7死体あさり
森はどこまでも続いていた。どこまで行っても原野だった。
僕は、ゴブリンの縄張りが匂いや印でわかった。だから、そこには近づかないようにした。運良くあれから彼らには会っていない。
昼でも暗いような森を抜けるとなんかあった。
人が死んでいた。
大きな樫の木の前に人が倒れていた。人間だと思う。大人のゴブリン位のサイズだけど、皮膚が緑色じゃなかった。
普通なら立ち去る。いい人なら埋葬するだろう。
僕はそのどちらでもなかった。
僕は洋服が欲しかった。死人から洋服をはぎ取る。真っ当な人間なら、ありえない行為だ。
でも僕はゴブリンだし。
どうしても洋服が欲しかった。
洋服を着ればゴブリンに見えなくなるかもしれない。裸みたいな格好でウロウロするのはもう嫌だった。
後から見たら、ゴブリンじゃなくなるんじゃないかな。
とにかく僕は洋服を着たかった。
ゴブリンの皮膚はとっても丈夫で、蚊にもあまり刺されないけど、久しぶりに洋服を着てみたかった。
袖を通してみたかった。あのするっと入れる感じ。
洗濯後の匂い。
いや、死体から取ってそんなわけないけど。
ちなみに今の僕の格好は、鹿の毛皮から作った腰巻きと、鹿の皮から作った靴を履いている。
靴といっても皮を足首の所で縛っただけだけど。
そして手には鹿の角。
ゴブリンだと思う。ゴブリンの中でもワイルド系のファッションだと思う。
山のゴブリンだ。
とにかく、どっからみても森の魔物だ。
誰も、こんにちはとは挨拶してくれないだろう。
洋服が欲しい。文化レベルを上げたい。
おしゃれしたい。
変わりたい。
何しろ僕には、公式に変身願望があるんだからね。
持ち前のゴブリン気質を生かし、僕は勇気を奮った。
でも足は踏み出せない。全然近づけなかった。怖いし、気持ち悪い。
やっぱり僕の中身は人間だと、諦めて立ち去ろうと思った時だった。死体が動いた。
僕がゴブリンじゃなかったら。飛び上がって逃げたはずだ。
「はあ、はあ…」
僕は死体が見えないところにいた。しっかり逃げてた。
やっぱり僕は、ゴブリンじゃないのかもしれない。
僕は引き返した。死体が動いたんじゃない。生きていたんだ。お母さんかもしれないし。
その人はまだ横たわったままだった。お母さんじゃなかった。
僕は恐る恐る近づく。
スカートを履いている。女の人だった。
死んでも、服はもらえそうにない。少しがっかりした。
ゴブリンらしい考え方だ。
スカートを見たときに別の期待も少ししたけど、それもなかった。
異世界転生だし、お姫様とか絶世の美少女みたいなのを期待したんだ。
うん、そういうのはなかった。
おばあさんだった。
痩せこけていたけど、品の良さそうなおばあさんだった。
全く動かなかったけど、よく見ると呼吸をしていた。
どうしたらいいんだろう。
どうしたらいいんだろうって、心配しないで。もちろん食べたりしないよ。
声をかけようかどうか困ったんだ。
だって僕は見た目、百パーゴブリンだからね。
『僕は悪いゴブリンじゃないよ』
こう、言ってみようか?
ないない。ありえない。
まず、ゴブリン語が伝わらないだろう。お母さんが喋っていた言葉を多少覚えているけど。そんな風にはとても話せない。
僕はゴブリン。
爽やかに笑ったつもりでも、悪どい笑い顔に変換されてしまうだろう。
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