第11章「勝てなかった戦争」
夜明け前。
王都北方、旧帝国要塞跡。
崩落した石壁の隙間から、冷たい風が吹き込む。
蒼真は伏せた地図を押さえ、隊員たちを見渡した。
斎藤准尉。
森。
吉岡。
黒田。
全員、疲労はあるが集中は切れていない。
これが最後になる可能性があると、誰もが理解していた。
「目標は首領。排除できなければ、戦線は終わらない」
蒼真の声は低い。
「ただし――状況が悪化した場合は、即時撤退。無理はしない」
異世界での戦いに、補充はない。
それは、全員が身に染みていた。
作戦開始。
黒田の設置した爆薬が、外周の魔力結界を破壊する。
爆発音と同時に、敵兵が動いた。
「外に引きつけた」
斎藤が短く言う。
蒼真と斎藤は、崩れた壁から内部へ。
狭い通路。
足音を殺し、銃口を先に出す。
魔法兵二名。
詠唱に入った瞬間を逃さず、蒼真が撃つ。
一体は倒れ、もう一体は壁に魔法を放って逃走。
「警戒レベル上がるぞ」
「構わない。予定通りだ」
中央塔。
そこに立っていた男を見た瞬間、蒼真は確信した。
――こいつが首領だ。
若い。
日本人の顔立ち。
だが、目が違う。
「……自衛官か」
男は、余裕のある声で言った。
「よく来たな。だが、遅い」
蒼真は銃を構えたまま答える。
「侵略は終わりだ。ここで止める」
男は小さく笑った。
「止める? 君たちは“異物”だ。いずれ、この世界に拒絶される」
次の瞬間、空気が歪む。
「来る!」
斎藤の声。
蒼真は即座に撃つ。
だが、弾丸は見えない壁に弾かれた。
魔法障壁。
男は一歩も動かない。
「君たちは優秀だ。だが、ここでは力が足りない」
男が手を振る。
衝撃波。
蒼真たちは吹き飛ばされ、柱に叩きつけられる。
「……生きてるか」
「全員、動けます!」
森の通信が入る。
蒼真は歯を食いしばる。
距離を詰める。
障壁の“揺らぎ”を狙う。
閃光弾。
一瞬、視界が白む。
「今だ!」
蒼真は障壁を抜ける感触を確かに感じた。
だが――
男は、そこにいなかった。
「……転移」
床に残る魔力痕跡。
完全な撤退ではない。
逃げたのだ。
直後、要塞全体が揺れ始める。
「構造崩壊、来ます!」
吉岡の叫び。
蒼真は即断した。
「撤退! 目標排除失敗! 全員、生きて出るぞ!」
不満は出ない。
誰もが、判断の正しさを理解していた。
外へ。
背後で、塔が崩れる。
要塞跡から距離を取り、ようやく全員が足を止めた。
敵は生きている。
戦争は、終わっていない。
斎藤が言う。
「……逃がしましたね」
「ああ」
蒼真は、拳を握りしめる。
「だが、俺たちも生きている」
それが、最大の成果だった。
空が揺れる。
微弱だが、確かに――帰還点の兆候。
選択は、まだ先だ。
エリシアが、静かに言った。
「彼は……また来るでしょう」
「その時は」
蒼真は、はっきり答えた。
「次こそ、終わらせる」
勝てなかった。
だが、折れてはいない。
この戦争は、
まだ続いている。




