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Ruin & City 3 ―それぞれの世界で―  作者: 夕陽倍施工
第1章:ラージウッド編~楽しむということ
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第十二話『ストーリー』


 充分に休息をとった俺達は、幻想的なこの青い湖から街へ帰る準備を済ませた。

 おそらくこの青い森のようなフィールドやダンジョンがこの世界にはたくさん存在しているのであろう。


「なあ、カイ。明日のレアモンスター討伐が終わったらさ、少しはストーリークエストにも手を出してみないか?」

「ふむ」

「いやさ、パーティープレイすっげえ楽しいけどよ、俺らこの大陸どころか王国のこともほとんど知らないしさ。もしかしたらこの青い森も、幻想的なだけあってクエストみたいなのが仕込まれてたのかもしれないぜ?」

「……個人的には集団行動とレベリングを優先したいですね。ただまあダイキの過去作愛も知っていますし、クエスト関係でレアモンスターの生態に関わるような話があるかもしれません。考えておきます」

「そ、そのことなんだけどね」


 俺達の後ろを歩くアミが申し訳なさそうに会話に加わってきた。


「掲示板によるとね、その……。ストーリークエストみたいなものが、無いらしいの」

「は? 嘘……だろ?」

「え、本当ですか?」

「うん……」


 脳筋で鍛錬大好きクエスト置いてけぼりな俺も、流石にアミの告げる事実には大きな喪失感を味わってしまう。

 ルーイン&シティシリーズは、ゲームとしてのアクション性、そしてゲームシナリオの優秀さで俺の中のゲーム観を染めてしまうほどの名作だった。

 "竜の征服"や"終わり無き幻想譚"という国民的RPGに比べればだいぶ知名度は低いが、それでもゲーマーの中にはそれらの大作RPGよりもRCシリーズが好きだという人はけっこういるのだ。

 レベルを上げたらストーリーに関係するようなクエストをやろうと考えていた。

 それなのに、それなのに……!


「いくらアクションゲームとして優れていても、ストーリーが無いなら単なる箱庭じゃねえか……。裏で世界を操る一見紳士的な作業着おっさんラスボスとか、シリーズのどの世界にもなぜか登場する渡辺さんとか、肝臓大好き☆僕らの肉食系臓物アイドル"ミンチー"ちゃんも出てこねえのか? こんなのRCシリーズと呼べるのか!? 開発者さんよおおおおお!」

「ちょ、ダイキ落ち着いて!」

「カイ、ダイキはどうしちゃったの? 渡辺さん? 臓物アイドルって、何!?」


 二人には分かるまい。

 一見王道な世界観や設定で表面を繕いつつも、その内面に潜む狂気に気付く頃には、難題を数々クリアしてふわふわと浮ついた精神を、捕まったら最後逃れることが出来ないトラバサミでがっちり掴んじまってるという、痛くも心魅かれてしまう、あの甘美な時をよ!



「ほらダイキ、落ち着いて。アミちゃんが混乱してますよ。正式にサービスが開始されているので望みは薄いですが、今後のアップデートでストーリークエストとかも実装されるかもしれないじゃないですか」

「そ、そうよダイキ。ゲームにストーリーが無いのだから、私たちの冒険が私たちのストーリークエストになれば、いいと思う」

「うう……。死んだ、ゲーム業界は死んだのだ。萌え絵に豪華声優使ってます!の無駄にエロい宣伝、過去の名作焼きまわし、バイオレンスで衝撃的な輸入作、手軽に集金課金マシーンのソーシャルゲーム。うう、うっうっ」

「そ、そこまで悲観することは無いでしょう。流石の僕も引きますよ……」


 流石にカイだけでなくアミも俺に対して冷たい目線を飛ばし始めたので、ぐずるのを止めた。

 しかしなあ、ストーリー失くしたRCシリーズなんて、いくらネトゲとはいえ俺が社長ならGOサインださねぇぞ。


「まあでも、ダイキとは別の意味でこのゲームのことが良く分かりませんね。キャラクターメイキングもそうですが、ストーリーが無いのであればタイトルを全く別にしたほうが良いでしょうし。『ワールドリープ』も疲労度やら物資調達の問題などで頻繁に行えない。今のところ対人戦やギルド戦のようなエンドコンテンツも存在しない」

「サービス開始して間もない、といっても、ちょっとおかしいね」

「うう、そうさ、次の大型アプデでいろいろ追加されるんだよ。……よーし、そのとき全力で満喫できるようにレベル上げ頑張るぞ!!」

「その妄想が現実となればいいですね。まあゲーム自体は楽しいのですから当分はそうしましょう。そのうちこのゲームが僕らに何をして欲しいのか見えてくるでしょう」

「狩りや育成が落ち着いたら、王城に行ってみよ? NPCだろうけど、王様がいるだろうし、ちょっとはこの世界のことが分かるかも」


ーーーー



 街に戻った俺達は早速行動を開始した。

 カイは変わらずナンパ、もといレアモンスターや有益情報の収集と協力者への連絡。

 アミはスキルとアイテムの相場に関する情報を掲示板から抽出。

 俺? 俺はそんな中、街の片隅でいい匂いを拡散させていた。

 シートを敷いて机と椅子をセットしただけの粗末な露店だが、お香を炊いたそのお店は少し異質な雰囲気を醸し出していた。


「おい兄ちゃん、パワーインセンスをくれ」

「あ、あの! メンタルインセンスまだ残っていますか!?」

「ライフインセンスをあるだけだしてくれ。え、売り切れ? 嘘だ、まだ在庫があるのだろう? 値段に色はつけるつもりだ」


「ごめんごめん、もうインセンスは店頭デモ用のしか残ってないんだ。また作るからそのときはよろしく頼む!」


 最初はただの雑貨店と思われていたのだろう、回復効果のある香水をポーションのようなものだと間違えて買っていく人がほとんどだった。

 ただそのうちの何人かが、俺の扱っている商品が【薬剤作成】で作ったアイテムではないこと、また香りという付加価値が付いてあることからお香にも興味を持ち始めた。

 ステータスの一定時間の向上。

 予想通り、その効果が知れ渡ったあとにインセンスは飛ぶように売れた。

 似たような効果がある食料や料理も、別のお店で売れているのを良く見かけたし、過去のゲーム体験からも売れることは分かっていた。

 ただ過去のゲームと違うのは、今現在これの製造ができて市場に放出しているのがおそらく俺一人だということだ。

 客の一部からはどの生産スキルで作ったのか教えてくれと聞かれたが、企業秘密ということでそれらを跳ね除けた。

 教えるメリットが無く、教えることによるデメリットは有るのだから仕方がないのだ。

 それなりの対価でも提示されるならば、例えば有用なスキル情報などを教えてくれるなら別だが。

 

「しっかし、所持金がやばいことになったな。先行プレイヤーほどではないだろうけど、当面の宿代や装備新調くらいは余裕になったはずだ」


 値段付けが難しかったが、一個あたり2000マニで出品してみると売り切れまで速攻だった。

 低レベルで買えるほど安くは無いが、レベルが上がって安定した狩りができる頃になるとそう高くもない価格。

 そしてそのくらいのレベルにあると、ステータス上昇のありがたみも実感してくる頃なのだ。

 同業者がでてくるまでは、もう少しは稼げるだろう。

 明日も寝不足になるな、俺。

 だけどこの売り上げが、レアモンスター討伐の準備を加速させるんだから頑張ろう。


「あら、レモングラスの香り……。このお香はあなたが?」

 

 店頭デモ用お香の片付けを始めようかとする俺を遮るかのように、質問が投げかけられた。


「……」

 

 俺は絶句した。


「ん? 違うの?」

「あ、いやその。そうです、俺が作りました」


 カイがいればどういう評価を下すだろうか、俺にはわからないが少なくとも美人度7よりは上だとするだろう。

 目の前の女性、小柄で細身だが華奢というよりも何故か強い意志を感じとってしまう、そんな美人のお姉さんだ。

 俺が知っている女性ゲーマー像とあまりにもかけ離れている。

 ライトブラウンのショートカットに、魅惑の唇、冷たさと慈愛が同居しているような薄い色の瞳。

 服装はラフで若い男性が着用するようなファッションだが、そのかっこよさもまた彼女の美を際立たせている。

 顔立ちも……って何か見覚えが


「こういうアイテムがあるのに、ストーリークエストが存在してないなんて力のいれどころがおかしいわね。 過去の作品と開発者が違うのかしら」

「そ、そうですよね! 異なった世界観をまたにかけるシステムを利用したあのストーリーが良かったのに! ミンチーちゃんがでないRCなんてRCじゃないですよ!」

「あら、ミンチーちゃんわかるんだ? じゃあ脳みそを奪われた木人形の話もきっと好物よね?」

「大好物であります! ってお姉さん、見かけによらずRCシリーズの相当なファンですな」

「あはは、あなたもね。ラージウッドくん……か、良かったらフレンドリスト登録お願いできないかしら? コアなゲームのファン仲間として、ね」

 

 おっと、ここでまさかの美人のお姉さんとのお近づきフラグか?

 アミが「ストーリーが無いなら、自分でストーリーを作ればいいじゃない」的なことを言っていたような気がするがまさにこれがそれだな。


「ああ、いいですよ。それと俺、仲間からはダイキって言われてるんでダイキでいいですよ」

「ダイキ、大樹、ラージウッド、なるほどね。でも嫌じゃなければ私はあなたをラージウッド、と呼ばせてもらうわ。ここはそういうところでしょ?」

「え、ええ。それでもいいですよ。お姉さんはやはり好きなんですねここ」


 少し眉間にしわを寄せて複雑そうな顔をしたが、カイがいうように美人度7より上の人は何してもかわいいし美人なんだなとつくづく思い知らされる。 


「ストーリーが無いことには非常にがっかりしたけれど、今後実装されるかもしれないし、なによりゲーム性自体は嫌いじゃないわ」

「ま、俺もそうですね。仲間がいるから楽しんでるっすよ」

「……仲間、ね」


 その言葉にお姉さんが顔を曇らせたものの、それはほんの一瞬の出来事で、次の瞬間には元の表情に戻っていた。


「それにしてもいい香りね。またアイテムの作成が終わったら私に売ってくれないかしら? できれば柑橘系のブレンドで」

「効果じゃなくて、香りで依頼をするのはお姉さんが初めてですよ。わかりました、作っておきますからできたら連絡しますね」

「お願いね。おっと友達がそろそろ待ちくたびれて怒っているかもしれない。私は行くよ」


 そういって美人のお姉さんは足早に去っていった。

 男性プレイヤーが多いゲームの世界において、あの美貌といでたちは目を惹くのであろう、彼女に目を向けるプレイヤーの動きがここからでも分かる。

 現代風のファッションに、去っていくときに見えたあの細い腰に装着してある武器はサブマシンガンというやつだ。

 近未来編から来たプレイヤーなのだろう。


「しまった、お客さんの名前を聞いてなかった!」


 お姉さんを連呼しててすっかり忘れていた。

 俺はフレンドリストに登録した、あのプレイヤーの名前を確認する。

 それは目にしたことがある名前だ。


「アルア……さん。カイが見つけた協力者の一人、だったのか」


 今朝、カイが報告してくれた六名の協力者のうちの一人。

 あんな人まで協力に漕ぎ着けることができるなんて、カイの会話力は相当なものだなと思い知らされる。

 銃器が必要になるシチュエーションがまだ想定できないが、ゾンビとかグロいモンスターがでてくる近未来編で始めていたり、ミンチーちゃんを知っているのなら相当コアなRCシリーズファンなのだろう。

 いずれ一緒にパーティーを組むことがあるかもしれないのかと、ちょっとした期待をしつつ俺は露店の片付けを済ませ、仲間と集合するために食堂へ向かうのであった。




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