第十話『香り高い冒険者』
「うおおおおおおおおおお!!」
戦場へ駆け込んだ俺達の前方へ、叫びとともに体格の良い男が吹き飛ばされてくる。
大の大人を吹っ飛ばすような、そんなモンスターがここにいるのか!?
吹き飛ばされ体制を崩している戦士のさらに前方には、背丈が俺と同じくらいの、樹皮の皮膚を持つ魔物――エントが佇んでいる。
「エントにやられているのか? いや、少し様子が違う?」
「僕らが遭遇したものと違って色に青みがかかっていますね」
「これは……」
冷静に観察する俺とカイだが、言葉を発しようとするアミの方を見ると、目を細め冷静を通り越し緊張を伴ったような表情をしている。
「あの、青いエントの周囲、魔力が渦巻いてる。 とても、強力な……」
「魔法系スキルでも、使ってくるというのか」
強力な魔力を有するということ、つまりは強大な魔法スキルを仕掛けてくるということだ。
だが、相手は一匹。
仕掛けられる前にこちらから奇襲をかけるか?
カイとアミに攻めに出るぞ、という意図の目配せをする。
各々が武器を構え、飛び出そうとしたがそれを遮る声が響く。
「や、やめろ! 運悪くボスモンスター、"エントロード"が沸いたんだ! 三人じゃ無理だぞ!!」
「やはり、ボスモンスターですか!」
先ほど吹き飛ばされた前衛系と思われるロングソードを装備した男が叫ぶ。
魔法スキルを習得しているのか、いつのまにか防御結界を展開している。
剣士の背後には弓使いが地べたを這っており、後ではMPを使い果たしたのであろう二人がぐったりとしている。
周囲にはすでに行われた激しい戦闘跡、地面を穿った穴や焼け焦げたエントの死骸が見えた。
「コール、スレイブ……」
腕を小刻みに動かすエントロードから、不安を煽る耳障りな音が発せられる。
そして瞬く間に、周囲の木々がトレントやエントといったモンスターへ姿を変える。
自らを統べる王がいるからだろうか、道中に倒してきたヤツらの雰囲気が違う。
腕ともいえる太枝を前方に突き出し俺達に向ける様は、敵意を抑えきれずに今にも飛び掛かってきそうな気配だ。
「召還持ちか、さっき突っ込んでたらまずかったな……!」
彼らの実力がどれくらいのものかは知らないが、それでもバランスの取れた四人パーティが壊滅寸前の状況に追い詰められている。
それが一体何を示しているのか、想像に難くない。
果たして、そんな相手に俺達で勝てるのだろうか。
確かに、カイとの決闘で自分の実力を知ることはできた。
しかし、それがボスモンスターに通用するのか……。
そんな不安から、駆け出そうとしていた足が止まった。
――違う。そうじゃない。
俺達は何のために強さを求めてきた?
この世界で自分の強さを誇示するためか?
俺達が強さを求めたのは、こういうモンスターを倒す為だ!
その第一歩が、今目の前にあるんだ!
だからここは――
立ち止まる場面じゃない!
俺は左手に持つ盾を強く握り締め、力強く【ステップ】で前に踏み出した。
「ば、馬鹿! 俺達四人で勝てなかったんだぞ!!」
男の言葉に関係なく前に進む俺、そしてそれに続く仲間が二人。
「ボスモンスターとは、なんともやりがいのある相手ですね」
「チャージするね。 援護を、お願い。 詠唱、開始」
カイは槍を構え、アミは既に言葉を紡ぎ始める。
恐れは当然あるだろうが、それを上回る戦意を感じとれる二人、気力充分だ。
適正レベルとはいえ、油断すればやられるほどの強さをここのモンスターは持っていた。
それのボスだ、楽勝ということは絶対にありえないし、そもそも勝てるのか怪しい。
だけどよ、ゲームとはいえこのシチューエション、脳筋キャラが引いちゃだめだ。
「ちょっと乱暴だが、インセンスも炊いた。 ……よし、いくぜ! 【パワーストライク】!」
奇襲の一手、右手の剣に十二分の気力を込め【パワーストライク】を縦に放つ。
育成で特化させたこのスキルは以前よりも凶悪な威力を秘めている。
しかし、敵の群れは多少その衝撃波に接触し皮膚を削り取られるものの、致命傷は与えられていない。
いや、この技で倒すのは俺の狙いではない。
回避されたのは計算通り、あらためて剣を構えなおす。
次は水平方向にタメを作り、初撃以上の力をこめて横一文字に振り抜く。
「もう一撃だ、【パワーストライク】!!」
縦の一撃に比べ横判定が強い衝撃波を生じさせる。
【パワーストライク】は本来、連射できる技では無い。
それは運動的な理屈ではなくスキルにおけるシステム上の問題で、スキルは通常攻撃よりも様々な面で攻撃としては優れている代わりに、続けて撃つにはクールタイムと呼ばれる時間を必要とする。
他のスキルやステータスでそれを軽減することはできるが、今のような連撃を行うには少なくともまだ俺達のようなレベルでは無理だ。
そう、これは【パワーストライク】じゃない。
その技をレベル10まで鍛えて派生させた【パワーストライクⅡ】というスキルだ。
基本性質は派生元と変わらないが違うスキルと判別されているために、スキルのクールタイムが別になっている。
初段で敵の群れを分断、小規模にまとまったところに横判定が広い【パワーストライクⅡ】を打ち込んだ。
「グオオオオォォォォ!!」
スキルを鍛え、インセンスによるステータス補助を重ねた一撃。
適正レベル程度のモンスターなら、命を終わらせるに充分な威力だ。
トレント一匹にエントが二匹が体を上下に切断され、絶命する。
「最初から飛ばしてますね。 攻めを継続ですよ!」
「ああ、この流れだ。 【ステップ】!」
出るタイミングを待ちかねていたのだろう、カイが弾けるように俺と揃って前進し、敵集団を囲むように距離を詰める。
「俺達には意外とこのフィールド、合ってるかもな」
森というフィールドは奇襲を受けやすく、また木々が射線を遮り難しいフィールドだと考えていた。
実際そうではあるが、逆に敵をある範囲に追い込むという点ではやりやすい。
「チャージ、完了。 【ファイアブレイズ】!!」
後衛からの支援の一撃が届いた。
炎の範囲魔法が、魔力を溜めることでより強力となって敵を包囲、殲滅していく。
本来、彼女の取得スキルでチャージができるのは【ファイアボール】だけだ。
しかし、その魔法の特徴であるチャージという行為だけを抽出したようなスキル【魔法チャージ】が新たに待機スキル欄に登場したためアミは迷わずそれを取得。
【ファイアボール】以外の魔法もチャージできるようになったのだ。
うめき声を上げながら、数多くの植物系モンスターは焼き尽くされる。
魔法相性がいいのだから当然だ。
しかしここまで順調すぎるがゆえに、ある種の不気味さを俺は感じ始めていた。
連携は上手くいったが、敵の頭数が減ったのにも関わらず俺の頭の中は攻め方向の意識へと切り替わらない。
踏み出そうとする足に、力を込めようとする意思が働かないのだ。
エントロードの足元に散らばっているトレントやエントの死骸。
次々に襲い掛かってくるトレントとエント。
そして、その奥に控えるエントロード。
――そうだ。エントロードだけはその場から動こうとしていない
何故、エントロードが動かない?
手下をやられ、怒ることもなく悠々と佇むそれは、何もしないことでより一層の威圧感を放つ。
「お前達、まとまるな! 散開するんだ!!」
剣士が叫んだ。
結界魔法が解け、力を使い果たしたのかロングソードを杖がわりに立っている。
瞬間、薄緑に発光する魔方陣が俺とカイの足元を捉えていた。
「みんな避けて、範囲魔法がきてるよ!! 【ファイアダート】!!!】
「ミドリノ、ボウショク……アースバイト」
遅れてはいけない状況で、反応が遅れた。
焦りの中、小さな舌打ちをする。
範囲魔法で攻撃されるのは初めてのことで、回避という選択を判断するのにもたついてしまったのだ。
地鳴りと共に触手のような、現実では存在しえない太い茨が次々と顔を出し、並の鎧なら貫通できる勢いの鋭い刺突、人間を簡単に吹き飛ばせそうななぎ払い、食らえばダウンの殴打と縦横無尽に暴れまくる。
魔法効果の範囲内、その魔力は森という森を食い荒らすかのように猛り、風景を無残な自然に変えていく。
アミが咄嗟に繰り出した火炎魔法も、凶悪な茨の前にはついにエントロードに届くことは無かった。
視界にある圧倒的な破壊力を前に、心臓の鼓動が速まる。
回避が困難と判断、俺は盾を構え、カイも槍を制止させカウンターの構えを取る。
茨を呼び出す行為は魔法だが、茨が繰り出す攻撃自体は物理攻撃だ。
効果範囲に爆発を起すような魔法ならどうしようもなかったが、物理なら凌ぐことができるはず。
「【ハードシールド】!」 「【ダブルスラッシュ】!」
俺は硬化した盾によるダメージ軽減を、カイは槍技による切り払いを試みる。
硬いものと硬いものがぶつかる音。
「だめだ、防ぎきれねえ! ぐはっ!!」
初弾は目論見どおりダメージを殺すことができた。
だが迫り来る茨の群れ全てをやりすごすことは不可能だった。
次には刃物が何かを裂く音が耳に入る。
「突っ込んできますか!? まずい!」
振り下ろされる茨にカウンターで槍の二連撃、その攻撃は大きな茨に裂傷を与えていた。
しかしおそらく意思や感覚というものがないのであろう手負いの茨は、傷にひるむことなく攻撃を継続する。
防御とカウンターは敵の攻撃を防ぎきることはできず、俺もカイもダメージを負ってしまう。
50パーセント近くのLPを奪いながら、アミの近辺まで弾き飛ばされる。
あまりの強打に、体の感覚が正常に作動せず、次の行動を打つのに時間を必要としていた。
カイのほうも槍を杖代わりに地に刺し、なんとか立ち上がろうとしている。
「燃え猛る力を守りに!【ファイアシールド】!!」
魔法の範囲外だった彼女は冷静だ。
詠唱終了と同時に、炎の壁が出現する。
新しく取得したのだろうその魔法、眼前に展開された炎のカーテンは茨の進入を遮る。
猛々しく燃え滾るその壁は、凶悪な植物が近づくことを許さなかった。
敵の魔法の効果時間が終了したのか、茨の群れはすっと音もなく消え去る。
やがて、炎のカーテンも消え去り、僅かな時間ではあったが身体の感覚も戻ってきていた。
「くそっ、一撃でこの威力かよ……!」
「僕達は接近戦で畳み掛けるしか、ありませんね」
近寄ろうとするということは、敵の攻撃が厳しくなるということ。
カイが普段は見せないような表情をしながら、槍を構え制止させる。
「私も、覚悟を決める。 お願い、時間と隙を、作って」
アミから熱気が放出されているような、そんな気配が感じ取れた。
この勝負を決するのはおそらく彼女の、最大限に魔力を高めた火炎の一撃。
それが彼女にも分かっているのだろう。
茨の群れは強力な攻撃だが、鎧をズタボロにし、LPをごっそりと削っても、俺の心までは折れなかった。
そうだ、俺達はゲーム的には不器用だが、ベースレベルに反して高い火力を持っている。
スキル、アイテム、属性相性、そして連携。
全てを重ねた攻撃を仕掛ければ勝つ、攻撃が繋がらなければ負ける。
祈りを捧げるように数秒目を閉じ、そして見開く。
そうだ。俺は一人じゃない。
二人の仲間がここにいる。
可能性はここにある!
「ま、まだやるのか……。デスペナは俺達が引き受けるから逃げろ!」
あれだけの攻撃を受けてもなお立ち上がる俺達を見て、うろたえながら逃げるよう促す剣士。
「いえ、リーダー。ここは彼らに託しましょう。残りのMPをラージウッドさんに捧げます。【ライトヒール】!」
少しはMPが自然回復していたのだろう、先に戦闘を行っていたパーティーのヒーラーが俺に魔法をかける。
俺のLPの20パーセントほどを回復。
無茶ができるラインが引き上がることで、行動の成功率が上がるはず。
「すまん、助かる」
「……あなた達の可能性を見てみたいのです。勝ってください、ね」
その一言を最後に、回復担当の彼女がMPを使い果たし倒れこんだ。きっと、ゲームとはいえ、だいぶ無理を押しての魔法だったのだろう。
俺はそんな彼女の想いに応えようと、敵対するエントロードを見遣った。
範囲魔法を放った後から特に動きが見られない。もしかしたら、エントロードは魔法攻撃特化タイプで、今頃、次の魔法を放つために魔力を練っているのかもしれない。
あまり時間を与えるわけにはいかない。
「勝ったら、そこで倒れている仲間を蘇生させる。 負けたら仲良くデスペナ。 だが、俺達は勝つ! いくぞみんな!!」
「【パワーゲイン】! 戦士達に湧き上がる力を!! ダイキ、カイ、お願い!」
「昨日の成果を、出し切ります!!」
アミが詠唱、そして魔力のチャージを開始した。
普段守ってくれる戦士達が全て攻撃にまわるのだ、アミも防御は考えずにありったけの魔力を杖に流し込んでいるようだ。
彼女の覚悟を感じとった俺とカイ、【ステップ】を連続行使し距離を詰めることだけを考える。
護衛は全て片付けた、遮るものは無い。
連続【ステップ】でスタートからゴールまで半分の距離を詰めた、あと半分だが、それからは敵の反撃が厳しくなる距離のはずだ。
「チャージ、カンリョウ。 シューティング、スパイク」
エントロードがかざす手のような枝から、無数のトゲが勢いよく射出される。
無差別の範囲魔法、ショットガンのような攻撃。
「はなっから守りは考えてねえ! 【スロウシールド】!!」
トゲがささる痛みに顔が歪むが、走る勢いを乗せて左腕を振りぬく。
防御を捨てて放つ盾の投擲、トゲの幾分かを叩き落としながら敵めがけて突き進む。
しかし勢いよく飛ぶ盾はかわされてしまった。
「ギ、ギギ」
敵は更なる詠唱動作に入っていたが、盾の一撃をかわさせることで上手く横槍を入れることができたはずだ。
だがしかし、打ち落としてもなお多すぎるトゲの雨は俺の体力を根こそぎ奪っていく。
まだまだ、MPが切れて倒れてでもスキルを放ち続ける!
今は出し惜しみの時じゃない、出し切りの時だ!!
「うおおおおおおおおお!!!」
トゲの被弾による衝撃をこらえて縦横に二連、気合を込めて剣を振りぬく。
二連の衝撃波、重なってはいないが後方からは十文字を描いて飛んでいるように見えるそれは、俺の意志の塊だ。
「……ソーンシールド」
敵も強大な力の塊に危機を感じたのだろう、衝撃波を遮るための壁、防御のための茨を召還してきた。
ああ、それで構わない。
攻撃という選択肢をつぶさせたのだ。
それに俺のスキルは、そんな植物なんかに負けるもんじゃないぜ!
「ギギギ……ギ」
ザシュ! っと音を立て、茨が切り刻まれる。
いや、切れたのは茨だけではない。
壁の役割を果たしていた植物を貫通し、枝に覆われたエントロードの体表面にクロスの傷跡を刻む。
体中に衝撃が走っているのだろう体を震わせている。
防御魔法を打ち破り攻撃のチャンス、【ステップ】のための力を足に込めようとする。
「くっ、力が……!」
足は地面を蹴ることなく、膝が笑い、そして地に着く。
くそ、歩けない、走れない!!
自身を奮い立たせようと顔を上げると、視界には猛烈に敵へ向かって突き進むカイの姿があった。
そうだ、倒さなくていい。 ここまでで、充分、だ。
MP、そしてLPを大量に消耗した俺は疲労にまかせ背中を大地に預ける。
ソロならここで負けだが、後は仲間がやってくれる……!
今、敵のターゲットになっているのはカイだ。
この間、出来る限りの体力回復に努めよう。
「ダイキ! ……彼のおかげで魔法攻撃は凌いだ、ここからですよ!」
地面に仰向けという姿勢で敵の方へ顔を向ける。
上下が逆さまになった世界を激走し敵へと距離を詰める仲間。
ああ、槍の有効距離までもう少しだ。
詠唱が間に合わないと判断したのか、魔法攻撃から直接攻撃に切り替えたのだろう敵の体から伸びてくるするどい枝が、彼の体をきわどく掠める。
迫り来る枝の猛攻をものともせず、俺の攻撃を引き継いで、親友は決死の覚悟で前進を止めない。
「これで届きますね」
そうだよ、もうその距離は槍の、カイの行動範囲だ。
「初段、【ダブルスティング】!」
エントロードが腕をクロスガードしているが所詮はスキルでもないただの防御行為、防御の意味を成さずに威力を殺しきれず、体に衝撃を与え硬直させている。
「連撃、【ダブルスラッシュ】!!」
カイは硬直の隙を見逃さない。
鍛えた槍撃の二筋、左右の攻撃が守りの枝の防御を断ち切る。
「ラスト、【バーチカルスライド】!!!」
親友の連続攻撃は綺麗だ。
槍の特性である連続攻撃補正と、鍛えたスキルの重なり。
エントの王、その威厳を刈り上げる一撃は、身を空中へ浮き上げさせている。
鞄から取り出したポーションが効いてきたのか、起き上がると後方から今まで感じたことのない熱気が体に浴びせられる。
アミが杖を天高くかざし、魔力をその先へ一点集中させている。
精神を極限まで集中させているのだろう、彼女の足は震え頬には汗が伝う。
行使するのは範囲魔法ではなく、単体魔法、それもフルチャージ。
大量のMPを注ぎ込んで集めた魔力だ、大雑把に魔力を放って良い状況ではない。
当たれば終わる、そんな一撃だけが今こそ必要なのだ。
「【ファイアダート】のフルチャージ、完了。 空を裂き、炎の意思を伝える……」
【魔法チャージ】によって集めた魔力は杖に集い、そして杖から両手へ流し込まれる。
杖を地面へ落とし、胸の前で花をかたどるように手を重ねる。
集まった魔力によって、手でかたどられた、灼熱に揺らめくバラは熱気を持って輝いていた。
戦闘中だというのに、俺は少し見惚れているのかもしれない。
戦いという行為の中に垣間見る美しさ、だがそれは敵を焼き尽くすためのもの。
やがて両手が、打ち上げられて回避行動がとれないターゲットへ向けられる。
「【フレイムキャノン】!!!」
アミの覇気が込められた声。その凛々しい声が、森の中に響き渡る。
そして、発声とともに極大の炎が生まれ、エントの王にトドメを刺さんと轟音を上げながら、空を突き進んでいく。
肌を焼くような熱気が俺にも伝わってくる、強大な魔力の、炎の塊。
連携の全ての結果が、ここに終結する。
「ギギ……ギガガガガガガガガガガ!!!!!」
為す術もなく、【フレイムキャノン】の直撃を受けるエントロード。
着弾と同時に、俺達はおろか、地面や木々を震わせるほどの振動と爆音が青い森に響き渡った。
「くっ……!」
俺は遅れてきた熱風と爆風に晒され、吹き飛ばされまいと歯を食いしばり、辛うじてそれに耐える。
周辺の大木をなぎ倒し、地面を抉った炎の塊は彼の青い枝を焼き尽くしたのか、もうもう煙を上げていた。
「終わりました……か?」
いつの間にか、俺の隣にまで後退していたカイがぽつりと呟いた。アミの放つ魔法に巻き込まれないと、ここまで退避していたのだろう。
カイの呟きに、俺は「どうだろうな」とだけ返した。
「嘘だろ……!?」
「そん、な……」
「冗談にしてほしいですね……」
徐々に薄れていく煙の向こう側で。
肉体のほとんどを爆散させながら。
ゆらり、ゆらりと、エントロードが揺れていた。
「あと一撃、といったところですかね……」
カイも俺と同様、全てを出し切ったようで、あと一撃だと言うものの槍を支えに動かない――いや、動けないでいる。
「私も、もうMP、ない……」
後ろを見遣ると、そこには地面にへたり込むアミの姿があった。
その顔には疲労が浮かんでいる。恐らく、こうして体を起こしているだけでも大変な様子だ。
あと一撃、あと一撃で倒せるのに!
俺は傷付いた身体を気力で動かし、辺りを見回すが、そこには全滅寸前のパーティーが二つ、俺達と結界魔法を使う剣士達が、仲良くとはいかないが、寄り添っているだけだった。
他に何か打つ手はねぇのか!
後一手、それが届かない悔しさ。
仲間達の顔を見る。俺と同じ、顔は悔しさの色で染まっている。
槍を握り締めるカイ、肩で呼吸しているアミ……。
アミ……?
――もしもって時に使わせてもらうよ。
そうだ、ネガティブな感覚なぞ全員やられて王都へ強制送還されたときに浸ればいい。
あのとき、テラーウルフを初めて倒した後にアミからもらった初級のマインドポーション。
鞄からその小瓶をとり出し、味わうこともなく一気に飲み干す。
「さぁ、これで終わりだ、エントの王様!!」
俺は最後の力を振り絞って立ち上がると、両手で握り締めた剣を思いっきり振り上げた。
「【パワーストライク】!!」
振り下ろすと同時に生まれた半透明の刃。
高速で飛翔するそれが、スローモーションのようにゆっくりとエントロードの懐へと吸い込まれていく。
そして、生と死の狭間で揺れていたエントロードの命を断ち切り。
直撃による衝撃波によって、彼の残骸、青の枝が爆散する。
エントロードが爆散する様子をぼんやりと眺める俺。
その横に、仕事をやり遂げた仲間が無言で寄り添う。
そうだ、俺達はやったのだ。
最大パーティー人数が五人で組める中、三人で。
この勝利が俺達のプレイは何ら否定されるものではないと、その証明になると思えた。