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Ruin & City 3 ―それぞれの世界で―  作者: 夕陽倍施工
第1章:ラージウッド編~楽しむということ
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第十八話『戦い終わって』

 


 草原に出現した強力な炎狼、ブラッディファングの討伐が果たされた。

 事前に仕入れていた情報と違っていたが、表記されていたモンスター名は違わなかったのだ。

 そう、間違いなく俺達は最初の目標を達成させたと言える。


「やれたんだな、俺達」


 みんなヘトヘトになっているが、充実感に満ちた顔で頷く。

 4人のスキル、そして意志を合わせての勝利なのだ、嬉しくないはずがない。


「ドロップアイテムは、流石にエントロードの時のようにはいきませんでしたね」

「アイテムは残念だけど、みんなと倒せたということが嬉しいから、私はこれで充分かな」


 ブラッディファングからドロップしたもの、それは素材系アイテムの【ブラッディファングの牙】のみだった。

 一応、装備品の優秀な素材にはなると思うのだが、【アロマテラピー】系の素材にだけはならないだろう。

 ……残念だ。


「アミの言うことももっとも。でも【美しき青い森の恵み】を使ってこの結果は寂しいな。仕方ない、宿に戻るか」

「身支度を済ませてログアウトしなくちゃいけませんからね」


 ドロップアイテムが芳しくないとはいえ、目的をやり遂げた俺達の気分は上々だ。

 だが一人だけ、勝利の余韻から周囲への警戒へと表情を変えた者がいる。


「気配を消しても無駄なのだ! 隠れてないで出てこーい!!」


 宝剣を抜いてそう告げるイェリコ、俺達もイェリコが睨みつける方向に向き直りそれぞれの武器を構え始める。

 何かいるのか?気配を消すようなモンスターがこんな場所に?


 しばしの静寂。そして観念したのか、夜の闇の何もない空間からうっすらと実体化するモノがあった。


「私の【ハイディング】を見破れる人がいるなんて。聞いていた話だとそれが出来るメンバーはいないと思っていたのに」


 フードを深めに被った人間がそう言いながら現れる。

 服の上からでも分かる体のラインで、それが女だと認識する。


「何の目的で隠れていた? それに聞いていた話とは何だ?」


 俺は警戒心をあらわにそう言い放つ。

 このフィールドにはブラッディファングを除いて、【ハイディング】でわざわざやり過ごさねばならないほどの危険なモンスターは存在しない。

 何より俺達のことを少なからず知っている口ぶりなのだ。

 PK、つまりプレイヤーを攻撃する行為やドロップ品を狙っているという可能性をどうしても考えてしまう。

 実際これまでプレイしてきたゲームでもそういった行為を受けたことがある。

 ゲーム上の仕様でもあるので仕方が無いのだが、中には仕様であるということを口実にえげつない妨害を仕掛けてくるプレイヤーもいる。


「あらあら、情報提供者に対してそんな態度でいいわけ?」

「え?」


 女が深めに被ったフードを外し、その顔を明らかにする。


「なんだ、リザラーザさんじゃないですか。驚かせないでくださいよ」


 カイが警戒を解いて親しげにリザラーザと呼んだ彼女へ歩み寄る。

 顔を良く見るとなんとなく見覚えがあるが、情報提供者と言ったということは……。


「カイ兄ちゃん、この女、知ってる人なのかー?」

「失礼なお子ちゃまね。私はリザラーザ、クーラを通してあなた達にブラッディファングの情報を与えてあげたのに、ひどい扱いだわ」


 この人がそうだったのか。

 ラフで露出度が少し高めの格好で手には短めの杖、そして腰に短剣。なるほど、カイの話通りのスキル育成をしているな。

 杖は妨害用の魔法のため、短剣は【ハイディング】や【気配察知】といった隠密行動をとるためのものなのだろう。


「そう警戒しないで。確かめにきただけなのよ。ヤツを討伐した時間をね。」

「次に出現する時間を把握するために?」

「そういうこと。あれが落とす牙はけっこういい武器素材になるから高く売れるのよ。ただソロで倒すには力不足だったんだけど、そろそろ挑戦してみようかなあって」

「あれをソロでやるのか? レベルを多少上げたくらいで勝てる相手じゃなかったぞ」


 イェリコのレベルが分からないが、4人がかりでなんとか倒せたというギリギリの状態だった。

 相性が良くしかも特化させて威力を伸ばしている氷魔法、同じく特化した火炎魔法による炎の防壁、ダメージを与えて隙を作るための前衛が二人。

 それらの連携が上手くいってやっと倒せたのだ。レベルやスキルの構成を整えたくらいで一人でやれるような相手じゃない。


「戦いを見てたんけど、今日のアイツはたまたま強化された個体がでてきちゃったのよ。普通の固体ならレベルを上げて戦略を練れば一人でも狩れるモンスターよ」

「強化? そういえばアルアさんから聞いたな。モンスターは一定確率で通常とは違う、強化された個体が発生するって」

「それよそれ。運が悪かったわね、よりによって強化されたレアモンスターに遭遇するなんてね。確かにアレは私一人じゃ無理よ」


 なるほど、やはり今日の相手は情報と違っていたのだ。

 討伐報告をしたパーティーが並外れて強い集団だったということじゃなく、今回はモンスターがいつもより強い個体が出てきたということ。

 しかしレアモンスターも強化されることがあるのならば、今後はもっと事前の準備が必要だ。


「約束通り、倒してくれて感謝するわ。あなた達はちょっと他と違うっていうか、一儲けできそうだからまた何かあったら情報を出してあげる。それじゃあね」


 そう言いながら彼女は草原を駆け抜けて去っていく。

 ステータスの素早さにポイントを多く振って伸ばしているのか、何らかのスキルによる補正なのか、それとも両方なのだろうか。

 【ステップ】ではないただの走りなのだが恐ろしく速い。

 夜の暗さも手伝って、彼女の姿はすぐに見えなくなっていった。


---


 情報提供者リザラーザが去った後、俺達は宿屋に戻った。

 フロント脇のテーブルで、ちょっとした祝杯を挙げる。

 モンスターに止めを刺したイェリコが調子に乗って騒いでいるがそれだけの活躍をしたし、それに今の俺では持ち得ない強さを見せ付けられた。

 剣と盾も、極めていけば場を制圧できる強さを得ることができるのだろうか?

 それは分からないが、今は自分の仕事を果たしたことに満足しておきたい。


 買いこんだ食糧と飲み物が尽きそうになったころ、自然とみんなの口数が減った。

 ログアウトの時間が迫っているのだ。

 このゲーム内の4日間、本当に濃密な時間だったように思う。

 親睦を深め、ときに悔しい思いをそながらも協力してボスやレアモンスターを討伐することができた。

 俺一人じゃない、みんながいるから味わうことができた楽しみ。

 だが、そんな楽しい生活にも一時の休止が必要だ。


「そろそろ僕達三人はログアウトします。イェリコさんはまだしばらくゲームを?」

「うん、あたしはここに残る。お兄ちゃん達が分けてくれたお金があるから当分は困らないし、やることがあるから」


 ずいぶん寂しそうな表情をしている。一緒に行動したのは二日間だけだが、決闘で勝負したり共に強敵に挑んだりしたんだ。

 あれだけのイベントを楽しめたのは間違いなくイェリコのおかげでもある。


「今回はありがとな。イェリコと一緒にやれてすごく楽しかったぜ。」

「本当に、そう。ありがとう、パーティーに入ってくれて。魔法もすごく勉強になった」

「手助けがいるときは呼んでくださいね。今度は僕達が加勢しますよ」


 素直な感謝の気持ち。


「そ、そんなことみんなで言っても何もでないからな~! なにも、でないん、だからあ。……んっ。っく」


 少女の涙が暖かく胸に染みる。その気持ちに浸りながら、俺達はさよならを告げる。

 ほんの少し、ほんの少しだけの別れの時間。

 またゲームにログインすれば会えるのだから、何も悲しいことなんて、ない。



――ゲームを終了します。



 目の前に一文が表示され、俺達は現実世界に帰還する。

 日付はログインした時と変わらず、時間は夜7時になっていた。


「ふー終わった終わった。2時間しかプレイしていないのにあっちじゃ4日なんだよな。」

「時差ボケじゃないけど、何か違った感覚だよね」

「こんだけあっちの世界が濃密だとよ、ハマって抜け出せなくなる人がいてもしょうがねえわ」


 疲労度が導入されるのも頷けてしまった。

 RC3に限ったことじゃないが、ヴァーチャルな世界では空間を越えた他人との行動を可能にする。

 たとえモンスターを狩らなくても、スキル育成をしなくても、友達や親しい人に会って話ができる、それだけでも楽しいのだ。

 

 ゲームの余韻に浸っている俺達に割って入る声がドア越しに聞こえる。


「兄ちゃん達、ゲーム終わったあ!? お母さんが晩御飯食べていきなさいって言ってるよ!」

「お、そうか。ありがとう。すぐ行くよ!」


 ゲーム内で満たされた胃袋は当然なはらリアルには反映されない。

 夜7時にもなれば当然お腹が空いてくるのだ。下から届く料理の香りが食欲を増進させる。


「遊びに来て、そのうえ食事までいただくのは悪いから。私、帰るね」

「アミ、気にすんなよ。俺の母ちゃん、人に料理食べてもらうの好きなんだ。な、カイ」

「ダイキのおばちゃんのご飯たべるのはけっこう久しぶりですね。美味しいですし、一緒にいただきましょうよ?」


 カイの一押しもあって、結局みんなで料理を囲むことになった。

 食べさせる人が増えるだけ、作り甲斐があると母ちゃんもはりきっている。

 今日はいつもより賑やかな夕食になりそうだ。



---



 現実の夜、街灯はとっくに点灯し行く道を照らしてくれている。

 RC3の夜空と比べて見える星は少ないが、この世界の無駄に明るい夜空も俺は嫌いじゃない。

 家の方向が違うカイと途中分かれて、俺はアミを彼女の家まで送っているところだ。

 治安が良いこの国だけど、そうするべきだということくらいは経験値が低い俺でも分かる。

 何の経験値かは問わないで欲しい。


「今日は、その、ありがとう。ご飯までご馳走になっちゃって」

「気にすんな。俺が用意したわけじゃないしな。それに見てて分かると思うけど、うちの母ちゃんそういうの好きなんだよ」

「ほんとにおいしかったよ。お礼、言っておいてね」


 恥ずかしいのであまり自慢したくないが、母の作る料理はおいしい。

 急な客が二名も来たというのに、材料の数は大丈夫だったのか良く分からないがハンバーグを焼いてくれた。

 おかずもいつもより多かったのは見栄だろうけど、そういう母親に俺は感謝している。

 仕事で外にいることが多い父に代わって、我が家を仕切っているのは母なのだ。


 夕食のことはさておき、今はこうして二人、しゃべりながら道を歩いていく。


「不思議な感覚、だよな」

「そうね、不思議だと思う」


 言葉が途切れる。

 昨日までただのクラスメートでしかなかった彼女と、夜道を並んで進んでいくということ。

 ちょっとした偶然やきっかけで、繋がるハズもなかった縁がこうやって形作られるということ。

 あのゲームでの4日間は、それまで関係の無かった人間同士が、こうして共に歩いていくようになるには充分な時間だった。


「明日から、どうするの?」

「そうだなあ。いくら部活が無いとはいっても、毎日俺の家に集まってゲームするわけにはいかねえし。カイとまた話をしてみるけど、また三人でやりたいっていう気持ちはあるよ」


 どんなに努力をしても、どんなに強くなっても、外から見ればただゲームに夢中になっている、それだけなのだ。

 娯楽だけで過ごしていける人生は楽しいかもしれないが、それはそれで辛いものがあるように思える。

 それは俺達がこの現実で生きているという、変えようが無い事実が存在しているからだ。

 

 もしあのゲームが現実となってしまったら、それはもう娯楽では無くなってしまう。

 もしゲームと現実の境界線が分からなくなってしまえば、悲惨な結末しか訪れない、そんな気がする。


 それでも、ゲームでの活動が直接的には現実に物をもたらさないことが分かっていても、またあの世界に行きたい。

 そしてやる以上は明確な意思を持ってRC3をやりこんでいきたい。

 アイテムやレベルは形としてはこちらに残らないが、共に過ごした記憶は持って帰ることができるのだから。


「私ね、臆病だったこと、後悔してるんだ」

「ん、何のこと?」


 思考をめぐらせてぼんやりしてた俺にアミが呟く。俺は聞き返す。


「本当にちょっとだけ、ちょっとだけのきっかけが世界を変えてくれるって、そんな気がしたの」

「それってゲームの話?」


 彼女の足が止まった。


「ゲームも、そして現実もよ。」


 そうかもしれないな。

 ちょっとしたことで俺はアミと仲良くなったし、ちょっとしたカイの提案でゲームをより熱中して楽しむことができた。

 アミにとってはどうなのか? それは今の彼女の表情を見れば分からないはずが無い。

 あんな顔ができる、女の子って存在が少し羨ましく思えた。

 多分それは男なんかじゃ持ち得ないものだと、俺は思うのだから。



「今日は本当にありがとう!」


 

 そう言って少しだけ足早になりながら歩みを再開する。

 彼女はお礼を言ってばっかりだ。

 ゲームに誘ったこと、イヤリングを買ったこと、夕食をご馳走になったこと、そして今。

 でも、このときの『ありがとう』は、今までのどの『ありがとう』よりも俺の胸に響いた。


「家、そろそろだからこの辺でいいよ。また、明日ね」

「ああ、また明日な」



 一人で歩く帰り道。

 雲間から中途半端に顔を出す月。


 あのときの彼女の顔が、しばらく頭に焼き付いて消えようとしなかった。




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