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6レベルアップ


いきなりだった。いきなり岩場の下からゴリラ的なモンスターが出た。


遠くの木々や山並みしか見えない、安全なはずの絶壁のくぼみに、突如ピンク色が現れたんだよ。

「ぐわおおおおおーーー!」

「うわあああああーーー!」

僕は驚いて、モンスターと同じくらいのボリュームで叫んだ。


形はゴリラに近いが、色はピンク色だ。こんな時だけど悪趣味な色合いだ。森のどこにも隠れられないじゃない。

目は赤い。口の中も赤い。牙は白い。尖った形の歯がびっしりと並んでいる。


待って。やめて。そう言う感じで手を前に出した僕は、叫び続けながらも、彼の真っ赤な目の前で手を打った。

思いつきで猫だましを打った。確か前世で知った使えそうな技。

敵を一瞬だけ、驚かす事が出来る。

でもその後、ボコボコにやられてしまうだろう儚い技だ。


怯んだ!でもピンクゴリラは怯んだ。

通用するなんて!

僕はそこで体当たりした。人間の時なら座り込んで、頭と身体を守ったところだけど。ゴブリンの気質が出た。諦めない。生き残る。


敵は、小物を軽く刈り取ろうとしたのが仇になったと思う。

不十分な体勢で僕に襲いかかったので、不意を突かれて突き落とされた。

僕はゴリラに当たって跳ね返り、窪みの内側にとどまれた。

僕は運が良い。


ピンクゴリラが、少しずつ遠ざかっていく。

僕はそれを覗き込んでいた。

ああ、もう少しで地面だよ。そこにちょっと突き出た岩山があるよ。


最後の方にうおう?と小さな叫びを上げた。

大変だったねえ。今度はがんば。

ズドン。


パアアア!

なんか来た!体が光に包まれる。

僕のレベルが上がった。いきなり5になった。

Hp25

Mp28


そのほかパラメーターも上がったよ。

あ、スキルができた。呪文を覚えたみたい!


◎スキル

 呪文  放電


なに、放電って?

放電?エレキテル系なの?

確か、どの属性にもズバリ打撃を与えられるってヤツじゃなかったかな?


僕は、早速試してみることにする。

とりあえずは崖を下る。よいしょよいしょ。


ゴリラ的なモンスターは大の字に倒れていた。

あれだけ岩にぶつかってバラバラにならないのは、とても皮が頑丈なのだろう。

僕は靴が作りたかった。靴を履いているのと履いていないのでは文化レベルが違う。

もしかしたらゴブリンだって靴を履いていたら、人として扱ってもらえるかもしれない。


確実に死んでいるとは思うけど、ゴリラの死骸に慎重に近づいた。

3メートル手前まで進む。ここで呪文を放ってみようと思う。


ドキドキした。

だって、生まれて初めて魔法を使えるんだもの。

キラキラと興奮していた。

この世界の魔法には前唱とかがなくて本当によかった。あれは恥ずかしいと思う。

右腕を伸ばし、スタンスをとって得意気に叫んだ。


「放電!」


あれ、何も出なかった。

やっぱり、前唱が必要なのかな。いや、なんとなくわかる。これで間違いは無いはず。

マジックポイントも2ポイントしっかり減っている。


もう一度繰り返してみる。


あ!

僕は本当に驚いた。中指の先から、というか爪の先から、電子ライターの火花みたいのがチラッと落ちていった。


まさに放電。

よかった。実験しておいて本当に良かった。これは強敵の前で使っていたら終わってしまうところだった。

でっかい魔獣とかに堂々と放っていたら大笑いされてしまう。

いや…もしかしたらめちゃ怒るかも。あのビリビリ来るオモチャ、全然笑えないよね?


少し悔しかったので、僕は3メートル進んだ。

ゴリラの間近でもう一度呪文を唱える。

「放電!」

抜けたまつげのような細い光が、ピンクゴリラの腕に落ちた。


これまた驚いた。ビクッと腕が動いたんだよ。

もし現代人の知識がなかったら、一目散に逃げていただろう。

電気で、神経が刺激されて動いただけだ。僕にはわかる。


でも、十メートルほど逃げていた。

ゴブリンとしても人間としても恥ずかしい。


それ以上反応がなかったので、僕はゴリラのところに戻った。

異次元収納にしまっておこうと思った。新鮮なお肉として取っておこう。

これほど大きな物をしまった事は無い。入るかな?


考えてみると霊長類に近いものを食べると言うのはどうなんだろう。

でも僕は今、ゴブリンだから大丈夫かな。


収納の事を考えながら触ると、ピンクゴリラはスパッと消えてなくなった。

血の匂いに寄ってきたのか、犬的な動物の群れがやってきた。

僕は鹿の角を2本取り出す。ゴブリン的な気質が僕を勇気づける。


驚いた。

レベルが上がったからか、僕はお母さんと別れた頃とはまるで違っていた。

そこは大きな岩がゴロゴロとあるような所だったけど、僕は壁に投げつけた緑色のスーパーボールのように岩から岩へと跳ね回った。


僕はめちゃめちゃ強くなっていた。僕の通った後には死体が転がっていた。

一匹だけだけど。

他の犬的なモンスターは僕の動きを見て、しっぽを巻いて逃げていった。


レベルは上がらなかった。

この世界のレベル5ってどんな感じなんだろう。

この感じだと、鍛えていない大人の男より強い感じがする。少なくとも前世の僕より強いと思う。

ケンカした事もなかった気がするけど。


犬を食べるってどうなんだろう。いや、犬より大分鼻が尖っていて長いし、犬じゃない。

それに僕はゴブリンだし。


大人の人間とだって、まともに戦えるんじゃないかと思った僕は、旅立つことにした。

岩のくぼみは安心して過ごせる場所じゃなかったからだ。



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