13、奇策と応援と――決着
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動きが見える。速度の急変。
最高速度から一歩で減速。
雛子の足裏が陽炎を生むような摩擦。
その摩擦は前進速度を別の物に変換している余波だ。
一点で止まれば軌道は曲がる。雛子は体を横にたたむようにして動き、ねじりの結果、左肩が見える。
ひねりは廻転の前身現象、逆回転をばね仕掛けとして表す。
速度が逆回転の軌道上に現われる。廻転の外周端に在るのは雛子の右手の先。握られた拳は遠心力で大破壊を秘めた塊。
正面からの迎え撃ちで行うのは。
「――!」
蹴り上げ。壁際に打ち落とされた左手の先を蹴り上げ遠心軌道に乗せる。
そして、異物を噛んだ雛子の腕は一瞬の停止。
出来る事はあるのか、という疑問。
やらなければならない事があるという確信。
「――!!!」
右腕を振るう。
狙うは一点。
「くさび――だ!」
――雛子の攻撃が分解する。
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左手、中指相当の金属パーツが速度の速すぎる雛子の攻撃を受けて雛子の腕にめり込んだ。人工皮膚の防御性能を突き破ったパーツはうみの言葉そのもののくさびとなって雛子の腕の尺骨相当のパーツに突き立っていた。そして、衝突地点は挟撃とも言える。
うみの右手速度と雛子の右手速度の衝突はくさびの効果を発揮させて尺骨を分解、残った威力が腕を分解させた。
「――くさびなんて使いどころのなさそうな言葉、なんで教えたんだ?」
「――うちの助手の漫画好きが与えた漫画にあったらしい、詳しくは知らないが」
そう説明すると、ふうん、と息を吐くように言う谷。
「東、これは俺の負けか?」
「――まだ、だろう?」
うみは左手の先を失い、雛子は右手を失った。
だが、うみの右手も万全ではない。くさびは双方に痛みを与えていた。
「――谷、あそこに内線は送れるか?」
「なんだ、うちの雛子に降伏勧告か?」
「違う、うちのうみに、激励だ」
ふうん、といって銃を持った手は動かさないままに左手でコンソールを投げた。
「妙な事はいうなよ」
「わかってる」
訓練室への放送は――。
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『うみ、聞こえるか?』
訓練室に響いたのはあーの声だ。
「?」
壊れた腕を見ながら呆然としている雛子への視線を外さないままに視線でさぐる。見つけたのは空気孔の隣の幾つか並んだ穴。
音はそこから出ているらしい。
――つまり放送。
『あぁ、聞こえてるみたいだな。えーっと。うみ』
少しの沈黙。言葉を選んでいるような沈黙は、しかし、すぐに晴れる。
『言葉にするのは、難しいな。逃げろ、とか、頑張れ、とか、倒せ、とか色々考えたんだけどね』
その言葉を言っているあーはきっと苦笑するような表情だろう。
でも、と放送が言う。
『生きろ、と言っておく。後は自由に』
あーの声はそこまで。
次に、何かを投げて受け取る音がした後に。
『雛子……目の前の相手を、好きにしろ』
そして、一瞬のノイズがして、切れる。
「生きろ、か」
「――了解」
私と雛子はそれぞれ受け止めて。
「直行」
雛子は此方に跳ぶ。もはや攻撃のタイミングはつかめている。
対応するは易い、だがそれは先までと同じタイミングで攻撃してきたときの話。
――雛子はそれをどのようにずらすのか。
――私はそのずれをどのように補うのか。
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来たのは直行。宣言通り。
しかし数が一つではない。
最初に来たのは。
――切り離した右手!
それが頭をめがけて飛んでくる。
抜刀の軌道に乗せて腕だけとばした様だ。先端の重量が高い分速度は落ちない。
――一刀。
右の手刀で払う。多分それは相手の予測通りで予定通りだろう。
視界を塞ぎ一挙動を奪う。
狙いの通りだろうと思いながら右手の反動を得る。
瞬撃。来る。
タイミングに合わせて、防御の内容は意識から消す。タイミングだけを思う。合わせて繰り出すのは防御から引き戻した右腕ではなく――。
(――足刀)
義足の硬度の一番高い部位で。しなり薙ぐ雛子の左腕の攻撃を撃墜する。
響いたのは破脚の一音。そして、破鉄の音。
反動で私の身は飛び、雛子の腕もへし折れた。
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