してはいるが、まだ戦いそのものに慣れていない。

 倒せるだけのモンスターを選定してやってきたのだろう。

 あんな判断力じゃ、あのファイアドレイクを前にすれば全滅だ。


「当たると楽になる。【スパイラルショット】」

「キョウリョク、エアブラスト」


 再び発射される矢の攻撃、そして精霊が魔法を放つ。

 流石に連携して防御魔法を発動する余裕は消えたのだろう、茨の盾を召還しそれらの進入を防ごうと試みる。

 攻撃の進入を防ぐだけならば、【ソーンシールド】でもどうにかなる。

 だがしかし、そこには問題生まれる。属性、という相性の問題が。


「チャージ完了。私に仇なす者達、その存在を焼却する。【シーリングフレイム】!!」


 ミルや精霊が行う魔法は風属性。

 茨は土属性なので、基本的な属性防御としてその選択は正しい。

 

「か、火炎魔法だ! 水魔法で防壁を……!」

「間に合わねえ! うわああああああ!」


 土属性には相性が悪い、しかもチャージされて威力が増している火炎魔法が放たれたのだ。

 アミは予測していたに違いない。

 あれだけミルが風属性の弓攻撃で目立てば防壁の属性選択は土を選ぶだろう、と。

 魔法だけなら風属性の防壁で相殺できるが、物理攻撃も混ざっている。

 茨の防壁は対物理も他の属性に比べて優秀だ。


 しかしその判断を予測され、手痛すぎる炎を一撃を受けることになってしまった。


「く、くそ。なんて威力、だ……」


 死んでいない、か。

 威力の調整が難しいだろうに、アミも良くやってくれる。



「お前らああああ!!」


 叫ぶのは受けているダメージが比較的小さいダノン。

 チームメンバーが劣勢に追い込まれているのだから相当頭に血が昇っている。

 いたぶるつもりの人間に、逆に返り討ちされる。

 俺もまさかピノンさんやミルがあそこまでできるとは思っていなかった。

 仲間としては嬉しいことだが、敵にとってみれば計算違いもいいとこだろう。


「リーダー、状況は、不利だ。撤退しよう」


 マルタが撤退を口にする。

 俺達はモンスターじゃなくプレイヤーだ。

 向こうにその意思があるならば、見逃がすこともできる。

 こっちもPKになりたくないしな。


「いいかマルタ、お前達、よく聞け! こいつらは俺達にとどめを刺すことができない。PK認定を恐れているからだ! 回復アイテムでもなんでも使って何回でも戦いを挑め。そのうちこいつらも疲れ果てて動けなくなる」

「そこまでしてどうする?」

「うるせえ、俺は舐められるのが嫌いなんだ! 今回ばかりは大赤字になろうがなんでもやるぞ。 このまま帰れば情けなくて街を歩けねえだろ!」


 そう言って回復ポーションを使用しながら、他にアイテムをもう一つ取り出す。

 何かのタマゴのような、そんな見た目のアイテムだが回復アイテムか何かだろうか。


「これが何だか知らねえって顔だな。ちょっとしたレアアイテムでな、【召還のタマゴ】って言うんだ」

「リ、リーダー。それ使っちまうんですか!?」

「たいした値段じゃない。またRMTや転売で稼げばいいだろ」


 名前を聞いてなんとなく効果が予測できる。

 恐らくモンスターを召還する遊びアイテムってところだろうな。


「何がでてくるかわからねえのがこの手のアイテムの不味いところだ。だがこれはちょっと特別でな、ボスかレアモンスターがでてくるんだよ」


 モンスターがランダムにでてくるのならば、俺達でもラクに倒せるレベルの魔物のほうが種類が多い。

 しかしボスやレアモンスターとなると高レベルの方が種類が多い。

 戦況をMPKで変えるってのか!?


「割れたときに一番近くにいるプレイヤーを狙うらしいからな。くらいやがれ!!!」


 思いっきりタマゴを投げつける。それもキャッチできないように壁を目掛けて。

 割れたタマゴから煙が噴出する。


 まずいな。出てくるモンスターによってはそれだけで全滅する可能性がある。

 ブラッディファングやエントロードあたりならいいが、アプトス山脈以降の種族がでれば勝利は絶望的だ。

 あいつらがモンスターと戦っている俺達を眺めているだけのはずがない。


 煙が薄くなり、視界が開ける。

 そこに現れたのは……。


「クエエエエエェェェェ!!!」


 アプトス山脈のボスモンスター、ピッキングか!!

 くそ、ダノンのヤツめ、ニヤニヤ笑ってやがる。

 倒したことがある相手だが、それは五人の状態かつ邪魔がいなかったという条件下においてだ。

 

 体力はまだ残っている、だが課せられた条件があまりにも絶望的だ。

 攻撃してくるピッキングを凌いで、プレイヤーを殺さずに動きを止める。

 ……そんなことは無理だ。


「仕方が無い。成功率は低いがやるしかない。みんな、悪い。俺が突っ込むから隙あらば逃げてくれ」


 出来るのならば初めからそうしていた。

 PKを望まないプレイヤーができることで一番なのは逃げることなのだ。

 だからそうさせないような位置取りをダノン達はずっと考慮していた。

 そうだ、俺が突っ込んだところで逃げられる可能性は低い。

 でもこれしか手段が残されていない。


 そのときだった。


「リーダー、モンスターの気配を察知した」

「ああ? そこの頼もしいピッキング様のだろ? まああいつらを倒したあとでおいしくいただくがな」

「いや、違う。数が……10を越えている。この方向は……」


 ヤツらの様子がおかしい。

 その理由はミルによって俺達に伝わる。

 

「【気配察知】に引っかかる存在がある。数は、たくさん。ラージウッド、どうする?」



 モンスターの増援、絶望の上塗りだ。

 しかし、これは……。


「ははは、おかしいよな」


 笑いが込み上げてくる。

 本来笑うべき状況じゃないが、可能性が見えてきた。

 メンバーに指示を出す。



「みんな、走る準備しといてくれよ!」




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