第12章「分断の島」
発表は、唐突だった。
政府は当初、「原因不明の大規模災害対応」としてきた佐渡ヶ島周辺の事案について、限定的な情報公開に踏み切った。
理由は単純だ。
もはや、隠し切れなくなった。
夜間に撮影された複数の映像。
海面が歪む様子。
沿岸に現れ、銃撃を受ける異形の存在。
それらはSNSを通じ、瞬く間に拡散した。
「フェイクだ」
「軍の新兵器実験だ」
「いや、本物だ。異世界から来たんだ」
意見は割れ、感情が先行した。
政府の会見は、火に油を注いだ。
「現時点で、国家安全保障上の重大な脅威が存在する可能性は否定できません」
その一文が、世界を揺らした。
海外メディアは即座に反応する。
『日本海に未知の存在』
『異世界接触か』
『新たな脅威の出現』
日本国内でも、世論は二分された。
「自衛隊は何を隠している」
「なぜ佐渡を封鎖した」
「島民を危険に晒すな」
一方で、
「国を守るために必要だ」
「情報を出せば混乱する」
「今は信じるしかない」
政治は、鈍った。
国会では追及が続き、
内閣支持率は急落。
地方自治体からも、佐渡封鎖への異議が噴出した。
そして、最悪の判断が下される。
「……一時的に、部隊を縮小します」
“緊張緩和”という名目。
国際社会への配慮。
国内世論への妥協。
佐渡ヶ島から、一部の部隊が引き上げられた。
その夜だった。
沿岸監視システムが、同時に沈黙した。
「……通信、切断」
地下指揮所で、警報が鳴る。
「電源系統が外部から破壊されています」
それは、偶然ではない。
空間が裂けた。
前回よりも安定した歪み。
場所は、同じ沿岸部。
今度は――数が違った。
異形の群れ。
統率された動き。
そして、その後方。
「……人影、確認」
人間だった。
黒衣の男。
魔力をまとい、歪みの中心に立つ。
「ここが、“向こう側”か」
静かな声。
迎撃に残っていた部隊は、必死に応戦した。
だが、数と準備が違った。
魔法による妨害。
通信の遮断。
補給の断絶。
数時間後――
「……佐渡、制圧された」
その報告が、防衛省に届いた。
正式には、
「一時的に統制不能状態」。
だが、現実は明確だった。
敵は、日本の領土を踏んだ。
世界は震えた。
国連は緊急会合を招集。
各国は、日本に説明を求めた。
「なぜ日本なのか」
「これは地球全体の問題だ」
日本は、答えを持たない。
一方、異世界。
蒼真は、遠く離れた場所で膝をついた。
胸の奥に、重い感覚が走る。
「……佐渡が、落ちた」
確信だった。
エリシアが顔を青くする。
「人々は……」
「生きている。だが、戦場になった」
蒼真は立ち上がる。
これ以上、傍観はできない。
世界が分断された結果、
境界は破られた。
敵は証明したのだ。
人間の迷いこそが、最大の武器だと。
「……取り戻す」
それは、命令でも義務でもない。
一人の兵士としての、決意だった。
佐渡ヶ島は、
もはや島ではない。
世界の運命を分ける前線になった。




