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異世界むなしばなし

真の聖女花子

掲載日:2026/10/16

むかしむかし、あるところに、花子という若い娘がおりました。


花子は、とても頭がよく、治癒魔法の天才でした。


普通の治癒魔法使いが十日かけて治す病気も、花子なら一日で治せます。


普通の治癒魔法使いでは治せない難病も、花子なら治すことができました。


そのうえ花子は勉強熱心で、医学や薬学にも詳しく、国中の医者が花子に教えを請うほどでした。


そんな花子を、王さまはたいそう高く評価しました。


「花子よ。そなたの力は、まさに神さまから授かった奇跡の力じゃ。今日から聖女を名乗るがよい」


こうして花子は、国から正式に聖女の称号を授かりました。


花子は大よろこびしました。


『当然ですわ! この国で一番優秀な治癒魔法使いは、私なのですから!』


けれども、困ったことがありました。


花子は、少しばかり人付き合いが苦手だったのです。


頭がよく、たくさんのことを知っている花子は、知らない人や間違える人を見ると、つい冷ややかな態度を取ってしまいました。


「花子さま。どうか母を助けてください!」


『まったく。どうして、こんなになるまで放っておいたのですか?』


「す、すみません……」


『もっと早く連れてくれば、簡単に治せたものを。あなた方は本当に無知ですわね』


そう言いながらも、花子は患者をきちんと治しました。


治療は完璧でした。


けれども、患者や家族は、どこか悲しい気持ちになりました。


また、若い治癒魔法使いが失敗すると、花子はため息をつきました。


『そんな初歩的なこともできないのですか?』


「申し訳ありません……」


『まったく。少しは勉強なさい』


花子の言うことは、たいてい正しいものでした。


しかし、正しいことを言われたからといって、必ずしも嬉しいわけではありません。


花子は、国中で最も優秀な治癒魔法使いでした。


それでも、花子を好きだという人は、あまりいませんでした。



◇ ◇ ◇



ある日のことです。


王宮の治療院に、新しい治癒魔法使いの娘がやってきました。


まだ若く、魔法の腕前も平凡な娘でした。


難しい病気は治せません。


大きな怪我も、すぐには治せません。


勉強も得意ではなく、何度も失敗しては、先輩たちに教えてもらっていました。


けれども、その娘はとても優しい人でした。


「痛かったでしょう。もう少しの辛抱ですよ」


「私の力では、すぐに治してあげられなくてごめんなさい」


「先生を呼んできますね。きっと良くなりますから」


娘は、いつも患者の話をよく聞きました。


お年寄りには、ゆっくりと話しました。


子供が泣いていれば、手を握ってあげました。


貧しい人にも、お金持ちにも、同じように接しました。


そして、治せない患者がいると、夜遅くまで勉強しました。


「もっと上手に魔法が使えたら、あの人を助けられたのに……」


娘は、そう言って何度も涙を流しました。


やがて、治療院の人々は、その娘を慕うようになりました。


「あの子がいると、安心するねえ」


「いつも一生懸命で、ありがたいことだ」


「本当に、聖女さまみたいな娘だね」


そんな噂は、あっという間に国中へ広まりました。


いつしか人々は、娘のことを「聖女さま」と呼ぶようになりました。



◇ ◇ ◇



それを聞いた花子は、たいそう腹を立てました。


『何ですって!? あんな平凡な娘を聖女と呼ぶなんて!』


花子は、王さまに訴えました。


『聖女とは、国で最も優れた治癒魔法使いに与えられる称号ではありませんの!?』


王さまは困ってしまいました。


「たしかに、そなたの治癒魔法は国一番じゃ」


『でしたら、なぜあの娘が聖女と呼ばれるのです!』


「しかし、民たちはあの娘をたいそう慕っておる」


『そんなもの、人気があるだけではありませんか!』


花子は鼻で笑いました。


『治癒魔法もろくに使えない娘が、聖女だなんて。馬鹿馬鹿しい!』


ところが、王さまは国中の人々の声を聞き、ある決断をしました。


「花子よ。そなたの能力は、今も国一番じゃ。

しかし、民が聖女と呼び、心から敬っておるのは、あの娘なのじゃ」


そして王さまは、若い娘に正式な聖女の称号を授けました。


花子は、聖女の称号を失いました。


『そんな馬鹿な!』


花子は怒り狂いました。


『私こそが真の聖女ですわ! あんな無能な娘に、私の代わりが務まるものですか!』


そして、王宮を飛び出しました。


『こんな国、こちらから願い下げですわ!』


『私がいなくなれば、どれほど困るか思い知るがいい!』


こうして花子は、国を出ていってしまいました。



◇ ◇ ◇



さて、花子がいなくなった国は、どうなったでしょう。


実は、たいそう困ってしまいました。


花子の治癒魔法は、本当にすばらしいものだったからです。


それまで一日で治せた病気が、十日もかかるようになりました。


花子なら助けられた患者を、助けられないこともありました。


治療院には、毎日たくさんの患者が並びました。


新しい聖女となった娘も、一生懸命に働きました。


朝から晩まで治癒魔法を使いました。


医者や薬師たちにも協力をお願いしました。


少しでも多くの人を救おうと、毎日勉強しました。


けれども、どうしても花子には及びません。


ある日のことです。


娘は、重い病気の子供を治すことができませんでした。


「ごめんなさい……」


娘は、子供の家族に頭を下げました。


「私に、もっと力があれば……」


そして、ぽろぽろと涙を流しました。


「私が聖女なのに……。何もできなくて、ごめんなさい……」


娘は泣きながら、何度も何度も謝りました。


それを見た人々も、涙を流しました。


「聖女さま。あなたのせいではありません」


「いつも一生懸命に働いてくださって、ありがとうございます」


「どうか、ご自分を責めないでください」


人々は、娘を励ましました。


そして、娘の力になろうと、医者や薬師たちもいっそう懸命に働くようになりました。


国の医療は、以前ほど優れたものではなくなりました。


それでも、人々は新しい聖女を心から敬っていました。



◇ ◇ ◇



一方、隣の国にいた花子は、故郷の噂を聞いて大よろこびしました。


『おほほほほ! 

やっぱり私がいないと駄目なのね!』


『あの娘が泣いているですって? 

いい気味だわ!』


『真の聖女である私を蔑ろにしたから、あんな国は苦しむのよ! 

ざまぁみなさい!』


花子は、毎日ご機嫌でした。


『そのうち王さまが、私を迎えに来るでしょうね』


『国中の人々が土下座して謝ったら、戻ってあげてもよろしくてよ』


花子は、立派な馬車が迎えに来る日を楽しみに待ちました。


一日待ちました。


一週間待ちました。


一か月待ちました。


けれども、誰も迎えに来ません。


それどころか、故郷の人々は、花子の言葉を聞いて怒っていました。


「私たちが苦しんでいるのを、喜んでいるそうだ」


「たしかに花子の魔法はすごかった。でも、あんな人を聖女とは呼びたくないね」


「新しい聖女さまは、私たちのために泣いてくださったのに」


「花子は、私たちの不幸を笑っているんだ」


こうして人々は、ますます花子を嫌うようになりました。


そして、力不足を嘆きながらも懸命に働く若い聖女を、ますます敬うようになったのです。



◇ ◇ ◇



花子は、いつまでたっても迎えが来ないので、腹を立てました。


『まったく! どこまで愚かな国なのかしら!』


『でも、構いませんわ。

私ほどの天才なら、ほかの国が喜んで迎えてくれるはずですもの!』


そこで花子は、隣の国の王宮を訪ねました。


『私は、どんな難病でも治せる天才治癒魔法使いですわ! 

ぜひ高いお給金で雇いなさい!』


役人は、花子の能力を調べました。


そして驚きました。


「これはすごい! 

本当に天才ですな!」


花子は得意になりました。


『当然ですわ!』


ところが、役人はこう言いました。


「では、最初は新人治癒士の待遇になってしまいますが、それも良ければ働いて下さい」


『なんですって!?』


花子は怒りました。


『私ほどの天才を、凡人と同じ扱いで雇うつもりですの!?

院長より偉い聖女として迎えられるべきですわ!』


「ええ。

故郷で好かれるようなお人柄でしたら、そういう待遇でも不満に思う者は居なかったと思います」


『私の能力には、最高の価値があるのよ!』


「能力はすばらしいと思います。

しかし、あなたを高い地位に迎えるのは、少々心配なのです」


花子は、怒って王宮を飛び出しました。


『こんな国も願い下げですわ!』


そして、別の国へ向かいました。


けれども、そこでも同じでした。


「能力はすばらしいですね。

しかし、いきなり最初から役職には就かせられません」


また別の国でも、


「噂通り治癒魔法の腕前は見事です。

しかし、特別待遇はできません」


と言われました。


花子は、どこの国でも腹を立てました。


『どうして、私の価値がわからないの!』


『私は天才なのよ!』


けれども、どこの国でも花子の悪い評判は知られていました。


花子の魔法を使いたい人はいても、花子と同じ職場で働きたい人は現れませんでした。



◇ ◇ ◇



花子の治癒魔法は、相変わらずすばらしいものでした。


ですが、聖女として受け入れてくれる国はありませんでした。


普通の治癒士として働くことを断っているうちに、あれだけあった貯金も底を尽いてしまいました。


『どうしてですの!? 

私は、こんなに優秀なのに!』


花子は不思議でたまりませんでした。


一方、故郷の若い聖女は、相変わらず平凡な治癒魔法使いでした。


花子ほど難しい病気を治すことは、最後までできませんでした。


それでも、患者のために働き、困っている人を助け、医者や薬師たちと力を合わせていました。


人々は、そんな聖女を心から敬っていました。


花子は、その噂を聞くたびに腹を立てました。


『あんな凡人の、どこが聖女だというの!』


『真の聖女は、私なのに!』


けれども、誰も花子の言葉に耳を傾けませんでした。


そして、ある寒い冬の日。


花子は、誰にも看取られることなく、ひとり寂しく息を引き取りました。


最後まで、花子は自分がなぜ嫌われているのか、わかりませんでした。



『おかしいわね……。


私の方が、ずっと優秀だったのに……。


本当の聖女は、私だったはずなのに……』



こうして花子は、ひとり寂しく死んでいきました。


花子の治癒魔法は、本当に国一番でした。


その才能によって、たくさんの人の命が救われたことも事実です。


けれども、人々が聖女と呼びたかったのは、魔法の上手な人ではありませんでした。


自分たちの苦しみに心を寄せ、共に涙を流し、懸命に助けようとしてくれる人だったのです。



おしまい。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



本作を見つけて下さってありがとうございます。

小西にこ(蒼き流星ボトムズ)と申します。


色々なジャンルに手を出すのが好きで、今回は童話に挑戦してみました。

多くの作品が連載途中にも関わらず申し訳御座いません。


この場を借りて作品進捗を報告します。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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※文庫1巻のみ。

 KADOKAWAが「異世界濫発するな」とファンドに詰められてたので、続刊は絶望的。

 本作の内容自体も反資本主義的な側面が強いので絶望的。




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― 新着の感想 ―
うう…花子…… 来世では幸せにな……
真の聖女、追放されて国が破綻するという流れの話は人気ジャンルですね しかし現実で考えたら一人いなくなれば破綻する国家形態など論外なのである、だから王さまの決断は正しい そして現実のお局様超害悪!一人…
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