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第10話(僕の逃げ場)

昨日のバレンタインデーに、僕はユキからのチョコをもらえなかった。


僕は、車の免許をいち早く取るために、免許の合宿に来ている。



僕が、合宿で取ることを決めたのには、大事な人2人の言葉。


『しばらく会わないほうがいいのかな』


というユキの言葉。



『しばらくは会えない』


という水野さんの言葉。



ユキと向き合うために、僕はユキの学校へ迎えに行った。


友達と笑いながら帰るユキを見ると、声がかけられなかった。


それから、1週間また会えない日々が続いた。


僕の異変に気付いて欲しかった。


明らかに僕の元気のなさは、彼女なら気付くであろうものだった。


僕は、水野さんのこともユキに話す時間もなく、気になっている『タケ』とのことも聞けなかった。


僕は、電話でも不安と寂しさから、ユキに冷たい態度を取ることが多くなった。


ユキは、今一番楽しい時期なんだ。


自分の力で作品を創り上げる幸せを感じて、輝いている。


それに比べて僕はどうだ。


そんな僕にユキは言った。


『会ってもけんかしちゃいそう、今の私達。しばらく会わないほうがいいのかな。』


僕は、何も言葉が浮かばずただ黙っていた。


そして、とにかくこのままじっとしていてはおかしくなると思い、車の免許を取る事にした。


ユキの為。僕の為。


僕とユキが車でデートできるようになれば、もっと会えるようになる。



・・・・・だけど、そんな日がまた来るのかな。


ユキ、もう僕を必要としていないのかも知れない。


人の気持ちって恐ろしいと思った。


つい、ちょっと前にユキのお父さんが施設を出たとき、ユキはお父さんの気持ちを変えた僕のこと、惚れ直したって言ってくれたのに。


卒業してから、離れ離れになってもちっとも不安なんかじゃなかったのに。


ユキを遠く感じたことなんてなかったよ。


これは、忙しいからじゃない。


何かが変わったんだ。


ユキの僕への気持ち・・・が変わってしまったとしか思えない。


チラつくあの男の顔をかき消すように、僕は車の免許の資料を集めたっけ。




ゆうじと大野君が僕に会いに来てくれたあの日に、僕は水野さんの家に行った。


誰もいない大きな家は、なんだかとても寂しそうだった。


やっとつながった電話に出たのは、みずきさん。


ごめんね、ごめんねと謝るみずきさんが、水野さんに電話を渡す。


久しぶりの大好きな声は、とても元気がなく、まるで違う人みたいだと思った。


最後にこの言葉を言われた僕は、心にぽっかりと穴が開いたようだった。


『しばらくは会えない』





こんな非常事態に水野さんの助けがないと・・僕どうしていいかわからない。


助けて・・水野さん・・・。




「なぁ、君何歳?」


今日から、同じ部屋になった茶髪の少年が話しかける。


どう見ても僕より年下の少年は、生意気にもタバコを吸っている。


折り返し地点を通過したこの合宿。


初日から昨日まで同部屋だった人達とは、結構親しくなれた。


一人で参加してる人は、ほとんど大人の人。


どういう事情でか、免許取り消しになった弁護士さんと、忙しくてなかなか免許が取れなかった精神科医。


僕が仲良くなった2人の男性は、今日からは別の部屋。


「聞いてる?何歳なの?」


もう一度僕に話しかけるその少年は、茶目っ気のある笑顔で話しかける。


「俺、18歳。小さな工場で親父の仕事手伝ってるんだ。寛太って言うんだ。」


「・・あ、僕19歳。専門学校行ってる。神宮司ハルって名前。」


精一杯大人の顔してそう言った僕に、一枚うわての寛太が言う。


「え〜〜?年下だと思った。ハルって呼ぶことにしよっと。俺、寛太でいいから。」


人見知りをするタイプではないんだけど、会ったその日から下の名前で呼び合うことに少し抵抗がある。


「聞いてくれる?俺、もうすぐ父親になるんだ。」


まだ子供のようなあどけない顔の寛太の言葉に僕は目を白黒させた。


「そんなにびっくりしなくてもいいじゃん。彼女は生まないって言ったんだ。でも、それは、俺には本心とは思えなかった。きっと俺を試してるんだって。」


「彼女何歳?」


「17歳。まだ自信がないとか理由は言ってたけど、俺の気持ち確かめる為の嘘だと思った。俺は、いつか結婚するならちょっと早いけど、結婚して子供育てたいって言った。生まないって言った彼女に本気で怒ったんだ。」


「君は・・寛太・・は不安じゃないの?」


「そりゃ、不安だらけ。でも、子供の親になれるってことのほうがうれしくて仕方ない。今は、彼女も母親になる準備ができてる。」


さっきまで子供だと思ってた寛太の顔が大人びて見えた。


「本当は彼女も生みたかったんだろうな。でも、君に拒否されたくなくて自分から生まないと言って、君の気持ちを確かめたかったのかもな。」


「うん。俺もそう思った。だから、自分の不安は隠して、自信満々にプロポーズしたんだ。」


「やるな・・・。僕よりずっと大人だ。」



そのまま、いつのまにか眠ってしまった僕と寛太は、毎晩そんな話をした。


僕は、寛太に教えられた。


・・・・しばらく会わないほうがいいと言ったユキも、僕を試していたのかもしれない。


僕の愛を確かめたかったんじゃないか?


僕は、ユキの態度ばかり責めたけど、僕も相当ユキに辛く当たっていたことを思い出した。


ユキのことを思って、文句も言わず会えない日々を我慢したけど、ユキにそれが伝わってたのか?


会えなくても平気なんだ、って誤解してた可能性もあるじゃないか。


ユキに、もっとわがまま言えば良かった。


一日ぐらい僕の為に空けて、と言えば良かった。


ユキにとって、物分りのいい彼氏になり過ぎていた。


ユキ、君は今僕を想ってる?



僕は、勝手に悩んで勝手に妄想して、関西弁タケといい感じなんだと思い込んでいる。


実際、確かめたわけじゃないのに。



免許取れたら、一番にユキを迎えに行こう。


自分の車はまだ変えないけど、お父さんに借りた車でかっこつけて迎えに行こう。


だから、どうかそれまで僕のことをまだ好きでいてください。


あんなにいろんなこと乗り越えてきた僕らじゃないか。


僕はどうしてそんなに不安になっていたのだろう。



メールの苦手なユキからは、一度もメールが来なかった。


僕も一度も送らなかった。



返事が来ないことへの恐怖。



寛太に言われて忘れられない言葉がある。


『後悔したときには、もういないんだよ』








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