第十九話『道標』
初のレアモンスター討伐を果たし現実に戻って一週間。
俺達三人はRC3を継続してプレイしていた。
初日から変わった点は、ゲームをする場所と時間。
ほとんどの家庭にPCと端末があるのだから、わざわざ俺の家に集まる必要は無い。
時間も各人が自由に出来る時間に勝手にプレイすれば良い。それぞれの都合があるしな。
それでも集まって楽しもうということで週末は俺の家に押しかけられる状況だ。
この一週間、レアモンスターを倒すことは無かったがレベルとスキルの育成、そしてインセンスの生産に励んだ。
ベースレベルが40、初日に比べてかなり強くなったと実感している。
レベルだけじゃない、アルアさんがたびたび特訓に付き合ってくれるおかげで、戦闘の質も上がっているように思う。
そろそろ次の討伐対象を決めようか、そう話している途中、俺はあることを思い出した。
「そうだ。みんな、城に行こうぜ!」
みんなにとっては唐突だったのか、要領を得ないといった表情で二人が俺を見る。
「おいおい。青い森でちょっと話したじゃないか。特に王城に行こうって言ったのはアミだぜ」
「ああ! そういえば、そうだったね。落ち着いたら行こうって言ってたのにすっかり忘れちゃってた」
「やっぱりまだあきらめていなかったんですね……」
そうだ、諦め切れるはずが無い。
このVRMMOはあの優れたゲーム性とゲームシナリオを誇るRCシリーズの最新作なのだ。
ストーリーが存在しない、そんな報告を鵜呑みにして断念することはできやしない。
一応俺は冒険の合間、街のNPCを見かけては会話を試みてはいた。
しかしヴァーチャルじゃないゲームのように、彼らは決められたセリフと仕事以外をする様子が無かった。
いや、まあそれが普通なんだろうけど、普通のゲームはNPCに何らかのクエストやイベントを仕込むはずなんだよ。
ゲーム自体が楽しいから一応プレイしているが、冒険にちょっとしたスパイスが欲しいと願うのは行き過ぎた欲望なのか?
「行ってみましょうか。城の中まで作ってあるということは、何か意味があるのかもしれませんし」
「そうね。意味が無いのならお城の中に入れるようにはしていないと思う」
討伐対象を決めていないのだから、活動には余裕がある。
俺も本当いうと期待はしてないが、確認の意味を込めて王城へと向かうのであった。
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「王城に来たのはいいんだが……。何でここにアルアさんがいるんだ? それにアイカさんも」
王宮の広間に見知った人が二人。
一人は俺のコーチであるアルアさん。もう一人はその親友であるアイカさんだ。
現代風のファッションにサブマシンガン。
一方で中世風なこの世界に合わせた貴族風のドレスなのにスナイパーライフル。
……二人とも異質である。
「ヒマだからきちゃった。フレンドリスト登録してるからラージウッドがここにいるって分かってるし」
「ラージウッドさん、ごめんなさいね。有子、じゃなかった、アルアが『教え子の様子見に行く』って急に言い出してしまって」
「大丈夫ですよ。何かをしにここに来たってわけじゃないし」
カイが言うように、明確な意図があってここに来ているわけじゃない。
実際、王宮に入って俺は諦め始めている。
設定やストーリーが活かされているのならば、ただの冒険者である俺達が何の約束も無く城の中に入れるはずがない。
それに警備している兵士に話しかけても返ってくるのは、『魔物が~』『警備が~』というお決まりの返事だけなのだ。
「一応、クエストがあるか探しにきたんでしょ?」
流石にアルアさんには分かるか。
彼女も俺と同様、RCシリーズのファンだからRC3に期待するものが大きいのだろう。
「収穫は無さそうだけどな。せっかくきたんだから王様に会っておこうかなってね」
「王様もそこらのNPCと変わらなかったら致命的ね。ほんっとこのゲーム分からないわ」
本当にアルアさんの言ったとおりだ。
疲労度が導入されている理由はなんとなく実感した。
しかしゲームのウリと言える『ワールドリープ』で、疲労度を大量に消費してしまうことは良く分からない。
それにクエストやらが実装されていないにしては、ゲーム進行に関係が無いものまでやけに作りこまれている気がする。
「なーんのクエストもないのに、王宮にこんな銅像建てちゃってもねえ?」
恨めしそうに戦士の姿をした銅像をペチペチと叩くアルアさん。
若々しい青年が剣を掲げているその姿、ゲームとしては勇者という言葉が似合う雰囲気だ。
銅像の台座には記号のようなものが刻み込まれているプレートが設置してある。
たぶんこの戦士の活躍だとか、そういう説明みたいなのが記されているのだろう。
「アルア、そのペチペチは止めなさい。私には分からないけれど、クエストが無いのに銅像があるということはおかしいことなの? 関連性が理解できないわ」
アイカさんは俺らと比べてゲーム経験が薄いのだろう、感覚が掴めていない様子だ。
全てというわけではないが、普通はゲーム進行に関係が無いような建物の内部まで作りこまない。
『リアリティを演出するため』、そう言われればそうなのだが、RC3の話で言えばそれは違和感だ。
ストーリーやクエストを削ってまで、プレイヤーに関係の無い建造物を装飾やら銅像を配置してまで作り込む。
開発の気まぐれやこだわりなのかもしれないが、そんなこだわりはゲームシナリオに注いで欲しかった。
「おかしいことよ。だって広い世界を冒険するだけが売りならRCの名前で出す必要が無いし、それこそ『ワールドリープ』なんて自由にやれた方がゲームの評価もあがるでしょ」
「そうなんですよねえ。疲労度さえ消費しなければ、それぞれの時代の特産物の輸入や輸出、スキルの組み合わせ、パーティー編成など楽しみ方がぐっと広がると思うのですが……」
「もったいない、よね」
そう、プレイヤーを自由にさせたいのか、プレイに制限をかけたいのか、その意図がどうも分からないのだ。
自由度が上がれば、アイカさんだって銃器の弾丸のことで悩む必要が無くなる。
「この銅像に付いてるプレート。無駄に文字なんか刻んじゃってさ。
『キョウアクナアカノマモノ ミタビトウバツシタエイユウヲ ココニタタエル』
力のいれどころ、間違ってるよ~、開発さん!」
……え?
「アルアさんちょっと! そのプレートにある文字読めるのか!? 何語なんだ!?」
「うわっと、ここまで食いついてくるとは思わなかった。何語でもないよ。敢えて言うならスルア王国だからスルア語?」
「どういうことだ?」
文字――モンスターを倒してレベルを上げるだけのゲームには必要なさそうな要素。
それがわざわざ用意されてるってことか!?
「いやさー。アイちゃんに連れられて中世編来たのは良いんだけど、ゾンビでてこないから飽きてきちゃって。そんでヒマだから王国の図書館行ったらさ、どの本もみたことない文字で書かれててさ」
「最近、何をしているか分からない時があったけれど、そんなところに行っていたのですか」
「アイちゃんの露店周りは疲れるんだもん! それはさておき。んでね、文字分からなくて読めないしつまらないなーって思ってたら【言語理解】のスキルがいつの間にかでちゃっててさ。取得したら一応読めるようになってたのよ」
これは驚きだ。アロマもそうだが、言語に関わるスキルもちゃんと設定されていたのか。
もしかしたら【言語理解】があることで覚えられるスキルや情報があるのかもしれないな。
「ああ、でも期待しないでね。図書館の本をいくつかざっと見てみたけど、スキルの情報は一切無かった。クエストフラグだと思えるような情報も全然無い。ほんとスキル枠を無駄にしちゃったわ」
「だったら本とか文字とか作りこまなくていいのにな……。おかしいだろ、力のいれどころ」
NPCとの会話だって日本語で成り立っているんだから、わざわざ文字とか設定する必要性を感じられない。
こりゃ本当に、モンスターハントとキャラ育成、レア収集やってりゃいいゲームになってるっぽいな。
「アルア、諦めが肝心よ。王様に会って極わずかな望みすらも絶たれたら、狩りにでかけましょう。欲しい素材があるの」
「はいはい、どうせ服の素材でしょ。アイちゃんみたいな楽しみ方をRCシリーズでやる必要がどこにあるっていうのよ」
「ははは、しょうがないですよ。無いものはね。それではいきましょうか」
広間の銅像を過ぎ去り、しばらく歩いて俺達は王の間へと向かう。
やはりゲームはゲームなのだ。
こんなに何もなく王の元へ向かえてしまえるのなら、その気になれば王という存在を消してしまうことだってできるだろう。
まあ街中じゃシステム上、戦闘行為を行うことができないが。
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「いかにもって感じの王様ね」
「何のひねりもありませんわね。王冠かぶって玉座にふんぞり返って。イメージそのまま」
警備する騎士や家臣を周囲に取り巻いて、王は存在していた。
NPCには変わりないが。
「ダイキ、どうするの?」
「決まってるさ。ただのNPCだから礼儀とか作法とか関係ないだろうし」
そう言って俺はきびきびと王の元へ行く。
だがNPCとはいえヴァーチャル世界、一応リアルを模してあるものだからちょっとした緊張はある。
現実にこういう場面に遭遇することはまずないのだ。
近寄ると王のNPCが口を開く。
「おお、冒険者よ。よくぞ参られた!」
設定は分からないが、ただの冒険者なのに扱われ方が雑じゃないな。
「西の草原での魔物の討伐、ご苦労であった。そのほうの活躍で民に安全がもたらされているのだ、国を統べる者として礼を言う」
ん?テラーウルフを倒しまくったことか?
あの草原は初心者が最初に向かうところだから、そういうセリフが設定されているのだろう。
どんなプレイヤーが来ても対応するような内容になってるってことか。
……ってことは待てよ。王様もハズレなのかよ。
こりゃマジで狩りゲーを楽しんでいくしかないな。
俺は玉座を背にして仲間の元へ歩みを始める。
「その中でもあの忌まわしき赤の魔物を倒したこと、冒険者が行った数多くの功績なかでも、特に賞賛すべきことだ」
今、何て?
「しかし残念ながら、我が水の国スルアと火の国との国境にあるアプトス山脈にも赤の魔物が出たとの報告が入っておるのだ」
話の内容が進展する。
赤の魔物と言えば俺達がなんとか倒すことができた、アイツのことしか考えられないだろう。
あれとは別のやつがそのアプトス山脈ってところにいるってことなのか?
「冒険者には再度、赤の魔物の討伐を行っていただきたい。よろしくお願い申し上げる」
王の俺に対する丁寧過ぎな対応、その意味は理解できない。
だが、確実に理解できることがある。
情報と違う赤色のレアモンスターを討伐したこと。そのことを王が把握し、その上次の対象まで告げる。
次にやるべきことが提示されたのだ。
「どう見てもコレ、フラグが立ってる、ってヤツだよな」




