第3話(SpringSnow)
冬は、くっついて歩けるから僕は好き。
こたつも大好き。
友達が来てる時なんかに、こたつの中でユキの足をツンツンするのがたまらなく楽しい。
僕の家に来る友達なんて、昔とおんなじメンバーなんだけどね。
僕の中学時代からのサッカー仲間で、今では親友であるシン。
そして、今やプロのミュージシャンになったゆうじと大野君。
高校時代いつもいたユキの親友ユミちゃんは、最近はめったに顔を出さない。
と、いうのも高校時代からいい感じだったシンとユミちゃんはみんなの期待を裏切り、それぞれ別の恋人を作ったのだった。
「あ〜、俺も一人暮らしでもしよっかな〜。」
こたつに肩まで入って、シンはみかんをむいている。
「お前彼女とどうなの?もう長いんじゃね〜?」
僕は、入れたてのコーヒーを持ってこたつへ運ぶ。
「半年かな〜?最近気付いたんだけど、俺やっぱ高校が好きなんだな〜。だから、新しい彼女をお前にも紹介しないんだろうな。俺はお前の中で、いつまでもユミちゃんを好きな俺でいたいのかもな・・。」
柄にもなく、しんみりと語り出すシン。
「なんとなくわかるような気もする。僕も、シンの彼女に会いたいような会いたくないような複雑な心境。やっぱ、今でも僕らって高校の話ばっかりだもんな。」
僕は幸いにも、高校で出会った運命の彼女と今も変わらず付き合ってる。
でも、もしユキと・・・別れてたら・・・
あ・・今ゾクっとした。
恐ろしいことを考えてしまった。
ユキと別れるなんて僕には考えられない・・・。
でも、もし・・・別れてたら・・・
僕は高校での思い出にしがみついていることだろう。
何年たっても、どんなに彼女ができようとも、一生忘れたくない輝いた思い出だったろう。
「いいよな〜お前は。ユキちゃんとラブラブで!!ユミちゃんに告ってたらどうなったかな?」
「後悔するくらいなら、好きだって言えば良かったんだよ。向こうも好きだったと思うけど。」
「まじ????」
勢い良く置いたコーヒーカップからコーヒーがこぼれる。
「なんとなくだけど。ユキに聞いたわけじゃないけどさ。青春時代に後悔は付き物だよ!」
僕は、時計を見る。
3時にやってくるはずのユキが待ち遠しい。
「ゆうじのライブ早く行きたいな!お前とユキちゃんの為の歌、聴きたいよ。」
ゆうじと大野君が初めて、レコード会社に持ち込んだ曲があの歌だったんだ。
ユキが突然消えた時・・・。
張り裂けそうな僕の心を歌にしてくれたゆうじ。
我慢してた涙が流れたっけ。
あの歌のタイトル『Spring Snow』がそのまま2人のバンド名になった。
僕はあの歌のタイトルをずっと知らなかった。
タイトルを聞いて泣き出したユキは、すぐに『ハルのユキ』って意味がわかってた。
地道に路上ライブを重ねてる2人は、少しずつだけど人気が出てきた。
今年の僕らの母校の卒業式の後に、体育館でライブをすることに決定した。
後輩に熱烈なファンがいて、昼休みに『Spring Snow』の曲を毎日かけてたそうだ。
今では、2人の歌を知らない人はいない。
「新曲作りが忙しいって言ってたよ。恋愛したことないから恋愛の歌が難しいって。」
「じゃあ、またハルが主役の歌かもな。しばらく会ってねーな。3月まで帰ってこないのかな。」
路上ライブと、ライブハウスでのライブで全国を回っている2人とは、しばらく会ってない。
ゆうじの歌にみんなが惹かれるのは、ゆうじが人の弱さや悲しみを知ってるからかもしれない。
僕の幼なじみのゆうじは、小学校の頃からいじめられていた。
僕は、ガキ大将だったけどいじめることがキライだった。
ゆうじが言ってた。
『いつもハル君に助けてもらった。ハル君が守ってくれた』って。
それなのに、中学に入り僕はゆうじを見捨てたんだ・・。
今でも思い出すと、胸の奥が痛む。
転校を余儀なくされたゆうじは、転校先でもいじめられ、自殺未遂をした。
自殺をした、と言ってもいいかもしれない。
奇跡的に、神様から命をもらったんだ。
再会した僕は、ゆうじの車椅子姿にショックを隠しきれなかった。
自分のせいだと責める僕に、ゆうじは優しく微笑んだ。
『ハル君のおかげで僕楽しかったんだ。ハル君は憧れなんだ』って。
それから、高校でいじめられていた大野君にゆうじを紹介した。
ゆうじと会わせたその日に2人は意気投合してたな。
どの出会いもが、とても意味がある。
僕がゆうじに再会できたのはユキのおかげだ。
ユキは、いつも僕の隣で僕を勇気付けてくれる存在なんだ。
ピンポーン!
お待ちかねのユキがやってきた。
「どうしたの〜〜?2人ともしんみりした顔して!」
手には、スーパーの袋いっぱいに食材が入ってた。
「ゆうじと大野君のこと考えてたんだ。」
ユキは隣の部屋からCDを持ってきた。
「じゃあ、これ聞かなきゃ!」
部屋には、ゆうじの優しい歌声と大野君のギターの音色が響いた。
いつか、僕がゆうじを歩かせてやるから・・・。
ゆうじ、ガンバレよ!
離れててもわかる。
この美しい歌声で、今も歌ってる。
ゆうじのギターに憧れて練習を始めた大野君も、今ではゆうじよりのギターがうまい。
ユキと僕の為の歌。
・・・♪桜舞い散る季節、僕ら互いに見つめあい、永遠の愛を歌う〜
出逢ってから〜いくつもの涙、笑顔見てきたけど〜
僕にとっての君はいつも天使なんだ〜
君と過ごしたあの夏の日も、君とけんかした秋の日も、
信じあえる愛があるから〜
君の笑顔〜胸に抱くよ〜いつもいつまでも〜
君に会えなくなった今でも君はここにいる〜
僕は永遠に君を待つ〜僕に舞い降りた天使〜♪