昔話を聞いてみよう その1
タカさんが「大魔王」と呼ばれる様になった由来を
本人に語ってもらいました
城に戻り、みんなと夕飯を食べた。
ミヤガセ組も一緒で、例のサムライさんたちもきちんと髷を結っていた。
落ち武者カットほどではないが、やはりかなり違和感がある。
あまり、そちらを見ずに箸を進めた。
ノード伯にはシモーヌさんの方から水晶球で連絡済、護送車の返却がてらノード伯自身が来るという話で駐屯兵より早くここに到着する事となるはずだ。
帰りはどうすんだ?
なんか作ってプレゼントしないとダメかなぁ・・・。
シュヴィムワーゲンみたいなのどうだろ?
ミヤガセ組への具体的な対応はそれから、という事を伝えると、ノード伯の名前は流石に知られているので少しほっとした様子を見せていた。
子供たちは見慣れぬ格好をしたミヤガセ組に興味津々だったり、おっかなびっくりだったり、人見知りをしておとなしかったりで、ミヤガセ組もこの様な場所に子供が居て、中には働いている子も居るという状況に驚きを隠せずに居たので、双方に軽く事情を説明したりもした。
エメラルドとルビーの間に何故か見えない火花が散っていた様な気もするが、つつがなく食事も終わり、部屋でのんびり・・・としたい所だったが、食後はミヤガセ組とシモーヌさんとお茶を飲みつつ、談話という名の腹探り大会に参加する羽目になってしまった。
いや、俺は素性以外は(下手にミヤガセの連中に大皇帝と同じトコの出身とかバレると、絶対にややこしい事になるからな)特に何も隠さず本音を言ってるんだが、他人から見るとそうは見えないらしい。見るからに陰険そうなおっさんや、一見豪快そうに見えて実は腹芸の出来るって感じのおっさんなんかを中心に色々と聞かれた。
姫さんカップルともう一人の若いのは、シモーヌさんと談笑してる。
俺もそっちの方がいいなぁ・・・。
なんで食後のひと時をおっさん相手に過ごさなくちゃいけねえんだ?
あー、面倒くせぇ。
追い返しとけば良かった。
タカさんの分身うらやましいよなぁ。
こういう時に使いたいもんだ。
俺そっくりのサーバントとか作れねえかな?
解散後、食料生産ユニット行ってウィスキー造って酒かっくらった。
一回だけ前の会社の社長に飲みに連れてって貰った時に飲ませて貰った奴を作ってみたんだが、やっぱ高え酒は値段相応にウマいな。
まあ、本当のトコはどうなのか分からねえけど、俺は満足だからいいや。
無くなったらまた作っておこう。
ん? これをノード伯への土産にしてもいいかもな。
酔いも回ってきた事だし、今日は寝んべ。
翌朝、朝食をとり終えるかどうかって時間にタカさん(擬体バージョン分身)の襲撃を受けた。
「昨日は初対面って事もあって、聞きたいけど聞けないって事もあったろうから、その辺話にきたぞ!」
俺も結構フリーダムな方だとは思うが、この人はそれ以上だ。
しっかりと朝食も食べて、お代わりまでしていた。
同席していた皆の目がクエスチョンマークになっていたが、この人について説明すんの難しいよなぁ。
取り敢えず、「同郷の先輩」と無難な真実を告げておいた。
皆、何故かその一言であっさり納得していた。
「さて、昨日話してない事でおそらく気になってる事は『俺が何故大魔王と呼ばれているか』と『何故、地下に隠れているか』だろ?」
「はい、それくらいですね。ここに放り込んだ奴らの手がかりとかもないみたいですし。」
「分かりゃ、俺もぶん殴ってやりてえとこだけどな。ま、俺もタイさんもここでしがらみ出来ちゃったし、いきなり元の世界に戻されても困っちまうんだがな。」
「んじゃま、ちと長え話になるんで、サファイアさんだったか? なんか飲み物とかよろしく」
【タカさんの昔話】
☆どこからはじめますか?
→・さいしょから
・セーブしたところから
俺がこの世界に来たのは、ちょうどこの辺だったな。
後から来た連中もだいたいこの近辺で見つけたし、場所は固定に近いみたいだな。
今の風景からは想像出来ないだろうが、昔はこの辺り、緑豊かな山林だったんだぜ。
どうして今みたいになったかは後で話す事になると思う。
タイさんもそうだったと思うけど、ここ来る直前の事は思い出せなかった。
何してた状態からこうなったかは分からないってことだ。
意識がハッキリしてきて、聞こえてきたのは女の子の歌声。
その時は、ここが異世界なんて知らなかったけど、普通なら、ここで他所から来た人間が女の子に助けられて、一緒に過ごすうちにやがて恋に、なんてのが定番なトコだよな?
女の子は俺を見るなり、さっきまでの歌声の主と同じとは思えない様な絶叫を上げて、物凄い勢いで逃げていった。
そん時の俺は、自分がどんな状態になってるか理解してなかったんだ。
視界が低いのも地面に倒れこんでるもんだと思ってたし、頭の方もあまりはっきりしていなかった。
だから、なんでその子がそんな風に逃げてくのか分からなくて、「もしかして全裸でチ○コ丸出し?」とか思って手で自分を探ろうとした。
手がねぇし、なんか触手みたいなもんが動くし・・・なんだ、これ? と視界を動かして見える範囲の自分を見てみた。
愕然としたね。
地底じゃ分からなかったろうけど、俺って赤黒い血の塊みたいな色してんだよ。
だから、最初はグチャグチャの重傷かと思った。
手とかもどっかちぎれて飛んでちまったのかなとか。
でも、その赤黒いの俺の意思で動くんだよな。
その時になって自分の視界にゲームみたいなステータスが半透明になって表示されてるのに気付いたんだ。
タイさんの場合は職業が超級建築師だっけ?
俺の場合、そこは職業じゃなく種族になって「スライム」と表示されてた。
HPはバグ起こしたんじゃないかってくらい大きな数字だったけど、それはスライムの中では強いって事かもしれねえし、それに俺ら日本人の感覚から言うとスライムって「ザコ敵」だろ?
まあ、ゲームによっちゃ違うけど、少なくとも中ボスにもなれないレベルのモンスターだよな。
ともかく姿を隠さなきゃと無我夢中で周囲が木に囲まれた山の窪みに体を収めた。
半分パニックになってて、どう動かせばいいんだろうなんて考えなかったから動けたんだろうな。
後から考えりゃ這いずった跡もついてたろうし、その後発見されて攻撃されなかったのは幸運以外のなにものでもない。
その窪みで俺は体の動かし方を練習し、生き物や岩なんかを吸収出来るって事を覚えたんだ。
持ち物に気がついたのは結構後になってからだったな。
自分がモンスターになってるって意識が強くて、持ち物があるなんて思ってもいなかったからなあ。
初めて気が付いて食ったハンバーガーのウマかったこと・・・。
この世界で最初に食ったのわけのわかんない虫だったからな。
溶けてく姿に吐き気がしたけど、この体って食ったもん吐き出せねぇんだよ。
そうやって隠れて練習してる間、近くを通っていったモンスターなんかを見て、ここが元の世界で無いという事も理解した。
当時、山はキングを中心としたリザードマンを頂点に、ゴブリンやらコボルトがそのおこぼれを預かっていたり、ハインドウルフとかグレーノーズベアみたいな、まあ動物っぽいモンスターが居たりとかなり多くのモンスターが存在していたんだな。
俺の隠れてたトコはリザードマンの大洞窟とは離れてて、動物っぽいモンスターばっかりだった。
それでも俺は「スライム=弱者」ってイメージがあるから、肉食っぽい連中は避けて木の上からとか水場に潜んで引きずりこんでとかやってた。
それが変わったのは一ヶ月過ぎた当たりだった。
いつもの窪みで休んでた所、何をとち狂ったんだかグレーノーズベアが木を分け入って俺のトコにまっしぐらに来て、いきなり噛み付いて来やがった。
痛みは無かったし、思ってたよりダメージも無かったんだが、力は圧倒的に相手の方が強く、俺は食いちぎられた。
本当ならいくらでも触手を出せるんだが、当時の俺はまだ人間の時の感覚に縛られていて、二本の手に相当する触手を動かすくらいしか出来なかったんだな。
今か? 今はドラゴン相手でもイジメになっちゃうからなぁ・・・。
話は逸れたけど、千切られた部分が溶けてなくなっちゃうとかダメになるとか思ったんだが、俺自身と全く同じ様に動き、攻撃してたんだ。なんか意思の疎通も出来たしな。近寄ったらあっさりくっ付いた。
熊は触手を絡み付けたトコからそのまんま溶かしてって、結構簡単に倒せた。
動物系である意味頂点っぽいトコをあっさりと倒せてしまえて、俺は「あれ?」と思った。
自分の事、「弱い、弱い」と思ってたけど、実は強いんじゃないかと。
魔法とか火とかはどうか分からないけど、噛み付いたり殴ったりじゃまずダメージは受けない。
千切れても千切れた先が動き、簡単にくっ付ける事も出来る。
熊を食ったせいなのかなんなのか、体が大きくなってきて窪みが狭かったんで広げた。
他に手段が無かったんで、岩や土を食った。
気が付いたら、体全体や一部を岩みたいに固く出来る様になっていた。
ここからかなりアグレッシブに実験をしていって、固くした一部を切り離して飛ばして刺さった先から吸収していくだとか、同じサイズ二体に分離して連携するだとか、地面の下を一部伸ばして足元から攻撃するだとか、表面の一部を山肌と同じ様にして窪みの外側に蓋みたいにして誤魔化すだとか、結構ノリノリで色々試していた。
俺は知らなかったんだが、その頃、人間とモンスターの戦いの発端が既に起こっていた。
亜人とモンスターの境界線って分かるか?
まあ、線引きしてるのは人間だけどな、見た目と気性と人間の都合だ。
見た目と気性ってのはノールとコボルト見りゃ分かりやすいな。
共に犬っぽいがノールは毛が無く怖い見かけで気性が荒い。
コボルトはモフモフで比較的温和。
実際にはそれほど大差無いんだが、ノールはモンスター扱いされ、コボルトは亜人扱いされてる。
で、最後の人間の都合。
これは人間や人間に近い存在に対しては出来ない様な事でも、「相手がモンスターだ」としてしまえばやっちまえるって事だ。
それまでは亜人扱いで、あまり積極的な交流は無かったものの、人間とリザードマンは互いのテリトリーの中で過ごし、争いもほとんど無かった。個人レベルの小競り合いとかはあったけどな。両サイド全体を巻き込んでの争いなんてのは、一度も起きてなかった。
この時、人間同士の小競り合いも結構有って、いい武器が欲しかったってのもあるんだろうが、リザードマンの大洞窟の周囲にある鉄鉱石を目当てに人間側が一方的に大洞窟の明け渡しを要求し、それが受け入れられないとリザードマンをモンスターとして扱う様になった。ま、唐突っていうか非常識な話だわな。
で、俺がこの世界に来たときは両者の緊張が高まってたんだが、当時のリザードマンキングは温厚で思慮深く、ここで争って勝っても他の人間が次々とやって来て最終的には自分たちが負けてしまう事も理解していて、感心するほど忍耐強く交渉を続けていたらしい。
そんな中、人間側の馬鹿が大洞窟に潜り込み、リザードマンたちの卵を破壊するという暴挙に出た。
人間側からしてみりゃ、危険なモンスターの数が増えないよう駆除したって程度の感覚だろうが、リザードマンからすれば、これで人間とは一切対話が成立せず、また同時にこの地上に存在する事も出来ないと覚悟させるだけの出来事だった。
普段なら巣と卵を守る為に残される女も、まだ狩りの経験も十分でない子供も、山に暮らすゴブリンやコボルトも、リザードマンに飼いならされた狼や熊も全て駆り出され、人間の住む町に襲い掛かった。
下手すりゃ王都すら落としかねない集団に襲われた町はあっさり壊滅。
それでも収まらないリザードマンの軍勢は、一週間で5つの町を滅ぼしたそうだ。
逃げられた人間なんて一桁も居なかったんじゃねえかな?
単体でも人間を遥かに上回るリザードマンの戦士が集団だぜ?
俺は知らなかった、そんな事が起きてたなんて。
自分の能力を確かめ、弱いと思っていた自分が強かった事に興奮して、ただただ力を振るっていたからだ。
それにスライムの体は、あまり長距離動き回るのに向いて無いしな。
まあ、ともかく、人間とモンスターの戦いは俺が起こしたもんじゃなく、俺とは全く関係の無い所から起こったもんだった、ってのだけ理解してもらえりゃいいや。
そのまんま行ったら人間の逆襲食らってリザードマンが全滅。
人間って怖いねぇ・・・で話が終わるトコだったんだ。
そこから先だ、俺が絡んでいったのは・・・。
結構話す事多いな、もっとサクッと終わらせられると思ったんだけどな。
あ、サファイアさん、水貰えます?
【中断しますか?】
→・はい
・いいえ
思っていた以上にタカさんが饒舌で
次回へとコンティニューになりました