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第17話(涙の体育館)

「それでは、聞いてください。命の大切さをみんなに伝えたくて作りました。歌います。」


泣き声が響く体育館は、ゆうじがマイクを持つと静まり返った。



『♪ 風がそっとささやく  もうすぐ時間だよ


   風が歌う  今生きている幸せを


   それぞれの想い乗せて 僕は歌い続ける


   恋を知らない僕に 教えてくれた胸のときめき


   愛を届けてくれた君 命は果てしなく続く



   空に歌う 僕のありったけの想い


   どこまでも届けよう この命の限り


  

   生きているこの瞬間 小さな感動や涙

   

   生きているからこそ感じる痛みや悲しみ


   命は どこからきてどこにゆくのか


   僕の命は僕だけのものじゃない

    

   君の命はみんなの命


   君を取り巻く全ての人の命


   君を愛するたくさんの人の想い乗せ 歌い続けよう


   生まれてきたことの幸せ 歌おう 

  

   ありがとう ありがとう 愛してくれてありがとう♪』




ゆうじは、歌い終えると、顔を覆って泣き出した。



スポットライトがゆうじを照らすことをやめた。



大野君がゆうじのマイクを持ち、ゆっくりと前へ歩いた。


「しばらく会えなくなるけど、みんなゆうじの歌声忘れないでね。僕はこんな澄んだ声が出せないから、ゆうじが戻ってくるまではギターの練習をしておくつもりです。」



大野君は涙をこらえながら、ゆうじの代わりに話し続けた。


「僕は、ゆうじにギターを教えてもらいました。ゆうじと出会うまでは、生きる喜びや楽しみを感じることはありませんでした。ゆうじは、いつも周りの人に感謝するけど、ゆうじもたくさんの人に幸せを与えていることをゆうじはわかっていない。僕が今ここにいるのは、ゆうじのおかげ。いじめられていた僕に、強さを教えてくれたのはゆうじです。いつでも笑顔でいられるゆうじは、誰よりも強いんだって思いました。その強さで、きっと戻ってきてくれると信じています。強いからこそ、人に優しくできるんだってゆうじのそばにいて、感じています。ゆうじの歌声を聞くために、来年もここでライブをしたいです。どうか、また来年ここでこのメンバーで会えますように・・・。」


大野君の一言一言はとても心に響いて、僕も同じように感じていたとわかった。


ゆうじの優しさや笑顔は、強さからくるものだ・・・って。


弱くなんかないんだ。


いつの間にか、笑顔に戻っていたゆうじは車椅子を前に動かし、大野君の隣に並んだ。


「最後に僕と大野君で2人で作った歌を歌います。大野君が毎日毎日頑張って練習した歌です。『空』です。」



2人でちゃんと歌う歌を聴くのは、初めてかもしれない。


大野君は、サビでハモるくらいで、あまり歌声に印象がなかった。



『♪急ぎすぎる雲に追いつきたくて 走り続けた


  追いつけないその雲は いつの間にか夕焼け色


  僕ら いつも一緒だった 僕ら いつも走ってた


  この空に いつか大きな文字を書けるくらい 飛んでみたい


  

 

  寂しがりやの雲が 泣いている 一人ぼっちには広すぎる空


  どこまでも続く 果てしない空に向かい 僕ら 走ってる


 

  夢なんて語ってる僕らは 雲に乗り 空を翔け 鳥になる


  いつまでも この日々が 続くように


  いつまでも この歌が響きますように


  僕ら ちっぽけな夢抱き 今日も 青い空に負けぬよう 

  

  このまま 永遠に 空見上げ  強く 優しく 手を広げ

  



  大きすぎる空になりたくて 窓から手を伸ばす


  僕らを包む空は いつだって笑顔だった


  僕ら いつも笑ってた 僕ら いつも歌ってた


  この空に いつか大きな文字を書けるくらい 飛んでみたい


  

 

  寂しがりやの雲が 呼んでいる 一人ぼっちには広すぎる空


  どこまでも続く 果てしない空に向かい 僕ら微笑みかける


 

  愛なんて語ってる僕らは 雲に乗り 空を翔け 鳥になる


  いつまでも この空が 続くように


  いつまでも この歌が届きますように


  僕ら ちっぽけな愛語り 今日も 青い空に負けぬよう 

  

  このまま 永遠に 空目指し  強く 優しく 手を広げ ♪』



僕の涙は、この体育館の床を濡らしてしまうほど溢れた。


みんなの願いはただ一つ。


早く戻ってきて ゆうじ・・・。



大野君の低い声と、ゆうじの澄んだ声はとても素晴らしかった。


笑顔で歌う2人を、涙でよく見えない目で僕はじっと見ていた。


そのままライトが消え、真っ暗になった体育館は、みんなの泣き声で震えていた。


アンコールの拍手で再び現れたゆうじと大野君は、もう一度『Spring Snow』を歌った。



このまま一人になることが怖かった僕は、ユキに泊まってくれと頼んだ。


僕とユキは、ただ手をつないで眠った。



 


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