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第21話(桜の木の誓い)

もうすっかり春らしい暖かな光が降り注ぐ車内。


ユキの持ってきたゆうじと大野君のCDを聴きながら、海へと車を走らせる。


「CD持ってこなくても、僕も持ってるのに。」


「あ!そっか、そうだよね。でも、そんな私がまた好きになった?」


「はいはい。そうだよ、好きになったよ。」



こうして、デートらしいデートをするのは初めてだった。


車の窓から見える眩しい波の光に、ユキは興奮気味にはしゃいでた。


「見て見て!!ハル!!今とびうおが跳ねたよ!」


「運転中だから、見れないの。っていうか・・・とびうおなんかいない!!」


「いるもん!今飛んだもん!」


「はははっ!!そうだな、ユキが言うなら間違いないな。」



車を停めて、海岸へと向かう途中、何度も何度もつまづくユキ。


「ほら!もう、ちゃんと僕につかまってて!」


僕は、スキップしたり、飛び跳ねたりするユキの細い腕を掴んで歩いた。



浜辺に座り、やっと落ち着いた様子のユキは、砂に僕の手を埋めて遊んでいる。


「また連れてくるからな。そんなに喜んでくれるなんて・・今までデートらしい場所連れていけなくてごめんな。」


ユキは僕の手を砂の中から堀り、砂だらけの僕の手を握った。


「ふふふ。ハルと一緒にいられるならどこでもいいよ。でも、海って大好き。」


「海でも山でもどこでも一緒に行こうな。」


「うん。砂漠だって、南極だってハルとならいいよ。」


「ば〜か!」


こんな風にこれからもユキと過ごしていきたい。

ユキの笑顔を見ながら、毎日を過ごしたい。



「なぁ、ユキ。これからのこと、どう考えてる?」


「何?今日の晩御飯?焼肉がいいなぁ〜!!」


ユキ、どうかそのままの君でいて。


「ユキ・・・焼肉でいいよ。でも今の質問は今日の晩御飯じゃない・・。わかる?」


「え??どういうこと?もしかしてこの後・・ラブホ行きたいの??」


もう僕は笑うしかなかった。


愛しくてたまらなくなり、僕はユキの肩を抱いた。


「ユキ、これからの僕とユキとの将来のことだよ。今まで、ちゃんと話したことなかったから。」


やっと僕の言ってる意味がわかったユキは、ケラケラと笑い出す。


「あ〜〜!!そういうこと?ハル、突然だからわかんないよ。私達の将来は、白い家に住んで子供が2人くらいかな。庭で野菜とか育てたいなぁ・・。」


「それ、結婚後のこと??ユキの人生設計は、今からどうなる?」


「私、恥ずかしいんだけど・・1番がハル、2番もハル、3番が家族、その次に自分の夢なんだ。夢を持って、絵を描いてるわりには、優先順位は低いの。だから、ハルがいないと絵も描けなくなっちゃうんだ、私って。ハルと離れてるときに思ったの。何もやる気なくなっちゃって、絵を描いていても楽しくなかったんだ。」


ユキは、砂に『ハル』と書いた。


「僕が1番?」


「うん。人生設計なんて、ハルが決めてくれたらいいの。1人の人生設計なんていらないもん。ハルと私の2人の人生だもん。」


「僕は・・本当に幸せ者だな。ユキにそんなに愛されているなんて。」


「ハルは、どうしたい?」


僕は、真っ青な空を見上げて大きく息を吸い込んだ。


「僕は、ユキと一緒にいたい。少しでも長く、ユキと一緒にいたい。かっこ悪いけど、ユキが泊まってくれた夜は、僕は熟睡できたんだ。ユキの寝息がないと、不安になる。」


「かっこ悪いね、ふふふ。私だって同じだよ。ハルの腕の中で眠ると、安心する。」


「僕は、まだ自分に自信がない。まだ理学療法士の勉強中だし、将来それを仕事にできるかどうかもわからない。親に援助してもらわないと生活もできない。」


「私、ハルにそんな安定求めてないよ。収入とか、就職とか、そんなの2人でいればなんとかなりそうじゃない?一緒に勉強頑張って、一緒に就職探して、一緒に初月給でお祝いするの。」


「ユキ・・・ユキはやっと家庭の温かさを知ったばかりだ。お父さんとの時間もまだまだ足りないんじゃないかって心配なんだ。」


「ハル、もっとわがままになっていいよ。私、ハルについていくから・・・。」


波の音が、僕の胸のどくんどくんという音をかき消してくれた。


「ユキ、今から高校へ行かないか?」


僕は、この浜辺でプロポーズしてもいいと思った。

だけど、桜の木が僕らを待ってる気がしたんだ。


車の中では、窓の外を見て相変わらず嬉しそうだった。

お父さんにこうして海に連れてきてもらったことがなかったのかもしれない。

子供のような目をしていた。



しばらく車を走らせると、見慣れた街並みが窓に映る。


「久しぶりだね〜!!あ、そうでもないか。ライブ来たよね。」


「そうだよな。でも、久しぶりに感じるなぁ。」


車から降りた僕らは、坂道をゆっくりと歩いた。


空は、とても青く、雲は真っ白だった。


「桜、まだ残ってるね〜!懐かしいね。この桜!!」


「あぁ、まだ咲いててくれたんだ。僕らを待っててくれたのかな?僕、卒業式でこの木に約束したんだ。必ずまたユキとここに来るからって。」


ユキは、桜の木を見上げながら目を細めた。


桜の木は、風に大きく揺れながら僕らを見守っていてくれる。



「ユキ。僕と結婚して欲しい。ずっと僕の隣にいてください。」



「・・・ハル・・私と結婚してください。私が幸せにしてあげるから。」



瞳の奥に涙を浮かべながら、ユキは僕に微笑んだ。


「ユキ・・大好きだよ!!!一生大事にするから!!」


僕はユキを抱き上げて、映画のワンシーンのようにくるくると回った。


「ハル愛してる。ずっと待ってたんだから・・・待ちくたびれちゃった!!」


「僕は、ずっと前からこの場面を想像してたよ。卒業式に、ここでユキにプロポーズするって誓ったんだ。この木にね・・。」


「そうだったんだ〜!!じゃあ、卒業式にプロポーズしてくれたら良かったのに!!」


「えぇ〜〜!!僕だって、いろいろ考えてたんだよ。でも、難しいことは置いといて、この気持ちで突っ走ろうって思った。ユキを好きなこの気持ちさえあれば、なんだって乗り越えられる。」


「そうだよ!私達、無敵だもんね。私、お父さんにも早く結婚したいって言ってたんだ。お父さんも、ハル君は慎重派だな・・なんて言ってたんだよ!」


「じゃあ、挨拶にも行かないとな。スーツでビシっと。ユキさんを僕にくださいって。僕は、事故に遭った時、宙を舞いながらユキのことばかり考えた。意識を失って、病院のベッドで寝ている時も、ずっとユキの夢を見ていた。」


「私も隣でずっとハルを助けてくださいって祈ってた。」


「僕が死んじゃったら、誰がユキを幸せにするんだって思った。僕がユキを幸せにしたいってその想いが神様に通じたのかな・・。」


「幸せになろうね!!世界一幸せにね、ハル!」



僕は、いろんなことを考え過ぎていた。


向き合うことから逃げていただけかもしれない。


ユキと僕は、『結婚』と言う大きな大きなスタートラインに向かい、歩き始めた。


桜の木の声が聞こえた。


『おめでとう、2人とも。これからいろんなことがあるだろうけど、またここへおいで』


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