7、赤い警報と進軍歌
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聞いた事の無い警報の音と共に、明かりが赤に変わった。
「……あう?」
私は目を覚ました。赤の色はこれまで血の色でしかなかったのに、天井からそれが降っている。
その事に不吉と焦燥を憶えて――。
「――行かないと」
と思う。けれど、どこに行けばいいと言うのか。
腕の取り替えは昨日済んだ。しかし、その残り香として痛みは残る、麻酔の向こう側、薄絹の向こうに影だけ見えるようにしてぼんやりと痛い。
どこに行けばいいのだろうか、と再度の疑問を胸にして。
ただ警報の音が不安をかき立てる。
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「んふふ」
面白いなぁ、と一日は思う。
研究所の中に入って、最初にしたのは見学だ。
見取り図は貰っていたけれども、実際どこにどんな物があるのかを視覚として把握しておく事は有益だ。
出来る余裕があるのならしておくにこした事はない。
結果として、見取り図に在るはずの通路が荷物の山で通れなくなっている箇所が二カ所発見できたし。
(他にも色々見られたしね)
ついでに食堂でざるそばを食べた。
研究所と言うだけあって、様々な薬品が並んでいた。用途を知らない物も多くあったけれど。幾つかは拝借させて貰った。
そして確認が終わると効率よくすませるために奥から制圧していく事にして、奥の方の研究室に居た七人の白衣を気絶させ拘束した。
(残り五十七)
人数の把握は難しいので予測の最大値に少し上乗せ六十四から引いていく事にした。目安でしかない、が。
小目標を置くとやる気が出る。
廊下に出て、数歩歩いたところで警報装置が作動した。何がその引き金になったのかは分からないけれどシャッターは降りないように細工済みだ、少なくとも退路上のシャッターに関しては降りてこないはずである。
「~ん♪」
とオーストリア・ハンガリーのマーチをハミングしながら侵攻する。そして、扉。スライドさせようとして開かない。
「ん。――!」
一瞬息を吐くのを溜めて、荷物の山から拾ってきた鉄パイプを振る。抜刀術に似た下からの一撃。
――がっ。
と音がして扉の形が変わり、扉と壁の間に少しの隙間が出来る。
最大の幅で十センチほど。
「~ん♪」
とその隙間に鉄パイプを差し込む。力を込めて、てこの原理。
支点力点作用点、と思いながら力を瞬間最大にすると、ロックの羽目が壊れたのだろう、変形しているから摩擦と無理がある物の、ずずず、と開く。
中の姿が見えた四人の研究員はまず私のスーツ姿を見て安堵し、けれど、手に持った鉄パイプにぎょっとした表情を見せる。
「な、なんだお前は!」
「はぁい、正義の味方の真似事ですよ~」
おもしろみのない問いかけに諧謔で返して、部屋の奥に渡る。七メートルを四歩で渡り、その間に右手を縦横無尽に振るう。
肩、頭、膝、胸。四人で四撃。頭を打たれて昏倒した一人と胸を打たれて息を詰めた一人を除いては打たれた位置を抱くようにうずくまった。
「~♪」
息を詰めている女性研究員を紐で縛りあげ、膝を打たれうずくまる男を縄で縛る。頭を打った男は手の平に握った刃物を奪った上で重そうな研究機材にコードで巻き付けておく。
肩を打たれた男は打たれた方の腕と扉の取っ手を薄型の手錠で繋ぐ、この薄型の手錠は強度の面で不安はあるがそれでも並の力で壊せる物ではないし打ち壊した肩では力を出す事もできないだろう。
「おさらば」
と言ってその部屋から出る。
――残り五十三。
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