第二十一話『銃器』
山道に二種類の音が響く。
一つは乾いた小気味良い連続音。もう一方は短く味気ない音が一回だけ。
魔法に比べてしまうと派手さが少ないが、総合的な戦力はずっと上なのかもしれない。
「何だよ……。銃ってめっちゃ強いじゃねえか」
俺はそう呟いてしまう。
だってそうだろ?
銃は弾丸を飛ばす武器なわけで、距離を詰める必要も、魔力を込める必要も、ましてやスキル名を叫ぶ必要も無いわけで。
ちなみに銃の重量と反動、リロードはゲームということなのか簡略化されている。
例えばリロードは無限に弾薬を収納できる『弾丸ボックス』という箱から自動的にリロードされる。
マガジンに入っている弾丸がゼロになると、視界の隅にリロードゲージが表示されるらしい。
それがフルになれば再度弾丸を発射できる。
トンデモな仕様だが確かにこれくらいやらないと俺を含めた一般人には、銃器を分解したりメンテナンス、弾薬補給なんてハードルが高すぎる。
「視界に鳥型モンスター、"ピッキン"を確認。仕留めます」
ターン、という音とともに、遠くで何か落ちるものが見える。
メガネをかけたサラサラロングヘアーのアイカさんが、得意のスナイパーライフルで飛行するモンスターを撃ち落としたのだ。
単体で来るモンスターには狙撃、群れで襲撃し狙撃で対応しきれない標的はアルアさんが撃ち落とす。
「敵の気配が感じられなくなりました。この辺りの魔物は狩り尽くしたのかもしれません」
こともなげに言うアイカさん。
近未来編はゾンビの大群と戦わされるらしいが、それに比べればただの鳥なんざ相手にならないのだろう。
「二人の武器が離れている敵を根こそぎ倒しちまうから、連携を磨く練習なんてできねえぞ」
「いやさー。近未来はビルとか建物、地下通路とかで狭い場所多いのよ。逆にこれだけ視界が開けた場所でさ、銃が活躍できなかったら情けない話よ」
もっともだ。
ペアでずっと行動してきたのは、無理にパーティーを組む必要が無かったということでもあるのだろう。
しかしこれではちょっとしたミニゲームだぞ。
何せ敵を視認したかと思えば次の瞬間には死体になってるんだ、何が死んだのかを確認する作業になっちまってる。
「ではもう少し山を登りましょう。情報によればそこにいる魔物は私達では対処が難しいと予測されますので」
「銃が効かねえんじゃ、剣なんてもっと無理ゲーだと思うんだけどなあ」
「まあまあ。アイカさんが言うんですから、きっと僕らにも出番があるってことですよ」
しばらく歩いていると、周囲には植物らしい植物が見当たらなくなり、樹木も無いさびしい道になってきた。
代わりに大小様々な橙色の石の塊が点在している。何かの鉱石だろうか?
「モンスターを確認。岩に擬態する"ロックエイプ"が三匹。先制攻撃を仕掛けます」
アイカさんが愛銃"HAYABUSA"の照準を敵に合わせる。
ゲームの仕様による銃の軽量化、ステータス並びにスキル補正、それらが合わさり岩石の一つに弾丸が命中する。
「ゴアアアアアアアァァァァ!!!」
擬態がとけ、魔物が姿をあらわにする。
類人猿に岩のような皮膚が付着している、名前通りのモンスターだ。
あまりにも遠い距離で攻撃を仕掛けたためか、最初は事態を飲み込めずにいたようだった。
だがこちらの姿を確認すると、すぐに激怒して突っ込んで来る。
「やはり敵の防御力を抜くことができませんでしたわ。アルア、お願いします」
「まっかせてよ、アイちゃん!! あんな猿どもこの"ウニちゃん"で一網打尽!!」
嬉々として【ステップ】で飛び出すアルアさん。
俺とカイも続いて駆け出そうとする。
「待ってください」
「「え?」」
「今回はアルアに任せてください。私達はペアでしか狩りの経験がありませんから、それ以上の人数での連携はどうすれば良いか分かりません。ですのでこの戦いの様子を見て、私達の運用方法を考えて欲しいのです」
「わ、わかった。だけどアルアさん一人で大丈夫なのか?」
フフっと笑うアイカさんにしばし目を奪われる。
大学生という、俺らの世代の女の子にはまだない大人の色気ってやつだろうか。
普段あまり感情の色を出さない分、そのギャップが眩しい。
って戦闘中だった、気を引き締めねえと。
「大丈夫ですよ。あなたのコーチは私からみて馬鹿なくらいに今の戦闘を楽しんでます。でも武器は泣いているかもしれませんね。せっかくの飛び道具ですのに、ああやって戦っているのですから」
三匹の硬くて素早い魔物。
その皮膚は銃弾によるダメージの通りが悪いし、素早い動きは射撃の照準を狂わせる。
そんなあいつらに対して、普通の銃使いなら距離をなんとか取ろうとするだろう。
俺だってもし手に銃があるのならば、飛び道具を持たない相手にわざわざ接近戦なんてしたくない。
だがアルアさんは一見自殺行為と言っても良いだろう、逆に自分から距離を詰めている。
このゲームの死はリアルでの死では無いとはいえ、俺にはできない芸当だ。
「まるで、踊っているみたい……」
アミが彼女の戦いに惹き込まれている。いやアミだけじゃない、俺もカイもだ。
攻撃をヒラリヒラリと回避、同時に関節などの防御が薄い部分に射撃、時折蹴りを放ちつつ【緊急回避】で適度な間合いを保つ。
魔物三匹が手玉に取られているのだ。近接主体の俺とカイにとっては刺激が大きいと言える。
「【アクセラレートスピア】のようなスキルでも使っているのでしょうか……。あの動きと攻撃精度は普通じゃない!」
彼女の戦いには一撃必殺だったり爆発だったりといった派手さは無い。
が、一つの芸術とでも言ってしまいたくなる、戦闘には似つかわしくない美しさがそこには存在している。
銃弾が通りにくいとはいえ、急所にサブマシンガンを何発も打ち込まれればそれを耐え続けるのは無理な話。
とうとう三匹の魔物は死を迎える。
「はい、一丁あがり! って三丁? まあどうでもいっか。ありがとね、ウニちゃん」
どうやらアルアさんは銃に名前を付けているらしい。
"uni"(ウーニー)というサブマシンガンだからそういう愛称を付けたのだろう。
訓練中に何度か見せてもらったが、やっぱり銃はカッコいいな。
命中精度が低いのが難点だが、優れた連射性能に加えて装弾数が32発あり使いやすいとのこと。
「あれだけ近づけば集弾性とかどうでも良くなる訳か」
俺も現物のサブマシンガンなんて持ったことが無いし、バーチャルでの軍事物ゲームだってしたことが無い。
だから詳しくは分からないが、今までにプレイした銃がでてくるゲームを思い返すと、連射系の武器っていうのは大抵は弾が照準に対してバラけてしまい当て続けるのが難しい。
「何故、あんな戦い方をするのか。今、ラージウッドが言ったように集弾性の問題もあるんだけど、もっと別の理由があるのよ」
その後しばらくアルアさん、アイカさんから銃のメリットデメリットを聞かされた。
メリットはすぐに思いつくが意外とデメリットも少なくないようだ。
まず銃器を使うにはそれ用のステータスが必要になるとのこと。
銃器の攻撃力に関わってくるのは器用さなのだが、器用さを特化して伸ばしても近接武器ほどのダメージ増加は望めない。
軽量化されているとはいえ多少の筋力が必要であり、また武器の装備条件に若干の知力が要求される。
集弾性を上げるには精神力を、リロード速度を上げるためには素早さを上げる必要がある。
「それにね。柔らかい敵は相手にならないんだけど、硬い敵は本当にきついのよ」
弾丸には属性が存在しない。
つまりそれは俺達の武器や魔法のように、属性相性によるダメージ補正が掛からないということだ。
話によれば防御力の計算方式はどうやら二種類あるらしい。
一つは割り算、つまり『火属性ダメージを10パーセント軽減する』というものと、引き算である『火属性ダメージを100軽減する』といった二種類だ。
例えば1000のダメージを受ける火炎弾が飛んできたと仮定しよう。
割り算で1割へらせば受けるダメージは900、引き算でダメージを100へらしてもダメージは900。
そう、この設定ならダメージは同じだ。だがダメージが5000になれば?
割り算方式なら4500ダメージだが、引き算だと4900になる。
逆にしてみる。ダメージ100の火炎弾に置き換えてみよう。
割り算ならダメージは90、だが引き算ならダメージは0だ。
つまり、一撃のダメージが大きいスナイパーライフルはともかく、一撃の威力が低いサブマシンガンは高い引き算方式の防御要素を持つ敵に不利なのだ。
それどころか物理ダメージが通らない敵に遭遇しようものなら銃全般が苦戦を強いられる。
近未来編にはそういうモンスターは流石にいないらしいが。
「そういうわけでね、近未来では複数の銃器を持って相性を補完するのがセオリーなのよ。でもさ、サブマシンガンを使ってるうちに愛着でちゃってさ。それで決めたのよ。『最後まで銃はサブマシンガンで行く』ってね」
「その補完を、アルアさんは【キックアビリティ】にしたってことか」
「そうそう。逆転の発想、てやつよ。精神力を上げないと弾がバラつくなら近づけばいい。相手との距離が近いほど威力が上がるソフトポイントっていう弾丸もあるからね」
色々な工夫があるもんだなと感心する。
銃器にも得手不得手が存在し、決して一人勝ちしている武器種類ではないということが分かった。
「弱点を接近することでカバーするってのは分かった。でもあの回避力と間接を正確に打ち抜ける射撃力はどこからきてるんだ?」
「経験による慣れと思い切りの良さ! ってだけじゃないけど、その辺はおいといて今はパーティー連携のことを考えましょ」
そうだった。アルアさんの戦闘力を分析するためにここにきたわけじゃない。
もちろんパーティーメンバーのできることを把握しておく必要はあるが、アルアさんの強さはきっとスキルやステータスといった要素だけのものじゃないのだ、言葉だけでは分からないだろう。
見て学び、そして盗む。
到達できる地点なのかは分からないが、いつかきっと……。
「アプトス山脈に出現する強力なモンスターは、二種類。さっきからたびたび襲ってくるピッキンのボスモンスター“ピッキング”か竜型のレアモンスター“ファイアドレイク”。恐らくファイアドレイクが該当すると思うから、火炎対策と対空戦の準備が必要になりそう」
「アミちゃん、ありがとう。実際に戦いに入ると予定なんて無いようなものですが、一応作戦は立てておきましょう」
「そうだな。想定外のことはともかく、少なくとも想定内のことは対処できるようにしておきたい」
前回のレアモンスター、ブラッディファング戦で俺は想定外の敵の火力に自分を見失いかけていた。
今度のモンスターも情報外の強さを持っているならば、万全の体制で臨むことなんてできないだろう。
でも、それでも心構えだけはしておきたい。
強くなることを任され、アルアさんに訓練を手伝ってもらった。
みんなの期待に全力で応えたいのだ。
「基本的な戦術として情報にある攻撃、つまりファイアブレスによる火炎攻撃はアミの魔法で防御。相手が飛行状態ならばアイカさんに狙撃してもらい、残りのメンバーが敵の襲撃を阻止する。今回のカギはスナイパーライフルになる。だから絶対にアイカさんのところへモンスターを行かせてはダメってことだな」
「責任重大ね。洋服が気になってこの世界に来たのに、こんな大役を任されることになるなんて思ってもみませんでした」
特化のスキル育成をしているものの、そこまでガチプレイをしているわけじゃないアイカさん。
言動はいつもと変わらないが、表情は少し硬い。
いつもはスナイパーライフルを面倒そうに携えている彼女だが、今だけはその相棒をじっと見つめ続けている。
「いや、アイカさんだけの問題じゃありませんよ。どんなに僕達前衛が頑張っても、飛んでいるモンスターを相手にするのは分が悪い。アイカさんが上手く狙撃をできるようにするのが僕達の仕事なのですから、仮に失敗してもそれは僕達の責任でもあるのです」
「そうそう。アイちゃん、肩の力抜いてこ? 相棒の“ファル”を信じてあげなきゃ可哀想じゃん。それに失敗を想定して挑戦しても仕方ないって」
「またアルアは私の銃に勝手に愛称を付けて……。フフ、分かりました。みなさん、ありがとうございます。リアルでは感じることができない類の緊張感がありますが、私ができることの全てを注いで、仕事を果たしてみせます」
討伐開始は明後日だ。
出現時間や条件が確定できていないので、それまでに情報が入らなければ山篭りになる。
良くも悪くも弓職を極めているプレイヤーが少ないから、この山脈で狩りをする者は少ない。
報告は期待できないが、他人に討伐される可能性も少ないということだ。
「よし。それじゃ各人、念入りに準備して明後日に備えよう」
「了解です。久々のレアモンスターですからね、気合が入りますよ」
「火が続くのは残念。でも、頑張るね!」
「あっと、それとだ」
そうだ、これだけは言っておかなければならなかった。
「困ったことがあったら何でもいいから話をしてくれ。スキルでもアイテムでも、資金のことでも何でもいい。俺はカイとアミの三人でやってきたが、アルアさんやアイカさんのことも大切な仲間だって思ってる。強さも大事だけど、パーティーとしてやっていくにはみんなのチームプレイが大切なんだ」
「……それがラージウッドの、“数字に表れない力”ということね?」
「ああ。ただの言葉に過ぎないけど、でも言葉と意識が力を生み出してくれることって絶対にあると思うんだ」
「ふふ。あなたのそういうところ、お姉さんは好きだな」
アルアさんは近づくと俺の頭を撫で始める。
おばあちゃんみたいな歳の人ならともかく、女子大生にこれをされるのはちょっといたたまれないな。
「アルア、お止めなさい。無自覚な無防備さは誤解を招きます」
「ほいほい」
「全く。口を開かなければ、外見だけは立派なレディになる要素を満たしているというのに……。もったいないことです」
俺達三人が友達として活動してきたように、あの二人も友達としてやってきたのだろう。
アルアさんに言ったように、気持ちの問題というものは大きい。
だけど実は気持ちだけの問題じゃないんだよな。
俺はスキル表示画面にある、一つのスキルを見つめる。
【連携ボーナス】――同じスキルを取得しているパーティーメンバーへの支援行動、また連携攻撃にプラスの補正を与える。
みんな一緒に頑張ってきたんだ、やれないはずがない。
仲間達の顔を見渡して、俺は強くそう思った。




