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第12話(2度目の告白)

どくんどくんどくん。



ユキの家の窓から漏れる光で、誰かが中にいることはわかる。


ユキの部屋からも、ユキの好きなオレンジ色の明かりが見える。



階段を駆け下りてくる足音が聞こえた。


元気の良いその音に、僕はユキだと確信した。


僕は、初めてユキに話しかけた高校の廊下でのことを思い出した。


あの時のドキドキと今のドキドキ、同じだ。


僕はまだあんな純粋だった頃と同じくらいユキに恋しているんだ。


初めて話した時の、あの喜びや胸の鼓動を今よみがえらせることができた。


ユキと、目と目が合った瞬間のあの気持ちや、ケーキ屋さんに行ったときのこと。


ユキの涙の訳を知ろうと必死だった頃の僕が、今の僕に話しかけてくるようだった。


『どんなことをしてでも一緒になりたいって思ってたはずだろう?どうしちゃったんだよ、ハル!!しっかり捕まえとかないとダメじゃないか!』



僕は、なかなか出てこないユキを待ちながら、大きく深呼吸をして両手に力を込めた。


家の中から物音がして、玄関のドアがゆっくりと開けられた。


僕の予想通り、そこには僕のたった一人の大切なユキがいた。



「ハル・・・?どうしたの?」


瞬きも忘れたような驚き様だった。


僕は、ゆっくりとユキに近づいて目を見つめた。


久しぶりに会うユキに、愛おしさが込み上げてきて涙まで出そうになるのを必死でこらえた。


「ユキ、ごめんな。僕、ユキと一緒にいたいんだ。ユキが好きなんだ。」


僕は、生涯2度目の告白をした。


僕はこの時、僕はこれから先もユキ以外の人に好きだと告白することは決してないだろうと思った。


ユキはまだじっと僕を見つめたまま動こうとしなかった。


「ユキ?どうした?」


僕は、一歩近づいて、ユキの頭に手を置いた。



「・・ハル!!!!」


ユキは、僕の胸に飛び込んできた。


そして、僕のシャツの胸のポケットが濡れて透けてしまうほどに涙を流した。


ユキの涙の訳が、僕にはよくわからなかったがユキの頭をなでているうちにユキの気持ちが理解できたようだった。


僕らは、手をつないだだけで相手の体調や気持ちがわかるほどに通じ合っていたんだ。


負けるもんか。


僕とユキは、ただの恋人じゃないんだ。


僕は、なかなか顔を上げようとしないユキを優しく抱きしめた。


「ユキ・・ごめんな。辛い想いさせて。僕がばかだった。」


ユキは、言葉にならない声でごめんねと僕に言った。


玄関先でいつまでも抱き合っているわけにもいかないと思ったが、とても心地よかったのでしばらくそのままでいることにした。


どうしてこうなってしまったのか、僕にもユキにもわからない。


あんなに仲の良かった僕らが、どうしてこんなことになったのか。


今となっては、全てが誤解やささいなすれ違いだったように思う。


「ハル・・もう私ハルに嫌われたと・・思った・・。」


か弱いユキの声は、僕の胸に響いた。僕が悪かったんだ。


僕が子供だった。好きという気持ちだけで突っ走っていた高校時代を忘れてしまっていた。


変なプライドや、嫉妬から、僕は自分を失っていた。



「ばかだな・・ユキ。僕がユキを嫌いになることなんてあるわけないだろ。僕は一生ユキを愛してる。」


まるでドラマのワンシーンのようなシチュエーションの為、僕は恥ずかしさも感じずに愛してるなんてセリフを言っていた。


「私、自分のことで精一杯で、ハルのこと大事にしてなかったね・・。ごめんね。ハルはいつでも優しいから、甘えてしまってた。ハルは私の事何があっても好きでいてくれるって思い込んでた。でも、お互いを思いやれなくなったらだめだよね。」


「僕のほうこそ、忙しいユキを支えるべき彼氏なのに、一人でスネてたのかもな。置いてけぼりにされてる気分だったんだ。ユキばっかり、先に行っちゃう気がしてさ・・。」


僕は正直に自分の気持ちを話しているうちに、自分自身に問題があったことに気付いた。


専門学校での勉強でも、壁にぶつかっていた僕にいろんな波が襲ってきた。


一番の僕の相談相手である水野さんが倒れたこと。


そして、それ以来全く会えなくなってしまったことは僕に相当なダメージを与えた。


勉強への意欲が失せ、水野さんが良くなってくれることを祈り続けた。


そんな僕にその時必要だったのは、ユキだった。


しかし、ユキには夢があり明るい未来が広がっていた。


僕はユキにも甘えることができなかった。


元気のない僕に、大丈夫かとも尋ねてくれないユキに不信感を抱き、勝手な妄想で嫉妬した。


その時の僕には、ユキがあまりにもまぶしすぎたのかもしれない。


自分自身の弱さを、人のせいにして、被害者ぶってた。


そんな僕にユキの方が不信感を抱くのも当然だ。



「ごめんね。ハル。私自分のことばかりだった。ハルの気持ち考える余裕がなかった。ハルがどんどん遠くに行っちゃうって思った。しばらく離れようって言ったら、怒ってくれると思ったんだ。試すようなことしてごめんなさい。」


自動車免許の合宿で寛太が言ってた通りだったんだ。


ユキは僕の本心を知るために、そう言っただけだったんだ。


「そっか、ごめん。僕はもうユキには僕は必要ないと思った。」


ユキは、僕を見上げて少し笑った。


僕のほっぺを、きゅっとつねった。


「ばか・・。必要ないわけないでしょ。ハルがいないと生きていけないもん。」


「僕も、ユキがいないと生きていけない。僕、バカだからさ・・・寂しさを紛らわす為に車の免許の合宿行ってたんだ。ユキの学校のタケにも、負けたくなくて・・・。」


ユキは、涙でぐしょぐしょになった顔で僕に微笑みかけた。


「ほんと・・ばかだね。タケになんか初めから負けてないのに。私の気持ちそんなに信じられなかったの?・・何度も電話したのに圏外だったのは、合宿に行ってたからだったんだ・・。私、もうハルに受け入れてもらえないのかってすごくこわかったんだよ・・・。」


何度も電話をくれていたなんて全く知るはずもなかった。


電波のバカヤロー!圏外にならない時もあったというのに。



僕は、力いっぱいユキを抱きしめた。


「ユキ、これからも僕の隣にいてくれる?」


僕の問いかけに、ユキは初めて笑いかけてくれた日のような澄んだ瞳で僕を見つめながら、何度も何度も頷いた。



もうユキを離したりするもんか。


大事な人を失う事ほど辛いことはない。


僕は、こんなにユキを愛しているんだ。


ユキ、今はまだ言えないけどもう少ししたら言うよ。


結婚してくださいってね。


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