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Ruin & City 3 ―それぞれの世界で―  作者: 夕陽倍施工
第1章:ラージウッド編~楽しむということ
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第二十四話『赤い魔物・後編』

 


 休憩と作戦会議を済ませ、すぐさま残りの1エリアへ向かう。

 競合がいないのだから、ファイアドレイクはその地点にいるはずだ。

 

 もしかしたら出現に特殊な条件が絡んでいるかもしれない。

 だが、今のところレアモンスターの発生条件には『復活期限を満たす』か『特定の場所』の二つしか確認されていない。

 現状、目立ったクエスト等が実装されていないのだ。例外は考えにくい。

 視界が広く視力も向上しているアイカさんを先頭にして進んでいく。


 ふいに彼女が立ち止まる。


「大きな、力。これがアミさんの言う魔力というものでしょうか。少し先に感じます」

「それだな。作戦を開始しよう」


 彼女を先頭に前進していたのはこのためだ。

 気配を察知する力、遠くの者を撃つのに必要不可欠な力。

 中世編でも、似たようなスキルを弓と短剣では習得できる。

 だがメンバーの中でそれができるのは彼女だけである。


「ちょっと待ってよ。気配ならともかく、なんで魔力っていうやつをアイちゃんが感じ取れるの?」

「アルア、今は作戦に集中しましょう。私がおびき寄せます」


 アルアさんは何故か不満げだが、実際に熾烈な戦いになると予測されるのだから仕方が無い。

 それが分かっているから、彼女もそれ以上の追及は止めた。


「わかったわ。やることやった後で、ね」


 それぞれが装備品と回復アイテムの確認、俺がステータス上昇アイテムである香を取り出す。

 パワー、メンタル、スピード、そしてラックのインセンス。

 それぞれに特有の香りがあるのだが、こうたくさんの種類を一度に焚いては台無しだが仕方ない。


「ラージウッドに作ってもらったベルガモ水の香水が上書きされちゃう。もったいないなあ」

「また作るよ。それより、これだけ離れた距離でもヤツの存在が確認できるんだ。間違いなく強敵だから万全の状態で挑もう」


 狩場自体の適正レベルは満たしているが、強化されたレアモンスターにはそれが当てはまらない。

 それは一匹目との戦いで身をもって分かっている。


「よし、行こうか。有るのか無いのかはっきりしねえが、隠されたクエストを暴くためにな」


 香を使用し終わると、周辺で一番高い場所にアイカさんが移動する。


「竜型発見。表記名"踊り火のファイアドレイク"。情報が出ている個体よりも赤の色が濃い」

「間違いない、それだ。 アイカさん、頼む!」


 アイカさんに指示を出しつつ、俺は鞄の中のあるアイテムを取り出す。

 いや、俺だけじゃない。みんな各自に与えられた役割を果たすための活動を始めている。


「チャージ開始、炎の精霊に命ず……」

「槍のセッティング、完了しましたよ」

「ひとっ走りいって仕掛けてくる!」


 これから始まるのだ、これまでに相対してきた敵の中でも恐らく最強と言える魔物との戦いが。


「氷の弾丸、アイスバレット発射」



――響くスナイパーライフルの音、かつてない戦闘の始まりだ!!



「グオオオオオォォオォォォオオォン!!!」


 響き渡る叫びと共に、ヤツが姿を現した。

 ピッキングよりもさらに二まわり大きい体、それは濃すぎる皮膚の赤さに染まっている。

 竜の咆哮、それはリアルで聞く野犬の鳴き声とは比較になりようがない程の恐怖を植え付ける。

 だが怯んでいる暇は無い。攻撃を受けたことに激怒し、こちらへ飛来しているのだ。

 足が止まればやられるのが自分達だということは分かりきっている。

 アイカさんが後方へ必死に走る。それに合わせて俺とカイは逆にヤツ目掛けて【ステップ】を繰り出す。


「くらいやがれっ!」

「【アクセラレートスピア】!」


 カイは速度を上昇させ、俺は衝撃波を放つ。それは注意をアイカさんから逸らすため。

 いかに攻撃力が高い彼女でも、アレに狙われて攻撃を受ければ即終了だ。


 錬度の上がった俺の衝撃波は命中こそするが、直撃とまではいかなかった。

 狙いがアイカさんから外れない。


「やっぱ一撃じゃ注意を引けねえか。ちょっと臭うが我慢してくれよ」

「う、これは……。ですが仕方ありません」


 アロマで作成した液体を自分とカイに振り掛ける。

 【カナンガ水】、カナンガの花の成分を抽出して蒸留水と合成したアイテム。

 決してクサいわけじゃないのだが、独特な香りでクセが強く、人を選ぶ香りだ。

 リアルでこれに近い香りをする花には催淫効果があるが、ゲームでのこれは敵を引き付ける効果を有する。


「では行きますよ、少しもったいないですが……」


 容量無限のカバンからカイが取り出したのは、若干青みがかった二本の投擲用の槍。

 薄く輝く青色は、水属性の付与がしてあることを意味している。


「外さない!【スロウスピア・ダブル】!!」


 竜を目掛けて飛んでいく二筋の閃光。

 以前、カイがあのブラッディファングに命中させることができたスキルの上位版だ。

 俺のアロマ製品による引き付け、そして加速が加わった槍の投擲の威力ならば、注意はこちらに向いてくれるはず。


 高速で飛ぶ二本の槍は見事に竜の胴体へ命中している。

 自身の武器を投げてしまう、リスクが高いこの技。準備が無ければ後が無い技だけあって威力が高い。


「流石にこっちに狙いが変わりましたね。全速力で逃げましょう!」

「アミ、俺達も退避だ!」

「分かった。チャージ中断」


 カイに囮を頼んだ理由は明白だ。

 敵の攻撃を単純に防ぐのであれば俺の方が向いている。

 だが強力なヤツを攻撃を、盾のスキルだけで捌くのはおそらく俺でも不可能。

 そこで加速によってスピードが上がっているカイに敵を引き付けてもらい、敵を誘導する。

 アミには念のために火炎防壁の準備をしてもらっていたが、引き付けがスムーズに行ったのですかさず退避してもらう。


「よし、もう少しだ。カイ、上手く避けてくれよ……!」


 だが逃げるのも簡単では無い。

 地を這いながら襲ってくるモンスターならともかく、ヤツは地形の制約を受けず飛行をしてくるし、その上火炎弾を吐いてくる。

 時折進行方向を変えながら、カイが駆ける。

 よし、近くの洞窟に上手く退避できたようだ。

 俺達も急いであそこに行かなくては。

 


 そう、洞窟に。



 今回は一つ作戦を立ててレアモンスターに挑むことにした。

 それは『地形を利用する』ということ。

 作戦といえるほど立派なものじゃない。だが戦う場所をご丁寧に、遭遇場所である山道に限定するのは愚かだ。

 戦場を洞窟に選択することで崖からの転落、敵の飛行を防げるし、点在している大岩で火炎弾も防御できる。

 敵が飛べないのならば俺とカイにも攻撃のチャンスが回ってくる。


 もちろん実際には囮となったカイを追わず、洞窟まで入って来ない可能性もある。

 だがこの世界はゲーム。ゲームのモンスターは一定のルールでしか動けないのだ。

 人間を見つけたら襲い掛かってくる、それだけの生き物。

 もしヤツらの目的が人間の殲滅にあるのならば、徒党を組んで町を襲うだろう。

 でもそのような知性やストーリーを彼らは持ち合わせていない。



 カイとは別のルートで洞窟に入る。

 視界に彼が見えると同時、対象の赤き翼竜が入り口を踏み越えたのが目視できた。


「アルアさん、今だ!」

「あいよー!」


 洞窟内に爆発音が反響する。

 アルアさんが洞窟の入り口周辺に仕掛けた爆弾を爆発させたのだ。恐らくこちらの世界では生み出すことができない、あっちの世界製の爆弾。

 敵のAIに逃げるという行動が組み込まれているのか分からない。そのために入り口周辺の岩や壁を爆破して退路を立つ必要があった。

 それにこうすることで、周辺の雑魚モンスターの侵入を防ぐこともできる。



「さあ、これから五人と一匹の戦いが始まるぞ。出し惜しみ無しだ!」



 状況は予定通りに整った。

 あとは互いにベストなポジションを維持しながら攻撃を加えていく。


「配置に付きました。狙撃を開始します」

「同じく。防壁展開と補助を優先していくね。【パワーゲイン】! ……チャージ開始」


 後衛の二人がすぐに岩陰に隠れられる位置取りをする。

 常時、炎の防壁を展開できるわけでは無いのだから自衛できる手段は必要だ。


「後は俺達三人が、後ろに行かせねえようにしないとな!」

「アルアさん、先発をお願いします」


 カイがマインドポーションを取り出して飲んでいる。

 消耗したMPを今のうちに回復しとかないとな。


「よし、次はラージウッドだからね。援護頼むよ!」


 アルアさんがヤツ目掛けて駆け出す。

 おそらく称号の影響なのだろう、レベルが高いのも合わさって俺の【ステップ】よりだいぶ速い。

 行使できるアクティブスキルが少ない分、パッシブスキルによる能力強化が凄いのだろう。


「はあああああああ!!」


 銃を用いた接近戦。

 まともに攻撃してはいかに銃といえども抜くことが難しい翼竜の防御力を、彼女の攻撃が僅かに抜いている。

 その証拠に、ヤツの対表面には小さいながらも傷が生じ、赤の液体を滴らせている。

 攻撃と同様、やはり回避力も凄い。

 吐き出される火炎弾、凄まじい筋力から繰り出される爪の斬撃、それらをギリギリよりも若干の余裕を持ってかわしている。


 小気味良い連射音が続く。

 このまま押し切れればいいが、そんなヤワな相手じゃないだろう。

 俺も攻撃を加えて援護しねえと。



「グオオオオオォォォン!」

「な、なんだ!?」

 

 このタイミングで雄叫び!?

 く、洞窟の天井に反響する嫌な響きだ。


「嘘、体が……!」


 まずい、アルアさんの足が止まっている。

 今の雄叫びには特殊効果でもついているのか!?

 翼竜のするどいクチバシが、動きの止まった彼女に狙いを定めている!


「くそっ! 【ハードシールド】」


 強固なクチバシと硬い金属が接触する衝突音。

 間に合った、アルアさんはやられていない。

 彼女の体を抱き、【バックステップ】で一旦距離を取る。


「アルアさん、ヤツの雄叫びにはマヒか何か分からないが特殊効果があるみたいだ。一旦ここは俺に任せてくれ」

「でも! 私が回避してラージウッドとクーラが援護する作戦でしょ!?」


 翼竜の攻撃、あまり体重の入っていない攻撃だったためか防ぐことはできた。

 だが盾に伝わってきた感触で分かる。あんな攻撃でも防ぎ続けるのは無理だと。

 本気で攻撃されれば盾ごと吹っ飛ぶだろう。

 でも、ここは引けない場面だ。

 当初の予想に反して、俺はアルアさんというコーチとめぐり合うことができた。

 教え子の成長をここで見せておかないと、訓練に付き合ってくれた彼女に申し訳ない。


「回復したらまた混ざってくれ。教わるだけの俺じゃないってこと、ここで見せるからさ!」


 盾を構えてヤツに接近するのにベストなスキル構成を考える。

 彼女と同じ接近戦をするといっても、流石にサブマシンガンと剣とでは条件が違いすぎる。

 スキルの選択を誤れば、それで終わりだ。交戦中に蘇生なぞする暇はない。


 ファイアドレイクのクチバシ周辺の大気が揺らぐ。

 ……火炎が来るか。

 だがそれなら大丈夫だ。


「うおおおおおおお!」


 【ディフェンシブインパクト】を発動させ、盾に衝撃波を纏わせつつ突進。

 それに合わせて炎と銃の援護が入ってくる。


「命中。アルア、今のうちに!」

「炎の精霊に命ず。その身を、その力を、かの者に捧げよ。【ファイアブレッシング】!」


 狙撃による援護射撃と、チャージされた付与魔法による援護が俺の前進を助けてくれる。

 体勢を崩して放つ火炎なぞ、俺の盾ならば……!


 響く轟音、中途半端な防御魔法や魔法障壁ではたやすく抜かれる火力だ。

 鍛えた盾スキル、アミによる火炎属性の守護、それらが俺を守ってくれている。

 あと1回の【ステップ】で俺の剣が届く。


「【シールドチャージ】!」


 【ステップ】の突進力をそのままに盾に勢いを乗せる。

 盾の突進を押し返す竜の防御力は高い。

 そんなことは分かっている。

 それでも前衛である俺は攻撃をし続けなければならないのだ。


「ヘイトを稼がねえとな!」


 前衛の攻撃の合間、アイカさんの狙撃が竜を捉える。

 攻撃回数は少ないがダメージソースとして一番大きな役割を果たしているのが彼女のスナイパーライフル。

 ダメージが高いということはそれだけ敵の注意を引いてしまう。

 強力な一撃を敵にお見舞いする、それだけに特化しているのだから彼女がヤツに狙われればやられるしかない。

 そうなればこの戦いは間違いなく詰む。


 衝撃波、防御技術、カウンター技術、全てを導入して攻撃を捌きながらクールタイムが終了次第、スキルを打ち込み続ける。

 ダメージを稼ぎながら注意を引き付けるためだが、想像以上に防御力が高い。

 衝撃を殺しきれない爪や尾の一撃は容赦なくLPを削り取る。

 攻撃力が高いのは覚悟していた。だが、ここまで防御も厚いとなればアイカさんにやってもらうしか勝ち筋が見えない。


「ダイキ、交代です!!」

「すまん、任せる!」


 回復を終えたカイとスイッチ、今のうちに回復アイテムを使用しておく。

 そうだ、アルアさんはどうした?


「ごめんラージウッド、まだ動けない……!」


 岩陰まで何とか移動していたようだが、まだ満足に動けないのがその岩によりかかる姿勢で分かる。

 マヒか何かの状態異常だろうか、早く対処しないとまずい。

 カイは加速能力があるぶん、俺よりも回避率は高いが防御力は低い。

 攻撃を食らってしまえばすぐに窮地に追い込まれてしまう。

 ただのボスモンスター程度ならば、回避力と強力なスキル連携、強打による硬直などで凌げるがあの翼竜にそれをやるには硬すぎる。

 非情だが、今相対している相手は前衛三人がローテンションで注意を引いてやっとどうにかなる相手なのだ。

 アルアさんにも戦闘に加わってもらわなければならない。


「効くか分からないが、これを!」


 【エウカリ水】という生産品をアルアさんに振りかける。

 状態異常回復という曖昧な効果説明しかないが、ゲームである以上はこれで回復するはずだ。


「これは……。やった、動けるよ!」


 良かった、効いたみたいだ。

 蛇の毒、虫の毒、しびれに眩暈等のバッドステータスが存在するが、それらは全て『状態異常』ということでいいらしい。

 

「動けなかった分を取り返しに行く!」


 行動が速い。いや、俺も関心してる場合じゃないな。

 早く回復を終わらせて前に行かないと。


 銃声、金属の衝突音、二種類の炎から生じる熱気。

 戦場らしい響きが耳にせわしなく入ってくる。

 その音の重なり、中断と再開が心を駆り立てる。

 完全な回復を待っている場合じゃない、俺は行く。



 体勢を整え、前衛3名と後衛2名による攻撃の応酬が繰り返される。

 ダメージを負った者は下がり、そうでない者がカバーする。

 治癒魔法を喉から手が出るほど欲しいと思ったが、そうした便利さを代償として回避力や防御技術を俺達は得ている。

 特化していなければ、治癒以前に気絶者の大量生産だ。


「そろそろ、お終いにしようぜ!」


 ラッシュの開始をみんなに告げる。

 回復アイテムを大分消耗してきたが、相手もそれは同じ。

 元の体の赤さに流れ出た血液が加わり、その赤はもう既に赤とは呼べない色に変わっている。

 動きも大分、鈍っている。畳み込むなら今だろう。

 体の力を抜き、全力攻撃に備える。



――ウオオオオオオオォォォォン


 

 ヤツが大口を空の見えない天に掲げ声を上げる。

 雄叫び?

 状態異常狙いか。いや、だがこれは声、じゃない。音として認識しているが耳から入っている感覚がない。 


「ダイキ、ファイアドレイクの体が変化しています!」


 仲間の声にハッとする。

 傷つき消耗していたヤツの体に金属のような光沢が表れ、光を微かに反射させている。


「回復してんのか!? 手遅れになるとまずい、このまま押し切るぞ!!」


 何が起きているのか。状況は不明だ。

 だが不可解な音と変化していく体を目の当たりにすれば、俺達にとって悪い方向に行っているとしか予測できない。

 幸い、動きは弱ったままの時と変化が無い。


「【クロスストライク】!!」


 【パワーストライク】のⅠとⅡを連続行使することで覚えたスキル。

 二連の衝撃波が重なり、その透明の力は十字を描いて飛翔する。

 俺が撃てる飛び道具では最も破壊力がある技だ。

 動きの鈍ったアイツにはかわせるはずがない!



 予測通り十字の衝撃波は命中する。

 それだけじゃない、カイやアルアさん、アイカさんのそれぞれの攻撃も俺のスキルに呼応して連続ヒット。

 合計ダメージ量はボスモンスターのピッキングを倒すに充分なほどなのだ、弱っている個体に耐えられるはずがない。



「……嘘、だろ」


 

 スキルが全てヒットしながらも、そこに有り続ける存在。

 火炎弾でも、強大な力から振るわれる爪の一撃でもない。

 


――圧倒的な防御力


 攻撃、そんなものはかわすか流せばいい。

 状態異常はアイテムで解決だ。

 それらが解決できたとき、勝利とは確約されるべきものだったはずなのだ。


 赤光りするその体、激しい攻防で血に汚れているが新しくできた傷は無い。

 いや、そうじゃない。

 極わずかな部位に、傷が生じている箇所がある。



「あそこに、今の感じでスキルを叩き込めっていうのかよ!」


 無理だ。

 衝撃波やカイの槍のスキルに『点』で攻めるものは少ない。

 有るにはあるが、ヤツの防御を抜けるほどの威力が無い。


「みんな、動いて! 【フレイムピラー】!!」


 アミの声で現実に帰る。周囲に燃え盛る炎の障壁が生じて、俺達を守ってくれている。

 ファイアドレイクが火炎弾を吐いていたのだ。

 完全に思考が遅れてしまっていた。

 



 またあのときの失敗を、繰り返すのか?

 考えろ、考えるんだ。

 これだけの仲間がいて勝てないなんて有り得ない!



「アイカさん! ヤツの首の下を狙撃できないか!?」

「!? 確かに、傷がありますね。狙いをそこに絞ります」

 

 

 俺達全員の中で、最も強く『点』の攻撃ができるスナイパーライフル。

 そう、最初から最後まで勝利の鍵は彼女による狙撃にあったのだ。

 弾丸が傷を負った箇所目掛けて放たれる。



「グオォォォン!」



 短い叫び、だが効いている。俺達では通すことのできなかった、アイツの防御力を抜いている。

 ダメージは以前ほど大きく無さそうだが通っているんだ。

 いける、いけるぞ!

 

「ダイキ、ダメです。このままじゃ勝てません」

「何故だ!? あそこに撃ち込み続ければ……!」

「僕達のダメージが通らない、ということはダメージを稼いでいる彼女に狙いがいく、ということです」


 ……そうだ、それを忘れていた。

 狙撃だけがダメージを出せるのならば、当然ながら敵の注意はアイカさんに向く。

 彼女に向かって繰り出される攻撃を防ぎきるほどの防衛能力は、俺達には無い。


「アミの魔法で……。ってやばい、避けろ!!」


 アイカさんが最初に言ったヤツの名前"踊り火のファイアドレイク"。

 放たれた火炎は弾ではなくなり、まるでSF映画のレーザーのように凄まじい熱量を携えてこちらに注がれる。

 炎の障壁がそれを遮る。

 だが完全には相殺されず、分散した炎が生きているかのように暴れ狂う。

 意思のあるマグマ、裂かれた炎が障壁をぬって襲いかかる。


「みんな、下がって!!」


 アルアさんが爆弾を炎目掛けて投げ込む。

 瞬間、爆発が起こり炎が弾け飛ぶ。

 爆風で炎の勢いを殺してくれたのだ。

 この隙に岩へ身を隠す。

 

「みんな、大丈夫か?」

「一応は。ですがダイキ、今回は撤収しましょう」

「……ヤツの防御を抜けるのはアイカさんだけ。だがヤツの攻撃からアイカさんを守る術が無い。クソッ!!」


 岩を拳で叩きつける。

 ここまできたっていうのに!!


「そんな……! アイちゃん、どうにかできないの!?」

「アルアさん、確かに彼女の狙撃ならばあと一撃で倒せたかもしれません。敵の強化前、ならばね。今のアレには数発を同じ箇所に打ち込み続けなければなりません」

「みんなであれだけやったのに……。私に、もっと一撃の火力があれば……」


 これまでに見たことがないアルアさんの顔。不満と悔しさと、その他色々な感情が混ざっている。

 そりゃそうだろう、彼女の選択した武器では倒すのが不可能だと言われているのだ。

 アクティブスキルの無いサブマシンガンで、瞬間高火力なんて出せないのだから。

 同様に悔しいのだろう、アミは言葉を発しない。



「アルア、ソフトポイント弾を分けてください」

「え、アイちゃん何て……」

「ソフトポイント弾で距離補正による倍率を攻撃力にかけて、アイスバレットをあの箇所に撃ち込みます」


 銃撃には本来属性が無いが弾丸はいくつか特殊な物が用意されている。

 ソフトポイント弾は近距離射撃時にダメージが上がる特殊弾丸で、アルアさんが使用しているものだ。

 攻撃力に倍率が掛かるから威力は相当上がる、だが近づかなければならない。


「ダッシュして近づいて、発射。それで翼竜の命は終わります。終わらなければ私のLPが終わるだけです」

「でも! アイちゃん、接近戦やったことほとんどないじゃん!!」

「大丈夫です。そのために仲間がいるのですから。そうですよね?」


 普段、感情の色を見せない彼女からの提案。

 それは彼女自身が一番危険な状態になる方法。


「仲間、ね。分かった。でも勝手に飛び出さないでね?」


 思考を切り替えたのだろう、サブマシンガンのマガジンを取り替えている。


「俺達が囮になって道を作るぞ。ヤツの火炎がまたくるし、もう時間がない。作戦決行だ!」

「チャージ完了、【フレイムピラー】、【ファイアブレッシング】!!」


 ファイアドレイクの跳ねる炎に対抗して、アミが炎の精霊を直接宿した炎の障壁を展開する。

 放出した熱量と魔力、残存MPはもう無いに等しいはず。

 これがラストチャンス。


「どうせヘイトは稼げない、アイカさんを守ることに集中するぞ! 道を作るんだ!!」


 衝撃波を纏わせた盾を構え、分かれた炎に向かって突撃する。

 逆に炎を避けて前進するのはアルアさんだ。


「ダメージ以外にもやりようはあるのよ!!」

 

 瞬時に敵へ接近し、銃撃を始める。

 サブマシンガンの連続音が響く度、周囲に光が走る。

 曳光弾ってヤツか?

 ダメージはやはり与えていないがファイアドレイクの意識が明らかに逸らされている。


「今よ、アイちゃん!!」


【ステップ】が無い彼女が懸命に走る。

 こんな局面でも、アイカさんは声を張り上げることはしない。

 


――だがこのような局面でも、勝利のための可能性を否定せず、走り、照準を合わせ、命中させる彼女を、俺は『凄い』とただ思うのだ。




 一つの音が響き、竜が雄叫びを上げる。

 いつぞやの状態異常攻撃でも、変化のものでもない。

 命が終わる、その運命に抗おうとする微かな意思の表れ。

 俺達の勝ちだ。




「危ない!!!」

「え……」


 

 満面の笑みの仲間に囲まれた、そんな勝利で終わるはずだった。

 それと逆のことなんて、起きていいはずがないのだ。


「カイィィィィィ!!!」


 炎に包まれる親友の姿が、俺の視界一面を覆って離れなかった。



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