第15.5章 「逃走者の末路」
地下神殿の崩落から、三日が経っていた。
蒼真たちは警戒を解かず、周辺一帯の索敵を続けていた。
敵の統率核は破壊した。だが、逃走した個体――かつて“魔王”を名乗っていた男だけは、確認できていない。
「生存率は低いと思うがな」
斎藤准尉の言葉に、蒼真は頷いた。
転移は未完成。
座標も固定されていない。
あの状態での逃走は、脱出というより事故に近い。
それでも、確認は必要だった。
「……反応あり」
索敵役の隊員が声を落とす。
魔力反応は弱い。
敵性反応もない。
蒼真は銃を構えたまま、慎重に近づいた。
そこにあったのは――
情けない光景だった。
岩壁と樹木の間に、男が挟まっていた。
正確には、**転移に失敗し、半端な位置で“落ちてきた”**らしい。
身体は無理な角度でねじれ、装備も衣服も引き裂かれている。
致命傷は、戦闘によるものではなかった。
「……滑落、圧死、失血。どれだ」
「全部だな」
誰かが小さく言った。
魔力反応は、完全に枯渇している。
術式の痕跡もない。
蒼真はしゃがみ込み、男の顔を見た。
そこにあったのは、
征服者の顔ではなかった。
恐怖。
混乱。
そして、理解できない現実に対する拒絶。
「……蛇口を失った人間の末路か」
蒼真はそう結論づけた。
力を失った途端、
この世界で生き抜く術も、判断力も、何も残っていなかった。
魔法に頼り、
世界を支配した気になり、
自分を“特別”だと信じた結果が、これだ。
「……あっけないな」
誰かが呟いた。
英雄の最期ではない。
宿敵の終焉でもない。
ただの、事故死。
蒼真は立ち上がり、背を向けた。
「記録だけ取れ。埋葬は不要だ」
冷たい言葉だったが、事実だった。
これは処刑でも、勝利宣言でもない。
戦争の後始末だ。
彼らは兵士であり、
やるべき仕事を終えただけ。
蒼真は歩きながら、思った。
――強さとは、力の量じゃない。
――力を失っても立てるかどうかだ。
あの男は、立てなかった。
それだけの話だった。




