8おばあさん
まだ気づいてくれない。
僕は、そーっとおばあさんに近づく。目を覚ますなら、なるべく遠くでにして欲しかった。
足音をさせたり頑張る。
あまり近くで気がついたら危ない。目を開けて僕と目が合ったら絶叫して、彼女はこと切れてしまうかもしれない。おばあさんは心配なほど痩せていた。
そこでゴブリンの僕も気づいた。
この人は、きっとお腹が空いているだろうと。
そうだ水だ。
僕は水場に行って器に水を入れてきた。
器は、巨大などんぐりの帽子の所を拾って使っていた。ゴブリンにとってはちょうどいいサイズだった。子供用のカップくらいの大きさがある。
僕は慎重に、おばあさんの身を起こした。木の根っこの所に体を預けさせて、口元に水を持っていく。
唇に溜まった水が、少しずつ吸い込まれていく。喉が動いた。
おばあさんは水を飲んだ。
目を開け、器を手に取りゴクゴクと水を飲んだ。
僕は一歩後ずさり、様子を見守った。準備してたんだ。彼女が叫び声を上げる事に。
最後の一口を飲み込んで、彼女は大きなため息をつき、そして目を開けた。
あまり目が良くないのか、僕の緑色の体を見てもすぐには叫び出さなかった。
『おはよう』
僕は胸元で小さく手を振る。
おはようは、お母さんが、僕とその日最初に会ったときに口にした言葉だ。
多分、おはようと言っていたんだと後から思った。
「きゃああああーーーゴブリン!」
やっぱり、おばあさんは絶叫した。
僕は備えていたので、そんなには慌てなかった。
こうしてやろうと思っていた通りに行動できた。僕が走って逃げるんだ。
鳥のさえずりが戻り、おばあさんが落ち着いた頃、僕はのぞいてみた。
おばあさんは、僕の器を拾い、まじまじと見つめていた。
おばあさんはこっちを見た。僕は首を引っ込めた。
しばらく経ってから覗いてみると、まだこっちを見ていた。
あ、笑顔だった。
なんか手招きをしている。
何か言っているけど、僕にはわからなかった。
多分、こっちにおいでと言ってるんじゃないかなと僕は思った。
僕は近寄った。
彼女は器を返してくれた。にっこりと笑っていたけど、その手は震えていた。
そして何かを言った。ペコリと頭を下げた。
多分こう言ったんだろう。
『お水をくれたのね。ありがとう』
僕にはその時は分からなかったけど、とにかく微笑んでいた。
悪どく見えないよう、すごく気をつけた。
そして彼女は身振り手振りで、もう一言言ったんだ。
自分を指差し、僕を指差して指を一本見せる。
『あなたも一人なの?』
僕は嬉しくなった。やっぱり人間って最高だ。
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