第13章「奪還不能」
決定は、早かった。
国連安全保障理事会は、日本に対し「多国籍即応部隊の派遣」を提案した。
名目は国際安全保障。
実態は、未知の脅威への主導権確保。
日本政府は――それを断った。
「本件は、日本の主権に関わる問題である」
公式声明は簡潔だった。
裏では、さらに重い理由があった。
異世界の存在。
転移現象。
そして、日本だけが知っている“帰還点”の構造。
それを他国に明かす選択は、なかった。
「――自衛隊単独で、佐渡を奪還する」
統合作戦本部で、命令が下る。
対象地域:佐渡ヶ島全域。
目標:敵勢力の排除、統治機能の回復。
制約:民間人被害ゼロ、隊員の戦死ゼロ。
極めて矛盾した命令だった。
だが、命令は命令だ。
作戦は、夜明け前に始まった。
海自が周辺海域を封鎖。
空自が制空権を確保。
陸自の部隊が、複数地点から同時上陸。
計画通りだった。
最初の三十分間は。
「……敵影、想定より多い」
先行偵察班の報告。
「魔法的妨害あり。通信に遅延発生」
電子戦では説明のつかない障害。
敵は、学習していた。
異形のモンスターだけではない。
人間型の指揮個体。
統率された配置。
罠。
「市街地への誘導を確認」
「民間人は?」
「避難済み……ですが、完全ではありません」
その瞬間で、勝敗は決していた。
自衛隊は、攻勢を止めた。
火力を制限。
空爆は中止。
砲撃も使えない。
敵は、それを理解していた。
霧のような魔法障壁。
視界不良。
地形の変質。
「……前進できません」
小隊長の声に、苛立ちはない。
あるのは、冷静な判断だけだ。
無理に進めば、
民間人が巻き込まれる。
敵は、島を“盾”にしていた。
さらに追い打ちが来る。
「……後方部隊、包囲されました」
だが、敵は殺さない。
拘束。
無力化。
排除。
まるで、試すように。
「……目的は制圧じゃない」
現場指揮官が悟る。
「見せつけているんだ」
――日本の限界を。
作戦開始から八時間後。
「……撤退命令、下ります」
統合作戦本部の声は、重かった。
佐渡ヶ島奪還作戦は、失敗。
戦果なし。
島は取り戻せない。
だが――
「戦死者、ゼロ」
その報告だけが、異様に静かだった。
負傷者は出た。
装備も失った。
だが、命は全員、帰ってきた。
敵は、殺さなかった。
それが意味することは、明白だった。
「……次は、交渉か」
「いや」
ある将官が、首を振る。
「次は、“選択”を迫ってくる」
世界は、この敗北を知る。
だが、日本は詳細を語らない。
語れない。
国連は苛立ち、
各国は疑念を強める。
佐渡ヶ島は、地図上では日本だ。
だが現実には――違った。
完全な占領ではない。
しかし、取り戻せない。
誰も死ななかったことが、
かえって恐怖を増幅させる。
敵は証明した。
力を使わずとも、世界は崩れる。
そして、どこか別の世界で――
まだ戦い続けている男がいる。
蒼真の戦争は、終わっていない。
だが、この世界の戦争は――
確実に、次の段階へ進んでいた。




