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家を建ててみよう

主人公とは別の意味でニート社会作れる

それが大魔王です


 湖面(?)からウニョウニョと複数の触手が伸びて行き、それが捩り合わさり溶け合って人に近い姿を取った。


 「お、珍しく、本当にお客さんだなぁ。」

 「そう言ったじゃない、タカさんってば・・・。」

 「いや前の時はゴッツい剣担いだ腕自慢のおっさんだったじゃない?」

 「ちょっとヤンチャな坊やだったわね。」

 「いやいや、剣叩き付けただけで周囲10メートル近く地面凹ませるのはヤンチャとは言わんぞ?」

 「ほらほら、そんな事よりお客さんに挨拶してください。」


 人型スライムっぽい外見でも「あっちゃあ(汗)」って表情は結構分かるもんなんだな。

 素体はともかく、中身は結構普通の人っぽい。

 その外見からもっとゴボゴボした聞き取りづらい発音になるかと思ってたのに、全然そんな事はなく普通に話してる。


 「初めましてスズキ・タカフミです。世間では『大魔王』とか言われてますが、ご覧の通り恐妻「愛妻でしょ?」・・・愛妻家です。出来れば苗字の方でなく、名前の方で頼みます。」

 「初めましてアサガヤ・タイチロウです。色々ありまして、こちらの上に住む事になりました。よろしくお願いします。」

 「妻のルビーです。」


 ・・・おい、天丼か?

 ・・・・・・今度から、初対面の人間に会う時はルビーを連れてくのはやめにしよう。

 きっと何を言っても無駄だろうから・・・。

 


 「あ、今、ちょっとカラダ取ってきますんで、少々お待ちを。」

 魔王さんが言うなり元の湖面の状態は、あっという間に戻ってしまう。

 あちこちから興味深げな視線が来るのは、他に誰かいるのか?

 え・・・カラダ?


 

 「お待たせしました。」

 そう言って湖面から姿を現した魔王さんの外見はヌルヌル、グチョグチョに全身覆われ、なんか「消化途中」みたいな感じで結構グロかった。

 それも見る間に湖面とカラダの方に逆回転映像を見ているように吸い込まれていって、気がつけばシミ一つ無い高価そうな服を着たイケメンの姿がそこに。

 セレナさんと並ぶと美男美女のカップル。


 よし、リア充氏ね・・・と言いたくなるくらいの光景だ。


 「それじゃあ、お城の方に行きましょうか?」

 「久々のニンゲン姿は動かしづらいなぁ。それはそうとアサガヤさん。おそらく、おんなじ様な境遇ですよねぇ、もしかしてピザとかハンバーガーとか持ってません?」

 「あらあら、食べたい物が有れば私が作りますのに・・。」

 「いや、違う違う、セレナの作ったもんは美味いけど、たまーにああいったチープな味が恋しくなるんだよ! こう、体にあんまり良く無さそうな。」

 うん、それは良く分かる。

 そういった面では俺は無茶苦茶恵まれてるんだよなぁ。


 「それでしたら、もしよろしければ、お近づきの印にちょっとしたモノを作らせていただいても構いませんか?」

 アイテムの中にハンバーガーセットもピザも残っているが、食料生産ユニットの方が良いだろう。

 カップ麺や、ポテトチップス、う○い棒だって作れるからな。

 ユニット単独じゃ起動しないんで、ロッジかなんかを作って、それにコネクトする形でいいな。


 「うん? なになに。もしかして『能力』ですか?」

 「はい、私の場合、なんでこんなのかは分かりませんが、建築系魔法が使えます。」

 「ほほお、それは便利そうだなぁ。」

 「建物に付属して作る形になりますんで、建物も建てる必要があるんですが、何かご希望はありますか?」

 「そうだなぁ、あんま派手なのや大きいのは要らないなぁ。」

 「この辺りは石のものばかりだから、木で作ったおうちなんかいいんじゃないかしら?」

 「あー、だったら、あれ出来るかな? サ○エさん家。あの縁側の有る平屋和風建築っていいよな。」


 うっ、そう来たか。

 モデルのある建築物ってのは、そういやまだ作った事が無かったな。

 能力的には・・・作れそうだな。

 イメージが大事・・・まあ、たぶん大丈夫だろう。


 「クリエイト・ウッドハウス。」

 「ほほお、おとぎ話の『魔法使い』みたいだなぁ。」

 地面から湧き出るように形成される家を見て、魔王さんがつぶやく。

 家を囲う塀まで出来たのは、原作イメージの賜物だろう。

 流石にタマは付いてないみたいだけどな。


 「続けて作りますね。コネクト・食料生産ユニット。」

 原作で勝手口の有る辺りに接続する。

 言わば外付け三河屋?

 「これが、タカさんの言ってた日本の建物なのね。変わってるけど、小さくて可愛らしいおうちね。」

 「いや、日本の中だと結構恵まれた部類に入る家だと思うんですけどねぇ。」

 「そうだなぁ、ある意味、夢の家だもんなぁ。」

 「家具や家電製品とかは、おそらく付いてると思いますけど、足りないモノが有れば言って下さい。ユニットで作りますんで。」

 「ともかく、中に入ろうか? お互い色々話もあるだろうし。」

 「そうですねぇ、久々の畳も堪能したいですし。」

 俺と魔王さんしか分からない会話に、ルビーはサイレントモードだ。

 待機状態とかになってないだろうな?






 

 

 「いや、中学の時にな、俺の学年、鈴木が13人も居てな・・・。」

 あー、何故か固まる時は固まるんですよねぇ、同じ苗字。

 地名由来なんかだと、中学くらいまでは特に。

 「という訳で、俺の事はタカさんと呼んでくれ。」


 

 などというやり取りが有って、互いに「タカさん」、「タイさん」と呼ぶようになった。

 共に一人称は「俺」になってる。

 ほぼ確信していた事だが俺の大先輩。

 日本からこの世界に放り込まれた先達だ。

 

 その能力は「吸収」、「同化」、「分離」、「分身」、「変質」。

 今、こうして話しているのはタカさんの分身で、本体はあの地底湖(というよりサイズ的には海になってるそうだ。一部は別の大陸まで伸びてるとか)。


 

 「吸収」、これは生物、非生物問わず、本体に吸収してしまう能力で、最初に気付いたそうだ。捕食行為であると同時に攻撃でもある。


 「同化」、これは他の生物を自己の内部に取り込む能力で、取り込まれた相手の自我は失われない。


 「分離」はいったん同化で取り込んだ相手を、元の相手の姿、もしくは自分の劣化バージョン(同化と分離が無い)として切り離すもので、切り離された相手は自分の意思で自由に動けるのだという。基本タカさん側からは無干渉で、取り込まれた側が自分の意思で出て行ったり、戻ったりしているらしい。


 「分身」は自己の分身を作り出す能力で、切り離された分、本体の力が減少するという話。ただ、タカさんの場合は、本体のサイズがサイズなんで数体の分身なら全く本体に影響は出ないとか。また、分身を再度取り込む事で、分身の経験も本体のモノになるとかで、「それなんて影分身?」とか思えるもの。更に分離していった者はこの状態にある意味近く、分離先の本体が消滅した場合、タカさんの内部で再生されるのだとか。今、この瞬間も外を徘徊していたり、本体からはぐれて彷徨ってたりする分身が数体いるのだという。


 「変質」は取り込んだ生物や無機物の能力を、体を変化させて再現する能力。硬質化とか強酸化だけでなく、ブレスやボイスなんかも使えるんだそうだ。



 「俺と同化してる連中は今じゃ五千万くらい居るのかな? 最初の頃一緒に居たゴブリンからワイバーン、サイクロプスまで、元の種族はそれこそ図鑑が作れるくらいだな。俺の中で出会って、結婚して子供が生まれてるなんてのも珍しくない。出入りも自由なんで、数はおおよそで、今だって変化してる。実質、俺が滅びない限り不死身になるわけだし、寿命もねぇしなぁ。年取って動けなくなったら、俺と同化しに来るってモンスターも居るし、俺と同化してから分離するってのが成人の儀式になってるモンスターも居るな。このまま、この星が無くなる寸前くらいまでは生きるんじゃないかな?」

 

 

 既に生き物って範疇を超えてね?

 

 

 「個体であり、群体であり、環境であり、社会であり、家であり、一族であり、家族であり、俺自身でもある。まさか、こんな事になるとは思わなかったけどな、最初は。なんで俺がスライムに~! ってのがこの世界での第一声だし、何度も人間や他のモンスターに殺されそうになったし。生命力だけは異常にあるのと、痛覚がないのが救いだったなぁ・・・。」

 遠い目をして語るタカさんは、日本に居た時期は俺とあまり変わらないのに、年齢は軽く二千歳を超えているのだそうだ。


 ちなみに奥さんは姉さん女房。

 500歳ほど年上の元・ワームだとか。

 ワームって、かなりデカいよなぁ・・・。

 手足の無い龍だっけ?

 

 「あの頃のタカさんは可愛かったわねぇ。」

 今の姿からワームだったっていうのを想像するのは物凄く難しいなぁ・・・。

 

 「ちなみに、俺とセレナが人間の姿をしてんのは『擬体』っていう作り物の中に入ってるからだ。流石にセレナの元のサイズだといろんな面で大変だからな。そっちはちと無理だ。」

 

 どことなくサーバントみたいな感じがしてたが、作りもんだったのか。

 にしても、さっきはカップ麺とかハンバーガーとか食ってたし、味覚もしっかりあるなんて凄いよな。

 

 「『博士』が作ったんだが、前に会ったのは80年くらい前か? どこで何してるかしらんが、そうそう消滅する様な可愛げなんかないからな。どっかで生きてんだろ?」


 『博士』はなんでもマッドサイエンティストでマッドアルケミストでマッドウィザードなリッチだそうで、擬体の他にあの城を造ったのもこの人(?)らしい。

 マッドかもしれんが、センスはいいんだな。


 会ってみたいような、みたくないような微妙な相手だ。





 

 「さて、そんじゃ、少しマジメな話しをしようか?」

 「お茶っ葉を取り替えてきますね。」

 セレナさんが席を外す。


 「この世界に俺らを放り込んだのが誰か・・・残念ながらこれは分からない。というかな、・・・放り込むだけでその後どうなったかなんて、見てないどころか気にしてもいないみたいなんだよな。例えばタイさんの前に放り込まれたヤツが出たのが150年くらい前だったかな?  能力は火炎系の戦闘バリバリだったけど、冒険者やって『俺ツエー!』やって、パーティで一緒だった子と結婚して寿命で死んでと、別にどっかの国の危機を救ったわけでもなけりゃ、大きな組織と戦ったり、世界の謎に挑んだりとかそんな事もなく、この世界で生まれた人間と変わらない個人レベルで終わった。」

 はあ、そんな人もいたんだ、俺が調べても分からなかったろうな、そういうのじゃ。


 「むしろ、俺やマツバラ君みたいに他に大きな影響を与えた方が珍しいくらいだ。まあ、俺以降の全員を把握してるってわけじゃないが、少なくとも俺の知ってる範囲じゃそんなもんだ。だから、何故やってるかとか、人選や能力の基準はとか全く分からない。高所恐怖症なのに『高速で空間を機動する能力』を与えられてたヤツもいたしなぁ・・・。」

 妙に地域や時代は同じ辺から持ってきてません?


 「それはあるかもな、でも前のジョージはオタクだったけどアメリカ人だったぜ? 時代は不自然なくらい同じくらいの時期だけどな。」

 同じ日本人でも時代違えば話合わなかったりしますしね。


 「あと、元の世界に戻ったヤツや、ここから別の世界に行ったヤツは一人もいない。誰かが放り込むだけの完全な一方通行だ。俺らの世界以外から来たヤツも、少なくとも俺の知る範囲ではいない。本人が注意深く隠して、周りも協力してりゃあ分からんかもしれんけどな。何が言いたいかって言えば、色々不満も大変な事もあるだろうけど、ここでやっていくしかねえし、放り込んだヤツは俺ら以上の無責任なんで、あんま背負い込まずにそれなりにやってけばいいんじゃないの? ってこと。ま、頑張れ!」

 うっす、ありがとうございます。

 「あ、そうそう、食い物と家ありがとな!」


 じゃ、本日はこの辺で、また、改めて後日お伺いします。


 「はい、また。」

 「あらあら、たいしたおかまいもしませんで・・・。」

 

一見ディストピアだし、見た目グロいしで

伝説の大魔王だと知らなくても嫌う人間が多いです

なもんで普通の人間からは隠れてます

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