第二十七話『目的』
「毎度あり~」「ありがとうございました~」
リザラーザとの集合に指定された露店通りの噴水。
まだ彼女の姿が見えないので時間つぶしもかねて二人で露店を設置、素材などの販売をしていた。
それにしても、取ってきたアイテムが売れるのは気持ちがいいものだ。
リアルでは遠い存在になってしまっている『自分が採ってきた物を売る』というやりとりがここにはある。
「ダイキ、【ピッキンの人形】が200万マニで売れたよ!」
「おお、凄え! やっぱり人形はお金になるな。狙って出すのが厳しいだけあるよ」
人形が高く売れる、この辺の設定はゲームとして上手くできてるなと俺個人は思う。
素材や装備品と違い、人形の価値はモンスターの強さに比例しない。
以前、レベルが10くらいのときに川辺で戦っていたリバーフォークが落とす人形は水属性を付与してくれる。
俺達が川辺でやっていた頃はプレイヤー全体のレベルが今ほど高くなかったので狩る人間も多く【リバーフォークの人形】も安かったが、今は狩るプレイヤーが少なくなって高騰している。
こうした便利アイテムを初心者がぽろっと入手する、ということは普通に起こりえるのだ。
最高難度のフィールドのみにドロップの旨みが凝縮されているゲームは多い。
それはそれで悪いとは言わないが、その間のフィールドやダンジョンは全てそこに到達するための、経験値を稼ぐだけの場所に成り下がってしまう。
運が絡むとはいえ、新規でも金策ができるというゲームデザインのほうがゲームプレイヤーの層に深みがでるので、RC3の仕様を俺は気に入っている。
まあ、それが逆に辛いときも当然ある。リアルラックの欠如っていうやつだ。
ラックインセンスを使っても効果が疑わしいほど人形はでない。『○○千体狩りを日課にしてます!』とかあるくらいだしな。
出るときは出るが、全ては運。そういうのが嫌な人は生産品やその素材を売ればいいのだ。
俺のアロマ販売みたいにな!
アロマってことでちょっと生産の話になるが、今のところ何故か同業者がいないというのが不思議だ。
だが、俺の一人勝ちかと言えばそうでもない。
料理でも薬品でもステータス向上系のアイテムを作れるから、インセンスが特別に高騰することはない。
インセンス自体は作っているのが俺だけしかいないといっても、大量のお金が懐に入ることはないし、仮にそうなれば他プレイヤーからの攻撃が始まるのは目に見えている。
「アロマ作って、売ってるダイキって何か幸せそうに見えるよ」
「ははは。生産者になって初めて分かる気持ちがあるってことだ。リアルでもこう、簡単にお手製の精油とか作れればいいんだけどゲームみたいに大雑把じゃダメだからな」
「そうよね、化学知識とかないと人体には危険なものを作っちゃうかもだし、成分を抽出するような機材なんて買えないしね」
「由香里みたいにメーカーが作った精油を買ってディフューザーで楽しむくらいでいいんだよな。バラの精油なんて花を3トン用意してそこから1キロしか作れないもんだから、5ミリリットルしか入ってなくても数千円もする。一個人で生産するには無理な規模だ」
「ダイキ、詳しいね……」
おっといかん、つい熱が入っちまった。
妹の影響とはいえ、あんまりこの趣味を語るのは良くないな。恥ずかしい。
たださ、葉っぱや花から成分抽出してオイルとか作るの、ちょっとしたRPGっぽい感じがして好きなんだよな。
さすがに精油のビンもって『これが魔除けのポーションだ!』とかやんねーけどさ。
「何あなた達、こっちの世界で農場でもやるの?」
声がする方へ振り返ると、いつの間にかリザラーザさんが物音一つたてずに背後を取っていた。
「びっくりしたぞ! 毎度毎度、急に声出すのはやめてくれよ」
「あなた達が会話に熱中していただけでしょ。それより待たせて悪かったね。売るアイテムがちょっと多くてね、取引に時間がかかってしまった」
取引? そういえば俺は彼女が露店を出しているところなんて見たことがないぞ。
時間がたまたま合わなかっただけなのかもしれないが、金策に特化してる彼女の露店なんて目立たないはずがない。
「リザラーザさんはどこで露店を出してるんだ? 今まで見かけたことがないんだが」
「出してないよ」
「え?」
「そんなの時間の無駄だからやんない。いつも買い取りやってくれる人達がいてね、彼らに全部売ってるのよ。もちろん相場は把握してるから露店価格より少しだけ値引きするだけで、悪質な転売されてだまされるってこともないし」
なるほど、買取屋にアイテムの売却を丸投げしてるのか。
実際の相場よりは安く買われてしまうが、すぐにお金が欲しい時や需要が無いものを処分するときに便利ではある。
彼女の場合は露店を出してる時間を狩りの時間に充てたいってことなのだろう。
「どんだけ狩りが好きなんだよ」
「だってお金が貯まるじゃない」
「貯まったお金で、どうするんですか?」
「装備かって新しい狩場に挑戦するよ。私、威力のあるスキルが少ないから狩場ごとに合わせた装備を用意してるの」
ゲームらしい楽しみ方だな。資金を集めて装備を集めていくっていう楽しみ方。
ネットゲームは『蓄財』の感覚が普通のゲーム機でやるゲームよりも強いように思う。
オフラインのゲームはセーブとロードができるから自分の都合で物事を実行できるし、極端に言えばチート使ってアイテム増殖なんかできたりするものもある。
まあ他人が存在しないから、レア装備で身を固めてもボスが倒しやすくなるってだけで自分を見てくれる人間がいないってのは寂しいが。
逆にネットゲームだと運営の目があるしチートなんて実行が難しい。
装備品の価格が需要と供給で左右されるから、稼ごうと思えば自分がそういう方向で動いていくしかない。
それだけに超高額レアを引き当てたりすればそれがステータスになる。
まあガチャガチャっていうか、有料のくじ引きでお金さえあれば誰でも強くなれるゲームってのも一時期は多かった。
そうなってくるとゲームとしての魅力は半減する。
RC3はそういったものが無いから良かったぜ。
「装備を揃えて、お金をまた集めて、その繰り返し?」
「そうよ」
「終わりが見えないの、辛くないです?」
「アミ、それは言っちゃだめだ」
そうだ、蓄財にしろ装備収集にしろ、ゲーム運営が終わるまではそこにゴールは無い。
どんなにゲームで裕福になろうが、それはリアルでは一銭も生み出さない趣味に過ぎないのだ。
でもそこに楽しさがあるからみんな熱中して、結果が分かっていながらもログインする。
人によってはリアルとの境界線がぼやけてしまったり、そこに逃避する人もいるだろう。
「俺達がレアモンスター狩るのもさ、ただの目標ってだけでゲームを遊んでることにかわりない。パーティープレイが楽しくて俺はプレイしてるけど、楽しみ方ってのはプレイヤーごとにあるしさ。チャットが好きなヤツなんて狩りを一切しないで徹夜でくっちゃべってるしな」
「そういうこと。私なりに蓄財を楽しんでるの。だってお金って数字として分かるから達成感あるしさ。強さを求めてもそれは相対的なものでしかないじゃない? もしこの世界が現実で、今まさに王国が魔物によって滅ぼされる!!って設定なら私も考えるけどさ」
「ごめんなさい。悪く言うつもりは、無かったんですけど。女性プレイヤーってどういう理由でこのゲームしてるのかなって思っちゃって」
リザラーザがアミに近づいてまじまじと顔を見始める。
さらに俺はそんなリザラーザの様子を注視してしまう。
あんまりみちゃ気分悪くするだろうけど、やっぱスタイルがいいな。
動きやすさを重視した装備にしてるんだろうけど、露出度が高いから女性としてのラインが浮き彫りになってる。
おっといかん。せっかくのパーティーなんだ、連携に支障をきたすような真似はしちゃだめだな。
アミの観察が終わったのか、背筋をピンと立て口を再び開き始める。
「ゼラニウムさんってリアルで高二くらいでしょ?」
「そ、そうですけど」
「私、高一ですから。敬語いらないですよ」
「「え」」
まじか……。急に口調が変わってびっくりした。
雰囲気で年上だと思ってたし、それにその、格好がワイルドっていうかアダルトっていうか。
女ってわからねえな……。
「ラージウッドさんもゼラニウムさんと同じ学年っぽいし、逆に後輩として私が敬語使わないといけないじゃないですか」
「年下だったのかよ……。敬語は別にいらねえけどさ」
「ゲームとはいえ、リアルの延長みたいなものですからね、ここ。形だけでも敬意を払わせてもらいます」
「そ、そっか。まあ、よろしく頼む。俺は仲間からはダイキって呼ばれてる」
急に口調が変わって気持ち悪いが……。
現実での彼女は見た目に反して意外と真面目なのかもしれない。
「私は、アミって言います。よろしくね」
「リアルネームですか。まあゲーム内では写真というかスクリーンショットは撮れない仕様ですし、名前だけなら特定しきれませんから大丈夫かな。私のことはリサって呼んでください、先輩」
『先輩』、か。
リアルじゃ基本、同学年のヤツらとしか絡んでいない。部活もしてないから新鮮な響きだ。
ゲーム内でもイェリコくらいだもんなあ、年下は。しかもあれは後輩っていうよりも何か別のカテゴリーな感じだし。
ピノンさんとかミルは年齢が分からねえし、って俺ほんと女子のこと全然分かってねえな。
カイみたいに少しはレベル上げないと、将来取り返しの付かないことになるかもしれん……。
「それにしてもダイキ先輩はいつも女の子連れてますね。ゲームの中の女性比率って20パーセントくらいでしょう? それなのにいつも回りに女性がいる。リアルじゃ結構チャラいんですか?」
「何をもってそう思うんだよ……。カイ、じゃ分からねえか。クーラのコミュ力の高さに俺が巻き込まれてるだけだよ。別にパーティーは男ばっかりでも全然構わねえし」
「学校だとほとんど男子と一緒に行動してるよね」
「あらら、先輩はアミ先輩と同じ学校で、もしかしてクラスメートってヤツですか?」
「ああ、そうだが」
ニタニタしながらこっち見んな。
女子と一緒に遊んでるのを目撃して、からかって遊ぶのは小学生がすることだ。
「一層興味が沸きましたよ」
「俺もリサの口調の変化っぷりに興味沸いたよ」
「はは、それは言わないでくださいよ。自分でも言うのもなんですが、女性プレイヤーってだけで周囲の興味を惹いちゃいますからね。警戒は大事なんです」
「あの、それで、何を協力すればいいの?」
おっと、そうだ。一応、目的があって行動を一緒にするんだからそれを聞いておかないとな。
「早速で申し訳ないのですが、今日の夕方、"青い森"とその先にあるフィールドの狩りに付き合ってもらいたいのです」
「青い森の先というとグラス平原か」
青い森は俺達がエントロードを倒して、ピノンさんやミルに会って、そんで嫌なことをあるプレイヤーから言われた場所だな。
レベルが20なくても行ける場所だ。
その先のグラス平原には行ったことないが確か30レベル程度の狩場だったはず。
「どうして俺達の手助けがいるんだ?」
「分かってますよ~。そんな低レベルな場所、なんでわざわざ自分達に協力を頼むのかって考えちゃってますよね」
「リサ……さんはアプトス山脈を一人で攻略できるくらいなのに、ソロだと問題があるのかな?」
「遺跡、があるんですよ」
遺跡? ダンジョンのことか?
各フィールドにはダンジョンといわれる特殊なステージが用意されている場合がある。
洞窟だったり、放棄された城だったり。
基本的に罠が用意されていたり敵が周辺のモンスターよりも強力なものだから、罠解除系のスキルを持っていない俺達は手を出していないコンテンツだ。
いくら攻撃力が高くても、罠で動きを止められてしまえばどうしようもないからな。
一般的なプレイヤーでもスキル枠を多少消費して【罠解除】や【気配察知】を取得するのが最低限の準備だと聞いている。
「あそこにダンジョンなんてあったのか」
「はい、最近発見されたばかりですよ。というか自分で発見したんですけどね。まだ気付いているプレイヤーは少ないです」
「スタートダッシュで稼ごうってわけか。それはいいんだが俺達、【罠解除】とかそういうの取ってないぞ」
「分かってますよ。罠をしかけたり解除するのは私が全部やります。解除も設置も、両方ともスキルレベル50ですから」
スキルレベルMAXが二つもあるってどんだけ意識してスキル育成やってるんだよ。
まじで冒険者!って感じがするな。RC3に職業選択なんて無いけどさ。
「もう全部、リサ一人でいいんじゃないか?」
「それが、一人だと色々と問題があるんですよ。ですからお願いします、一緒に来てください! 絶対損させませんから!! いやむしろ絶対儲けさせますから!!」
ちょっと変わったヤツだが、こだわりがあったり目標持ってやってるとこには共感できるな。
それに俺達が全く経験したことが無い要素を、リサはたくさん持っている。
姿隠したり口調が変わったりするけど、人の裏をかくような行動はしない気がする。
「分かった。レアモンスターとかボスモンスターじゃないのは残念だが、楽しそうだしな。行こうぜ? アミ」
彼女が頷く。アミはアミでスキルを色々とためしたいのだろう。
ここんところ、敵が火属性ばっかりで防壁を展開してもらってたからな。
それにカイがちょっと戦線離脱してるから、ボスやレアモンスターがいないのもちょうど良かったのかもしれない。
ついでにリサが使うスキルの理解が深まれば、対人戦や魔法の知識も増えて今後それらに対処がしやすくなるはずだ。
そんでもってお金も増えるし良いことばかりじゃないか。
だがその予測は、これまでにも単独でフィールドを制覇してきたリサの能力を考慮に入れていないものだった。
ブラッディファングやアプトス山脈のモンスターをソロで撃破している。
そんなプレイヤーがわざわざ他人に協力を求めるなんて、生ぬるい戦闘になるはずが無かったのだ。
「ごめんなさい。でちゃうんですよ」
「うん?」
「出るんですよ、ボスモンスター。何度か挑んだんですけど、ヤバかったので毎回逃げ帰っちゃって。だから今度こそ!って感じです」
……やっぱ楽な金策って無いよな。




