第二十二話『明日のために』
レアモンスター討伐を明日に控えた俺達パーティーは、午前中には連携強化を兼ねた狩りを行った。
午後は回復アイテム等の調達といった準備を各自で行う。
前回のレアモンスターからずいぶん間が空いてしまったから、用意は入念にしておきたい。
本当は間を空けることなくレアモンスターを討伐しておきたかったのだが、ブラッディファング以降のレアモンスターはどこも狩場に人が多く、探索して狩るのが困難だった。
西の草原は高レベルプレイヤーが基本的には来ない場所だったが、それ以外ではそういったプレイヤーも狩りを行っている。
実際、レアモンスターを捜索していたら既に別パーティーと交戦中だったこともある。
今回の狩場は飛んでいたり物理攻撃が通りにくいモンスター存在するため、人気がないアプトス山脈。
競合するパーティーは少ないし、何より俺のクエスト進行にかかっているのだから必ず成し遂げたい。
そう思って俺は露店を見て周ることにした。
「とりあえず回復アイテムだな」
治癒魔法を使えるメンバーが俺のパーティーにはいない。
いや、そういえばアイカさんが新たに取得していたようだが、今回の彼女はスナイパーとしての役割に徹してもらうのだからそれはアテにできないだろう。
となれば、回復系のポーションを買い込んでおく必要がある。
【アロマテラピー】でも一応回復アイテムは作成できるが、【薬品作成】で作られるアイテムに比べて回復効率が悪い。
現段階だとスキル枠に余裕はあるが、後になって後悔したくないのでお金で済ませることができるならそれにこしたことはない。
ある程度見て周った時に、数日前とはポーション類の相場が違っていることに気が付く。
だいたい二割ほど価格が上昇しているのだ。
適正レベルのフルパーティーで狩りに出る場合、大抵は治癒魔法が使えるメンバーがいるのだから上がる要素が思い浮かばない。
対人戦やチーム戦(仕様上存在はしている)が空気コンテンツなので、その方面による大量消費の線も無い。
とはいえ必要な物は買わなければいけないのだから、少しでも安いところはどこかと露店を物色していく。
少し見て周ると、相場よりほんのちょっとだけ安い露店を見つけたので購入しようと店主に話かける。
「これください。……あ。」
「あら、ラージウッドさんじゃないですか。お久しぶりです」
店主は以前、青い森のエントロード戦で見かけたピノンさんだった。
あれ以来顔を合わせたことは無いが、横柄なダノンの態度のせいで嫌な別れ方をしたままだったのだ。
「あのときはありがとうございました。おかげでデスペナをもらうことも無く無事、帰還することができました。ほら、ミルもお礼を言って」
最初は気が付かなかったがどうやら二人並んで露店を出していたらしく、となりの露店の店主であるミルがこちらに近寄ってきた。
見た目の幼さはイェリコに似てる感じだが、活発な彼女に対してミルは控えめで大人しい様子だった。
「助けてくれて、ありがとう。気絶状態だったから、戦いのことは、分からないけど。リーダーが迷惑かけたって」
「迷惑というよりドロップアイテムを譲っただけだし、気にしないでくれ」
ミルを蘇生させた後、ダノンとの嫌なやり取りがあってその場を離れたために、青い森ではあまり会話ができなかった。
情報収集、というより自身の交流範囲を広げるためにも会話を持ちかけてみるのも良いかもしれない。
何せパーティーを組んでくれるメンバーの発掘はカイに任せきりだ。
赤いレアモンスターが相手ならば尖ったスキル育成をしたメンバーの方が押し切れるが、そうでない相手ならそこまでこだわる必要もないだろう。
「二人はいつも一緒なんだな。姉妹、じゃないみたいだけど」
「わたしが、勝手にピノン姉さんって呼んでるだけ。RC3をやる前から、ゲームで一緒に行動してた」
「そういうことなのです。リアルでも私が年上ですし、ゲームを通してとはいえかわいい妹ができた気がして私も楽しくプレイできますから」
「そっか。そういうの、いいよな」
「はい。あまりレベル上げだとか強さだとか、そういうものには興味が無くてまったり生産したりフィールドに出かけたりしています」
対人しかできないゲームを除けば、どのゲームにもピノンさん達のようなまったり層に属するプレイヤーがいる。
ある人はエンドコンテンツを追うのに疲れたから、ある人は戦闘よりも会話やイベントが好きだから、ある人は自分の居場所がそこだったから。
エンドコンテンツに関わらないものの、生産材料や下位~中級狩場のレアを産出してくれるのは彼女らのようなプレイヤーである。
特にRC3は疲労度が導入されているために、狩りに集中すればするほど生産作業は遠退いていく。
「ピノンさん達が売ってるポーション、相場よりちょっと安いから全部買わせてもらうよ」
「ありがとうございます。最近はポーション類の需要が上がっているので露店もやりがいがあります」
「ああ、それなんだけど。どうして需要が上がってるんだ?」
「ラージウッドさんはやはり結界魔法や防壁魔法を取得されていないのですね」
防御系魔法とポーションの需要に何か関係があるのか?
「確かに相変わらず盾の物理的なスキルだけでなんとかやってるが。それが関係あるのか?」
「私が話すことが全ての理由ではありませんが、おそらくこういうことかと思います」
話によると回復ポーション類の相場が上がった理由は二点。
一つはプレイヤー全体のレベルが上がってきているため、人気のある狩場が以前よりも難易度が高い場所に変わってきたこと。
単純に回復アイテムの使用回数が増えるし、上位狩場は薬品の素材があまり採取できないらしい。
実際俺達のような40レベルでの狩場でも、アロマの素材になるようなアイテムは種類が減っている。
もう一点は防壁魔法と結界魔法における防御能力の問題点。
俺は取得していないので知らなかったが、どうやらこれらの防御魔法は敵の攻撃から受けるダメージをスキルレベルに応じた固定値で減らすらしい。
例えばある結界魔法で周囲に100の耐久値を持った結界を発生させるとする。
テラーウルフやイーティンラディくらいのモンスターの攻撃なら容易く無効化できる。
しかしプレイヤーもそうだが、モンスターの攻撃力もレベル上がるにつれてダメージの上昇率がだいぶ上がってくる。
あるレベルのラインから、結界魔法ではモンスターの攻撃を止めることができなくなってくるらしい。
効率的なパーティープレイでは壁役は魔法による防御を行うのがセオリーだったが、それが通用しなくなるのだ。
となれば治癒魔法やアイテムを用いながら耐えるしかないということになる。
「なるほど。アイテムを消耗せずに範囲殲滅の効率狩りができなくなってきてるってことか」
「はい。あれ以降、リーダーだったダノンさんとは組んでいないので分かりませんが、彼もスキル選択の見直しを迫られているかもしれませんね。上位狩場でも需要があるスキル構成とないスキル構成が出てしまっています」
「わたし、そういうの嫌。だけど弓は、範囲攻撃に乏しいから、仕方ないの」
「弓で頑張ってる人、そもそも少ないみたいだから理解者もなかなかいねえだろうな」
弓は扱いが難しくステータスも器用さが重要であるため、特化すれば他の武器が扱いにくくなる。
遠距離かつ単体への攻撃力はかなり高いのだが、一般的なパーティでの狩りは範囲攻撃が優先される傾向にある。
このゲームにおいては、上手くスキル合成をしていかない限りは不遇な武器だと言えるかもしれない。
「でも、いいの。姉さんと一緒に遊べるだけで。このゲームは人種族しか選べないけど、今までエルフのアーチャーやってきたから、体に馴染んでる」
「そういえばこのゲームは他種族えらべないよな。ってか見かけねえし。エルフとかドワーフとか」
「とても残念。だけど楽しいから、いい」
「それは何よりだ。そうだ。良かったらさ、フレンド登録させてもらってもいいか?」
「ええ、かまいませんよ。ミルも良いわよね?」
少女は頷いてくれたので、二人にフレンド申請を飛ばす。
カイの紹介を除いた始めてのフレンド登録者だ。
厳密に言えばアルアさんがそうなのだが、一応カイにフレンドリストで顔を見せてもらっていたからな。
「俺ら一応、レアモンスターとかボスモンスターのような強いモンスターを狩ってるんだ。だけどスキル育成とかで普通の狩もやってるからさ。良かったら今度一緒にやろうぜ」
「ええ、是非。青い森のあの後、ダノンさんはしきりにあなた達の悪口といいますか、スキル育成について不満を言っていました。だけれども、ゲームを楽しむという点に関してはラージウッドさん達のほうが正しいと私は思います」
「特化すると、武器に愛着が沸くの。最後までこれで行くって」
「俺は特化も汎用もやりようだと思う。けど確かに特化は何ていうか、愛着とか信念とかそういうのが沸いてくるってのはあるな。不便なだけにね」
俺は広範囲に防壁を展開することができないし、衝撃波以外の遠距離攻撃手段を持たない。
治癒魔法も使えないし、属性を付与した武器を持たないと属性攻撃もできない。
でもそういった器用さを犠牲にしたからこそ、できることがあったのだと俺は信じたい。
そう考えていると、ミルがしきりに鼻をピクピクさせているのに気が付く。
「やっぱりそうだ。ラージウッドからいい香りがする。あのときの水とは少し違うけど」
「ああ。素材のあまりで香水作ってるからそれだろうな。良かったらあげるよ。今のところ俺しか作り手がいない特別品だ」
「厚かましいお願いかもしれませんが、私にもいただけませんか? お金なら多少はありますし」
「香水くらいならタダであげるさ。これの良さを分かってくれる仲間が増えてくれるだけで有難いぜ」
ピノンさんがふふっと笑う。
今日に限ったことじゃないが、こうしたやり取りが出来るのもこういうゲームの良さなんだよな。
リアルじゃ物を作って売ったりだとか、そういうのなんてただの高校生じゃできない。
やってる人もいるだろうがかなり限られたケースだろう。
ゲームの中ならばだれだって職人になれるし、商人になれる。
そう、誰かの役に立てる。
すごくシンプルだが、こういった気持ちがリアルではなかなか得られないのは残念だと思う。
少しだけ、ゲームの世界の生産行為が現実でもできればいいと妄想しながら、俺はピノンさん達と別れたのだった。
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拠点にしている宿に戻ると、アイカさんが一人で椅子に座っていた。
よくよく考えると、俺はアイカさんのことをよくは知らない。
せっかくの機会だし、話しかけてみる。
ってなんかさっきと同じ感じだな。
「どうも、アイカさん。何か考え事?」
「あらラージウッドさん。いえ、少しスキルについて考えていたのです」
「そういえばこっちで魔法を取得したとか」
「そうです。元の世界では魔法どころかアクティブスキルがありませんでしからからね。ちょっと合成してみたのです」
そういってスキル画面を表示させる。
俺には良く分からないが、ステータス上昇や命中率を増加させるパッシブスキルが多い気がする。
その中で面白そうなスキルがあることを俺は見逃さなかった。
「この【マジックバレット】ってのは何だ?」
「はい、どうやら魔法属性の弾丸を発射する基礎スキルのようです。【ファイアダート】と合成して【ファイアバレット】がでてきましたし、明日にそなえて水属性の弾丸も用意したいと思っています」
【ファイアバレット】はアクティブスキルのようだ。
やはり異なった世界のスキル同士、互いに影響し合って銃器にもアクティブスキルを生み出すことができたのだろう。
「スナイパーライフルとアクティブスキルは相性が良いみたいです」
「だろうな」
「逆にアルアのサブマシンガンとは相性が良くありません。彼女がこちらのスキルを蹴り以外とらないのはそのためでもあるでしょう」
アクティブスキルを行使する場合、そのスキルを念じるという作業が必要になる。
連射ができずに一発が重いスナイパーライフルはその作業を挟む余地があるが、サブマシンガンのような連射武器ではそんなことをするより手数で攻めたほうが時間あたりのダメージ効率が高い。
武器ごとの特徴がスキルの相性にも現れていて、それは面白いと思う。
「ところで、ラージウッドさんはクーラさんのことを、どういう人だと思っていますか?」
「え?」
感情が読み取りにくい人だがほんの少しだけ、顔色が変わっているように思えた。
カイのこと、か。
女子からカイのことを聞かれることはたびたびあったが、あいつのパワーはこんな女子大生にも有効なのか?
「いい奴だよ。初めて会った頃はイケメンでいけ好かない野郎だと思ってたけど。あいつ、表面では外面がいいことを自慢してるけど、本心はそうじゃないっていうか」
「そうなのですか? すみません、では質問をもう少し具体的にしますね。美人度って何ですか? 7とか言われたんですが、どう対応すれば良いか困ったもので」
おいおいおい、馬鹿かあいつは!
普段から一緒にいるような関係ならともかく、そうじゃない人相手に外見の話されても困るに決まってるじゃないか……。
「あ~……。あんまり気にしないほうがいいよ。俺には分からないが外見の美しさを数値化したもので、7は一応クラスに一人いるかいないかの美人ってポジションらしい。アルアさんは8らしいが」
「評価していただいてるのは嬉しいですが、行為自体は理解できるものではありませんね。何故私にそれを言ったのでしょうか?」
「さっぱりわからん。だけどこれだけは言える。あいつは外見で区別はしてるけど、差別はしないヤツだ」
「そうですか。では本人に聞いてみたいと思います」
なんとなくだが、会話からうかがえる表情から、怒りや不快感というよりも不可解さという気持ちが強いのだと感じる。
カイなりの会話に持ち込むテクニックか何かなのだろうか。
普段、俺には関係ない世界だと思ってあまり聞かなかったが、彼にとっては本当に意味があるのかもしれないな。
ただそれを俺自身が理解できるとは到底思えないが。
「そうだ、逆に聞くんだけどさ、アルアさんって普段どんな人なんだ?」
「アルア、ですか。難しい質問ですね」
難しい? 予想に反した答えが返ってきた。
てっきり能天気で無駄に明るいとかそういう失礼な感想が出てくるのだと思っていたのだが。
「アルアとは大学に入ってからの友人です。彼女、一見交友関係は広いのですが、その実は人見知りという矛盾した性質を持っています」
「意味がわからないぞ?」
「だから難しい、と答えたのです。確かに普段接していると明るいし、外見の美しさを台無しにするような言動が目立ちはするものの、存在感があります。雰囲気に華があるのですが、でもとても繊細でいつ壊れてもおかしくない、そんな危うさを感じてしまうのです」
ときどきアルアさんは思考の世界に入って中々こちらの呼びかけに反応しないことがあった。
でもだれだって悩みとか考え事はあるし、ちょっと抜けててもそれも個性だと俺は思う。
いや、思うんだが。
「ごめんなさい。もちろん友達であるアルアを悪く言ってるのではありません。ただ友達の私でも、理解してあげることができない面があるということなのです。世話を焼いてくれるし優しいし、いい人だと私は思います」
「アイカさんが言ってること、俺も少し思うところがあるけど。でもやっぱりいい人だと思う」
「ええ。これまでと変わらない付き合いをしてあげてください。私もそんな彼女に、惹かれた人間の一人ですから」
そう言ってアイカさんは席を立ち、スキルの育成と調整をしに外へ出かけていった。
今日のこと、アルアさんのこと、色々考えてみたいと思ったが明日はレアモンスター討伐の日なのだ。
俺も他のメンバーに遅れを取るまいと、残った時間で様々な準備に取り掛かる。




