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短編小説

とあるギルド員の事件簿~Aランクパーティーを追放されたとやって来た赤魔道士の少年が実は凄腕だった件について~

作者: 東稔 雨紗霧

 Aランクパーティを追放されたと言う少年が「一人でも受けられるクエストはありますか?」とギルドカウンターへとやって来た。

 込み入った事情がありそうだと判断したトドロキは一先ず個室へと案内して詳しい話を聞いてみる。



 「過去のクエスト記録等を見るにレンさんはAランクパーティ『蒼炎の灯火』に赤魔導士として所属されており、素行も問題無く評価されているとあります。『蒼炎の灯火』は近々Sランクパーティへの昇格試験を受けると耳にしていたのですが、何故その様な大事な時期にレンさんをパーティから外す事になられたのですか?」

 「その、ご存じだとは思いますが、赤魔導士は白魔導士と黒魔導士の中級までのスキルを仕えて、尚且つ自身も剣士として戦う事ができます。これまでは僕が皆の支援と敵へのデバフを掛けつつパーティーリーダーのエリックが取りこぼした敵を狩る役割を担っていました」

 「ふむふむ」

 「でも、Sランクに昇格するためには僕みたいな中途半端な支援とデバフをしてエリックのおこぼれを狙って楽をして仕事をしている感を出す奴は足手まといだって、エリックにそう言われたんです。他のパーティーメンバーも僕程度の奴は他にもいっぱいいるからって」

 「なんとまぁ」



 パーティーメンバーの愚かさに思わずトドロキの口から呆れ声が漏れた。

 確かに、赤魔導士は他の専門魔導士と違って高レベルの魔術を使う事が出来ない、いわゆる器用貧乏型と呼ばれており、その事から赤魔導士を選ぶ人間は少ない。

 だが、本人の資質と才能が合致すれば一人で何役もの役割を果たす事ができる万能型へと進化する。

 少なくとも、パーティーでSランクに昇格する資格を得る事が出来る程に資質と才能が合致している彼は赤魔導士として比類無き才能がある。

 才能の無い足手まといを抱えた状態でAランクパーティーになれる程、冒険者の道は甘くない。

 ギルド職員として色々と思う所はあるが、重要な判断を誤る様なパーティーから円滑に抜けれたと今は喜ぶべきだろう。

 そう考えを切り替えたトドロキは眼鏡のブリッジをクイッと上げて思考を切り替える。



 「事情は把握しました、ではこれからはソロで活動を続けられるのですか?

 一人でクエストを受ける事は出来ますが、パーティーで行動した方が活動の範囲も広がりますし、安全ですよ。無理にとは言いませんが新たにパーティーに加わるのはどうですか?」

 「えっと……また足手まといだって言われて追い出されるのも嫌ですし、それに、もし本当に僕が自分だけが出来ているつもりのだけの足手まといだったらそのパーティーに迷惑かけちゃうので……それにずっと一緒にいたパーティーメンバーからあんな風に思われていた事を知ったからには、暫く人と一緒に行動するのはちょっと……その、すみません……」

 「いいえ、謝る必要は無いですよ。冒険は自由にするべきですし、自分の心に従った方が後悔は少ないですから。ではクエストに関してなのですがこちらから一つ提案をしても?」



 初めてソロでクエストをこなすのであれば群れで暮らす習性を持つ魔物を相手にするのは得策ではない。

 そう説明してトドロキは繁殖期以外の時期は単独で生活をするジャイアントベアの討伐クエストを薦める事にした。

 Cランクがパーティーで討伐をする魔物だが、Aランクパーティーに所属していた事と彼自身が剣士と支援を兼ねる事が出来る事から単独での討伐が可能だと判断し、くれぐれも無理をしない様にと良く言い聞かせて見送ったのだが……。



 「ジャイアントベアを討伐したのは良かったのですが、偶々それがレッドドラゴンの獲物だったらしくって、接敵してしまったので討伐をしました。ここで買い取りって出来ますか?」



 そう言って帰って来たのにトドロキは唖然とした。

 ギルド職員内でしか知らされていないが、Aランクがパーティーで討伐できる基準がワイバーン種であり、その上位種であるドラゴン種討伐はSランクパーティーの討伐基準となっている。

 そう、()()()()()()()()()()だ。

 単独でドラゴンを討伐などSランクの中でも限られた者にしか出来ない。

 しかも見た限りでは身体の欠損や大きな怪我も見受けられず五体満足で帰還している。

 ギルド内の工房でマジックバックから取り出されたドラゴンの死体は致命傷となった逆鱗への一突き以外には大きな損傷も無く非常に綺麗な状態で、工房長が興奮していた。

 最低限の損傷のみでドラゴンを単独撃破できる実力を持った彼を追放したパーティーの見る目の無さに呆れるしかない。

 まあ、今回の様に単独で他にリソースを割く必要が無く、自身の強化と敵へのデバフに集中できたからこそ彼の真価が発揮された可能性はある。


 (これは一波乱あるぞ)


 これから来るであろう騒動の数々にトドロキの背を冷たい汗が流れた。



✻✻✻



 「だぁかぁらぁ、あいつがパーティーを抜けたのはただの手違いだったんだって!ちょっとした喧嘩で不貞腐れてギルドカウンターで愚痴ってたら勝手に手続きされちゃっただけだって言ってんだろ?」

 「レンさんの『蒼炎の灯火』からの脱退手続きは正式に処理されています。手違いであれば本人から再度パーティー加入手続きをして頂ければ処理致しますよ」

 「手違いで処理されたのに本人に手続きさせるのも悪いだろ?だからこっちでやってやろうって言うパーティーリーダーの心遣い?って奴だよ」

 「……『蒼炎の灯火』はレンさんがパーティーを抜けてから新たに上級白魔導師と上級黒魔導士の二名を加入されていますね」

 「あ?それがなんだよ?」

 「手違いであれば何故直ぐにレンさん手続きキャンセルを行わずに新しい方を加入させたのですか?」

 「それは、ほら、あれだ……あいつも少し頭を冷やした方が良いかと思ったんだよ」

 「では、こうして加入手続きにこられたと言う事は既にレンさんとは和解されたのですね?」

 「ああ、そうだ!」

 「であればレンさん本人に手続きをお願いしても何の支障もありませんね。それとも、本人に手続きをさせる事が出来ない理由でもあるんですか?」

 「ぐっ……」

 「では、次は本人を連れての加入手続きをお待ちしております」

 「くそがっ!」



 ダンッ!とカウンターを拳で叩き、唾を吐き捨てて『蒼炎の灯火』のパーティーリーダー、エリックは去って行った。

 その姿を見送ったトドロキは溜息を吐く。

 『蒼炎の灯火』がレンを追放した後、ランク昇給試験に何度も挑戦したが悉く失敗した事、それどころか通常のAランククエストも一度も成功していない事、新たに加入した上級魔導士である二人が早々にパーティーから脱退した事等の諸々をトドロキは把握していた。

 大方、レンの評判を聞きつけてパーティーに戻るように言ったがそれを拒否されたので勝手にパーティーに戻そうとしているのだろう。

 そう辺りを付けたトドロキはギルド職員に本人不在時のパーティー手続きを絶対に受理しないように徹底と、もし無理に加入させようとする様子や違和感があればパーティーメンバーを個室に連れ出して本人と分断させて意思を確認する様に注意喚起をしようと心に決めた。



 「ああ、レンさんにも『蒼炎の灯火』の動きに気を付ける様に伝えなくてはいけませんね」



 トドロキは眼鏡をクイッと中指で押し上げてそう呟いた。



✻✻✻



 「レンさんが『蒼炎の灯火』への加入手続きに来た?」

 「はい、トドロキさんの指令通りに一先ずパーティーメンバーの方々は別室に通してレンさんだけカウンターに残って貰っています」



 職員からの報告を受けたトドロキが直ぐにカウンターへと向かうとそこには書類を書くレンの姿があった。



 「こんにちは、レンさん。本日は『蒼炎の灯火』への再度加入手続きとの事ですがあれから無事に和解されたのですか?」

 「はい、僕の勘違いだったみたいなんです」



 カウンターに入りながらレンに問い掛けるとそう答えが返って来た。



 「そうだったんですね。では、これからはソロでは無く元の『蒼炎の灯火』で頑張ると」

 「はい、そうなんです」

 「ふむ、少々失礼致します」



 カウンター越しにトドロキはレンの目の前に手を伸ばし、パチンっと指を鳴らした。

 トドロキの突然の行動にレンは目を瞬かせ、直ぐにハッとした表情に変わる。



 「もう一度お聞きしますが、レンさんは本当に『蒼炎の灯火』に戻られるのですか?」

 「……いいえ、いいえ!!僕は絶対にあのパーティーには戻りません!!」

 「そうですか、ではこの書類は不受理といたしますね」

 「ありがとうございます!」

 「いえいえ、レンさんには少々お聞きしたい事が御座いますので別室へ移動頂いても?」



 深く頭を下げて礼を言うレンにトドロキは優しく微笑んだ。



✻✻✻



 「おい、まだレンの手続きは終わらねぇのかよ?」



 再加入手続きは受理まで時間が掛かるからと理由を付けて別室に案内されていた『蒼炎の灯火』メンバーはノックされたドアに漸くかと笑顔を溢した。

 だが、その表情はレンでは無くトドロキが部屋に入って来た事で訝し気な物に変わる。



 「お待たせしました。今回のレンさんのパーティー復帰の申請ですが、却下する方向になりました」

 「はあ?!なんでだよ?!!」



 トドロキの言葉にエリックが声を荒げる。

 そんなエリックに怯える様子も無く、トドロキは一言。



 「レンさんに対して魅了をかけている形跡が見受けられましたので却下とさせていただきました」



 その一言に『蒼炎の灯火』メンバーは顔色を変える。



 「個人に向けたスキルの使用は禁止されているのはご存じですよね?

 それなのに彼に魅了をかけ、言いなりにしようとしていた事は重大な規律違反です。既にご本人からお話は伺っていますが更に詳しい調査の結果によってはランクの降格、スキルの封印もしくはギルドからの除名もあり得ますので覚悟をしていて下さい」

 「くっ……こうなったら……!魅了(チャーム)!ほら♡可愛い私の為に今回は見逃してくれない♡これからは気を付けるから♡お・ね・が・い♡♡」

 「駄目ですね、それと職員にスキルを使用して隠蔽しようとした事も報告に上げさせていただきます」

 「はあ?!なんで魅了が効かないのよ?!!」

 「単純に好みの問題かと」



 カチャリと眼鏡を押し上げる。



 「貴女からは何の魅力も感じられません。私、妻一筋なので」

 「はあ?!」



 納得がいかない顔をするシーフを押しのけ、エリックがトドロキに剣を突き付けた。



 「命が惜しければ今すぐレンを加入させろ!」

 「ギルド内での武器の使用は禁止されています」

 「うるせぇ!こっちだって後が無いんだ、手前の指が何本か無くなっても良いんだぜ?」

 「そうですか。一応お聞きしますが大人しく剣を治めてレンさんを諦める気はありますか?」

 「ある訳ねぇだろ!」

 「そうですか、残念です」

 「ぐぇっ」



 瞬きの間にエリックが壁に打ち付けられて気絶した。

 何が起こったのか分からない顔をするパーティーメンバー達にトドロキは再度問う。



 「ここで大人しく連行されるのであればこちらも優しくして差し上げましょう、ですが反抗したり逃走を図るのであればこちらも容赦は致しません。どうされますか?」



 『蒼炎の灯火』は大人しく投降した。



✻✻✻



 「本当にお世話になりました!」

 「いえいえ、こちらはただギルド職員としての仕事をしただけですよ」



 事件解決後、改めてと頭を下げて礼を言うレンにトドロキは優しく微笑む。



 「何かお礼をしたいのですが……」

 「お礼と言うのでしたら、レンさんが無事に大きな怪我もなくクエストを熟して帰還して頂ければそれで充分です」

 「そんな……」

 「貴重なSランク冒険者がこのギルドに在籍してくれているだけでこちらとしては十分なんですよ」



 あれからレンは無事に昇給試験を合格して単独でSランク冒険者になっていた。

 彼の元パーティーについては後日の詳しい調査でレンを追放した元パーティーメンバーが彼の必要性を実感し戻るように交渉したが決裂、彼に魅了をかけて強制的にパーティーに戻す手段に出た裏付けも証拠も揃い、『蒼炎の灯火』はAランクからCランクへと降格し、魅了等の対人で使える諸々のスキルを封印処置がされ、更には彼らの所業は彼ら自身が大声で騒いでいた結果、ギルドで伝聞された。

 クエスト失敗の違約金の支払いをしなければいけないのでギルドを辞めるに辞めれず随分と肩身が狭そうだ。

 恐らくそう遠くない内に『蒼炎の灯火』はこの町から逃げ出すだろう。

 

(逃げ出した場合の取り立て手続きをしておかなければいけませんね)

 

 心の中でやるべき仕事をメモしておく。



 「どうしても御礼がしたいと言うのであれば、こちらの討伐クエストを請け負っては頂けませんか? 山道にアースドラゴンが出現して通行止めになり、困っているそうです」

 「分かりました!」


 新たなクエストを受注して出発するレンを見送り、トドロキは業務へと戻る。



 「次の方、どうぞ」


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