第16章 「帰還の影」
第16章 改訂版
「帰還の影」
佐渡ヶ島沿岸、夜明け前。海面は静かに波打っていた。
防空レーダーが異常を捉える。
「……帰還点付近、複数の人型反応」
速度、熱量、動きのパターン。すべて人間離れしている。
識別信号は一切なし。味方か、敵か――不明だった。
司令部では静寂が支配していた。
全員、レーダー画面に釘付けになり、発射ボタンに指をかけたり外したりして迷う。
「……もし敵だったら、ここで叩ける」
「だが、もし味方なら、取り返しがつかない」
緊張が張り詰める。
ミサイル発射ボタンに指を置きながらも、誰も押せない。
秒針だけが重く刻まれる。
一方、ゲートの向こう側。
異世界の戦場は、蒼真たちにとって見慣れた光景だった。
倒れたモンスターの残骸、焦げた地面、戦いの跡。
斎藤が冷静に指示を出す。
「全員、準備はいいか」
蒼真は頷いた。
銃を握る手に力が入り、視線は冷静そのもの。
「行くぞ」
ゲートが徐々に波紋のように開き始める。
海面に光の輪が広がり、その中心から空間の歪みが現れた。
潮風に混ざって、かすかな青白い光が夜明けの空を照らす。
「…出るぞ」
斎藤の声で全員が踏み出す。
蒼真は深呼吸をし、仲間の顔を確認した。
レンジャーの経験、異世界での戦闘経験――
すべてが、この瞬間のためにあった。
海面から光の輪が広がり、蒼真たちは静かに現実世界の佐渡ヶ島に立った。
砂浜に足を踏み下ろすと、冷たい朝の空気が肺に流れ込む。
しかし、緊張は解けていなかった。
司令部レーダーでは、蒼真たちの影を追う。
「速度と方向…人間型だが、異常に速い」
「味方か?敵か?」
ミサイルの発射準備は整っている。
しかし、誰もボタンを押せない。
不確定情報の恐怖が、全員を硬直させていた。
「撃つべきか…いや、待て」
「もし味方なら、取り返しがつかない」
秒針の音だけが、重く司令室に響く。
浜辺では、蒼真たちが展開する。
銃を構え、周囲の地形を確認。
敵の痕跡を警戒しつつも、異世界で培った直感と経験で動く。
「異変なし。安全圏確保」
蒼真の声に、隊員たちは頷く。
海岸線に立つ彼らの姿は、レーダー上ではまだ影にすぎないが、現地の状況は確実に支配下に置かれつつあった。
光の輪の中心から、蒼真たちは一歩一歩島に降り立つ。
海風が髪を揺らし、銃の感触を手に伝える。
島の運命は、この瞬間から再び動き始める。
レーダー越し、自衛隊は依然として迷う。
蒼真たちが敵か味方か、確信できないまま。
ミサイル発射ボタンを手に握ったまま、呼吸を止めて観測を続ける。
一歩一歩、砂浜に足を踏み下ろす蒼真たち。
彼らが動くたび、レーダーの点が変化する。
それを見つめる自衛隊。
攻撃か、待機か――選択の重みが、一瞬の静寂に凝縮されていた。




