3、欺瞞の墓穴
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信用するんですか、と聞かれた。だが、信用する。
それは論理的な思考と言うよりも直感に属する物だ。
空気を読んだ、とも、雰囲気に感化されたといってもいい。
だが、一番的確な表現は、
(似てるんだ……な)
それは師匠に、谷に、仕事に対する真摯さがあると思った。
師匠も谷も人格破綻の倫理規定違反だが仕事の内容に関しては真摯であるといえる。俺の方が不純だと思う。
あの二人は目的を設定して、最適の道を進む事に迷いがない。
俺は障害物――嫌だと思う事や倫理違反的な事――を置かれるとまずは迂回する事を思う。
師匠と谷は望んで進むが俺は嫌々に進むと言い換えても良い。
迂回できない時は諦めて進むのだ。あの二人は障害物がある事でショートカットが出来ると喜ぶだろう。
柊女史にはそんな空気があった。二人よりも我が侭という感じは受けたが、それは若い女性である事から勝手に思っただけかも知れない……。
止まって考えようかと思った、とりあえず、あの子が起きて経過観察をしてから移植をするかどうかを決定しようか、それとも目を覚ます前に移植をしてしまうか、と考えて。
けれど、谷の助手の一人が決断を持ってきた。
それは谷の研究室から出た事を示す青のパレットで。
「低拒絶型脚部・『貴足』試作です」
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渡された足は人工皮膚のないむき出しのフレームである。
だが、以前の第一世代や前回の第二世代の無骨ともいえる設計よりも人体フォルムに近い気がする。また、これを持ってきた助手によると『無駄』を入れたのだとか。助手の言葉をそのまま借りるなら『揺らぎを人為的に作るシステムを入れて人体に近づけた』と言う事らしい。
だがそれよりも重要なのは。
『お前のお気に入りの娘のサイズに合わせて作ってやった。甘さは捨てろ』と書かれたメモだ。
(……谷)
面倒な事だ。恐らく、待っていたのだろう。あの子が手術可能な状態になることをそして、そうなったときに俺の足を止めない為にこれを送る。
恐らく谷の事だ。俺の方からこの『足』を要求した事になっているだろう。その上で俺がこれを使わなければ、無駄をした事になり無能の烙印を押されるだろう。
「……は」
諦めだ。俺はその時点で諦めた。進む事をではなく止まる事を。留まり続ける事を諦める事で前に進もうと。
助手にメールで通達する。
『手術の準備だ、と』
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決意を込めて人員を招集。第三手術室にてオペ実行。
そこまで決めて研究室を出た、そこに、
「諦めは付いたみたいだな、東」
にやにやと笑って谷がそこにいた。
「諦め?」
「あぁ、お前、出来たらあの娘には手を出したくなかったんだろう? 似ているもんなぁ、お前の娘に」
にやにやと笑って続ける。
「……何が言いたい?」
「ああん? 家族ごっこをしていたかったんだろう? こんな蟲毒の壺の中で」
……そうなのだろうか?
俺は失った物を埋めるためにあの子供に接していたのか? 自問しても答えは出ない。心の中に答えが無いのか、それとも元から目をそらしていたからか。どちらにしても、答えが出ないという結果は一緒。
「お前が手術をしないという選択をしたら、ここを止めちまえ、と言うつもりだったぜ。柊何某という女が抜け殻にした娘の似姿を抱えて出ていけばいいとな」
だが、と言って谷は語気を強くする。
「俺とお前は同じ穴の狢だよ。あのイかれたウズロ教授の下に望んで付いたのが何よりの証拠だ。あの教授のように『真面目に狂う』か俺のように『狂気に遊ぶ』かどちらなのかは知らないがな……まぁ、どうせなら遊んだ方が面白いと思うがね」
そう言って谷は背を向ける。
「あ、そうだ。人工皮膚も新型が出来てるぜ、あの猜疑的な助手に取りに来させろ」
――そう言って谷は立ち去った。
「ドクター。――頼む」
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