9火をつける
「お腹が空いてない?」
僕はおばあさんに聞いたけど、言葉は通じなかった。
なので僕は、お腹に手を当て腰を曲げて、辛そうな顔をする。
ちょっと足りない気がした。
お腹が空いて苦しい気持ちを思い出す。痛いような苦しいような。両手でお腹を抱えて膝も曲げた。
切ない顔をして、グーー、グーーっと声を出した。
「お腹空いたぁ?」
ゴブリン語は伝わらないだろうけど、最後に語尾を上げるの忘れない。
おばあさんは、言いたい事がわかったみたいで笑い出した。
そしてなにか呟きながら恥ずかしそうにうなづいた。
僕はその時、まだまだ子供のゴブリンだったので、飢えている人には肉だと思った。
お手頃サイズの肉として、最後にとった犬的なヤツを取り出した。
僕は生で食べるのが僕の基本だったけど、いくらゴブリン脳の僕でも、それを彼女には勧めない。
だから火を起こそう思った。
前世でいろいろなサバイバルもので見た、火付けの方法を試す。
彼女は、最初僕が何をしているのかわからなかったみたいだ。
まずは薪を集め、小枝を集め、火口になるようなものを集めた。
そして木の棒を節穴に入れて、一生懸命回しているのを見て気がついたみたい。
彼女は、ニコニコと微笑みながら近づいてきて、小さなバックからそれを出した。
火打石だった。
彼女が石をぶつけるような仕草をして何か言った。それでわかった。
コツンとその石をぶつけると、松葉や動物の毛を丸めた火口にはあっさりと火がついた。
ここで気がついたのだが、もしかしたら僕の呪文、放電でも火がついたかもしれない。
ゴブリンだからなのか、僕がバカなのか。思いつかなかった。
彼女がさっき言っていたことを思い出す。
『私いいものを持っているのよ。こうやってぶつけると火がつくわ』
だったんじゃないかなと思う。
彼女は塩も持っていた。
僕が串に刺して焼いたお肉を渡すと、それをかけていた。
僕がうらやましそうにしていたのがわかったのかな、彼女は手渡してくれた。
「いいの?本当にいいの?」
小瓶を見ながら、僕が問うと彼女は何度もうなづいてくれた。
今までの百倍おいしかった。
焼いた肉がこんなにおいしいとは思わなかった。あと塩のおいしさ!
塩っておいしい!
僕は笑った。彼女も笑った。
そこで彼女は何か言ったんだ。なんだか呟くように言っていた。表情も不思議で気になっていた。
人間の言葉を覚えてから、彼女が言ったことがわかった。
多分こう言っていた。
『ゴブリンさんも、私みたいなおばあちゃんは襲わないわよね』
それからほぼ一年間、僕とマリーは一緒に暮らした。